お姫様とのハッピーエンド

 すべてが終わった夜。城では盛大なパーティーが開かれていた。

 城の中は豪華に飾り付けられ、大ホールでは貴族が詰めかけ、シルフィの誕生日を祝っていく。


「では騎士団の論功行賞を始める」


 ついでにやっちまうらしい。お偉いさんの詰めかけた中で、改めてその功績を示すことで、まあなんか威厳とかをどうのこうのだよ。俺が知るか。


「第一騎士団長三日月」


「はっ」


 ジェクトさんによりそれぞれ呼び出される。

 中でも三日月団長は現れることが珍しいらしく、それだけで歓声が上がった。


「おぉ……あれが噂の剣神……」


「なんと凛々しくも雄々しい」


 正装の三日月団長は、渋みの出始めた大剣豪といった風貌で、誰も女装ぶちかました変人だとは思うまい。


「以上。次に第三騎士団長イーサン、軍師ロン」


「はっ!」


 団長は人気者だな。みんながざわめく。

 神を殺したとは言えないので、巨大な化け物や反逆者を倒したということにする。

 ちなみに俺の手柄は全部団長に行く流れだ。俺はごく普通の一般人として暮らす。


「以上! これにて論功行賞を終わる!!」


 長かった。参加した団長全員分あるからなあ。


「大変だな王族ってのは」


 綺麗に着飾ったシルフィに向けて、少し離れた位置から手を振り、肉を食いながら見守る。

 俺が堂々と出ていくわけにはいかない。パーティー用の服だが、あくまで一般人だ。


「そらそうじゃろ。今回は色々ありすぎた」


「そうね。王国始まって以来かもしれないわよ」


「ここ一年でイベント多すぎねえかこの国」


 花火の音が聞こえる。テラス方向を見れば、何発も夜空に花が咲く。

 街では今も国民がお祭りを楽しんでいるのだろう。

 裏切り者が倒され、王族が全員無事だとわかった時は、それはもう国民が湧いていた。慕われていなあフルムーン一家。


「どうやら他国でも似たようなことはあるみたい。ヤマトでも、ヴァンの復讐に付き合った帝国でも、問題は起きていたでしょう」


「タイミングが悪かったんじゃな」


「これさ、鎧無しのやつに解決できるのか?」


「上級神を複数集めるしかないじゃろ。他には達人に力を貸してもらうとかじゃな」


 難しいところだな。まずオルインの敵が強すぎる。

 下手なやつ連れてきても、神が光速を遥かに超えた領域の不老不死だし。

 宇宙そのものとかアカシックレコードとか、意味わからん敵も出る。


「無理ゲーがきつい」


「じゃから鎧があるわけじゃな」


「鎧前提の難易度はクソゲーすぎるからNGだ」


 よし、話しながら飲み物と魚をゲット。立食形式だから好きなものを取ろう。

 ここで肉を追加するのではなく、健康に気を使って魚をチョイスする俺を褒めろ。


「野菜も食べるのよ」


 なんか高級っぽい野菜の……なにこれ小さくカットされた野菜炒めか? タレかかってるけど正体がわからん。


「アジュの好みは抑えてあるわ」


「うまい」


 酸っぱいけどうまい。油っこさがないので、口をリセットしつつ次が食える。


「飯がうまいことがパーティーの利点だな」


「そればっかりじゃな」


「それ以外になんもねえだろ」


 ルルアンクさんの楽団が演奏を続けている。音楽に耳を傾け、近場のジュースを飲み干す。悪くない気分だ。たまには上流階級の雰囲気も味わってみるものだな。


「ちゃんとシルフィを褒めるんじゃよ」


「そのくらいわかる」


「今のうちにどう褒めるか決めておくのよ」


「そうだな……まずドレスだよな?」


 お姫様が着る、清楚だけど豪華な白いドレスだ。

 普段は元気で爽やかだが、意外と人見知りするタイプで、お姫様モードだと一気に変わる。露骨な変化だが嫌いじゃない。


「基本じゃな」


「あとは?」


「ティアラ的なやつが綺麗?」


「的なやつはいかんじゃろ。ふわふわしとる」


 わかりやすい服から攻める方針だったが、まず服について詳しくないという氏名的な欠陥が発覚した。


「服以外でどう違うかじゃ」


「雰囲気が違うな。清楚風?」


「清楚でおしとやかに見えるということね」


「なるほど、参考になる」


「そしてわたしを褒めるのだ」


 シルフィがこちらにやってくる。どうやら挨拶回りは終わったらしい。


「おつかれ」


「疲れたよー。お姫様は大変なのです」


 本当に少し疲れているようだ。今回は色々ありすぎた。誰でもしんどいだろう。


「綺麗よシルフィ」


「ああ、似合っているよ。清楚でおしとやか系だな」


 今日くらいはしっかり褒めてやろう。実際に似合っている。

 普段とは違う雰囲気を醸し出しやがって。こいつはやっぱりお姫様なんだなと実感した。


「おっ、今日は素直だね」


「誕生日だからな。特別に許す」


「許されたぞー」


「脳を使わない会話やめい。でも似合っておるぞ」


 俺たち四人からゆっくり離れていく人々。団長もあちこちにいるが、どうやら気を遣ってくれているようだ。


「ありがとう。こうしていられるのも、みんなのおかげだよ」


「シルフィが頑張ったからさ」


「そうじゃそうじゃ。強くなったのう」


「これで一緒に戦えるよ」


「つっても鎧前提の相手と戦わせたくないんだが」


 今回でシルフィは大幅強化された。だからこの茶番は無意味じゃなくなったわけだが、あまり命に関わるきっつい戦いはさせたくない。


「大丈夫だよ。自分から無理な勝負はしないから」


「ちゃんと見極めはできるわよ。今回のようなどうしようもないケースが珍しいの」


「ならいい。お前が無理する必要はないからな」


「心配のしかたが複雑だよ」


「俺はそういうもんだ」


 四人で飯を食いながら、なんとなくだらだら話す。

 こういうことも、しばらくできていなかった気がする。


「シルフィとして、フルムーンとして、アジュにはお世話になりました」


「急にどうした?」


「どうせみんなから言われるのめんどくさがるでしょ? わたしが代表して言っておきます」


 王族と団長以外、誰も俺の戦いを知らない。それでいい。

 団長に混ざって目立つのは、死ぬほどきついから拒否で。


「なるほど、一回で済んで効率がいい」


 自然に寄り添ってくる。それを素直に受け入れられているのは、場の雰囲気なのか、いつもと違うシルフィだからか、俺には判断つきかねるな。


「横着もここまでくるとありな気がするわね」


「甘やかすと常習化するのじゃ」


「いくら俺でもわかっとるわい」


 飯を程々に切り上げ、テラスから花火を見る。

 冬の風が少し冷たいが、心地よく流れていた。


「もう辛い時間は終わった。ここからは毎年楽しいお誕生日会が来る」


「そうだね。毎年こんな豪華じゃなくていいけど、みんなとお祝いしたいな」


「できるわ。ずっと四人でいられるに決まっているじゃない」


 不穏分子は片付けることができた。それはプラスに働いている。間違いない。

 ここからは神に調査をしてもらうが、悪のあぶり出しに成功したことは確かだ。


「俺の分までプラスに考えるんだ」


「あはは、よーしやってみる」


 明るいシルフィが一番だ。最近曇りっぱなしだからな。

 二人で並んで座り、肩に頭を乗せてきたが許す。


「ふへへー、今日のアジュは優しいね」


 優しいらしい。今回頑張っていたのは知っているので撫でてやろう。


「これから何があっても、もっともっと強くなって、なんでもできるようになって、ずっとアジュの側にいる」


「好きにしろ。横は空けておく」


「これからもよろしくね!」


 シルフィの顔が近づく。何をして欲しいかわかる。仕方ない、年に一度の誕生会だ。乗ってやるさ。


「今回だけだ」


 こうして誕生日は本当に終わりを告げる。

 またいつもの日常に戻り、俺たちは俺たちのままでいるのだろう。

 それが一番だと四人とも知っているのだから。

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