オトノハと遊ぼう

 お昼よりちょっと前、オトノハと遊びに行くことになったので、集合場所へ向かうまあこんな日が一日くらいあってもいいさ。今回は気ままな旅行です。


「ここらへんは空気が綺麗だな」


 大自然公園で待ち合わせだ。


「世界樹に近くなるほど自然の純度は増すのよ」


 ここからでもでっかい樹が見える。緑色で少し神秘的だ。ホテルなんぞより圧倒的にでかい。あれを国とみなしてもいいくらいだ。


「ここは昔のエルフじゃなくても世界樹に近づける、最高のスポットなんだぞ!」


 オトノハが護衛っぽい大人とやってきた。一般人っぽい装いだが、どこかで見たような気がする女剣士だ。エルフで薄ピンクのロングヘアーで、長身のスタイルのいい大人の女である。


「ヒジリさん?」


「お久しぶりです国王様」


「8ブロックではお世話になりました」


 やはりあの時にいた超人か。魔法剣士さんで、かなり強い方だったな。強い超人はしっかり覚えている。覚えないと危険だったから。


「知り合いの超人じゃないとアジュくんは人見知りするわよって、お姉ちゃんが言ってました!」


「アジュへの理解度がしゅごい」


「私はいないものと思ってください。護衛とはそういうものです」


「それじゃ楽しくないっていつも言ってるんだけどねー」


「ご容赦を。仕事ですので」


 王族を任されるというのは、それはそれはプレッシャーだろう。あまり無理を言わず、迷惑をかけないでおこうね。


「今日はどこに行くんだ? オトノハが決めるんだろ?」


「決めちゃいます! なんとウォータースポーツするぞー! うおー!」


 感情が顔に出まくるタイプだな。めっちゃ笑顔だ。邪気がないので見ていて不快感がない。


「海はもう行ったんでしょ? ならはんぱないプールいくよー!」


「おおー! 楽しみ!」


「急ぐよー!」


 そしてアホみたいにでかいプールに来た。プールっていうか水の遊園地に近いな。入場料からして高かったよ。


「お待たせしましたー!」


 オトノハとヒジリさんが来た。二人とも水着だ。


「おう、早かったな」


「はい! 他には?」


「他?」


「はい!」


「大喜利はじまった?」


「おーぎりってなんですか?」


 何が言いたいのかわかんねえよ。こいつほぼ初対面なの忘れたのか。


「水着の評価を聞いているのだと思います」


「女の水着なんてわからん。他のやつに聞け」


「えー! かわいいとか感想ないんですか?」


「興味ない」


 お前ギルメンじゃないじゃん。好きに生きて好きに死ねよ。俺は干渉しないから。これどう伝えればいいのだろう。


「アジュに聞くだけ無駄じゃ」


「そうそう、早く遊ぼう!」


「オトノハさんに合わせるわ」


「よっしゃー遊ぶぜぃ!」


 でっかいウォータースライダーに乗り、流れるプールで揺られ、普通のプールで競争し、ビーチバレーをする。全部が普通だが、それでいい。普通を高クオリティで行うというのは、それだけでとてつもなく難しいのだ。


「スーパーオトアターック!」


「おおっ、動けるね!」


 今は四人の水鉄砲での撃ち合いを観戦している。オトノハはかなり身体能力が高いようで、水鉄砲とはいえ避けながら動いている。


「フルムーン流ウォーターショット!」


「ネフェニリタルに伝わる奥義で返す!」


 実に楽しそうでよいね。こうしてぼーっと椅子に寝転びながら、四人が色々しているのを見る。そしてトロピカルなジュースとか飲む。うむ、バカンスだな。


「ぬわーまけたあぁ……」


「オトノハちゃんも強いのじゃ。身体能力高いのう」


「ふっふっふー、努力家なんですよ!」


 仲良くなっているようだし、女だけで遊ばせてやろう。こういうのも青春というやつだろうきっと。というかあの超人集団に入りたくない。


「次はビーチフラッグで勝負!!」


「お嬢様、そろそろ暗くなります。体が冷える前にホテルに戻りましょう」


「はーい……」


 なんか俺達と同じホテルに泊まるらしい。城に戻らなくていいのだろうか。


「というわけで一緒にごはんですよ!」


「なぜ一緒のテーブルにいる?」


「仲良くなったからです!」


 これ外交問題にならないだろうな。せっかくここまで楽しかったんだぞ。今回は一年の疲れを完璧に癒やす旅行なのだ。無駄なトラブルは来ないでね。


「このお肉は……オトのお肉だ……!」


「金持ちがする執着じゃないだろ」


 高級な肉屋でとてもおいしそうなステーキが出てきた。庶民なら間違いなく必死で食う高さと旨さだが、お前お姫様だろうが。


「ぅおいすぃ!」


「美味いことは認める。シンプルでとてもいい」


「特性トロピカルソースもございます」


「いいですね、じゃあ俺のそれかけてください」


 シェフが目の前で焼いてくれる。この形式多いのかな? うまいからいいぜ。気にしないことにするぜ。


「ぅめえ!」


「うめえはやめましょう」


 俺と同じくらい食いやがる。けど多少のテーブルマナーの差が出た。オトノハの口周りと皿が綺麗だ。こういうとこお嬢様だねえ。


「芳醇な香りと肉の旨味がすげえ」


「すげえ!」


「とてもおいしいわ」


 肉を焼く。ただそれだけで圧倒的な腕を見せつけられている。うめえ。


「シェフを呼べい!」


「じゃあ目の前の人誰なんだよ?」


「言ってみたかっただけですね?」


「だけです!」


 テンションたっけえ。姉妹でもフランと全然違うな。あいつはお淑やかというか、お姫様としての役割を自覚していた。8ブロックの城の中ではリラックスしていたし、単純にオンオフの取り方の差かもしれん。


「んー? どうしました?」


 少し見すぎたか。こちらを見て不思議そうに首を傾げている。


「フランよりだいぶ感情表現が激しいなと」


「お姉ちゃん? お姉ちゃんと同居してどうでした?」


「言い方やめい。優秀だったよ」


「そうじゃなくて、アジュさん個人としてはどうでした? お姉ちゃん美人さんでー、お仕事できる人って感じですよね。けど一緒に生活して違う面とか見えてきたり、なにかイベントなかったんですか? 印象どんなだったか聞きたいです!」


 はいギルメンが静かに聞くモードに入りました。おいしそうにステーキ食いながら成り行きを見守っています。


「印象ねえ……優秀な副官で、まあ今にして思えばお姉ちゃんだな。みんなの姉的なポジションだ。剣も魔法もできて、気遣いもできる。万能型だな。大抵のことは要領よくできる」


「ほほう、よく見ていますなあ。それでそれで?」


「それでと言われてもなあ……楽しそうだったぞ。最初に比べて自然体というか」


「おー、お姉ちゃんは最初だけかっこつけるんですよ。私は完璧なのよ! みたいな。けどそれが消えるほどお姉ちゃんが気を許したと」


「俺にじゃねえメンバーにだ」


「うんうん」


 そこから余計なことを言わないように、なんとかうまいこと話せたと思う。ぶっちゃけ途中で飽きたので普通に飯食ったし。オトノハが納得していたようなので、まあなんかよかったんじゃね。


「お姉ちゃんがね、旅費はこっちで出すから、よかったら明日もオトを一緒に連れて行ってって! 運が良ければお姉ちゃんも来たいって!」


 ありえん。他人の旅行にそこまでしてついて来る理由がない。明らかにおかしい。フランは常識があって、俺達の事情も理解している。まず同行させるという判断がおかしいのだ。


「ヒジリさん、オトノハを城から遠ざけていませんか?」


 オトノハがシルフィ達とじゃれあっているうちに、こっそり聞いてみる。


「そのようなことはありませんよ」


「国のトラブルがあって、実力と人柄のわかっている俺達に預けておくつもりでは?」


「考えすぎです」


 表情に出ないな。まあ当然訓練されているか。だがあまりにもうさんくさい。ここで引く俺ではないのだ。


「誠実に接するならちゃんと聞きますが、後で嘘だと発覚したり、利用していたとわかれば敵とみなします。そこに善悪や国の都合、人道や道徳は関係ありません。大義も正義も関係なく、敵であれば始末します」


「正直に話すべきじゃ。超人ということは、神が実在することも知っておるはず。フルムーンとフウマの姫もおる。別の戦いにネフェニリタルを巻き込みたくないじゃろ。ここはよい国じゃ」


「…………夜にこの店に来てください。杞憂の可能性が高いと付け足しておきます」


 店の場所が書かれた紙を渡された。やはり何かあるのか。だが事前に知っておけば防げるかもしれない。一歩前進と考えよう。


「オトノハはこのことを?」


「知りません」


「了解」


 さてどんな話が出てくるやら。旅行の邪魔にならないといいんだがね。

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