宇宙戦艦がファンタジーに来るな

 天高くに宇宙戦艦のフォルムで登場したデカブツ。

 それが砲台にエネルギーをチャージしています。


「振り切れるもんじゃないよな」


「まあ無理じゃろ」


『トーク』


 未使用の鍵発動。こっそり全員に指示を出す。


「砲撃が来る。とりあえず全員操縦席か一車両目に退避」


 トークキーは会話用。声を届けたい相手だけを選んでやりとりできる。

 よっぽど遠くなければ、離れた相手でも問題なし。テレパシーも可。

 どんな世界の言語だろうが話せるおまけ付き。

 オルインは自動で翻訳されるし、もう慣れちゃったので必要ない。


「パイモン、イロハ、フルアーマーくんだけ消してくれ」


「了解」


「やっちゃいますよー」


 影と闇による渦が、黒い鎧をばっきばきに砕いていく。

 これで前方に問題なし。


「リリア、アスモさん」


『ガード』


「ほいほい」


「お任せあれ」


 全員退避したのを見届けて、三人で防護障壁を発動。

 列車の走行を妨げないよう、半円のドームっぽく、それでいて敵を見失わないよう半透明。まあいつものだな。


「来るわ!」


 幾本もの緑色の光が迫り、周囲を爆煙で包んでいく。

 だだっ広い荒野が大きなクレーターに早変わり。

 いやあ迷惑ですね。


「地面に穴開いてるけれど、これどうやって走ってんだ?」


「魔力で空中にレールを作っています。このまま走れますよ」


「よし、さっさと抜けちまうか」


「そもそもあいつらなんでオレらを狙ってんだよ?」


 外で戦っていた連中が、運転席に入ってきた。

 当然だが全員無事。この程度で死ぬやつは素の俺くらいさ。


「それは私が持ってきたこれのせいよ」


 アスモさんが胸の谷間から出したのは、鞘に入った短剣。

 なんてことはない普通の短剣だな。

 こんなもん一本で追ってくるかね。


「胸スルーで短剣について考えるとは思いませんでしたわ……」


「アジュだからね」


「アジュさんっすから」


「これはオレでも予想ついたぜ」


 脱線しそうなので話を戻す。


「で、それなんです?」


「鞘から抜いて、柄の部分を回すと……」


 突然短剣が変形を始め、小型ライフルになった。

 魔導器と拳銃とライフルの混ぜ合わせみたいだ。


「機関の武器じゃな」


「完全に黒か」


 これを見つけられて追ってきたか。

 ってことは当然あいつらは機関の人間で、学院とも関係があるのだろう。


「どうするの? さっきからずーっと上にあるよ」


「引き離せていないのね。かなりの速さで走っているのに」


 宇宙船は列車の真上にあるまま。どうやらぴったり追尾しているようだ。

 砲撃もちまちま飛んできてうざい。


「もう明確に敵だよな?」


「学院の関係だったとしても、私とハルファスに攻撃してきたし、もう敵でいいと思うわ」


「学院行きのゲートまでは?」


「まだちょっとありますねー」


「一応出迎えに来るようヒメノ様が指示しているはずっす。騒ぎを聞きつけて、誰か来てもおかしくはないはずなんすけど」


 それでも来ないってことは、まだ異常を認識できていないか、宇宙船に驚いているか。

 どっちにしろ面倒だ。


「よし、あの船ぶっ壊そう」


「よっしゃ! ようやくオレ向きの仕事が来たぜ!」


「問題はどうやって飛ぶかじゃな」


「列車ごと行けばいい。鎖よ、あの無粋な船を縛れ」


 巨大な鎖の群れが宇宙船に絡みつく。

 いやこれ列車にも巻き付いてませんかね。

 そしてレールっぽいものが空中に現れて。


「何かに掴まっていろ。防御結界はそのままでな」


「お前マジか!?」


 猛スピードで宇宙戦艦へ突っ込んでいく列車。

 放題からビームが来るが、それは結界で防げる。


「突っ込むぞ!」


 急いで衝撃カット。同時にメンバーを確認。

 椅子に座って衝撃に耐える体制だ。問題ない。

 そして宇宙船の下層部を豪快にぶち抜いて突き刺さった。


「マーラ、お前見た目の割に無茶するなあ」


 魔法のおかげか衝撃はない。

 ないんだが、精神的に消耗したぞ。


「だが活路は開いた」


 列車から出ると、なんと白い壁とシャンデリア。

 赤い絨毯に、床も大理石っぽい何かだ。全体的に広い。


「なんで豪華なんだよ」


「そういう通路なのでは?」


「で、どうする? もうじき敵が来るぜ」


 悩んでいる暇はない。俺たち四人は必ずまとまって動く。

 ハルファスは怪しいので近場で監視ってところか。


「そうだな、俺とギルメン四人に、マーラとハルファスさんでまっすぐ上を目指す。アスモさん、パイモン、やた子、バエルさん、ヴァンは五人で暴れ回って、動力源とかぶっ潰してください。機関の証拠とかあればそれも確保で」


「よしきた! いくぜオラア!!」


「証拠はうちが集めておくっすよ」


「気をつけてください隊長」


「いつでもお呼びくださいね、マスター」


「こっちの引率はおれに任せな」


 俺たちとは逆方向に走っていく四人。

 律儀に壁とかぶっ壊しながら進んでいる。


「よし、俺たちも行くぞ!」


「了解!」


 途中で船内マップ確認。やはり艦橋がとにかく上にある。


「敵よ!」


 もう隠す気もないのだろう。アーマードールだ。

 重火器の乱射でお迎えしてくれるが、そんなもんが効くレベルの連中じゃない。


「無駄だアホが!」


 直進して殴り抜ける。

 機械の体がばっきばきに壊れていくのは結構爽快感があるな。

 余ったザコはシルフィとイロハがお掃除。


「あんまり強くないね」


「こういうのは上に行けば行くほど強くなるのがお約束じゃ」


「気を抜かずに行きましょう」


 そーっとハルファスの戦いぶりも監視。

 普通に魔力の剣と攻撃魔法だな。

 同士討ちっていう罪悪感みたいなものも感じない。


「いたぞ! 侵入者だ!」


 黒い戦闘服に、灰色の装着型アーマードールの連中だ。

 試しに光速移動して、上半身と下半身を切り分けてやる。


「こいつらサイボーグか?」


 切断面を確認。生身よりも機械の部分が多い。

 何体か爆発しやがった。本格的にロボだな。


「めんどい連中じゃのう」


「まとめて倒せばいいだけでしょう。影よ!」


 通路の床を影が満たす。

 無数の黒い手が敵の足を掴み、影の槍が突き刺していく。


「うっ!? なんだこれは!?」


「銃が効かない!?」


「うああぁぁ!? 手が!? 離せ!!」


 地面から生える槍には、物理攻撃など通じない。

 神器か魔力の高いものでなければ無意味だ。


「援護しよう」


 次々と敵がくっついては引きちぎられていく。

 勝手に集まって切れているように見えるが、目を凝らすと透明な何かが敵を縛っている。


「空気の鎖だ。集めたら強力な刃に変えて切り刻む」


「えぐいなおい」


 何でも鎖にできるってのも、応用力さえあれば便利だな。

 所詮能力ってのは使い手によって強くも弱くもなるってことか。


「これでほぼ倒せたな」


「怯むな! 数と弾幕で押せ!」


 どうやらまだまだ増えるようです。

 奥から聞こえる女の声。増援は全員装着型フルフェイスアーマードール。

 色は青。武装がごついな。色分けされているのだろうか。


「撃て! 隙間なく撃ち続けろ!」


 こいつらなーんか聞き覚えがある声だ。

 味方じゃない。俺の味方なんてすっくないから、最低限覚えている。


「確かめてみるか」


 一番近いやつに接近。首から下を魔力波で消して、兜を取ってみる。

 もう絶命している女の顔を確認。


「…………誰だっけ?」


 なんか見覚えがあるんだけれど、思い出せん。

 基本的に女の顔なんて覚えない。

 俺が女と仲良くなることはない。つまり覚える意味と必要がないのさ。


「なあ、こいつ誰だっけ? いたよな?」


 リリアの足元に首を投げる。リリアは賢いからね。覚えているはず。


「うーむ……アメリナ?」


「誰だそれ?」


「誰だっけ? わたしもわかんない」


「見覚えがあるわね」


 四人とも知っていて、なおかつ深い関係ではないらしいな。


「あれじゃ、管理機関の……なんじゃったかのう? 護衛クエ?」


「アジュ、どうやら全員同じ顔のようだぞ。薄気味悪いものがあるな」


 マーラが全員叩き潰して兜をかち割ったらしい。

 確かに全員同じ顔だ。


「どうなってんだこりゃ」


「あれじゃよ、クエストで護衛して、材料取りに行ったら敵だった子じゃ」


「…………いたなそんなやつ!?」


 これが脳トレか。なんか頭が活性化されたぞ。

 よしよし、脳年齢が若返った気がする。


「いた! 確かにいたよ!」


「あの子も機関の人間だったわね」


「知り合いか?」


「昔始末した敵だ」


 まさか複数いるとは思わんかった。わっけわからんな機関。

 さっきのサイボーグ連中も、男か女かわからん声と体型だったし。


「まあいい考えていても無駄だ。ここから上に行くとしよう」


 右手に魔力を集中。上に向けて雑に、勢いよくぶっ放す。

 轟音と振動を伴い、天井にがっつり大穴を開けた。


「飛ぶぞ!」


「了解!」


 これでショートカットできる。

 最上階の艦橋を目指そう。

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