学園生活編

魔法研究のお誘い

 フルムーンでごたごたがあったが、無事解決して学園に戻ってきた。

 今は魔法科の冬季特別講習が終わったところだ。


「ねむ……」


 講習は昼に終わる。つまり朝から出ないといけない。

 別に必修じゃないが、興味があったので頑張って起きた。

 そして喫茶店で軽食つまみながら休憩中さ。


「いかんな」


 ここは適温で眠くなる。ギルメンもいないので、眠さに拍車が掛かる。やばい。


「ちょっと話せるかな? お疲れのようだけど」


「ん?」


 金髪碧眼メガネのイケメンだ。少し長い髪を後ろでまとめている。

 耳がとがっているのはエルフだからだろうか。

 見覚えあるぞ。たまに見るやつだ。


「確か魔法科の」


「ハリーだ。君のことは知ってる、アジュ・サカガミ」


 そうだ。魔法科高等部一年。少しだが話したことがある。

 なんとなく知的な好青年なので、俺と関わることは無いと思っていた。


「珍しいな。俺を覚えているやつがいるとは思わなかった」


「そう? 黒髪黒目だし、勇者科だし、僕は記憶に残ってるよ」


「そうか、まあいい。要件を聞こう。ちょうど暇だったよ」


 無理な勧誘もしないし、礼節を理解しているタイプっぽい。

 かなり紳士的に話しかけてきているので、俺もそれなりに対応する。


「ありがとう。魔法科で、新魔法か研究成果をまとめたレポートの提出っていう試験があるんだ」


「らしいな。暇ならやるつもりだ」


 勇者科が本分なため、別にやらんでもいいんだが、暇ならやろうかなーと思ってもいた。


「実は君の戦闘を見たことがある。黒い羽の子と戦っていたね。蜘蛛の巣みたいなものを作っていた。あれは素晴らしいよ。魔力をあそこまで一点集中で練り込んで、しかも足場にもなる。実戦向けだがユニークな工夫があって、とても参考になった。雷属性っていうのもレアでいい」


 結構な早口である。テンション上がってんなあ。

 やた子と魔法の訓練していたのを見ていたのか。

 サンダーネットの時だな。見学オフにし忘れていた結果だろう。


「おっとごめんよ。それでなんだけど。よかったら僕と一緒に共同レポートにしないかい? そういうのも認められているんだ」


 ちょっと興味がある。魔法の研究は、俺一人では難しいのも事実だ。

 だがなぜ俺なのだろうか。他にも魔法科の連中はたくさんいる。


「なぜ俺に? 魔法科は人が多いだろ?」


「みんな攻撃魔法と回復魔法はできるけど、君は発想が特殊なんだ。雷属性も見つけられなくてね。最適だと思った」


「…………悪くない。今週は試験もない」


「いいのかい? そういえば、勇者科はどこかの国に行かないといけないんだろう?」


「一個終わって、次は来週になった」


 事情を察してくれたのか、皇帝ザトーさんから来週以降でいいよーとメッセージが来た。リリアいわく、フルムーンとは友好国であったこともあり、気を遣っているのだとか。


「依頼もないし、悪い話じゃないな……」


「面白いではないか。そういうのも経験じゃぞ」


 リリア登場。お前はいつもどこから来るんだ。


「ハリーだ。ハリー・ウィルソン」


「リリア・ルーンじゃ」


「レポートの誘いを受けてな」


「よいではないか。そうやって少しは社交性を身につけるのじゃ」


 ハリーの素性がわからないので、完全に信じるわけにはいかない。

 だが魔法が行き詰まっていたことで、新しい風は必要なのだ。


「どこまでできるかわからないが」


「いいよ、僕だって駆け出しだ。他人に多くを求めすぎても、結果はついてこない」


「わかった。詳しく聞かせてくれ。前向きに考える」


「ありがとう。早速だけど、ラボに来て欲しい。よければルーンさんも」


 そんなわけで歩きながら説明を受けた。

 ・ハリーは自分のできること、できないことを検査していた。

 ・もう一個くらい別の属性検査がしたい。できれば珍しいの。

 ・雷属性がいない。少なくとも魔法科の同級生にはいない。

 ・俺を研究して、雷属性の可能性とか調べて、お互いに新魔法ができればいい。

 ということらしいよ。


「ちなみに僕は風属性だよ。ルーンさんは?」


「全部じゃ」


「全部?」


「全部じゃ」


 マジだから困る。こいつ苦手属性とか存在しない。

 魔法の実力と知識で勝てるの学園長クラスだけだろ。


「ここが僕の入っているギルド『ホープロード』のラボだ」


 ものすげえちゃんとした研究所だ。でかい。

 多少変わったデザインだが、ドーム球場くらいの大きさがある。三階建てで屋上付きらしい。入り口に売店が見えた。


「おいおい……凄いとこ所属だな」


「別に僕がマスターなわけじゃない。あくまで一員になれただけさ」


 入り口がもうドーム球場っぽい。出入り口が多いのだろう。


「僕の所属は三番ゲートから直通だ」


「魔導科学じゃな」


「そう、既存の法則と、それを捻じ曲げる魔法で、よりよい未来をってね」


 楽しそうに話しているハリーを見ると、この分野が好きなんだろうなと思う。


「面白そうだ」


「興味があったら……ああいや、二人は同じギルドなんだっけ?」


「俺がマスターだよ。ジョークジョーカーっていう」


「いい名前だ。センス抜群だね」


「俺の案じゃないさ」


 学園長がつけた。気に入っているので感謝しておこう。


「さて、じゃあここで実験を始めよう」


 ここは室内だが、運動場のようでもある。

 長距離走の設備と似ているかも。

 ガラス越しに様々な道具……計器だろうか? 色々と並んでいるのが見えた。


「とりあえずあの的に向かって色々魔法を撃つ。その後で強化魔法をやる。ソードストーム!」


 風が舞い、的を切り裂いていく。


「こんな感じ」


「なるほど。サンダースマッシャー!」


 真似して雷撃を飛ばし、貫いて炭にしてみた。


「こういうことか」


「そういうこと。どんどんいくよ」


 お互いにレパートリーは多いらしく、魔法のお披露目会みたいになる。


「ライトニングフラッシュ!!」


「キラーサイクロン!」


「うむ、魔力の質がよい。集中も乱れておらぬな」


 リリアはアドバイザー役だ。ただし答えを教えてはくれない。

 あくまで俺たちでできることは俺たちでやる。


「よし、基本的な攻撃魔法はこのへんにしよう」


「参考になったよ」


「僕もさ」


 風ならではの動きや特性というものは、雷だけでは見つけられない発想だ。

 あとでちゃんと報告書を読んでおこう。


「じゃあ走ろうか」


「……走る?」


「スピリットウインド!」


 ハリーを風が包み、黄緑の風が服のようにまとわりついていく。

 同時に少しだけ、ふわりと浮いた。


「これが僕の強化魔法。君もできるんだろう?」


「リベリオントリガー!」


 ライジングギアはまだ使わない。とりあえず強化しただけ。


「おぉ! いいね! 綺麗だし、僕とは強化の純度が違う」


「どう違う?」


「僕は魔力を放出して、風の流れで体を軽く速くする。強化スーツと似ているかな。君のは体内に魔力を流している? いいね、細かくしっかり調べたいけど、今はダッシュだ」


「コースは長距離走と同じじゃ。直線からカーブして、また直線。そこからカーブしてゴール」


 運動会のリレーのあれを思い描けばいい。あれの円が小さいバージョンだ。

 それが小規模とはいえ一室でできるってことは、相当広いなこのラボ。


「走るんじゃなくて飛ぶんだろそれ?」


「長時間飛べなくてね。結局は走るんだ」


 地に足をつけ、走る体勢になった。しょうがない、運動は嫌いなんだが。


「この部屋は測定用にかなり耐久力が高い。全力で走ってくれ」


「了解。リリア、合図頼む」


「ほいほい。ではよーいスタート!!」


 同時に駆け出す。短距離ならまあなんとかなるのだが、マラソンや長距離走は向かない。並んで走るだけで厳しいものがある。っていうかハリー速いな。


「うむ、もっと加速するのじゃ。集中集中」


 そして十分後。恐れていたことが起き始める。

 強化魔法かけつつ全力疾走を続けるとは、こういう事態を招く。


「速いね。これでも運動神経には自信があったんだけど」


「強化魔法のおかげだ。だがこのテストには重大な欠点がある」


 さらに十分ちょっと走ってから、ゆっくり立ち止まる。

 俺に気づいたハリーが引き返してきた。


「どうしたの? それに欠点って?」


 近場に腰を下ろし、リリアに水をもらって休む。


「俺の体力がもたない」


 インドア派だっつってんだろ。

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