ハリーと魔法の研究

 ハリーのギルドで魔法の実験をしていたが、重大な危機に直面することになった。


「純粋にきつい」


 多少の戦い慣れはした。体力もついた方だろう。ギルメンにトレーニングもしてもらっている。だがきつい。


「体力は増しておるというのに」


 三十分以上集中して強化かけつつ全力ダッシュはしんどい。

 無呼吸運動よりしんどいのだ。体力と魔力が同時進行で減る。


「お前なんで強化魔法かけて持久走できるんだよ」


「魔法に助けられているからかな? エルフだし、体に馴染むんだよ」


「種族の違い出やがったか」


 そうきますか。厳密にどう違うのか、ちゃんと考えたことなかったな。


「こんな疲れるかね……戦っている時は感じないもんだが」


「おぬしは戦闘中でも動きっぱなしではない。リベリオントリガーを使っていても、休んだり、一歩引いた位置から小細工したり、指示を出したり、休息できておる」


「なるほどな」


「じゃあ持久走はまた今度。他の魔法も見せて欲しい。まだまだ必殺技とかあるでしょ?」


「壁壊れないか?」


「わしが結界を張ってやるのじゃ」


 壁ぶっ壊して弁償は最悪のケースだし、やはり誰か同行させるのは正解だった。

 だが別で少し心配事がある。


「とりあえずできることは全部調べておきたいんだけど」


「ううむ……どう思う?」


「どこかで研究する必要が出るじゃろ。協力者は必要じゃよ」


「何を悩んでいるんだい?」


「手札を全部切るってのがな、俺の性分的に受け付けない」


 発展はあるだろう。だが全部の魔法を見られるということは、そこから情報が漏れる可能性を秘めている。それはまだ見ぬ敵に塩を送る行為であり、めんどい。


「と、こやつは考えておる」


「なるほど、隠し玉が消えちゃうもんね」


「そういうことだ。だがこのまま独学も厳しい」


「ルーンさんは?」


「わしは最低限だけ教えるのじゃ。あとは考えるか、自力で協力者を探させる」


 俺の社交性とか外へ出る口実とか、まあそんな感じ。

 本当に無理そうなことは教えてくれる。つまり今回は可能な範囲なのだろう。


「よし、まあやっていこう。腹くくるしかあるまい」


「秘密は漏らさないよ。これでも研究者だ。ここのプロテクトも厳重だし、僕も気をつける」


 そして実験再開。今度は飛び出してくる鉄の板に攻撃をする。


「雷光一閃!!」


 長巻とカトラスで試す。威力と速度に差が出るな。


「プラズマイレイザー!!」


 こっちはもう溜めて撃つ動作も少なくなっている。

 唱えて即射撃可能なレベルまで伸びた。


「いいね。どっちも高威力だし、真逆なのに効果抜群だ」


「真逆?」


「雷光一閃は研ぎ澄まされた刃だ。一点の曇りも乱れもない斬撃。プラズマイレイザーは斬る・突く・ねじる・ぶつける、様々な現象のミックスだ。どっちも普通はできない。できてもこんな精度じゃない」


「普通に褒められるのは珍しいな」


「周囲に化け物しかおらんからのう」


 めっちゃレアケースだよ。

 どこまでができて当然かのラインが非常にわかりづらい。


「自己評価が低いタイプ?」


「実際に低いんだよ。似たようなことはみんなできる」


 できないってことはないと思う。ギルメンは全員できそう。


「じゃあ僕からも試してみたいことがあるんだけど」


「言ってくれ」


「ここに電気を遮断する板とシートがある」


「了解」


 離れた場所にある板に攻撃魔法を流してみる。

 なるほど、少し抵抗があって止まった。


「ゆっくりパワーを上げていって」


 徐々に上げていくと、耐えきれなくなったのか、やがて貫通した。

 続いてシートに放つ。広げて壁にかけられたシートは、見た目よりも頑丈らしい。


「こっちは壁というよりも、放電している物質をくるむ感じ。むしろ板より破壊が難しいんじゃない?」


「裏技がある」


「とても興味があるよ」


「こうするんだ」


 雷のビームを大きめの両手に変え、シートを腕力に任せて破る。


「電気を通さないだけで、力には弱い」


「じゃな」


「…………ちょっと待って、今のどうやったの?」


「雷を腕に変えた」


 ライジングギアを見せていく。両腕を雷に変え、五倍くらいに大きくして飛ばす。


「おおおぉぉぉ!!」


 足を電撃の鞭に変え、腹から剣を伸ばし、雷速移動しながら板を蹴り割っていく。


「これがリベリオントリガー・ライジングギア」


「信じられない…………始めて見た! 最高に想像を超えてきたね!」


 すっげえ笑顔だ。こんなテンション上げられると困惑する。


「魔力が伝達する速度が異常……いや魔力そのもの? なのに意思があるのか。内蔵まで無くなっている? じゃあどうやって……復元と再生ができるほど魔力を浸透させて……」


「ハリー?」


「ああごめん。本当に凄いよ。それ以外の言葉が出ない」


「こっちも言葉が出ない」


 ここまでストレートに褒めるかね。ほぼ初対面だぞ。

 ギルメン以外からの称賛の声は、物凄く新鮮だ。


「わしら以外に褒められる経験が少ないじゃろ。こういう機会は必要なんじゃ」


「何かでくるむってのはいいな。新しい」


 腕にシートを巻き、雷化したままで握手してみる。

 触覚を残すくらいは可能なのだ。


「うわあ凄いよ。僕雷と握手してる」


「シート越しじゃないと危険だぞ」


「ゆくゆくは無しでもできるじゃろ」


 ついでに新魔法のアドバイスでも貰っておくか。


「さらにぼんやりした魔法もある」


「聞かせて」


「多分ライトニングジェットで合っていると思う。だがぼんやりだ」


 最近試している、クナイに電撃まとわせてジェット噴射みたいに飛ばす魔法だ。

 とりあえず発想とやってみたことを説明した。


「雷光一閃の要領でいいんじゃないかな?」


「つまり?」


「雷光一閃とサンダーフロウは似ている。物質を雷で包む。研ぎ澄ませて、一瞬で爆発させる。その直前をキープだ」


「難解な注文しおって」


 言われて集中してみると、クナイ全体に綺麗に電撃を貼り付けられる。ここまではいい。前もできた。


「ライトニングジェット!」


 そして噴射するエネルギーで超高速の飛び道具になる。

 クナイが板に深々と刺さった。


「噴射を敵側に出せば強いじゃん問題」


「心が納得いくかどうかじゃな」


「何事も使いようさ。レパートリーが増えると考えればいい。君そういう小細工好きだろう? 利点は何でも飛び道具にできること。攻撃魔法よりも速度は上だ。ただ直線に攻撃するならプラズマイレイザーでいい」


「違いない」


 この短期間で俺の性格を把握しつつあるな。学園は優秀なやつが多いわ。

 そこからしばらくライジングギアで検査を続ける。


「次はインフィニティヴォイドじゃな」


「あれか……あれはトールさんに聞かないと厳しくね?」


 ザトーさんの所に行くのは、こいつを制御できるようにという目的がでかい。


「とりあえず見せて欲しいかな」


「外だな。床が溶ける」


「かなり頑丈に作ってるよ?」


「ちょっと特殊なんだ」


 そんなわけで下が地面の場所でやる。二階とかでやると、下に誰かいたら危険だ。


「インフィニティヴォイド!」


 極限まで圧縮された雷光が迸り、虚無を形成するまで放電を繰り返す。

 やがて手のひらから放たれた魔力は、少し飛んで地面へと落ちて消える。


「納得。床がダメになる。弁償は避けたい」


「理屈がわかるか?」


「機材が足りないかな。もっとあらゆる計器で測定したい。ちょっとおかしいよこれ」


「頼む」


 何度も撃ち続けては機材を替えるの繰り返し。

 俺も秘密が知りたいので、かなり積極的である。


「少し呼吸に乱れが出始めたね」


「少しでどうにかしている俺を褒めろ」


「よっタフガイ」


「雑だよ」


 ハリーが調べているのを大人しく待つ。俺に手伝えることもないし、高そうな機材を壊してはいけない。じっとしていよう。

 最後にリリアと少し話して、結論を出したようだ。


「現時点での推論は出たよ。ルーンさんのおかげって点もあるけど」


「聞かせてくれ」


「まだ秘密があるはずだけど、制御できないのは複雑で、形が決まっていないからだ。なのに破壊だけに特化している」


「物騒だなおい」


「使っとる本人じゃろ」


 だからこそ物騒だ。俺はどうしてそんなもん使えるのさ。


「電気の振動というか周波数……波動に近いかな。電撃を波動1、サカガミ君の魔力を波動2、触れる物質を3とする。1と2は複雑に混ざっていて、共存関係に近い。そこから1が3に触れて、焼き尽くされる。けれど同時に2が浸透していくんだ。そして3の内部から崩壊を始める」


「1と2はどちらでもあって、どちらにも変わるわけじゃ」


「そういうこと。ライジングギアだっけ? ああいうのも自然と混ざってるんだ」


 積み重ねとセンスということらしい。それ自体は悪くないが、これは専門知識が必要っぽいぞ。魔法のじゃない。もっと別の科学的な話がありそう。


「うまくやれば、次元をずらしている相手でも焼き殺せるだろう。凄い……今日何度目かわからないけど、凄いよ」


「次元?」


「高次元、または姿が見えているけれど触れられない。そういった伝承がある。そういう敵は次元の軸がずれていて、相手からの攻撃だけが通るっていう面倒な敵さ」


「そういやいるな」


 鎧はそういうのガン無視できるから、今まで不便はなかった。

 そのレベルと素で戦うという発想もなかったのだ。


「浸透しつつ、焼き切るものがなくなる状態、虚無まで止まらない。虚無すらも焼く。自分で言っててスケールの大きさに驚いてるよ」


「理解できておるか?」


「半分くらいはな」


「ならよい。そこからわしも混ぜて解説を……」


 なんか別の場所から爆発音がした。咄嗟に警戒態勢に入る三人。


「おいおい……ここってラボなんだよな?」


「実験失敗ってやつじゃない?」


「軽く言うことではないじゃろ」


「失敗はつきものさ」


「あれは失敗作ってことか?」


 逃げてくる学生の背後から、でっかい鉄の塊が登場した。

 どう見てもロボットだ。簡素でシンプルで単純で、鉄と鉱石と魔力が主成分だが、ゴーレムよりはロボットに近いだろう。


「ごめんハリー! 操作ミスった!」


「また?」


 日常の一コマみたいなやりとりだ。失敗がつきものってのは理解できるが、あれどうするんだよ。


「すまない。できるだけ壊さずに機能停止できないか?」


「やってみるよ」


 ハリーが無理難題を押し付けられている。

 俺は関わらなくていいよね。


「がんばれハリー」


「できれば手伝って」


 さてどうするかな。壊さずに止めるって、一番俺に向かないだろう。

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