虚無の弾丸

 ハリーと共同で魔法科のレポートを仕上げようとしていたが、変なロボゴーレムに乱入された。

 三メートルくらいある。それでもこの場所が広すぎるため、戦うのに不便はない。


「よし、情報をまとめよう」


「知らんやつが俺に迷惑をかけている」


「大正解。逃げてくれ」


「それじゃ、解決したら呼んでくれ。売店で紅茶でも……」


 出口の扉をガンガン殴って壊し始めるロボ。


「ごめん手伝って」


「壊していいのか?」


「ハリー、できるだけ壊さずに止められない?」


 白衣にメガネという、完全にわかりやすさ重視の研究者キャラが来た。

 男だが角が羊っぽい。申し訳無さそうにこちらを見ている。


「まずあれなんなの?」


「オレらの研究成果さ。ゴーレムを金属主体で作って、関節と命令回路を魔力で……」


「まずロボを止めてから話してくれ」


「もっともだ。ただオレの魔力はあれの装甲を破れない」


「僕が行くよ。ソードストーム!」


 風の刃が幾重にも重なり飛んでいく。

 だがどうにも効きが悪い。直撃していない気がするぞ。


「何あれ?」


「ちょっと上級生に借りた特殊加工のまあ、ペンキみたいな。魔法とかを弾いて滑らせてダメージを軽減する。重ね塗りすると光沢ができてかっこいい」


「漆塗りみたいなもんか?」


「じゃな」


「あとそこそこのパワーがある。適切な例えが思いつかないけど……」


 ロボが壁をフルスイングでぶん殴っているが、多少揺れても崩れない。


「この施設をギリギリ壊せないことが判明したな」


「書き足しておく。ということは衝撃にも強い」


「どうするんだ?」


「装甲を貫けるくらいのパワーでいくか、塗装を剥がす。材料無いけど」


「やってみる。スピリットウインド!!」


 ハリーが高速で駆け抜け、ロボの頭に飛び蹴りをかます。


「かった……思ってたより硬いよ」


 装甲が少しへこんだだけだ。あのスピードで突っ込んでこれかよ。


「おぬしもやるのじゃ。これも修行じゃよ」


「マジかよ……リベリオントリガー!」


 とりあえず強化魔法をかける。素で戦うのは避けたい。


「うわ、君の魔法クールだね」


「どうも。はっ!!」


 ハリーと同じようにキックを入れるが、それでも頭がもげることはなかった。


「どうしたもんかね。サンダースマッシャー!」


 攻撃魔法も効きが悪い。雷すらも弾く。


「ちょっと焦げてる?」


「属性によって相性があるのじゃな。考えて戦うのじゃ」


「了解」


「ルーンさんは手伝ってくれないの? 接近戦しろとは言わないけど」


「わしがやったら終わってしまうじゃろ」


「この場で一番強いのリリアだぞ」


「…………ほんとに?」


 間違いなく秒殺されて終わるぞ。体術だけで粉々にできる。俺の修行にならない。


「プラズマイレイザーだ。あれなら衝撃も斬撃も同時に来る。並列処理ができないはず」


「バウンドウインド!」


 ロボの下に空気の塊ができ、ゆっくりと持ち上げていく。

 落ちないバランスボールに乗っているみたいだ。


「やるな。そういう使い方か」


「風だからね。これなら……」


 不安定なロボの両手から、炎が噴射された。

 見てから避けられるレベルだったので、二人とも無事だ。


「おい」


「……ごめん、両腕に魔石ぶっこんだ。ビーム出せたらかっこいいかなって」


「できるだけ壊さないで無力化は無理だよ」


「本当にごめん。お怒りはごもっともだ。突然ゴ-レムが乱入して、それを無傷で捕らえてって後ろで見てるだけの男が言ってるんだもんな。意見は当然却下される。それはごめん。マジでごめん! 売店でロイヤルバーガーセットおごるから許して」


 食い物はどうでもいいが、解決はしよう。俺の研究が進まない。


「弱点と壊してもいい場所は?」


「頭だ。そこから全身に指令を出す。だから一番硬くした」


「人間っぽいのう」


「似せて作った。簡単な指示しか与えられないけど」


「じゃあ止まれって指示を出せ」


「…………書き換え前に暴れだした。エネルギーが半分なくなるまで動けって支持したらこうなった」


 そこをちゃんと考えて動いて欲しかった。作る側がちゃんとしてりゃいいだけじゃねえか。ええいめんどいなもう。


「頭ふっ飛ばせばいいんだな?」


 ふと思った。これ首切り落せばいいんじゃねえかな。


「ちなみに首も超頑丈みたい。僕の風魔法じゃ切断できない」


 クソが。つまり頭の素材を貫通できて、内部を破壊できないといけない。

 また上から虚無ぶっかけるかね。


「ライトニングジェット!」


 クナイを使って発動。ロボの胴体に刺さり、推進力で深く刺さるがそれだけ。


「おぉ! 刺さった!」


「刺さるだけじゃダメだ。俺の魔力で貫通は厳しいな。プラズマイレイザーでいくか」


「ねえ、今の虚無でできない?」


「どういうことだ?」


「いつもビームみたいに出そうとしてるでしょ?」


 何か案があるみたいだ。ハリーの提案は面白いので聞いてみよう。


「前に銃を調べたことがある。アレの要領だ。雷光一閃くらい研ぎ澄ませた弾丸ケースに、虚無を込める。ライトニングジェットの要領で飛ばして、着弾すると虚無が出る」


「面白い。採用」


 とはいえ相当厳しいぞ。集中して虚無を捻出する必要があるのに、それをコーティングするのか。


「ドバーっと出す必要はないのじゃ。凝縮して、一気に撃ち出す。ただそれだけじゃ」


 右手の人差指に雷光を集める。広範囲にばらまかなくていい分だけ、一点集中すれば虚無化が早いらしい。


「いいぞ! そういう感じ!」


「集中じゃ。ロボは少し止めてやるのじゃ」


 ロボの膝までが氷で埋め尽くされた。まだ両腕を振って暴れているし、ビームが飛んでくる。だが避けつつも集中が途切れることはない。


「雷光一閃の純度を表面に。ライトニングジェットを推進力に。虚無を着弾と同時に開放できるように」


 なぜだろう。戦闘中なのに、やけに思考がクリアになる瞬間がある。

 プラズマイレイザーの時も、ライジングギアの時も、妙に勘が冴えて体が軽かった。


「できた」


 完成した。俺だけの、虚無を詰め込んだ弾丸が、指先に生み出される。


「インフィニティヴォイド!!」


 超高速で雷光が飛んでいく。光がド派手に迸り、ロボの頭部に着弾。

 その硬い装甲の前後から、滝のように雷が吹き出し、嵐のように荒れ狂う。


「やったか?」


 数回痙攣するような動きを見せ、両手をだらりと下げて停止した。


「ふう…………要練習だな」


「やった!!」


「うむ、よくやったのじゃ!」


 完全に機能を停止し、魔力の流れまで消えたロボを見ながら、新魔法完成を喜ぶことにした。


「巻き込んじゃってごめんね」


「いいさ。魔法が形になった」


 収穫はあった。そうかこういう使い方か。いいぞ、この話乗ってよかったぜ。


「あとは慣れじゃ。すぐできるじゃろ」


「だといいんだがなあ……」


 そしてロボ回収班がやってきて、色々聞かれて謝罪された。

 疲れたので売店へ移動し、約束のバーガーセットをおごってもらっている。


「うめえなこれ」


「そりゃそうさ。ここのおすすめだもの。貴族でもリピーターがいるからね」


 まずパンがとても柔らかくてふんわりしている。

 肉が分厚いが火が通っていて、ソースもチーズもこの上なくマッチしていた。

 野菜がしゃきしゃきなのも地味にポイント高い。


「さっきのやつはどこ行った?」


 白衣のやつが呼び出されてどこかへ行った。

 奢って謝罪して即呼び出されていたけれど。


「あれは後片付けとお説教だねえ。君たちは被害者だから、心配しなくていいよ」


「その口ぶりじゃと、よくあることなんじゃな」


「あるよ。実験をするっていうことは、失敗をするっていうことだからね。最近はそれも認めない人が増えてるみたいだけど」


「まあラボだからな。失敗と成功はつきものか」


 ポテトを多めに食いながら、アイスティーを楽しむ。

 完全にだらけるモードだ。運動は疲れる。


「今日はもう終了ってことで、また明日来れる?」


「いいぞ。空けておく」


「二日連続でわしじゃと問題じゃな」


「ルーンさんのおかげで助かってるよ?」


「いや、他のギルメンがな……」


 リリアとばかりいると、シルフィとイロハに構ってやれなくなる。

 このへんの気配りができる俺は凄いと思うよ。もっと褒められていい。


「別に見学者はいても……何十人も来ないよね?」


「安心しろ。増えて二人だ」


 まず何十人も知り合いがいねえよ。


「なら連れてきていいよ。ラボは広いし」


「わかった。そいつらにもアドバイスもらうかな」


 これで明日の予定は決まった。そう何日もかかるものじゃないだろうし、早ければ明日で終わるだろう。

 少し惜しい気がするのは、結果として強くなっているからだな。

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