ダツを討伐しよう

 船上でなんか変なダツを狩ることになった。


「来るわよ。水面をよく見て」


 水面がばっしゃばしゃいっている。

 大人の全力バタ足より水面を乱すほどだ。


「背びれが見えるじゃろ。あれを目印にするのじゃ」


 確かに見える。サメみたいだな。

 いやいや、あれ1メートル超えていないかね。


「やはり魔性のダツね」


「魔性の女みたいにダツを呼ぶな」


「あれだ!」


 水面から凄まじいスピードで飛び出し、こちらへ迫る。

 俺は中央のダツ担当。長巻を横に振る。


「外した?」


 分身の方だったようだ。

 シルフィが綺麗にまっぷたつに切っている。

 やはり1メートル超えていらっしゃるよ。


「そんな感じでやっていくのじゃ。ほいスイッチオン」


 また玉が光ると、こちらへダツが飛んでくる。


「いよっと!」


 横腹に勢いよく刃が入り、ずしりと重さが伝わる。

 だがこの程度なら許容範囲だ。

 そのまま振り抜き、二枚におろす。


「やれるもんだな」


 安物でも剣の質が悪くないこと。

 獲物が丈夫で威力重視であったこと。

 色々と重なっちゃいるが、おそらくそれ込みでリリアはクエストを受けている。


「よーし、どんどんいくのじゃ」


 さらに飛んでくるが、目が慣れてきた。

 獲物の扱いにも慣れつつあるのか、より効率よく動けている。

 小斬りと大斬りで動きを変える感じ。格ゲーみたいだな。


「でっ……かいわボケ!!」


 さらにでかくなるのはおかしいだろ。

 斬りきれず、柄で腹あたりをぶっ叩いて地面に落とす。


「オラア!」


 急所らしい場所を突き刺してとどめ。

 こんなもん飛んできたら危ないな。ここで駆除せんと。


「中ボスじゃな」


「中ボス!? これよりでかいのいんの!?」


「がんばろうね!」


 がんばるのかあ……倒せるんだろうなそれ。


「そろそろ数が増えるのじゃ」


「そりゃ群れで来るわな」


 五、六匹同時に来る。本体が増えているな。

 横薙ぎに振り、三匹同時にヒット。


「重っ!? すげえ重い!?」


 腕に尋常じゃない負担がかかる。

 なんとか振り抜くが、もう次が飛んできた。


「はっ!!」


 ダツの下腹を蹴り上げ、飛んでくるやつに蹴り飛ばす。

 同時に横に一回転して残りを両断した。


「動けるようになっておるのう」


「お前……これしんどいぞ」


「Dランクはもう、しんどいクエが混ざるレベルじゃよ」


 ランクは不用意に上げてはいけない。

 こういう苦労をするからだ。


「わたし手伝う?」


「いいや、このまま慣れるまでやる」


 シルフィもイロハもすぱっと切り裂いている。

 動きによどみとためらいが無い。練度の差だな。


「こうして、こうだ!」


 身をかがめ、すれ違いざまに腹を割く。

 相手がでっかい魚であることを除けば、まあまあかっこいいシーンだろう。


「まだまだ来るのじゃ」


 まだまだ来ますよこれ。迷惑です。まずいっぺんに来るなや。


「ええいめんどくさい!」


 遥か頭上を飛んでいくダツ。ジャンプ力おかしいよね。


「パイル!」


 左足を伸びる杭に雷化して、慎重に胴体を貫く。

 そのままゆっくりおろしたら、足を戻す。


「要するに感電させなきゃいいんだろ?」


「みんなと船にダメージが行かないよう、緊急時にやるのじゃな」


「わかった」


 その後も順調に狩っていき、切る・突く動作は馴染んできた。

 体ごと動かすことが多いので、これは体力がいるな。

 それに取り回しが難しい。


「こうして……よしっ!」


 そこでライジングギアだ。肩から腕を生やし、両腕の補助をさせる。

 これで可動領域が増えるし、関節の問題も多少は解決できるだろう。


「もうすぐボスが出てくるのじゃ」


「気を抜いてはだめよ。変異種が来るわ」


「こっからまだ何かあんのかい」


「来たよ!」


 なんか横回転しながらすっ飛んでくるんだけど。


「ハリケーンダツじゃな」


「ドリルみたいだな……うおぉ!?」


 ぎゃりぎゃり音がして、刃がうまく食い込まない。

 マジでドリルみたいな感じなのかこいつ。


「せい!」


「はっ!!」


 シルフィとイロハのアシストで回転を止め、恨みを込めて叩き切る。


「トリプルハリケーンダツが来るわ!」


 三匹がまとまって回転しながら突っ込んでくる。


「無理だろこれ! 魔法使わせろ!」


「感電しちゃうって!」


「ああもううっざいわボケ!!」


 鉤縄を射出。一匹捕まえて、そのまま少しずらす。

 そうすりゃ一緒に回転しているやつとぶつかって弾かれる。

 あとは個別に斬ればいい。


「ナイスアジュ!」


「小細工爆発じゃな」


「ちょいときつくてな。これ終わるのか?」


「ボスの瘴気が群れに力を与えておる。それさえ倒せば、徐々に小さくなっていき、やがて瘴気の供給ができずに死ぬ。もしくは別の何かに食われるのじゃ」


 なるほど。ならどこかのチームがボスを倒せばいいんだな。


「頼んだぞ他のチーム」


「他力本願はやめるのじゃ。ボスは特別報酬も出る。剣の製造費用にでもあてるのじゃ」


「うっ……それがあったな」


 できるだけカジノ貯金は使わない方針だ。

 安心からの浪費が怖い。だから完全に無いものと想定して生活している。

 つまりそれなりの金額を稼がないといけない。


「来て欲しくないが、何もなくても不安は残るか」


「その心配はしなくて良さそうよ」


 水面にギザギザのノコギリみたいな背びれが見える。

 今までよりも格段に大きい。


「あれじゃな」


「あれかー……おっきいね」


「一撃でいけるのか?」


「使える戦法に限りはあるけれど、不可能ではないわ」


 最悪影を海に潜行させて斬ればいいし、時間止めてもいい。


「おっ、あっちに出るみたいじゃ」


 ちょい遠くのチームへ行くようだ。ちゃんと見ておこう。


「ボスが出たぞ!!」


 水面が大きくかき混ぜられ、今までのやつより二回りほど大きなダツが現れた。


「でっか!?」


「どりゃああああ!!」


「ウオオオオォォォ!!」


 大剣持ちと槍使いが左右から、上からハンマー使いが挑む。


「ぬうう!!」


「どっせえい!!」


 回転が速く、それでいて巨体だ。

 刃は弾かれ、ハンマーで甲板に叩きつけられても、元気に跳ねている。


「こいつ! おとなしくしやがれ!!」


 苦戦しているようだな。加勢に入るチームが出てくるが。


「なんと!?」


 突然縦に回転しだし、甲板を転がり回り始めた。

 同時にダツの奇襲が激しくなる。


「ボスのピンチを悟ったのじゃろ」


「厄介ね。こちらに来たら一気に倒しましょう」


 さてどうするか。生半可な武器で殺しきれる気がしない。

 だが魔法は雷属性。これはめんどい。


「船の上で撃つわけにはいかない。かといって決め手もない。なら安全圏で雷を撃てばいいか」


「どうやるの?」


「リリアに魔法かけてもらってもいいが、ここはチームプレイでいこうか」


 やることは決まった。あとは他の生徒が勝てそうにないか、こっちにボスが来たら対処しよう。


「リリア、ザコダツは任せる」


「承知じゃ」


 リリアの攻撃魔法によって、飛んでくるダツが徹底的に撃ち落とされていく。

 こいつなら水中で炎を出したりもできるだろう。

 魔法ってのは物理法則を超えられるからな。


「こっち来るよ!」


「シルフィ、一瞬だけボスの時間止めろ。イロハ、テュールの腕で上に飛ばせ」


「なるほど。わかったわ」


「任せて!」


 こちらへ回転しながら寄ってくるボス。

 非常に絵面がシュールだが、そこは気にしない。


「今だ!」


「止まって!」


 ほんの一瞬、けれどイロハがボスを打ち上げるには十分な時間だけ、時が止まる。


「いったわ!」


 俺は上空にて止まる前から待機している。

 船から離れ、海に当たらないよう上に向けて攻撃魔法を使えばいいだけだ。

 空中の俺より高く打ち上がるのを確認したら、練り上げた魔力をぶっ放す。


「プラズマイレイザー!!」


 綺麗さっぱり消えてくれた。やはり魔法はいいな。ロマンがあるよ。


「よーし終わり。いい感じだったぞ」


 船に戻ると歓声が上がっている。


「いいぞー!」


「ありがとう!」


「やるじゃねえか!!」


 ザコの襲撃も減っており、多少警戒しながら切ればいいだけだ。


「露骨に数が減ったな」


「もうすぐじゃな」


 そして飛び出してくるものがいなくなって五分くらい。

 終了のアナウンスが流れた。


『討伐が完了しました。怪我人はただちに回復を行い、安静にしてください。これより帰還します。お疲れさまでした』


 場の空気が緩んでいくのがわかる。

 適当な場所に座り、俺たちも回復に努めよう。


「おつかれ」


「おつかれさま。アジュも戦闘慣れてきたね」


「咄嗟の判断と行動力がついているわ」


 確かに最初よりはましっぽい。

 武器の慣らし運転にしちゃあハードだったが、これはこれで得るものはあった。


「よかったらどうぞー」


 船員さんが切り分けて焼いたダツを配っている。飲み物も一緒だ。


「食えるのか……」


「瘴気は抜けておる。中には普通のダツが変異したものもあるからのう」


 もらって食ってみる。塩焼きだな。

 身が引き締まっていて、なかなかに味わい深い。


「結構うまいな」


「運動してお腹へってるもんね」


「醤油かけてみるか」


 アイテムスロットから醤油を出し、俺の分にかけてみる。

 こっちの方がいいな。けど白米欲しくなるぞ。


「食べ過ぎるとごはん食べられないよ」


「わかっているさ」


「わしにも貸すのじゃ」


「かけすぎんなよ」


 軽く小腹を満たしながら、ゆっくり船に揺られて帰る。

 新武器のビジョンも明確になり、なんだかんだ有意義だった。

 こういうのも悪くないな。

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