ヴァルキリーふたたび

 ショートカットしてかなり上に来たが、まだ天井がある。

 この戦艦どんだけでかいんだよ。


「外、外見て!」


 シルフィの声につられ、窓の外を見る。

 綺麗な空と、窓の少し下に雲があった。


「そこまでか……こんな状況でもなけりゃ、もうちょい見ていたいが」


「それは別の機会になりそうね」


 綺麗な景色を横目に先を急ぐ。


「みいいぃぃぃつっけたああぁぁ!」


「おっと」


 突然横に現れた敵を、反射的にぶん殴る。

 ちょいと手加減しすぎたのか、原型とどめて転がっていった。


「いったあぁぁ!? 人間の分際で何してくれるんですか!? 生意気にも程っちゅうもんがありゃしませんかね!!」


 顔を抑えて文句言ってくるこいつは。


「ああ……ゲルちゃんのお顔が台無しですよ」


 間違いない。ゲルだ。騒がしさも含めてそっくりである。


「お前機関の人間だったのか……」


「んん? どこかお会いしましたかねえ? ゲルちゃんのかわいさをご存知で?」


「かわいさは知らん」


 俺たちの記憶が無いのか。完全に別人なのか判断つかんな。


「殺せばいいか」


「あんたバイオレンスなやつですね……」


 敵に呆れられた。しかもゲルに。ちょっと心にダメージ。


「言われておるのう」


「いいんだよ。敵に集中していろ」


「アーマードール隊、前へ!」


 緑色で、四本の手からビームのブレードが出た連中だ。

 生命反応もない。口と腹からビーム出てるし。


「こっちは任せて!」


「やることは変わらん。ボスは黒に任せるとしよう」


 ザコはみんなが処理してくれている。俺は俺で動こう。


「さっさと始末するか」


「生意気全開ですねえ。ゲルちゃん本気出しますよ? 秘めた力とか出しちゃいますからね!」


「それじゃあ挟み撃ちといこう。手伝うよゲル」


 背後で霧が集まり人になる。

 そこにはやはり、どこかで見た顔があった。


「ミストちゃん? こんなん手を借りるまでもありませんよ。引っ込んでいてくださいな」


「こんなに私とゲルで意識の違いがあるとは思わなかった。これじゃあ私、ゲルを守りたくなくなってしまうよ」


「守らなくていいって言ってんでしょうが!」


 連携が取れていないな。今のうちに潰そう。

 ささっとミストの背後に忍び寄り、回し蹴りでゲルの位置まで蹴り飛ばす。


「うがっ!?」


「ちょ!? なんで霧化しないんですか!? お邪魔ですよ!」


「したんだが蹴られた。想像以上に危険な相手だ」


「ああそうですかい、そうなんですかいな。んじゃいきますよー! ゲルちゃあああぁぁんボイス!! イヤッハアアァァァ!!」


 いきなり奇声を発しながら、ロングソードで切りかかってきた。

 とりあえず右手でキャッチ。なんか特殊な音波と振動で切れ味を増している。


「これがお前の能力か?」


 そうか、時間操作はクロノスの力だもんな。

 こいつ固有の能力は別にあるのか。

 とりあえず剣は握って砕く。


「うっげ!? あんたおかしいですよ!?」


「おかしくてもいいじゃない。俺だし」


「意味分かんないですよ!?」


「もっとわからなくしてやろう。ふははははは!!」


 まったく意味がわからんけれど楽しくなってきた。

 雑にアーマードールを殴り飛ばし、蹴り砕きながらゲルで遊ぶ。


「お、今度の顔は男か。なあ何で全員顔が同じなんだ?」


「使い捨ての下級兵士なんて、いちいち顔パターン作るだけ無駄でしょうが。無意味でつまんないんですよ」


「ひと目で階級がわかると便利だろう? 道具とはそういうものだよ」


「なるほど。理にかなってやがる」


 顔だけで適切な装備と役目を与えられるのなら、わかりやすくていいかも。

 能力も一緒だろうから、いくらでも代用できるのもポイントだ。


「そこは同意してはいかんのじゃ」


「血も涙もない奴らめーとか言うところじゃないかな?」


「うーむ……ゲルはどう思う?」


「なーんで私に振りますかねこの変なやつは!!」


 さて、宴もたけなわではございますが、情報を引き出せるだけ引き出して消しましょうかね。


「どうせお前らも量産されてんだろ? 誰に作られた?」


「人を機関の連中みたいに言うんじゃありませんよ愚民が!」


「言うと思っているのかい? 敵同士なんだよ」


 量産型ヴァルキリーのくせに知恵が回るじゃないの。


「なら話題を変えよう。この船は何だ? どうして攻撃してきた?」


「君たちが奪ったものを返して欲しいからさ。船についてはご想像にお任せするよ」


「機関のアイテムを渡したら帰してくれるとか?」


「秘密を知ったものを逃がすつもりはないよ」


「それが魔王であったとしてもです!」


 ずいぶん自信があるようだ。隠し玉でもいるのかな。

 味方のふりをしている魔族とかね。

 そこで簡単なことに気がつく。


「別に一匹いりゃいいよな」


 ミストにアッパーかまして消し飛ばす。

 全員捕獲する必要がないんだ。これでいい。


「ミストちゃん!? ミストちゃんは数が少ないのに! なんちゅうことしてくれやがりますか!」


 どうやら同数ではないらしい。っていうか複数いることが確定した。


「その騒がしさ、秘密を喋るために使ってもらおう」


「おっと、そうはさせないよ」


 数が少ないはずのミストが五人いる。

 しかも緑のザコを引っ張ってきた。


「うわ、また増えた……」


「面倒ね。どれだけいるのかしら」


「まだまだいるよ。宇宙戦艦だからね。ストックはしっかりある」


「まだ質問タイムの途中だろ」


「うむ、ザコの相手は任せるのじゃ」


 今の所みんな無傷か。よしよし、何かあったら回復してやろう。


「逆に質問しよう。私たちの姉妹を根こそぎ潰しているのは君たちなのかい?」


「ほっほーう、なるほどなるほど。確かに強いですもんねえ。行方不明者だけでも相当な数ですし、あんたらくらい強ければ可能でしょうねえ」


「質問の意味がわからん。まだミストしか潰していないぜ」


 仲間のヴァルキリーが消えていることは把握しているか。

 すっとぼけつつ倒したい。


「俺より強いやつなんていっぱいいるぞ」


「ハズレですかねえ。まあいいでしょう。漂っているうちに犯人に行き着くでしょうし」


「ん? 犯人探しで動いてんのか?」


 予想するにアイテム奪還と、犯人探しを同時進行でやる気なんだろう。

 そもそも可能なのかね。戦艦じゃあ目立つ。

 目立っても意味がないし、これ機関の技術だし。

 ならばもっと自然か、もしくは超技術を前面に押し出して……そうか。


「もしかして学院が移動して、魔王とか達人に喧嘩売ってんのは犯人探しか?」


「驚いたね。勘がいいなんてレベルじゃないよ。知っていてわざと言っているのかい?」


「いや俺も驚いているっていうか当たりかよ」


 ファフニールと鎧の相乗効果やばいな。

 探偵っぽいことできるんじゃね。

 白銀のぴかぴか鎧探偵…………目立つな。やめておこう。


「意外と目ざといやつですね。お邪魔だから消えなさい! アーマードール部隊!」


「もう倒したわよ」


「にゃにおう!?」


 既にヴァルキリー以外は殲滅されている。

 この程度で倒されるメンバーではないのだ。


「ついでにミストも倒したさっと」


 光速の十倍移動で、ぱぱっとミスト郡を両断。

 これにてゲルだけにございます。


「さーて、色々と聞きたいことがあるのう」


「楽に死にたければ話せ。我々も急いでいる身でな」


「そいつは無理ってもんで……ちょちょちょ、何も喋ってませんて!?」


 ゲルの身体が赤く発光してゆく。

 本人も戸惑っているようだが、こっちはもっと戸惑う。

 光ったままこっちに突っ込んで来られるともっと困る。


「ああもうあんたらのせいですからね! ゲルちゃんがこんなおぶっはああぁぁ!?」


 変な叫び声を上げてゲルが大爆発した。


「えぇ……」


 いやどういう気持ちでいればいいのさ。

 的確なリアクションを誰か教えてくれ。


『そのまま階段を上がれ』


 どこかにスピーカーでも取り付けられているのだろう。女の声が響く。


「素直に行くとでも?」


『これ以上破壊されても困る。ワタシ以外では殺せないと判断した。直通の通路を開ける』


 遠くの壁が上にスライドし、階段が現れた。隠し通路か。


「どうする?」


「魔術的な仕掛けはないようじゃ」


「行くべきだと思う。俺たちの力であれば、罠があろうとも問題あるまい」


「異論はない」


「行こう。もうアーマードールの相手は飽きちゃったよ」


「そうね。あなたが行くのなら、どこへだろうが付いていくわ」


 そんなわけで満場一致で階段を登ることになった。

 いい加減終わらせて、帰ってのんびりしたいところだな。

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