新妻シルフィ

「シルフィも料理うまいじゃないか」


 まさか普通にミートドリアとサラダとか出てくるとは思わなかった。

 クリームの味もパーフェクトだ。めっちゃ好きな味だよ。

 野菜の切り方も綺麗だし、付け合せのスープが薄味でドリアの味を消さない程度でちょうどいい。


「ふっふっふー。レストランで出てくる料理は確かに美味しいけど、毎日食べるにはキツイ! だから家庭の味で勝負してみました!!」


 家庭の味か、いいな。家庭的な女の子というのは全男子からポイント高いんじゃないか。

 エプロン姿でお茶いれてくれたり、食事の世話というか給仕っぽいことをされると異様に照れる。

 あーんとかされる。クレープの時もしただろ。あーんの化身かシルフィよ。

 同居するにあたって女の子だということを意識しないと決めていたのに。これはいかん。


「美味しいわシルフィ」


「美味じゃのう。家庭的な女の子というのはきゃわゆいのう」


 リリアと意見があった。というかこっちを見てるってことは同意を求めている?

 褒めてやれとか言われてたな。


「そうだな。それだけで何倍も、えー、あれだな。よく見えるな」


「アジュは褒め方が足りないと思います!」


 横に座ってくるけど顔が近いよシルフィ。

 やめろ本当に心臓の音がやけにでかく聞こえる。


「俺が食った飯の中でもトップクラスだよ。本当に他人の作るものを食べられるってだけでも嬉しい」


「そうじゃなーい! じゃあこれ、エプロンとか私服とかどう?」


 似合ってますよ。二人っきりでシルフィが俺に惚れてたら確実に抱きしめてるよ。


「ああ、似合ってるな。お嬢様なのに凄いな」


「凄くどうなの? 凄いは何が凄いの?」


「おお、詰め寄っとるのう。シルフィちゃん今日は攻める攻める」


「今日は本当に頑張っていたから、私は黙って見守るわ」


 やばい、助け舟が無くなった。褒め方がわかんねえよ。


「いいんじゃないかな。服の知識とか無いけど、良いと思う」


「むうー。アジュがしぶとい」


 無理だって。女を褒めるとキモいって言われるだろ。

 シルフィがピュアなのは知ってる。けど無理だ。キモいと言われるイメージが強すぎる。

 今までの生活で身に染みてしまっているんだろう。


「可愛いじゃろ、若奥様みたいで」


「ん、そうだな」


 リリアからの的確なアシスト。良い司令塔だ。俺のフィジカルをもっと上げてくれ。

 で、フィジカルって具体的になんだよ。精神力?


「おっ!? うぁぅ……奥さんに見える?」


「ああ、見える見える。いい感じ」


 これ褒めてるのか? まあ見えなくもないしいいかな。


「いい感じかぁ……へへー、いい感じなんだー」


 だからその赤くなって、もじもじすんのやめろ可愛いから。

 両手をほっぺに当ててるのが乙女っぽい。

 一回水飲んで落ち着こう。頭を冷やさないと。


「は、はいあなた。あーんして」


「ぶっふうううぅぅぅ!?」


「うわあぁ!? だいじょぶアジュ!?」


 突然妙なこと言い出すからおもいっきり水吹いてしまったじゃないか。


「げっほ……がっは……ごほ……急に何言い出した!?」


「だって新妻が好きとか言うから!」


「言ってねえよ!!」


「じゃあ嫌いなの!?」


「そういう問題じゃねえ!」


 たまに意思の疎通ができなくなるな。これは俺がコミュ症だから?


「あれはどうなんじゃ?」


「面白いからスルーするわ」


 助けてくださいお願いします。リリアとイロハはいつの間にか飯食い終わって、ソファーでゆっくりくつろいでいる。


「落ち着け冷静になって話しあえばわかる」


「落ち着いたらもうできる気がしない! このまま突っ走る!」


「何がお前をそうさせてるんだ!」


「これはそう、練習だよ! 将来いい奥さんになるための練習!」


 そのままでもいい奥さんだろうに。こんなところで向上心見せるなよ。

 あーんだけ終わらせてこの場を収めよう。


「はーい、あなた。あーんして」


 今までにないほど顔真っ赤だぞー。俺も顔が熱い。

 二人して真っ赤になりながら飯食ってるとかどういうことなの。


「あ……あー……ん」


 とにかく食わねば終わらない。食って終わりにしなければ。


「仲睦まじいのう。次はアジュが食べさせる番じゃな」


「余計なこと言わんで良い!」


「ほら、シルフィが待ってるわよ」


 期待しながら上目遣いで見てくるシルフィ。こんなん直視できるか!


「ほれほれちゃんとシルフィを見るのじゃ」


「そうね、スプーンが震えてるわよ」


 外野が追撃の手を緩めませんね。これはきついっすわ。


「やんないとダメか?」


「ダメ! わたしだって恥ずかしかったんだよ? 恥ずかしいし、初めてだったけど頑張ったんだよ!」


 誤解を生むような発言はやめてください。自宅でよかったなあ。

 外だったら俺の人生は早くも終了でしたよ。


「わかった、こうなりゃやってやるさ!」


「よーし! わたしの時代が来た!」


「いいから、ほら、あーん」


 あーんというフレーズが既に恥ずかしいのは気のせいだろうか。


「あー……ん。うわぁ、これされる方も恥ずかしいね」


「気付いてくれて何よりだよ」


 その後なんとか食べきった。半分は食ってからあーん地獄が始まったため、すぐ終わってくれた。


「明日はもう少し恥ずかしいの我慢するよ」


「絶対やらないからな!?」


 毎日はやめろ。本当に恥ずかしくて死にそうだ。


「えーイヤだった?」


「イヤじゃないけど恥ずかしいだろ。あと絶対外ではしないからな」


「わたしも外でするのは恥ずかしいよ……」


 室内でも俺は恥ずかしいよ。心の準備ってもんが……整う日なんて来ないだろうなあ。


「家でならアジュがしたいときに……またしてあげるからさ」


 発言に気をつけよう本当に。勘違いしまくるわこんなん。


「なんじゃもう終わりか。それじゃお風呂タイムじゃ」


「おう、俺は最後でいいから行ってこい。散々場をかき回しやがって」


「わたしも部屋戻ってからお風呂かな」


「なら私はシルフィの後でいいわ」


 ぞろぞろリビングを出て行く三人。本当に終わったんだな。

 いやあ、あーんは強敵でしたね。これで今日は部屋帰って寝るだけだ。


「そうだ、忘れていたわ」


 イロハがこちらへ振り返る。出ていこうとしていた他のメンバーも足を止める。


「今夜、貴方の部屋に行くわ。鍵は開けておいて」


「………………は?」


 何その意味深な発言。こちとら十代の若者だぞ。深読みするだろうが。

 そのままスタスタと部屋を出て行くイロハ。取り残される俺。


「えぇ……? マジでどういうこと?」


 部屋に来るとしてもさ、みんなの前でそんなこと言ったらどうなるか。

 それはすぐに分かる。



 そして風呂入って自室でイロハを待つ俺。軽くノックの音がしてイロハが入ってくる。


「おまたせ、ちょっと話しておきたいことが……」


「うむ、なんでも話すのじゃ」


「いらっしゃーい、イロハ」


 そりゃ当然みんな来ますわな。風呂入った奴から俺の部屋に来やがったよ。

 しっとりした髪と、ほこほこした体と、いい匂い。あとパジャマが意識すると可愛い。

 女の子のパジャマ姿というのはここまで素晴らしいものか。


「これは……どういう状況なのかしら?」


「全員いる場所であんなこと言ったらこうなるに決まってるだろ……」


 自覚なかったんかい。イロハさんたまーに天然炸裂しますよね。


「ムフフイベントの気配を察知したのじゃ」


「夜中にアジュの部屋に行くなんて……なんかあれだよ! 大人っぽいことする気なんだ!」


「悪いな。止められなかった」


「いいわ、でも静かに聞いていて。私はアジュに大事な話があるのだから」


 この状況でやめないってことはかなり大事なんだな。心して聞こう。


「わかった、じゃあわたし達はベッドの中で大人しく目を閉じています」


「仕方ないのう。まあ夜中じゃし、騒ぎすぎもどうかと思うのじゃ」


 布団の中にもぞもぞ入っていく二人。そのまま寝ちゃっても良いぞ。静かだし。


「それじゃあ失礼するわね」


 ベッドにあがり、俺の隣に座るイロハ。まずこの状況が落ち着かないわ。わかってても中々慣れないな。


「私は……」


 多分長くなるであろう夜は続く。

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