ヴァルキリーと学院の関係を探れ

 アスモさんから送られてきた似顔絵に、複数見覚えがあった。

 流石に見過ごせないため、急遽リリアに通信。

 そこから部屋を出て、家にいるメンバーで緊急会議。


「と、いうわけでアスモさんから送られてきたものです」


 俺たち四人に、ヴァン、バエルさんとマーラにパイモン。

 今いる戦力を集めて、送られてきたものを見せる。


「これゲル……? こっちはなんだっけ、アイドルの時の」


「ラーズグリーズじゃな。ミストもおる」


「おれにはよくわかんねえが、こいつがスクルドってのは覚えてんぜ」


 確認を取ると、やはり同じ意見。

 魔王のしかめっ面というレアなものが見られた。

 魔界はスクルドに攻められたから、魔王であっても警戒しているのだろう。


「隊長が消したヴァルキリーなんですよね?」


「全部じゃない。知らない顔もあるが、何人か見た」


 ここまで似た顔が連続することはありえない。

 だが敵か味方かすら決めかねていた。


「こいつらが本人で、モデルにしたって可能性は?」


「学院の生徒を模して作ったってことですか? なぜそんなことを」


「蘇生した可能性もあるわ」


「もともと複数いるか、ここで量産されているか」


 様々な意見が飛び交うが、それだけで答えにたどり着けたら世話ないわけで。


「アスモさんは同じ時間に連絡すると言っていました」


「そうか。それじゃあそっちの受け取りは任せる。問題はこいつらの正体だが」


「うーむ……ヒメノ呼ぶか? アルヴィトがいれば真贋見極めてくれるだろ?」


「わしが連絡とってみるのじゃ」


 アルヴィトは司令塔だ。ヴァルキリーがいればわかるし、命令も出せる。

 こっちが有利に事を運べるはずだ。


「あとはこの見取り図を、既存のものと照らし合わせるくらいですねー」


 似顔絵の裏にアスモさんが行った範囲と、道中で見た地図を書いてくれている。

 これである程度改装具合までわかるわけで、なんかマジになると優秀だなあの人。


「俺たちはどうするかね。下手に動いて関係者だと気づかれると厄介だぞ」


 もう巻き込まれる雰囲気が立ち込めまくっている。

 あんまり義理もないし、端的に言ってめんどい。


「アスモが連絡取れる回線はアジュのだろ? できれば一緒に行動して欲しい」


「んー……ここって安全ですか? 一回学園帰ることも考えたいんですが」


「そうね。学園なら無茶な侵入もできないでしょう」


 そんな感じで相談を続け、そしていつでも帰宅できるように準備も終わる。

 夜中に出歩くのも危険なので、このまま一泊することになった。

 念の為四人で寝ようと言われ、渋々承諾。


「えーやた子ちゃんー。やた子ちゃんが訳知り顔で通るっすよー。肩で風きってくるっすよー」


「普通に来い」


 一夜明けて、次の日の昼。汗かきながらやた子登場。

 ふざけているが、かなり急いできたのだろう。

 水を渡し、一息ついたら解説が始まる。


「えー、直球でいくっす。アルヴィトちゃんは秘密兵器っす。学園からほいほい出せないし、エリュシオン天空学院のヴァルキリーっぽいものについても、アスモデウスさんがこっそり送ってきたものだけでは、調査に踏み込めないっす」


「だろうな」


 証拠不十分である。学園としても、ヒメノとしても、明確な証拠がない限り捜査などできない。そこまでは予想していた。


「学園で悪事を働いたヴァルキリーを学院で見た、というのではちょいと弱いっす。なので明確に危害を加えてきたりすると動きやすいっすね」


「俺たちは絶対にやらんからな」


「そうじゃな。自ら危険に飛び込むものでもないじゃろ」


「そうっすね。あんまり大々的にアジュさんの力を知られたくもないっすから」


 鎧は本当に秘密兵器だからな。俺が楽をするため、私利私欲で使うのだ。


「具体的に学院に踏み込めるような手段はないのですかー?」


「難しいっすねえ……」


「ヴァルキリーは厄介だからねえ……わたしたちも苦労してるんだよ」


「オレも散々苦労させられたぜ。変な装備持ち出しやがるし」


「どこから湧くんだと思っていたら、まさか学院からとは……」


 そこでふと思い出す。ヴァン絡みで戦ったヴァルキリーってそういや。


「なあ、ヴァルキリーには邪神と一緒に悪巧みしているやつや、管理機関と繋がっているやつがいるはずだよな?」


「それっす! 機関の存在は禁止事項っす。学院に機関がいる証拠でもあれば、抜き打ち検査もできるっす!」


「証拠を隠されるかもしれんぜ?」


「機関の技術はエネルギーからして別物っす。痕跡を調べる方法もあるっすよ。なんせ世界全体の嫌われ者っすから、対策はいっぱいあるっす」


 どこに行っても完璧に嫌われてんなあ機関。

 納得はできるし、むしろ心強いのでよしとする。


「わかった。ならオレたちは学園に帰っときゃいいんだろ?」


「お願いします」


 魔王特注スーパー列車で移動開始。

 操縦室と三両の小さいが頑丈で速いものだ。

 とりあえず魔界と学園に通じる門へ行こう。


「今日中にはつけるはずだ」


 乗り心地も悪くないし、このまま何事もなく終わればいいのになあ。


『マスター、ちょっと早いけれどいいかしら?』


 アスモさんから連絡だ。確かに早い。トラブルか。


「何かあったんですか?」


『いいえ、どうやら学院側が満足しちゃったらしくて。今日で降りなきゃいけないの。捜査を続けられそうにないわ』


 そうか、学院の目的は強者との実習にある。

 用済みになれば帰ることになるのか。


「ありゃりゃ、そうきたかい。難儀だねえアスモデウスよ」


『うるさいわよバエル。すみっこでお酒でも飲んでいなさいな。マスターとの会話を邪魔しないで』


「へいへい」


 二人は別に仲が悪いわけではなく、いつもこんな感じだ。

 単純に俺への執着が強いかららしい。いや迷惑ですけども。


「他の魔王さんや魔族はいないのですかー?」


『シトリーちゃんと一緒に学院に来たわ。アンドロマリウスとハルファスが最初からいたわね』


「おかしいですねー。後者は領地を通る予定もありませんし、どういう繋がりなのでしょうね」


『さあ? 強者として集められた感じじゃなかったわ。それでマスター、もう帰っていいかしら?』


「ああ、それなんですが」


 ここで学園に帰ろうとしていること。

 管理機関の手がかりになりそうなものがないか聞く。


『機関の武器……みんな魔法や剣だったわ。やけにいい装備ではあったけれど』


「生徒に時間止めるやつとか、体が斧になるやつはいましたか?」


「霧になるやつでもよいのじゃ」


『霧……いた。いましたわ。全身が霧になる子』


 能力まで同じ。ほぼ確定かな。

 あとはなんとか機関の証拠が欲しいところだが。


『難しいわねえ。証拠……武器庫も見せてもらったけれど、普通の刀剣類しかないのよ。今もちょっと調べているけれど、あら? これは……』


「何か見つけたっす?」


『えぇ……武器庫が二重構造に……これは』


『おや、アスモデウス様。まだこんなところにいらしたのですか』


 知らない女の声がする。

 いかんな。怪しまれると計画が台無しだ。黙っていよう。


『えぇ、立派な武器だなと。学院には腕のいい職人がいるのね』


『職人? ああ、これらは工場で量産されているものですよ』


『そう、それは凄いわ』


『ですから、外部に持ち出されると困るのですよ』


 大勢が部屋に入ってくる足音が聞こえる。

 まずいな。魔王とはいえ、敵の戦力が未知数だ。


『あらら、ばれちゃったかしら』


『手荒な真似はしたくありません。おとなしく一緒に来てください』


『これでも魔王よ。見くびられたものね』


『だが我々はそれを超え……なにっ!?』


 突然の爆発音。映像がないと、何が起きているのか掴めない。


『逃げるぞ、アスモデウス!』


『ハルファス?』


 男か女かわからん声だ。中性的というか、どうやら知り合いの魔族らしいが。


『逃がすな! 追え!』


「おいどうした? なにがあった?」


『ちょっと緊急事態かしら……そっちに召喚されてもよろしくて?』


『誰だか知らぬが、できれば私も頼む』


「他人巻き込んで召喚とか可能なのか?」


 基本的に召喚獣が持っているものはともかく、周囲の人間まで転送はできない。

 召喚契約がなされていないからだ。


『魔王の魔力でなんとか一回くらいなら』


「その召喚機は特別性じゃよ。わしが手伝ってやるのじゃ」


 なんかそういう機能もあるらしい。便利だな。


「じゃあこっちに召喚します」


 そこでちょっと小細工発動。


『ミラージュ』


 咄嗟に俺たち四人の姿を幻影で別人へと変える。

 性別は変えず、髪型や髪の色を変更。顔も似たような別人へ。


「ふう……無事帰ってこられたわね」


 一拍おいてアスモさんと、細身の男が転移してきた。

 青い髪に水色の目。身体も紺色で、所々に金色の線が入っている。

 魔力の流れを感じる何かだ。あとは黒く細い悪魔のような羽。


「大丈夫ですかー?」


「問題ないわ。ありがとうマスター」


 俺たちの姿が変わっていることにツッコミがない。

 この人シモネタ絡まなきゃマジで有能なのか。


「マスターとは?」


「なんでもないわ。ここは?」


「学院のことを知らせるために、魔界と学園をつなぐゲートに向かう列車の中よ」


「そう、ならしばらくは安心ね」


「どうやらそうでもないみたいじゃ」


 窓の外を見ていたリリアがぼやく。

 つられて全員で外を見ると、空に複数の魔法陣。

 中から見たこともない服の連中が、背中に鉄っぽい羽をつけて出てきた。


「追手か? にしても早すぎる」


「実は救助の人とか……無いよねえ……」


「剣抜いてるし無いだろ。あれは機関の装備に近いものじゃ」


「攻撃してくるなら潰せばいいのさ」


 最近列車での戦闘に縁があるね。

 まあぼちぼち倒していきますよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る