また学園生活に戻る

久々にリラックスできる時間のはずだったのに

 ラグナロクが終わって二日。

 期末試験も終わっちまって、暇だったので領地に来ている。

 ボートに揺られて寝転がると、日差しが程よく温かい。


「きゅー……」


 クー三兄妹も一緒だ。

 俺のコートが温かいのか、くるまったり俺の胸の上で寝ている。


「きゅ」


「起きたか」


 ボートは広く、ちょっとやそっとじゃ転覆しない作り。

 折りたたみの屋根もあるから、もし雨が降っても安全だ。

 だらだらするには最適である。久々の癒やし空間であった。


「きゅー、きゅ」


「よしよし、撫でてやろう」


 クーを優しく撫でる。目を閉じて寝るまで撫でてやろう。


「きゅっきゅ」


 撫でる指にじゃれついて甘噛みしてくる。


「噛むな噛むな。俺は痛くないけど、他のやつは痛いかもしれんぞ」


「きゅー」


 おとなしく撫でられている。基本的に賢いし素直だな。


「きゅ……きゅっ!」


 他のやつらが起きた。全員起きちまったな。

 そこで誰かの腹がなる。


「そろそろ戻るか。俺も飯の時間だろうし」


「きゅー!」


 ボートを漕いでいこう。

 魔力で多少は漕ぐのが楽になるタイプだから、俺でも楽に動かせる。


「きゅっきゅー」


「きゅーきゅー」


 岸まで動くボートが楽しいのか、水面を見ながらなにやら歌っている。

 かわいい。楽しそうにしやがって。


「グオオオォォ」


 親ぐまが迎えに来ている。飯の時間を察したかな。


「ほら降りろ。親が待ってんぞ」


 船着き場? っぽい橋にボートを結び、ゆっくり降りる。

 勢いよく親に駆け出す三兄妹。


「またな。親からはぐれんなよ」


「きゅー!」


「グオオオォォ!」


 仲良く手を振ってくれるので、振り返して道を歩く。


「あ、いたいた。もうお昼ご飯だよー」


 シルフィとイロハが迎えに来ていた。

 三人で家まで歩く。


「悪いな」


「クーちゃんと遊んでいたの?」


「ああ、わかるのか?」


「匂いがするわ」


 こいつらもクーと仲がいいし、次は一緒に遊んでもいいかな。


「ちょうど帰ってきおったな」


 門を抜けると、庭でリリアがなんかやっている。

 火と煙が出ているしこれは。


「バーベキューじゃ!」


「俺と真逆の存在だろバーベキュー」


 もう肉がいい感じに焼かれている。

 せっかくだし食うか。


「帰ってくる直前に焼き上がるよう、調節してあるのじゃ」


「地味に凄いな」


 肉が柔らかくて濃いめの味だ。

 牛肉と鶏肉が一緒の串に刺さっている。


「タレと塩が選べるのじゃ」


「塩いってみるか……うまいなこれ」


「結構いい食材よ。はい、野菜も食べる」


 イロハに出された野菜串を食べる。

 野菜はタレだな。苦味とか消えてくれるし。


「はいこっちも食べてみよう!」


 シルフィが出してきたのは、鶏皮とつくねの串だ。手が込んでいるな。


「つくね好きでしょ」


「うむ、うまい。鶏皮もパリパリしていいな」


 つくねは旨味が凝縮する調理法だと思っている。

 上手に作れば何にでも合うのだ。

 うどんに入れたり、カレーに入れたり、優秀なやつだよ。


「今度は私に食べさせるのよ」


「やっぱりかよ」


「わしはラグナロクで一緒じゃったから、二人にまずやってあげるのじゃ」


「さあやってみよう!」


 仕方がない。幸いここには俺たちだけだ。誰かに見られることもない。


「ほれ……」


 焼けているやつからランダムに、一本選んで差し出す。

 なんか手慣れてきたな……そんなに毎回やっているわけではないはずだが。


「んむ……慣れてきたわね」


「俺もそう思う」


「もっと慣れていくよー」


 シルフィには大きめのやつを食わせる。メンバーで一番よく食うからな。


「あーん……ん、おいしいね!」


「よし一本食い切れ」


 最近構ってやってなかった気がするので、ここで解消してやろう。


「ふっふっふー、アジュが素直だー」


「素直というか、開き直ったというか」


「よいよい、もっと焼いてやるのじゃ」


「追加を持ってきたぞ」


 キアスの横で、食材の入った皿が浮いている。

 そういや食材の消費早いな。そんなに食っていないはずだが。


「うむ、助かる。ほれかぼちゃの串じゃ」


「すまない。よく焼けているな」


「肉も食うか?」


「いただこう」


 キアスはかぼちゃと肉中心に食っている。

 俺も一緒に白菜とかピーマンっぽい野菜も食うが、白菜ってバーベキューに入れない気がするぞ。


「白菜は塩じゃな」


「タレつけて、つくねと食うとサラダっぽいぞ。キアスもどうだ?」


「珍しく世話を焼いておるのう」


「俺の召喚獣だからな。ちゃんと世話をするのだ」


 こいつには世話になっているからな。ちゃんと感謝は示しておきましょう。


「タレを何度もつけて、よく焼くのだ」


「なるほど、焼き加減変えてみるか」


 四人と一匹で焼いていく。実に充実した時間だ。

 こういうのは嫌いじゃない。

 なぜか足りなくなるので焼いていこう。


「余ったら焼きそばやるのじゃ」


「よし、麺入れていくぞ」


 鉄の網から鉄板にチェンジ。まだ腹に結構余裕がある。

 肉と野菜に麺混ぜて、ソースかけてかき混ぜる。

 はじめからこれ作ることが予定されていたな。

 食い切れるくらい腹に余裕がある。


「うーん、まだ生焼けだな」


「もう少し強火で麺をほぐすのだ」


「火力上げるわよ」


「もう少しお肉残ってませんの?」


「ああ、残りは明日にでも……」


 しれっとヒメノがいる。

 ここに来ることを言っていないのに。

 しかも背後には、明らかに十本を超える串があった。


「お前なにしれっと来てんだよ!!」


「しかも勝手に食べておるじゃろ」


「愛の巣を確認がてら、妻として手料理を振る舞おうかと」


「どういう神経してたらこれを妻の手料理と言い張れるんだよ。帰れ!」


「ほらほらアジュ様、焼きそばが焦げますわよ」


「焼きそばの代わりに焼くぞお前!」


 ヘラを器用に操っているヒメノ。その多芸さが腹立つわ。


「焼きそばを 焼いて妬かれて 妻の愛」


「急に俳句!? 季語が入ってねえし!」


「そこじゃないと思うわよ」


「今の時代、無理に季語など入れる必要はありませんわよ、アジュ様」


「今一番必要ないのがお前だよ」


「はいマスター、こっちの串が焦げちゃいますよ。どうぞ」


「まだ串焼いていたのか、じゃあそれは食いながら……」


 当然の権利のようにアスモさんがいた。

 そして肉を食っている。食いながら別の串を差し出している。


「お前も呼んでねえわああぁぁ!!」


「ラブコメしている空気を感じまして。マスターもヒロイン不在では味気ないかと」


「なぜこの人はヒロインの座についているつもりなのかしら」


「知らせてないのに来ちゃったね……」


 おいおいやめてくれよ。俺の安息の地がアホに侵食されそうだろうが。


「いけませんわマスター、ご友人! は選びませんと」


「そうですわアジュ様。お知り合い! はきっちり選ばないと、変な虫が付きますわよ」


「じゃあお前らとの腐れ縁は今日までだ」


「アジュ様の食材を切る豪胆な男らしさ! バーベキューを司る、その汗とたくましい体! そこに寄り添えるのはわたくしのみですわ!」


「人違いだな」


「うむ、人違いじゃな」


 俺にたくましさとかねえよ。縁遠い存在だよ。

 食材はもう準備されていたよ。


「どっちもなくても、私はマスターのおそばにおりますわ」


「迷惑です」


「もうすぐ焼きそばができますわ!」


「変なもん入れんなよ頼むから」


「どうするのこれ?」


「適当に焼きそば作らせて、俺たちで食おう」


 最後は全員で座って焼きそばを食う。

 こういうのは大雑把な味の方がうまい。

 一気に作ったのが功を奏した。


「後片付けはお任せを。洗い物はしておきます」


「いえ、別にそこまでしてもらわなくても」


 アスモさんが食器をまとめている。嫌な予感しかしないわ。


「騙されてはいけませんわ! しれっと家の中に入る口実を作っていますわよ!」


「だろうな」


「くっ、ですがそれをバラした以上、あなたも入ることはできませんよ!」


「入れますわ。なぜなら妻だから!!」


「出禁で」


 既にギルメン三人が室内に入り、ソファーでくつろぎながらこっち見てやがる。

 助けろよ少しは。にやにやするんじゃない。


「昔は危機感とか持っていたのになあ……」


「それだけおぬしへの理解が深まったのじゃよ」


「ヒメノとアスモさんは安全よ。別の意味で危険だけれども」


 食器はシルフィとイロハにより回収され、二人がもう洗っている。

 それ以外は俺とリリアとキアスが魔法で運んだ。

 俺もリビングでごろごろしよう。


「私はもう、マスターと召喚獣という関係を結んでいるのよ。ただの知り合いよりも、圧倒的にそばにいる理由がある! 夜のお世話に呼ばれることも、きっとある!」


「わたくしは正妻。仕えるだけの関係ではありませんわ! それはお世話ではなく、愛の営みでしてよ!!」


「あいつらを合法的に始末する方法を、大至急教えてくれ」


 庭で色ボケてんじゃねえよ。あいつら揃うとこんなうざいのか。


「寝て忘れよう……明日になったらいなくなっていてくれ」


「大丈夫? お風呂もう沸かす?」


「頼む。心労が半端ないから、一人で入らせてくれ」


「わかったわ。忍び込まないよう、私たちで監視しておくわね」


「すまない」


 騒ぎ出すアホ二人を、仕事に戻れと帰らせて、心労が癒えてくれることを祈りながら、俺は風呂に入ったのだった。

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