久々ののんびりした時間 イロハとリリア編

 巨大な球根を四人で焼き尽くした。やはりこの四人こそが最高のチームである。


「すっごーい! マジでかっこいいよみんな!! 超強いんじゃん!!」


 アリステルが絶賛している。ここまで楽勝とは思っていなかったのだろう。


「まあ楽勝じゃな」


「ルーンちゃんちっちゃいのに強いんだねえ!」


「うむ、もっと褒めるがよい」


「よしよーし! ぎゅーっとしてあげる!」


 リリアに抱きついているが、こっちに飛び火しないならまあいい。

 周囲の警戒は続けているけれど、どうも敵がいないようだ。


「気絶している連中を学園に引き渡す方法が必要だな」


「もうすぐ来るわ」


 学園の職員が部隊を連れて回収に来た。やはり迅速だな。ここは専門家に任せよう。農場に残してきた敵をどうするか考えないと。


「早めに戻るぞ。農場がどうなっているかわからん」


「よっしゃー戻るぞー!」


 こっちは片付いたが、敵の行動が読めないので急いで戻る。道中で戦闘の音がしないのが不安だが。


「決着がついたのか?」


「おーいみんなー! だいじょぶかーい!」


「あっ、アリス! なんとかなったよー!!」


 大きく手を振るアリスと、にこやかに振り返す友人。どうやら被害も最小限で収まったらしい。超人や神と違って、人間は食い物がないと死ぬから気をつけないとな。帰ったら8ブロックの警備をもう一回検討しよう。


「もうボス倒してきたの? 早くない? やっぱアリスがいてよかったよー」


「いやー実はみんな超強くってさ! あたし出番なかったんだよねー!」


「えぇ!? ほんとに!?」


「マジマジ、みんなやばいっしょ! これ楽勝ムードじゃない?」


 なんか絶賛している。というか俺を入れるな。俺は鎧なしじゃ弱いんだよ。戦力にカウントされると困る。


「こいつらが例外的に強すぎるだけだぞ。あてにしすぎるな」


「ふーん、じゃあ三人雇えたら無敵じゃん! いいないいなー、あたしのとここない?」


「アジュ以外に仕える気はないわよ」


「ふっふっふ、この後のおもてなしで、アジュくんから奪ってみせる!」


「そういうのNTRっていうんでしょ? リリアに教わったよ!」


 何を教えているんだリリア。そういう俗物の知識ぶっこむんじゃないよ。


「寝てから言えって返されるまでがテンプレだぞ」


「……寝ていいのね? アジュと寝ていいのね?」


「やめてくれ」


 捕食される。明らかに獲物を狙う目だよ。怖いよ。口実を作ろうとするな。


「んー? じゃあ逆にサカガミ狙っちゃえば全員ついてくるの? 素材は悪くないと思うんだよねー。あたしどう?」


「は?」


 そっち系の冗談を言われる経験が不足しているため、咄嗟に返せなかった。そういやどういう反応するんだろうこいつら、などと簡単に考えていたが。


「そう、そこに気づく人が私達だけじゃなくなったのね」


 別に俺が魅力的なんじゃなくて、なんとなく言っただけだと思うよイロハ。


「むー、アジュが取られちゃう。取られちゃう前になんとかしないとね!」


 シルフィは大丈夫だ。曇っていない。昨日の話が功を奏したのだろう。


「うーむ……フリーの期間はもういいじゃろ? その、今夜あたりどうじゃ?」


 なにそのファジーな質問。扇子でちょっと顔隠しているけど、なんか赤くない? ガチのやつはやめろって。俺の服の袖を掴むな。ちょっとぐっとくる仕草やめろ。


「話題戻すぞーい。はっはっは、しかし敵はどうしてここを狙ったんだ? 水源がある場所は多いけれど、育つ環境がここしかないとか?」


 はい空元気でございます。しょうがないね。三人の視線は気にしない。


「わかんない。他の国にいないか確認しないとね」


 全ブロック一斉襲撃ってのも考えにくい。どんだけの勢力だよって話だ。


「アジュくん、こっちで確認取ったけれど、8ブロックに襲撃報告はないわよ」


「そうか。なら条件があるのかもしれないな」


 フランの報告を聞いていくが、特に問題はなさそうだ。イズミもリュウもタイガもアオイも残してきている。あいつらが簡単に負けるとは思えない。


「このメンバーならいけるわよ。残してきたイズミちゃん達だって強いんだもの。きっとなんとかなるわ」


「そう、だな。すまない。なんかいつもフランにそういう役回りをさせている気がするよ」


「わたしだけじゃないわよ。ミリーちゃんとか、もっとサポートしてくれる子はいるじゃない」


「そうじゃない。事務的な方じゃなくて、俺がへこんだり思考がネガティブになると、励ましたり明るい言葉をかけてくれたりするだろ。自然と誰にでもそういうことができて、俺にまで回ってくるのはお前くらいだ」


 これは結構気づくのが遅れた。いつもリリアが万全のサポートをしてくれて、シルフィとイロハが寄り添ってくれる。その環境が全部消えたことで、改めて知ったのだ。そういう人間が存在することを。


「おぬし完全にキャラ違うじゃろ」


「自覚はある」


「女の子慣れさせすぎたかしら……」


「成長すると女の子を口説くね」


「ねえよそんな習性」


 フランがフリーズしっぱなしなんでどうにかしてくれ。フォローくれ。無言でこっち見て固まるな。やばいな、俺の言動が悪かったのだろうか。女への感謝の伝え方がわからん。下手すりゃキモいと思われたな。反省しよう。コミュ力のなさが出たぞ。


「でもさー、そんなに大事なサカガミが狙われたらどうすんのさ? 学園どころか表舞台に出られなくない?」


「そんなのフルムーンかフウマの秘境で四人で暮らすだけだよ?」


 シルフィさんノータイムで即答でございます。それ前も聞いたけれど、マジで進行中の計画なのね。いいけどさ。


「もう家と設備は整えてあるわ」


「アジュはインドア派の極みみたいなやつじゃからのう。ひっそり生きればよい」


「うわー、準備万端だねえ。ちょっと怖いくらいだよ」


「ちなみに俺は詳細を知らんから、アリステル以上に恐怖を感じているぞ」


「大丈夫なの?」


「わからん。全然わからん」


「痛いようにはせんのじゃ」


 実害を加えてくることはないという安心感がある。性的な行為が実害化は議論の余地がある。つまり怖い。


「はいはい、さてここからどうする?」


「後始末は学園とあたしらがやっとくよ。のんびりしてきなー」


「いいのか? 悪いな」


「うちのブロックの揉め事だかんね!」


 アリステルの気遣いにより、俺達四人とフランが解放された。お礼を言って向かった先は、大きな自然公園だった。


「おー……いいなあここ」


「春っぽい気候が最高に合うのじゃ」


 咲き乱れる木々と花。景観を崩さないように整備された歩道。それぞれが広々としたスペースであり、家族連れでも余裕を持って歩ける場所だ。


「澄んだ空気が気持ちいいわね」


 いつも通りに呼吸をすると、それだけで体の内側がリフレッシュされるようだ。清々しい気持ちっていうのはこういうことだな。


「はい、ここをカップルみたいに歩きます!」


「出たな無茶振り」


「それはわたしも入っていいのかしら?」


 フランの質問に一瞬だけ悩んで、好意的な回答を出す三人。


「うーん……フランにはお世話になってるし、いいんじゃないかな」


「一人だけ仲間はずれもないでしょう」


「うむ、ではわしらが手本を見せる。後に続くのじゃ」


 そして先陣を切るのはイロハとなった。自然に俺の右腕を取り、ゆっくりと寄り添ってくる。もうこの動きにも慣れてきたと思ったが、性癖を隠してお淑やかな女の子みたいにされるとギャップがあって戸惑う。


「ほどよい暖かさだから、腕を組んでも暑くないでしょう?」


 こうして公園デートとやらが始まった。他の三人は少しだけ離れて、後ろからついてきている。


「ああ、これなら問題ない」


 イロハのしっぽがゆらゆら揺れている。とても機嫌がいいようだ。


「問題ない以外の感想が欲しいわ」


「俺も慣れてきた」


「どういう意味かしら?」


 しっぽが立っている。少し機嫌悪いな。あと耳の感じからして不安? なぜだ。とりあえず詳細を話してみよう。


「ありえないイベントじゃなくて、俺の人生に組み込まれたって感じだ。これが俺の生きていく人生なんだなって」


「…………そう、それならよかったわ」


 めっちゃしっぽ振りますやんか。どうやら嬉しいらしい。まだ女心とやらは理解できんが、喜んでくれたならそれでいいか。


「機嫌直ったか」


「ええ、満足よ」


 さらに密着してくるが、歩くのに支障はない。忍者のスキルだろうか。俺に寄り添って生きるという言葉は嘘ではない。こうして気を遣ってくれるのもありがたい。


「今なら人もいないわ」


 俺の手が迷っていることに気づいたのだろう。周囲を見渡し、イロハが教えてくれる。


「これからも世話になる」


 できる限り親しみを込めて撫でてやった。今日イチでしっぽが揺れている。


「ありがとう。続きは今度二人きりでしましょうね」


 そしてイロハが離れ、次はリリアの番となった。


「アジュとの適正距離はあのくらいよ」


「参考になるわ」


「加減を間違えると拗ねちゃうから気をつけてね」


 俺をそこまで気難しいやつ扱いしなくてもよくね?


「ほれほれ、今はわしに集中じゃ」


「悪い。次はどうする?」


「あっちでお弁当を食べるのじゃ」


 そういや腹が減る時間だな。湖の見える場所のベンチに座り、食事の時間とする。リリアがどこからかランチボックスを取り出し、中のサンドイッチを見せてきた。


「おー、いいな」


 ハンバーグサンドとタマゴサンドに、野菜やBLTなど種類が豊富で色とりどりだ。離れた位置の三人も似たようなものらしく、どうやらまとめて作ったな。


「栄養バランスとおぬしの好みを両立させてやったのじゃ」


「ありがとう。んじゃ食うぞ」


「ほれ、あーん」


「やっぱりか」


 差し出されるハンバーグサンドをかじる。うまい。焼き加減もソースも完璧に俺の好みに合わせてある。


「こういうの強いよなリリア」


「一番の理解者の座は渡さんのじゃ」


「俺の生活はお前ありきだからなあ……」


 リリアがいたから俺がいる。だから一緒に楽しく生きている。揺るぎない事実であり、それが嬉しい。なのでお礼に食わせてやろう。一個取ってゆっくり食わせてやる。


「うむ、よくできておる。いつでも嫁入りできるのう」


「……恋人ってさ」


「別にすぐ結婚せんでもよい」


 思考を読まれている。恋人として付き合うとして、結婚は考えるものなのだろうか。もう完全に未知の領域だ。意味がわからん。どうすんの。


「カップルが全員結婚するわけでもないじゃろ」


「そうなりゃ俺は一生結婚できんな。まあ願望もないが」


「無論、離れる気はない。しかし十年くらい子供無しでいちゃいちゃして暮らすのもよいじゃろ。結婚は身を固めるつもりになってから、改めて検討すればよいのじゃ」


 それは理解している。今は高校生なんだから、最低でも二十代後半くらいまでは独身恋人ありくらいが妥当だ。その間に結婚への不信感と、子供という最大の難関をどうするか決めるしかない。


「俺じゃ解決できないかもしれないんだが」


「カップルと家庭は違う気がするのじゃろ?」


「ああ、まともな家庭の定義がこの世界と違いそうでな。できれば悲しませたくないんだ。愛情が理解できないうちは、身を固めたくない」


 暗い話になりそうだから、うまいもん食って中和しよう。おいしさでネガティブを超えろ。タマゴサンドうめえ。


「一応父と母がおって、男女中立思想のはずじゃろ。なら大きくは変わらんはずじゃ」


「中立と好きになるかは別じゃないのか? 愛情とかあったのか?」


 一応誕生日とクリスマスくらいは、ラッピングされていない希望した品が置いてあるくらいの家庭だった。十万とかするものは絶対無理だったけどな。


「イケメンや天才を作ろうとしての子種搾取ではない。ならば少量でも愛があったはずじゃ。そういう意味で、おぬしは少なくともちょっとは性欲あるはずなんじゃよ」


「自然生殖だからマシってか? そのせいで凡人さ。結果、俺はごく普通の一般人だ。特筆すべき才能がなかった。天才の遺伝子がない。平凡な一般人だ」


「本来生命とはそういうものじゃ。チートは使えんのじゃよ。それに魔法の才能が開花したじゃろ。何事も運と積み重ねじゃ」


「微妙に納得いかねえ」


 サンドイッチ食い終わりそうだし、暗い話も切り上げるか。どうせ俺の心持ち次第なところがあるのは理解している。つまり長引く。心が強いわけじゃないから。


「気持ちに折り合いをつけることじゃな。そのための相談や愚痴は聞いてやるのじゃ。これは思い出を共有しておる初恋相手のわしにしかできぬ」


「ああ、気持ちに決着をつけたら全部忘れる。忘れて進むために納得はある」


 完食して片付けて立ち上がる。腹も膨れたし、多少話してすっきりできたかもしれない。心情の吐露など俺らしくもないが、慣れない国での生活は、予想を超えてストレスを溜め込んでいたのだろう。


「それでよい。満足と納得こそが光のさす道じゃよ」


「わかっているさ。よく考えりゃ、飯食いながら話すことでもないな」


「よいよい、周囲に人はおらぬ。明るい場所で話すべきじゃ。話題が暗すぎるからのう」


「なら次のやつには明るくいこうか」


 次はフランかシルフィだろう。何を提案されるのか知らんが、楽しんでみようじゃないか。

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