第171話 堕天使を駆逐しよう

「さ、始めましょうか。来なさいウリエル、ガルガリエル」


 ちょっと豪華な服を着た天使が現れた。ちゃんと顔があるし、翼も二枚ではない。


「バカな!? こいつらは完全に消滅したはずだぜ!?」


「ええ、ですから急遽作らせました。中々オリジナルと似ているでしょう? わずらわしいので会話機能はつけておりませんが」


「天使を呼び出せるヴァルキリーか……クハハハハ!! 面白い! 貴様何者だ!!」


「ヴァルキリースクルド。今も昔も、そして明日も、ずっとヴァルキリースクルド。それがわらわです」


「つまり敵だろ? 羽が白くても黒くても、結局は敵だ」


「なるほど、わかりやすいね!」


 シルフィが同意してくれると嬉しい。俺だけがそう言っていると場違いっぽいし。


「それでいいのかしら……」


「なんだったら説明するのじゃ」


「んじゃ倒しながら聞かせろ」


「ほいほい」


 やっぱり解説はリリアだな。今回のことでそれがはっきりとわかったよ。


「おいおい、そんな余裕があんのか? おれっちも守るにゃ限界ってもんがだな……」


「ご心配なく。ほいっと」


 なんちゃらエルとかいう天使が飛んでくるので、適当に叩き落として頭を踏み潰す。

 脳みそなんて入っていないからか、ぼしゅっと音を立てて煙のように消えた。


「こんな感じで、この程度なら殺せますんで」


「……そいつ倒すのってよ、中級魔族でもそこそこ苦労するんだぜ?」


「何者です? 上級天使を片手で、虫を叩き落とすように始末するとは」


「ただの魔王軍四天王さ」


 四天王がただの、で済ませていいものかは割愛する。


「クフハハハハハハ!! 上級天使をあっさりか! いいぞ! マコの四天王は優秀だな! どうだ? 正式に四天王になる気はないか? 給料ははずむぞ!」


「んー? 隊長はちゃんとした四天王ではないのですか? ではボクと一緒になりましょう!」


「その言い方は誤解を招くぞパイモン隊員」


「お喋りしている余裕があるのですか? まだまだ天使は……」


「もうほとんど片付けたのじゃ。わしらを天使でどうにかしようという発想が甘いのじゃよ」


 そもそも神の血筋で力を完全継承し、肉体に馴染んだシルフィとイロハは、もう人間でありながら中級神レベルの存在へと肉体が昇華している。

 リリアはもとより強い。そしてさらに超強化された神の一族である。

 はっきり言えば神の使いっぱしりである天使とは格が違うのだ。


「おいおい説明がまだだろうが」


「安心するがよい。ここから教えて、リリアちゃんのコーナー! わーわー!」


「おおー久しぶりだね!」


「懐かしいわ」


「おおーい……おれたちゃ戦闘中なんでございますよー……マコちゃんの四天王はどうなってんだか」


「えーまず魔王。これはほぼ純血の魔族、それも貴族で構成されておる」


「ボク達ですねー」


 パイモンが右手を上げる。ゴスロリ金髪少年が魔王で上級貴族か。いいのかそれで。


「で、このゲットしたのが天使じゃ」


 リリアが作り出した半透明の球体の中に捕獲されている天使。

 なんかぐったりしているな。


「天使にも上級・中級・下級が存在するけれど割愛じゃ。めんどい」


「ぶっちゃけやがったな。おっとバティンさん。逃げようとすれば瞬間移動の前に殺すぜ」


 一人で魔星玉に近づこうとしていたバティンの目の前に、真空波をぶち込んで床に亀裂を作る。


「…………バカな。気取られるとは」


「天使には普通に真面目に生きておる存在もおる。全てが敵ではない」


「そこはヴァルキリーと同じなんだね」


「うむ、今回ここに来ている天使は、堕天の乱で堕天使になったか、堕天使側に味方についたものじゃ」


「難しいわね。どう区別するのかしら?」


「スクルド、そのへん詳しくないのか?」


「なぜわらわに話を振るのです? その神経が理解できません」


 拒否られた。監視してますよ。変なことしないように。という意味を込めて振ってみたのさ。


「ルシファーに心酔し、天使であったが羽を黒く染め、下僕となったもの。悪に落ちたものが堕天使だ」


「これとは別に魔族を根絶やしにし、魔界の領土を狙って堕天使と協力関係にあった天使がこやつらじゃ」


「スクルドさんが出している天使はこれですー。ここにバティンさんのようにルシファーの下僕となった人が混ざっています」


「ルシファーの部下と、野心のある天使なんだな」


「正解じゃ。この天使はもういらぬな」


 天使の入った球体をスクルドに飛ばし、爆破させるリリア。


「お話は終わりですか?」


 無傷だ。なんだろう、こいつ攻撃が通っているのか曖昧だぞ。なんかあるな。


「悪い。待たせたか?」


「いいえ、今来たところですから。ウリエルが二百体ほど」


 天使さんが増えている。邪魔だよもう。


「知ってるか。鳥の羽は掃除が大変なんだぞ」


「そこじゃないです隊長」


「まず会場が狭くなるじゃろ」


「先にご飯食べておいてよかったね」


「気をつけるのじゃ。食後すぐの運動は横っ腹が痛くなるのじゃ」


 あれしんどいよな。運動不足じゃなければ無効ってわけでもないっぽいし。


「行きなさい。わらわの主のために」


 一斉に襲い来る天使の群れ。だが今更増えたところで雑魚は雑魚だ。


「止まって、天使さん!」


 時を止められた天使はなす術もなく切り裂かれ。


「面倒だからまとめて行くわよ」


 イロハの影が会場の水や酒を纏めて大きな器になった。

 そこに影筆で『天使にとって劇毒』と書き込んで、天井からぶちまける。

 天使達は抵抗むなしくどろどろに溶けて消えていく。


「ま、こんなもんだろ。無駄な抵抗はしないように」


 近くにいた天使の首をふっ飛ばしてスクルドに語りかける。


「残念。首をはねた程度では死なないのです」


 天使の傷ついた箇所に炎が現れる。

 炎が消える頃には、傷口はすっかり復元されていた。


「フェニックスの力を拝借しました。その炎は魔族も天使も癒す不死の炎。さあどうします?」


『ソード』


「それがどうした」


 不死だろうが、鎧と剣で切れない法則も能力もない。

 剣の魔力を飛ばす。やることはそれだけ。もう二度と天使は羽ばたかない。


「予想を超えてきますか……一番危険なのはあなたかもしれませんね」


「いやいや、バエルさんとパイモンの真の力に比べたら耳クソみたいなもんさ」


「ボクですか!?」


「おれっちも巻き込みやがった」


 必殺、全部他人になすりつける攻撃。

 魔王なんだし、強いと思われても得しかないだろ。


「魔王パイモン……覚えておきましょう」


「えええぇぇ!?」


「そして魔星玉はいただきます」


 魔星玉の前に、スクルドがもう一人。心なしか声が若い。

 会場に現れた時とは逆に、魔星玉が地下へと沈み始める。

 そういう大掛かりな装置になっているのだろう。エレベーターみたいなものか。


「行かせると思うのか?」


「ガープ、ウリエル、足止めをなさい」


 さらに増える魔族と天使。こいつら限度というものがないのか。


「そしてバティン。早く来なさい。あなたが遅いせいで、転送魔法が使えなくなりました」


「すまない」


 転移魔法が使えないように、会話を長引かせて結界を張らせたのが正解だったらしい。


「パイモンの加護を受けしものよ、あなたの相手はこのわらわがします」


 さっきまで話していたスクルドが火球を飛ばしてくる。

 当然切り飛ばし、スクルドへ接近。両手足を切り落とす。


「これが……魔王アスモデウスの力だぜ」


「そう、名だたる魔王の加護を受けることで、超人的な能力を発揮しているのですね」


「そういうことさ」


 大嘘である。まあいいよな。魔王みたいな名が売れているやつは喜ぶだろう。


「では、さようなら」


「逃がすと思うのか?」


 スクルドに急接近し、頭にざっくりと手刀を差し込む。

 脳に妙な魔力が流れているなこいつ。適当に遮断してやろう。


「このわらわはここまでですか。さようなら」


 スクルドから魔力が溢れ爆発を起こす。自爆か。


『ガード』


 一応ガードキーで仲間だけは守る。

 俺はなんとも無いが、マコの耐久力とか知らんし、今回護衛任務だし。


「あーあ会場がめっちゃくちゃだぜ」


「全員無事か?」


「うむ、問題ないのじゃ」


「ありがとアジュ」


「問題ないわ」


「ボクもへっちゃらですよー」


 仲間と魔王は無事だ。ならいい。他のやつは知らん。面倒みきれるかそんなもん。


「まだ地下道だろう。今から行けば追いつけるはずだ」


「地下道?」


「緊急避難用に作られている。魔星玉もそこから運べる」


「よし、なら全員で……」


 まだ生き残った天使と裏切り者の魔族がいたようだ。

 いや、スクルドはここまで予想して、伏兵くらい出してきそうだな。


「行ってくれ、サカガミくん」


「おれたちゃ力を使いすぎた。こいつらぶっ殺すので精一杯よ」


「仕方がないのう……わしらも残るのじゃ」


「行ってアジュ。わたしたちは負けないから」


「マコの身内を見殺しにはしないわ」


 バティンを逃がしてはいけない。それはわかる。だが俺一人じゃ道もわからない。


「父上……私は」


「サカガミくんと行け、マコ。お前は半分人間の血が流れている。我らほど弱ってはいまい」


「…………わかりました。魔王の娘として、魔界のため、そこに暮らす民のため、行ってまいります」


「ああ、それでいい。サカガミくん、娘を頼んだよ」


「ええ、俺は四天王ですから。自分の魔王くらい守ってみせますよ」


 俺と道案内のマコで行く。急ごう。あいつらがなにをするかわからない。


「隊長、死なないでくださいね」


「お前こそ、隊員第一号が死なれちゃ気分が悪いぜ」


「行くぞサカガミ!」


「あいよ」


 崩れかけた会場での戦闘をみんなに任せ、廊下に出てようとして止まる。


「面倒だな。ここまで壊れていれば一緒だろ。オラア!」


 魔星玉の降りていった床をぶち抜いて下へ降りるとしよう。


「豪快だな」


「修理代は敵に回しな。ここからいけるか?」


「ああ、地下道まで一直線だ」


「んじゃ行くか。掴まれマコ…………行ってくる」


 マコと二人で敵を追って飛び込んだ。

 ここまで手間をかけさせてくれたんだ、きっちり罰を受けてもらおう。

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