やはりバトルもギルメンが一番だ

 花見を終えて部屋で眠りにつき、リリアに起こされて飯を食う。流石に四人で寝るのはやめておいた。見られたら面倒だ。風紀は乱さないようにしようね。


「やっぱり家じゃないとだめなんだね」


「自宅でも毎日は許可していなかっただろ」


 食卓には玉子と野菜とパンが出る。野菜は玉子と一緒に焼いたものとおひたし。イロハが教えたのかと思ったが、どうやらアリステルの地方で作る保存食に近いものらしい。結構うまい。新鮮なものと加工品を両方食うと、違いに気付けるな。


「毎日会えないのが悪いのじゃ」


「試験が長いからねー……もう試験とかそういうレベルじゃないよねこれ」


「勇者科は独特すぎるわね」


 覚醒条件に個人差がありすぎるため、色々やらせる方針なんだろう。授業か試験かもうわからん。最長であと一ヶ月続きそうだぞ?


「それで、この後どうする?」


「そこなんだよー。観光地みたいなもんがないのだ。お金の余裕もないし、お客さん来ないと詰むじゃん。経営は過酷なんだぜい!」


「遊園地とか作ってる余裕ないもんね」


「作っても来月には消えそうだしな。なら経営を見る方向で行くか。この時間からはいつも何をしている?」


「農場を見に行ったり、書類片付けたりかな」


 視察と書類はどこにでもついて回るらしい。他国の事務仕事なんて肩代わりはできん。ならやることは限られる。


「見学行くか。邪魔はしない。必要があれば手伝ってやるよ」


「意外ね。アジュくんめんどくさがりなのに」


「泊めてもらっているからな。それに農業は覚える必要がある」


 国の運営に使えるかもしれないし、四人だけの世界になった場合に、農業漁業は必須スキルだ。しっかり覚えておこう。


「よーし、じゃあ案内するからついといで!」


 そんなわけでギルドの四人とフラン、アリステルで大農場へと行ってみる。


「おー……広いな」


 見渡す限り畑が広がっている。しっかりと整理された区画で、規則正しく栽培が行われている。働いている人間も多いな。かなり大規模だ。

 心地よい風が優しく吹き、農作物の葉を揺らす。今日はよく晴れていて、これはぼーっとしていると寝るかもしれんな。


「こっちじゃがいも、あっちトマト。ナスとかきゅうりもあるよ。夏とか冬のものも育つみたい。あっちにみかん畑もあるんだー」


「栄養豊富で特殊な土によって育ちがよいのじゃ。気候も安定しておる。作物にとってベストな地域じゃな」


 土の質は作物の質らしい。水源もちゃんとあるし、暮らしやすくていいなあ。


「いやずるくね? 俺の国とか雪国だぞ。そんなハンデつける?」


「一応あたしらにもハンデっぽいのはあるよん。農地は別の用途に使っちゃいけないの。牧畜できる場所もあるけど、そっちも変更不可。設備の改良はオッケー」


「あまりにも広くて守りに向いていないわ。資源も豊富で春のような気候だから、狙ってくる人もいるでしょう。農地を避けて迎撃しなければいけないわね」


 イロハの言うとおりかもしれない。農場が広すぎる。これを防衛するのは人員も設備もかなりかかるだろう。単純に作物を育てるのが手間だろうし。


「冬の雪国は攻めてもメリットないからなあ。背後は海だし」


 何が悲しくて雪の中を進軍せにゃならんのか。冬の雪山は死ねる。それは体感したので、まあ9ブロックの連中が異常なんだろう。

 多少納得できたところで笛の音が鳴り響く。


「ん? 何の合図だ?」


「敵だよ! 魔物とか敵が攻めてきた合図!!」


「やっば!? 急ぐよ!」


 全員でアリステルの後を追う。笛の音を追えば場所が特定できるらしい。


「みんなー! どうしたの!」


「アリス! 魔物来たよ!」


 既に兵が集まってきている。落ち着いているようだし、練度もそれなりにありそうだ。


「柵の向こう! 集まってきてる!」


 農場の端には大きな柵が備え付けられている。柵越しに見ると赤黒い球根からツタが生えたような化け物がこちらへ移動してきている。それなりの数がいるし、男子生徒より少し小さいくらいだな。


「あれ食えるもんじゃないよな?」


「普通にモンスターだね。木とか球根みたいな敵が湧くんだけど……ちょっと多すぎるねえ」


「本体がどこかにいるのかもしれないわ」


「ならそいつを……うわ、あの虎は」


 どこかで見た紫と黒の虎が混ざっている。あいつ全国で出るんかい。


「おいおいあれこっちにもいるのかよ」


「アジュ知ってるの?」


「俺の国に出た魔物だ。こっちにはいないのか?」


「あたし見てない。みんなこのへんで見たことあるー?」


 兵士も農業に専念していた生徒も首を横に振る。知らんらしい。


「殺し合わないってことは、あいつらは味方なのか?」


「言ってる場合じゃないって! 全員戦闘態勢! 迎撃開始ー!」


 アリステルの合図で兵士が遠距離攻撃を開始する。燃え移らないように、風魔法とか弓矢が主体だ。俺達も攻撃魔法で近づいてくる敵を倒していく。


「虎が速い! 全員引き撃ち!!」


「スナイパーに任せるか、近接戦するしかないな」


 野生動物は想像するより素早い。あのモンスターは厳密には野生の生き物じゃないけど割愛。さて、畑が荒らされるのは避けたい。だが俺達の神の力は大っぴらに見せたくない。


「よっ! はっ! ほい!」


 アリステルが弓で正確に虎を仕留めていく。見ている限り一発も外していない。


「やるな」


「あたしんちは代々山たくさん持ってる猟師の家系だからね。きっちり仕込まれてるのさ!」


「お前お嬢様じゃないんかい」


「一応お金持ちだよ。土地いっぱい持ってるタイプのやつ」


「なるほどな」


 雑談している間にも敵は迫る。いや多すぎるだろ。自然発生するレベルじゃないぞ。これは親玉がいるな。


「最近ずっとこんなんだな」


『ショット』


 まだ鎧の力は使わないでおく。そのかわりショットキーで作り出したアサルトライフル二個抱えて連射だ。当たらないなら当たるまで撃ちまくる。一発の威力は落ちるが、着弾数でカバー可能だ。


「ほれほれもっと死ぬがいい」


「サカガミ、それの狙撃用のやつ持ってない?」


 少し考える。スナイパーライフルってことか。魔力は俺が込めなくてもいいし、精度高そうなやつを作ってやる。スコープは難しいが、照準と目盛りくらいはつけて、最新式というよりは猟銃に近いデザインだ。


「これでいいか? 弾は魔力だ」


「ありがと! おおりゃ!」


 一発目からヒットさせている。やはりこいつも勇者科。一芸に秀でているわけか。弾丸も強力だし、魔力そのものが高いのだろう。


「アリス! やばいよ、他のとこからも敵が来てる!」


「マジ!? あーもうどうしよう!」


 どうやらまだまだ敵が出るらしい。兵糧攻めかと思ったが、今は他ブロックとの戦争は禁止されている。なら目的は何だ? 薬をばらまく一味だとして、作物を襲うメリットはない。魔物に食料運搬なんて無理だ。思考を巡らせていると、みんなに向かってシルフィが声をかける。


「落ち着いて。敵の数と場所はわかる?」


「は、はい!」


 トップが堂々としていると、落ち着きを取り戻すらしい。報告を聞いて、おおよそのあたりはついた。


「第三、第五部隊を送って。ここは大丈夫。西側は高台からの連射でいいはず。迎撃に専念して。多分どこかに親分がいるから、見つけたらまた報告して」


「了解です!」


 指導者としての才能が開花しているな。本来ああいうきりっとした表情で、大衆を導く存在なんだろう。撫でられてへにゃっとした顔をするのがレアケースなんだな。


「アリス、水源は近いのか?」


「えっ? えーっと、近いとこと遠い川があるけど……」


「井戸は農場の中だよ。柵の中」


「なら川か城か……?」


 農場を完全制圧はできないだろう。敵に超人でもいれば別だが、そこまでして1ブロックの農場を潰す意味がない。なら水源潰しか、城に攻め込むかだろう。


「城なんぞ手に入れても、勇者科でなければ教師の標的になるだけじゃろ」


「伝令! 付近の河川にて巨大な植物と魔物の発生報告です!」


「水……? 水か? アリス、終わったら水質調査をしてくれ。各ブロックと学園、他国の比較もできれば頼む」


「いいけど……なんに使うの?」


「使えるかどうかは知らん。ももっちに伝令頼む。イロハ」


「もうフウマに連絡したわ」


「よし、なら川に行く。俺達四人だけでいい」


 川すら陽動だった場合に備えて、ほとんどの人員を残す。同時に俺達だけになることで、鎧を使える環境にするのだ。


「ちょいちょい、王様二人行かせるわけにいかないっしょ。あたしも行くよ。結構強いんだからね」


 だから残れっつってんだよ。強いやつが残って旗印になるんだ。超強いやつがこっそり倒す。これがいつもの流れだ。


「無茶よアジュくん。私も同行するわ。いいわね」


「あたしも絶対行くから!」


「やれやれじゃな。フォローはこっちでやってやるのじゃ」


 仕方ないので六人で平原を抜けて大きな川へ。向こう岸が小さく見えるほど広いが、今はそれよりも目を引くものがある。


「あれ……完全にそうだよな?」


 川にでっかい球根が浮いている。一軒家くらいある。そこに狂ったように笑っている人間がたくさんいた。プリズムナイトで狂った連中だろう。何かを運んでいるようだ。そして球根から球根の魔物が生まれる。芽吹けや。花とか咲け。


「完全に諸悪の根源じゃな」


「ここから攻撃魔法ぶっぱして終わりでいいんじゃね?」


「投げやりになんないの。事件の手がかりがつかめるかもしれないっしょ」


「あれを長時間放置するのは危険よ。捕獲しておくこともできそうにないわ。消すべきよ」


 木の後ろに隠れて作戦会議だ。この間にも敵が生み出されているので、時間はかけられない。


「あの人達は薬でおかしくなっているだけかもしれないわ。アジュくんなら助けられない?」


「あんな連中助けてメリットあるのか?」


「学園に引き渡せばサンプルが増えるくらいじゃな」


 殺処分でいい気がする。遠目で見ても全員頭おかしいもん。魔物生み出している連中は重罪じゃね?


「農場に被害が出ても困るだろ。球根は消す。人間は攻撃して死ななければラッキーでいい。味方にけが人出たら嫌だし」


「そうだけどー……しゃーないか。じゃあみんなで攻撃しちゃう?」


「フランとアリステルはここにいろ。最速で終わらせる」


「え? いや危ないって。ちゃんと戦えるし」


 問答は無意味だ。さっさと四人で倒して帰るぞ。


「リリア」


「ほいほい」


 リリアが扇子を開くと、敵の周囲に無数の魔法陣が展開される。


「ほいっと」


 扇子を閉じた時には各種属性魔法の雨により、敵陣は爆煙で包まれた。


「はえー……ルーンちゃんすっご!?」


「アジュくん、虎が来るわ! みんなで迎撃……」


「イロハ、足軽。シルフィ、ボスまで」


「了解よ」


「掴まって!」


 イロハに影の軍勢足軽バージョンを出させ、虎を迎撃させる。

 その間にシルフィと俺を加速してもらい、ささっと半壊した巨大球根までやってきた。


『ソード』


 内部で何かが生まれようとしているのは理解した。念のためソードキーの剣で魔力なりなんなりの繋がりごと完全に切断する。切り残しが無いよう、シルフィも一緒に攻撃してもらった。


「こんなもんか」


 歩いて戻りながら、リリアと目を合わせておく。それだけで敵の球根が火柱の中へと消えた。

 ここまで一切打ち合わせなどしていない。短すぎるにも程がある指示で、三人が120%完璧な行動を取ってくれる。


「おつかれ。やっぱあれだな。お前らが一番だ」


 この四人が一番やりやすい。

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