第199話 第一の試練 ぬえ・朱雀を倒せ
愛の絆強化合宿という、アホっぽさ全力満開な試練にきました。
「で、なんだここ」
「普通の広い場所じゃな」
桜の咲き乱れるだけの普通の広場である。
別に景色は綺麗だし、嫌いじゃないけど、試練を受ける場所とは思えない。
「このままだらだら花見して終わりたい」
「じゃな。ここで鍋やればよいのじゃ」
一瞬いい案だと思ったが、想像して心がストップを掛けてきた。
「花びらが入るだろ」
「そこは魔法じゃよ」
「うーわマジ万能っすね魔法先輩」
「魔法先輩は物理法則を無視するからのう」
「できないやつが少ないだろ」
「できないものには神どころか、人類の上位も倒せんのじゃ」
この世界の人類は強い。超整った設備で、最上位の達人が、天才ばかりの達人の卵を育てているからな。
「人間って強いのね。この世界が異常なのか? 学園長もそうだったし、卑弥呼さんも強いんだろ?」
「ご先祖様は銀河系破壊レベルじゃ」
「ほー……やっぱ強いのか……いや異変の話が事実なら、めっちゃ強いんだろうな」
「コタロウさんと同レベルじゃよ」
「クソ強いな!? 人類最高峰だぞ!?」
あの人は神の血が入っていない人類の中じゃ、ほぼ究極のレベルだと思う。
未だに神や魔族なんかの反則なしで、コタロウさんより強いやつを見ない。
半透明になる前はもっと強かったらしいぞ。
「俺達が戦わなくてもいい説浮上」
「主人公補正ないから厳しいじゃろ。それに鎧のなんでもありパワーが必要なんじゃよ」
「来ましたね。それでは第一の試練を開始します」
上空よりの声。そちらを見ると、仮面をした……卑弥呼さんだろあれ。
白い仮面を付けているけれど、完全に卑弥呼さんだ。
「第一の試練、試験官。必殺、卑弥呼仮面です!」
「えぇ……」
まずなにを必殺? 卑弥呼仮面って、仮面で素顔を隠す意味が無いよね。
「お前のご先祖様はどうなってんだよ」
「わしに聞くでないわ」
「アマテラスちゃんが、子を子だと思わず非常に徹して試練を与えるには、仮面で悟られないようにって」
「またあのアホか」
「いや、違うのじゃ。今度ばかりはヒメノはまともなことを言っておる」
なるほど。修行方針としては間違っちゃいないな。すまんヒメノ。
「試練の腕輪、ラブリングをつけますね」
俺の左腕とリリアの右手を繋ぐ、ピンクの輪っかと紐。
手錠のようだが痛みはない。うっすら光っている。
「これで二人は離れられません。愛の力で乗り越えるのです!」
「なるほど、それっぽいな」
「鎧を装備することをおすすめします」
マジトーンで言われた。弱いことは知られているが、なんだか楽しそうな、声が弾んでいる気がした。
リリアが好奇心から何かに手を出す時と似ている気がする。
「いいんですか?」
「ええ、この目で見てみたくなりました。ぬえちゃん。朱雀ちゃん。いらっしゃいな」
召喚魔法陣より、様々な動物が混ざったキメラのような化け物が出る。
上からは炎の鳥だ。どんな組み合わせだよ。
「そこそこ強い召喚獣です。遊んであげてくださいな。特殊な殺し方をしなければ、死んでもちゃーんと生き返りますので」
「んじゃ遠慮なく」
『ヒーロー!』
しっかり鎧装備。空中にピンクの……よくわからないピンクのバーが横向きに出ている。挑戦者と端っこに書かれているし、もう反対にはぬえ、朱雀の文字。真ん中にはVSの文字。
「これが体力ゲージです」
「格ゲーだこれ!?」
「アマテラスちゃんから、アジュさんはこういうのがお好きだと」
「いやまあ得意でしたけども」
ゲーセンの大会とか出てましたけどもさ。まさかもう一度見ることになるとは。
「あいつ俺のこと話しているんですか?」
「はい。気になる殿方ができたので、なんとかできちゃった結婚してやると」
「二度と会いたくないと伝えてください」
「まったくじゃな」
怖いわ。無理矢理できちゃっても、しらばっくれて逃げるという最終手段が使えそうもない。神だし。
それが一番怖いあたり、俺の発想もゲスいな。
「このゲージは、ピンクの手錠から出ている防御魔法のゲージです」
「つまりわしらが無傷でも、ゲージが減ったら負けじゃな」
これは厄介だな。無傷だろうと負けるパターンはめんどい。
「はい。がんばってください」
「ま、やるだけやってみますか」
「それでは、ぬえちゃん。朱雀ちゃん。どうぞ」
もうスピードで突進してくる化物。上からも地上からも来やがった。
「とりあえず」
「上じゃろ?」
二人してジャンプ。朱雀を蹴り飛ばし、リリアが左手で魔弾を打ち込む。
桜の木が燃えていない。木と鳥とどっちが特殊なんだろう。
「この世界はこの程度で燃え尽きたりはしませんよ」
世界が頑丈らしいです。便利でいいやな。
ちょっと加減を間違えると壊れる世界とかめんどい。ストレス溜まる。
「さてどうするか。お前が背中に乗れば動けそうだな」
「それには手錠が邪魔じゃ」
「いい具合に足かせになってんなあ手錠」
ぬえが吠えたかと思えば紫色の煙をぶちまけてきやがった。
凄く臭そう。まずどうやったら口からそんなもん出るのさ。
「毒のブレスじゃな。猛毒のはずじゃ」
「ほいほい。んじゃこれだ」
『ポイズン』
右手に毒の霧を発生させ、ぬえの毒をちょろっと触る。
解析完了。中和剤として左手から白い霧を出す。
鎧とリリアに毒とか効かないけれどな。
「掴まれ」
「ほいほい。行くのじゃ」
リリアがコアラみたいに腰にくっついたのを確認。
音速移動でぬえの前へ。
「たまには別の毒でもいかが?」
口の中に二百倍強力で複雑な毒をぶち込んでやる。
「ギイイイィイィィィイィイ!?」
「効果てきめんだな」
緑の泡を吹いて倒れた。これで敵の体力ゲージが半分減る。
「あらあら、もう脱落ですか。アジュさん、ぬえちゃんは引っ込めますので」
「はいはい、中和しますよー」
左手を突っ込んで解毒してやる。一応卑弥呼さんの召喚獣らしいからな。
死なれると、卑弥呼さんを守ってくれる手駒が減る。
「はい、ありがとうございます」
魔法陣に消えるぬえ。これであとは朱雀だけ。
「鳥はお前がやれ。上までは運んでやる」
『エリアル』
二人分の魔法陣を足元に展開。離れすぎないように、気持ちゆっくり上昇する。
「ふむ、では曖昧魔法がどれだけ曖昧で、むちゃくちゃできるか教えてやるのじゃ」
扇子を開き、なにやら妙な魔力を込めて閉じる。
「曖昧魔法奥義! 『爆走、伊勢海奥郎さん』の術!」
けたたましいクラクションの音が鳴ったかと思えば、でっかいデコトラが朱雀をはねていった。ここ空中なのに。普通に走っていったぞ。
「何だ今の!?」
「今まで九十九人を轢き殺して異世界に送っている、その道のベテランドライバー、伊勢海奥郎さんによる当て逃げクラッシュじゃ」
「なんで捕まんねえんだよそいつ!?」
「捕まえようとした人間も異世界に送っておるからじゃろ」
「ただ単純にタチが悪い!?」
「今回は人間ではないので、朱雀が残っておるじゃろ」
当て逃げかまされた朱雀が地面に落下していく。
こんなアホな手段で倒されていいのか朱雀よ。
「精神的ショックが大きいみたいですね。ここでリタイアにします」
朱雀も帰還。これで俺達の勝ちかな。
上りと一緒でゆっくり下降。鎧も解除する。
「やっぱり単体で圧倒的に強いと、強さの試練は楽々ね」
「まあ予想はしていました。強さの試練?」
「別の試練があるということじゃな」
「ふっふっふ、その通りですよ。第二の試練を行います!」
卑弥呼さんの手が光る。その一瞬で景色が和室に変わった。
外を見ると桜の咲く広場だ。
「簡易ですが部屋を作りました」
畳の部屋だ。二十畳くらいかな。座布団やちゃぶだいがある。
試練の前に休憩かな。
「第二の試練……とにかくいちゃいちゃしてください!!」
俺にとってバトルよりきっつい試練がやってきた。
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