魔界列車での攻防
走行中の列車の外に現れた謎の敵。
黒基調で赤い線の入った戦闘服……どこか学生服っぽいな。
それに鉄の羽。悪魔っぽいタイプのやつ。
「白、赤、青は俺から離れず、この車両で戦うこと」
「了解!」
姿を変えた時の呼び方は、あらかじめ決めてある。
単純に髪の色だ。つまり俺は黒。
「うーわ最悪じゃ。あれ機関の技術と錬金術混ぜておる」
「つまり装備ぶん取っちまえば証拠になるってことかい?」
「そういう考え方もできますねー」
「だがどうする? 我々はゲートまで行かねばならん。列車を守りながらになるぞ」
防衛戦は苦手だ。こういう時は他人に任せたいが。
「アスモさん。あのピンクの色欲。あれで列車コーティングできます?」
「もちろんよ。できれば欲情させて欲しいけれど……言っている場合じゃなさそうね」
流石に弁えてくれた。ありがたい。
しかも言いながらアスモさんの魔力が列車を覆い終えている。
「ついでにおれらにも指示していいんだぜい」
「魔王にですか?」
正直ためらう。あんまり偉そうにするのもどうかと思うし。
「時間がねえんだ。オレもそれでいいぜ」
「俺も従おう」
問答の時間はないか。即席だが作戦を立てる。
「んじゃ魔王の中で飛べる人」
「はいはーい、ボク飛べますよー」
「おれもいけるぜい」
なんか全員飛べるらしい。ずるくないかな。
いや魔王だし、その程度できて当然なのかも。
「そうか。それでえー……」
「ハルファスだ」
「ではハルファスさん。戦えそうですか?」
「問題ない。どこも怪我はないさ」
戦力にカウントできるようだ。なら存分に戦ってもらおう。
「やた子・バエルさん・ハルファスさんで空中の敵を撹乱。マーラとヴァンは一個うしろの車両から攻撃。屋根とか乗っていい。邪魔なら壊せ。やばそうなら切り離してもいい。アスモさんはここで色欲の壁を維持。パイモンと三人はここと運転席を死守。んじゃ作戦開始!」
「了解!!」
素早く一斉に散っていく一同。
窓から飛び出す者。別車両へ走っていく者。みんな動きが機敏だ。
「おぉ……なんかかっこいい……」
「普段から真面目にしていればいいのよね」
「おぬしにしては的確じゃのう」
「あー……あれだ。おそらくファフニールだと思う」
ファフニールの血というか結晶を食ったからだろう。
妙に頭が冴えるというか、回転が早くなった。
アレのおかげで驚くほど冷静だ。
「もう一回食いたいかって聞かれりゃ拒否するけどな。さっさと運転席の確保だ」
一両目と運転席は繋がっている。扉さえ開けておけばいいだろう。
運転は自動にしている。完全自動化ができるほどの科学力はないが、ただ走らせるだけなら可能。だが緊急事態だ。
「運転できるな?」
「いけますよー」
「何かあればわしが動かすのじゃ」
なぜリリアも運転できるのか一瞬考えたが、まあリリアだし。
とりあえず運転をパイモンに任せる。
「ん、なら窓からこっちに来るやつを迎撃」
怪我しないようにちまちまと、それでいて空中組の戦闘の邪魔をしないように援護。
「ほれほれどうした? その程度で魔王を倒すつもりだったのかい?」
「超級やた子連斬改……第二章!!」
もう第二章が全然わからん。よくわからんが速くて強い。
明らかに練度と地力が違うため、敵はほぼ空中で落ちる。
背後から爆発音も響いている。おそらく魔力の質からしてヴァン。
外を見れば、鎖がこちらへの遠距離攻撃や雑魚をはたき落とし、縛り上げては地表へぶつけている。
「いいね。さっすが魔王。俺の出番も食っちまってくれ」
「横着しようとしおってからに」
「いいんだよ。さてパイモン、ハルファスについて教えろ」
「ハルファスさんですか?」
「あいつ、学院に呼ばれたわけじゃないのにいたんだろ?」
タイミングがあまりにも良すぎる。不自然だろう。
どっちにしろ俺が初対面の相手を疑わないわけがない。
「でもアスモさんを助けてくれたって」
「助けに入ったふりかもな。あっち側に死人は出たか? 魔王がいて殺しきれない量か?」
「ハルファスさんは魔界貴族で、結構な名門です。大量に軍を持っていることが売りです。重歩兵や兵糧、魔法部隊まで各種いて……魔王固有の能力もあったはずですが……ううん……」
「ゆっくりでいい、思い出してくれ。赤、青、しばらく魔法とかで、でかい音立てて飛んでる連中に聞かれないように頼む。こっちに来るやつの撃ち落としもな」
「了解!」
ドンパチやっているうちに思い出してくれよ。
俺も魔法で援護する。あとはリリアの全属性魔法乱れ打ちでいい。
「前方に敵! 何かいるわ!」
イロハの声で前を見る。
黒いフルアーマーに、トゲ付きメイスや鉄球装備の連中だ。
「轢き殺せ」
「イエッサー!」
そりゃ前方に出たら轢き殺すよ。
重装備の皆様をぶっ飛ばし、激しく車体が揺れ、スピードが落ちる。
「おぉ?」
前方の跳ね飛ばしたはずのフルアーマー部隊が増えているじゃありませんか。
揺れの原因は、こいつらが踏ん張って列車を止めようとしているからだな。
『支援要請』
「喋った?」
機械音声に近い男の声だ。鎧の奥にいるのは人じゃないのかも。
そしてさらに部品が集まり、その体積を増していく。
融合する金属なのかも。このままじゃ列車が止まるな。
「サンダースマッシャー!」
電撃が当たるも無傷。ううむ、素の俺では厳しい相手みたいだな。
「青。影パンチ」
「了解よ」
フルアーマーくんを影の拳が吹っ飛ばす。
増殖するなら本体をどかせばいいのだ。
「これでよし。このまま走っていこう」
「全速前進じゃ」
「はいはーい!」
そしてさっきよりでかいフルアーマーくんが複数お待ちかねである。
「もうなんなのさ」
「こういうのずるいと思います!」
地味に全員さっきよりでかい。
「はいはい、ボクにお任せですよー」
パイモンの黒い魔力が一閃。
敵は黒煙となって消滅していく。
「よし、ナイスだ。あとはハルファスのことを思い出してくれ」
「そっちが難しいのですよ」
「前見て、また来るよ!」
更に数が増えてがっつり列車を止めようとしてくる。
めっちゃ揺れてうざい。これはうざいですよ。
「しょうがないか」
『ヒーロー!』
こっちも鎧を着る。
といってもミラージュキーの効果は続いているので、俺は私服の知らない男の姿だ。
『ヒーロー。我々と同じ。正義の執行者』
「正義なんてうさんくさいもんと一緒にするな。あと俺はヒーローも好かん。存在が嘘くさくてな」
所詮見える範囲で自分ルール使ってちやほやされる連中の総称だ。
俺は一度も助けられたことはない。気に入らんね。
「問題はそこではないのじゃ」
「正義の執行者……これは勘違い全開の機関っぽいですよー」
「うえー……わたしあの人たち嫌い」
なるほど、勘違い全開の気持ち悪さがある。
まず黒い鎧は正義とは真逆だよ。
『支援要請続行』
まーだまだ敵さんは増えていきます。いや迷惑だよ。増えるな。
「面倒な……こっちも援軍来ないもんかね?」
「援軍……援軍……そうだ隊長! それです!!」
「どうしたパイモン?」
「ハルファスさんの能力! 塔やら都市の建設能力に、秘密のルートによる補給能力と、軍を任意の場所に送り込む転移が能力です!!」
「ほう、それはあんな感じじゃな?」
リリアの示す先は上。
突然大きな影ができたと思ったら、黒と赤の巨大な何か。
先端が二つに分かれており、全体が長く広く、そして各部に砲台とブースターのようなものと魔法陣。
「都市っつうか……宇宙船……か?」
漫画やゲームに出てくる宇宙戦艦そのまんまだ。
『支援砲撃要請』
砲台が輝き、魔力の混じったエネルギーが溜まっていく。
「はい最悪」
さてどう切り抜けたもんかね。
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