第162話 ユニコーンの検査

 ろくなクエストがなかったため、学園探索を開始。途中でリリアと合流。

 俺は召喚獣の調整を行うという場所に来ていた。


「いちいち規模がでかいなこの学園は」


「設備の充実具合がアピールポイントの一つじゃよ」


 ここでは召喚獣の診断やブラッシングしている人、ぼーっと一緒に過ごしている人など様々である。

 医療施設と狩り揃えられた草の生えた広い場所。奥にちっちゃい滝とかあるな。


「ユニコーン、来るか? 召喚獣の施設がある」


「暇をもてあましていた。助かるぞ」


 召喚板で通信。許可が出たのでユニコーン登場。

 適当にふらふらしていこう。今日はいい天気だ。


「一回医者に見せて健康状態を調べてみるか? なんか病気とかあるかもしれないし」


「これでも聖獣なんだが……まあいい。どうせ暇だ」


「早くも飼い主に似てきおったな……」


 擦れ違う人も動物っぽいのを連れ歩いている。たまにこっちを振り向くのはなにさ。


「ユニコーンってそんなに目立つのか?」


「そら目立つじゃろ。まず男と歩いていることが異常じゃ」


「同志など現れなかっただけだ」


 この世界の処女厨はレベルが低いな。いったいどうなっているのやら。


「医者が非処女でも暴れるなよ? 俺が面倒なことになる」


「心得ている」


 召喚獣の検査センターへ。病院っぽいな。院内は静かで白が基調だ。

 そのなかに緑などの目に優しい穏やかな色、温かみのある色を入れてある。

 そのへんは病院と似ているかも。


「いらっしゃいま……」


 羊のツノが生えた受付のお姉さんが固まる。めっちゃ見られてますよユニコーンさん。


「あの……ユニコーン……ですよね?」


「いかにも」


「少々お待ちください!」


 奥へ引っ込んでいった。ダッシュで。


「あの……えーっと……この中で男性とお付き合いしたことがない方!」


「急に何を言い出したのよ!?」


「ユ……ユニコーンが来ました!」


 丸聞こえである。ざわざわしているなあ。おそらく奥に専門家の控え室でもあるんだろう。


「ちょっと時間稼いで!」


 中の女医さん? にそう言われてささっと戻ってくる受付のお姉さん。


「あの……えー……っと」


「別に男でも診察できますよ?」


「うむ、構わんぞ」


「失礼します!」


 また奥に引っ込むお姉さん。忙しいなあ。まあ急にこんなん来たらそうなるか。


「男もいけるユニコーンが来ました!」


「なんですって!?」


 なんか変な伝わり方しているぞー。


「この中で女生とお付き合いしたことがない方!」


「言い出せるやついるのかそれ?」


「本当に男もいけるの?」


「マスターが男性でした!」


「つまりそのマスターは……経験なしということに……」


 俺にまで飛び火していますねこれは。

 このままだといらん風評被害に巻き込まれる。

 いやまあ童貞なのは正解だけどさ。


「すみません、ちょっと」


「はいっ、どうされました?」


「ちゃんと男女どっちの診察でも受けるように説得してありますので」


「……ああっ! 失礼致しました!」


 受付カウンターに頭がぶつかるレベルで頭を下げられる。やめろ注目されるから。


「じゃあ、こいつをお願いします」


「はい。ではこちらに記入してお待ちください」


 なぜこんな騒ぎになったんだ……ユニコーンは希少種らしいな。

 一緒にアンケートに記入していく。持病はないか、苦手なものとか契約してどれくらいかとか。


「病院だなあここ」


「召喚獣や精霊のケアもできるオススメの場所じゃ。ユニコーンはできた子じゃが、今後気難しい精霊と契約したら来てみるのじゃな」


「なんなら我が話をつけるぞ。手に負えぬ暴れん坊も躾けてやろう」


「やめい。俺の召喚獣は平等です。俺がやる。面白そうだし」


 未知の生き物と遊ぶのは楽しいかもしれない。

 来る途中にかわいい生き物もいたので触りたいし。ふわふわもこもこしてそう。


「それがマスターの意向ならば口出しはせん」


「できた子だな」


「お待たせいたしました。こちらへどうぞ」


 静かに笑顔で言われる。ファミレスみたいに大声を出さないのは、病院も兼ねているからだろう。


「検査は血を採ったりもしますが……」


「構わん。一通り全て頼む。こちらの医学にも興味があるのでな」


 ユニコーンも乗り気だ。精密検査なので俺達は検査室には入らない。

 暴れる寂しがりやなら別だが、ユニコーンは普通に会話ができるため問題ないらしい。


「ではマスターの方はこちらへどうぞ。召喚獣と遊んだり、体調を計る装置もありますよー」


 なんか販売コーナーがある。細かく犬や馬用の食い物から、精霊に食わせる魔石まであるぞ。


「ペットショップか」


「似たようなものじゃろ。猫耳とか売っとるぞ」


「いらんよ。うちに犬……狼耳がいるだろ」


「いやいや、これは男性用じゃ」


「男性用!? 男女で分ける必要がどこに!?」


 目を離すとすぐ変なもの見つけてくるな。気持ちちょっと大きめの猫耳だ。


「そもそも普通に猫耳の男も存在するだろこっちって」


「だからといって、つけてはならんというルールもないのじゃ」


「こちらに女性用の色々もございますよ。彼女さんにどうですか?」


 猫耳としっぽを販売員のお姉さんにすすめられる。

 そんなお姉さんは牛のツノかな? 本当に多彩だな。


「いや別に恋人ってわけじゃ……」


「えっ、あっ……ユニコーンのマスターさんですもんね……すみません」


「マジ謝りはやめてくれ。違うから」


「違わないじゃろ。まあ気分的にはぎりぎり恋人くらいにはなっとるじゃろ?」


「どう答えろってんだよ」


 誰かコメントの仕方を教えてくれ。

 リリアが黒い猫耳をつけていることも含めて的確なアドバイスが欲しい。


「ほれほれ似合うじゃろ? 魔力で動くのじゃ」


 正直かわいい。こいつの小動物的なかわいさは、口に出すことすら憚られる圧倒的ポテンシャルだ。


「はいはい、ユニコーンってなに食うんだかね。こっちかなっと」


「そっちはメンテナンス用の商品じゃよ。さては動揺しとるな?」


「俺に限ってそんなことがあろうはずがございません。さ、こっちのブラシでも買うか。馬用でいいよな。あと商品で遊ぶな。猫耳返してこい」


「もう買ったのじゃ」


「早いなおい」


 ブラシと興味を引いたものを買って、待合室のソファーでだーらだらする。完全にヒマなのさ。

 待っている人もいない。完全に二人だけは久しぶりだな。


「やることないぞー」


「そういう時こそわしに構うのじゃ」


「はいはい、凄い凄い」


「遊んで欲しいにゃーんと」


 猫耳を動かしながら擦り寄ってくるので手で防ぐ。膝に乗ろうとするのも阻止しよう。


「じゃれるな。人が来るかもしれないだろ」


「そんなもんサーチしたうえでやっておる」


「外ではやめろって」


「ほーれ猫ちゃんが遊んで欲しいのじゃ。優しく撫でるのじゃよ……時間切れか」


 奥の曲がり角から足音が聞こえた。サーチ魔法凄いですね。

 検査が終わったらしいので行ってみよう。


「完全な健康体です。病気もなし。全能力が高くまとまっています。のびしろもまだまだありますので、戦闘に参加させたり、新しいことをしてあげると可能性が引き出せるでしょう」


「なるほど、ありがとうございました」


 お医者さんから絶賛のお言葉を頂いた。まあかなりレアで強い召喚獣らしいからな。


「検査で緊張している召喚獣のために、リラクゼーション満載の施設もありますので、ついでに毛並みでも整えてあげてください」


 そう言われてお会計。ちょっと高い。まあマスターになったんだし、この程度は我慢だ。


「あっちでブラシを試すのじゃ」


 施設の中には召喚獣を洗ってやるスペースがある。

 板で区切って個室っぽくなっていて、そこそこ広いし温水も出る。


「体は常に清潔に保たれているが」


「ま、こういうのは気分さ。金がかからないならやってみよう」


「お湯かけるのじゃ。じっとしておれ」


 ユニコーンを洗う作業に入る。シャワーノズルがちゃんとあるので全身をゆっくり洗っていく。


「熱くないですかーっと。床屋みたいだな」


「いい湯加減だ。風呂というものはなぜか落ち着くな」


「普段どうしてんだ?」


「温泉の湧き出る場所か、適当な泉を拠点としている」


「ほー……それはそれで面白そうじゃな」


 全身流したら温風で乾かしてから、二人でブラシをかける。

 ユニコーンが結構でかいため、重労働に片足つっこんでいる。


「なかなか疲れるな」


「普段使わない筋肉を使うからじゃな」


 これはちょっとしたトレーニングだな。筋肉痛にならないように気をつけよう。


「できているのかわからないな」


「もう少し強めでいい。体は丈夫にできている」


「ほーい、かゆいところはございませんかー」


 大人しくて意思の疎通ができるというのは本当に助かる。

 そこそこ時間がかかったが、なんとかブラッシング終了。

 白い毛並みがさらに輝いている。さらさらで風に靡く姿は神話に出てくるに相応しい。


「おー綺麗になったもんだ」


「体が軽くなった。礼を言う」


「来たかいがあったのう」


「金かかるから、何度も来るのは無理だけどな」


「その程度なら稼ぐさ。戦闘に出せば魔物程度は倒す。流石に神はそちらでどうにかしろ」


 やっぱ神様への戦力にはならないか。それでもいざという時に呼び出せるのはでかい。


「よし、じゃあ無理のない程度で頼むぜ」


「承知」


「よし、次はわしの髪を櫛でとかすのじゃ」


「はいはい、ここでやるのは施設を使いたい人に迷惑だからやめような」


「ほう、帰ったらよいのじゃな?」


 はいしくじった。疲れで頭が回っていないのか。それとも猫耳にあてられたのか。

 そこまで獣耳が好きなわけじゃないんだけどな。


「自分の女であろう? ならば相手をするのも宿命。受け入れればいいだけだマスター」


「ユニコーンなのにいいのか? 処女が男といちゃついているぞ」


「構わん。主の女となるならば、それはめでたきこと」


「うむ、その調子でサポート頼むのじゃ」


「承知」


 また外堀が埋まっていく。まあいい。髪くらいなら……俺の基準がゆるくなっている。

 ま、どうせ今日はやることもない。たまにはねぎらってやろうじゃないか。

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