雪山にいろんな組織が居過ぎだから減ってくれ

 冬の雪山を駆け抜ける俺とイズミとフラン。敵の攻撃魔法が来る場所を特定して迎撃しなければいけない。きつい。シンプルにきつい。


「敵の姿が見えん。そんなに長距離から撃てるものじゃないよな?」


「上空からなら可能。ただし攻撃は横から直線で飛んできている」


「木々をすり抜けて飛んできてるってことね」


 案外そこが鍵なのだろうか。雪の跡を追うにも散らばりすぎてわからん。あっちも移動しているのか?


「雪の中に潜っているとか?」


「だとすると不意打ちかまされそうだな」


 言っている側から火球が飛んでくる。


「こんなふうにな」


 適当に打ち落として飛んでくる方へと向かおう。


「集中しましょう」


「アジュ、敵の大まかな位置は把握した」


「マジかよ」


 やっぱイズミいないとだめかー。急いで敵のいる場所へと走る。


「いた。雪に埋まっている」


 イズミが風魔法を発動すると、雪から飛び出して逃げていく男がいた。よく凍死しないな。特殊な防寒法でもあるのか。着ているのが動物の皮っぽいのは関係あるのだろうか。


「逃さないわ! フレイムシュート!」


 フランの攻撃魔法を避けつつ逃げていく。無駄に素早いな。


「そのまま敵の気を散らせ。右手を潜行させてある」


「どういうこと?」


「見ていればわかる。よし掴んだぞ」


 ライジングギアで地中から雷の腕を一本、ドリルにして潜行させた。敵の真下から飛び出し足首を掴む。後は電流を流すだけ。


「がばばばばばば!?」


「それほど距離が離れていなくて助かった。これ以上の距離はコントロールができないからな」


「なるべく足止めをするように攻撃した」


「偉いぞ。よくやった」


 イズミは俺が何をするか理解できていなかったはず。敵の捕獲を念頭に置いて行動したのだろうか。判断力があるな。


「まだ敵がいるはずだ慎重にいくぞ」


 男は倒れているが、死んだわけではない。奇襲の可能性は考慮すべきだろう。


「周囲にはいない。おそらく囮にして逃げた」


「どうしてわかるの?」


「この戦法は2パターンになる。囮にして、囮ごと集中砲火をかけるか、逃げる材料にするか。完全に領地を掌握していない場合は後者。援軍がどこから何人来るかの予想がつかない敵地だから」


 より安全な作戦をとったということか。味方を完全に切り捨てられる連中は殲滅が容易じゃない。はっきり言ってめんどい。


「降伏する! 攻撃をやめてくれ!」


 まだ痺れているのかぷるぷるしている男は、両膝をついて両手を上に上げている。まあ信じないけども。一応降伏ポーズだし、それっぽい対応はしよう。


「わかった。そのまま動かなければ攻撃はしない。所属と目的を言え」


「9ブロックの命令だよ。この山で8ブロックの妨害をすると金が出るんだ」


「嘘っぽい。警戒するべき」


 半分くらい本当だろう。だが何か隠している。少し負い目を作らせるか。二人よりも男に近づき準備開始。フランに防御魔法を準備するよう、ハンドサインを送る。


「よし、じゃあこいつを連れて戻ろうぜ」


 ここでわざとらしく二人に振り返って、男に背中を晒してみる。


「甘えんだよガキが!!」


 はいはい、やっぱり俺を捕まえようとするのね。知ってた。迎撃のカトラスが男の首に触れるほんの一瞬前に、男の頭が破裂した。


「狙撃!?」


 全員でその場から飛び退く。俺達じゃなく男を狙ったのは、フランの防御魔法を読んだのか? だとすれば魔法の知識があるってことだ。


「うかつだった。前者のパターンと読みきれなかった私のミス」


 成人した男の声だ。渋めで、年輪を感じさせる落ち着いた口調だった。


「我々に敵対の意志はない。ついでにその男の味方でもない」


 いつの間にか離れた位置に五人の男が立っている。全員同じ防寒着だ。組織だって動いているやつの雰囲気がする。


「こちらの声は聞こえているかね?」


 先頭の男が語りかけてくる。もみあげとあごひげの繋がった、短髪に帽子の三十代前半くらいか。深い紺色の髪と、射抜くような赤い目がこちらに向けられている。


「ああ、聞こえている」


「それはよかった。こちらは第6ブロック特別派遣部隊、ライジングサン。太陽の光であり、私は隊長のジョナサンだ」


 ライジングサンはプリズムナイトを追う学園特殊部隊の総称のはず。その隊長か。下手すりゃ超人クラスだな。どこまで話していいものかね。


「8ブロック国王、アジュ・サカガミだ」


「なんと! 国王様だったとは。いやはや彼が迷惑をかけたね」


「この男の知り合いなのか?」


「裏切り者だよ。まあ仮に違うとしても、彼は降伏してから攻撃したじゃないか」


 呆れの混ざった声だ。俺達にじゃない。死んだ男に対するものか。


「つまり安全を、生きる権利を放棄したのだ。そんなことが続くと我々の仲間も捕虜になれなくなる。処分して正解だよ」


 にやりと笑うジョナサンは、余裕と自信を携えている。完全に迷いというものを捨て去っている人間だな。

 無駄に波風立てることもないか。話し合う姿勢を見せるために武器をしまう。それに気づいたのか、あちらも銃を下げた。


「話し合う理性のある国王様ですな」


「6ブロックの人間がなぜここにいる?」


「我々は学園よりとある任務で、自由に各国を移動できます。どうして8ブロックに、という疑問でしたら、二個ほど山を超えるとちょうど5・6・8・9ブロックの境目なんですよ」


「案外近いな」


 地図をぼんやり思い出すと、確かそんな気もする。フランを見ると頷いているので、まず間違いないだろう。


「部隊のことも聞いています。調査ならお好きになさってください。ただ正体不明の敵が攻撃してきます」


「9ブロックか、野盗まがいか、我々の調査している組織かですな。組織も末端と上層部では別物でしょう。傭兵もいます。いやあ面倒ですなあ。ヌッハッハッハ!」


「多いな……そんなごちゃごちゃした場所なのかここ」


「8ブロックの兵と6ブロックの拠点部隊もいますぞ。ああこれは乱戦になりますな! どうかご自愛ください」


 雪山で乱戦になったら厳しいぞ。敵と味方をすぐに判別できない。確認の暇があればいいんだが。


「そちらが学園の調査部隊だとして、このへんには敵部隊が?」


「それを確かめに参りました。ですがお恥ずかしながら、裏切り者が居場所をリークしておりましてな。敵部隊を皆殺しにしておったところです」


 そして死んだ男のテリトリーに入ったから、俺達は攻撃されたか。他の敵はジョナサンさんの部隊が始末をつけたらしい。


「子供に追い込まれる男を使うとは、敵もそう強くはないと願いたい。いやこれは私にも跳ね返ってきますなあ。ヌッハッハッハ!」


 大げさに笑っているが、豪快さは見えない。なんというか、くせ者の匂いがする。間違いなく軍師タイプ。筋肉が防寒着で隠れているが、体格はかなりいい。そして頭の回るタイプだろう。


「ではこれからどうされますの? わたし達とともに、味方を探しますか?」


「よろしいのですかな? それはありがたい。優しいお嬢さんで良かったなあお前達!」


 兵隊さん達が敬礼をしてくる。統率が取れているな。この人のカリスマ性に惹かれたタイプの部隊だろうか。


「アジュ、命令を。私はどうすればいい?」


「ん? そうだな……このあたりに敵の本拠地でもない限り、8ブロックの兵と合流したいのですが」


「もちろんですとも。我々も同行してもよろしいですかな?」


「構いません」


「ほほう、快諾。快諾ですか。思考力、決断力、国王の適性があるやもしれませんなあ。ちなみに、私どもは独立遊撃隊のようなスタイルでして、既に他の仲間は前線基地へ帰投しております。ご心配なく」


 やたらと饒舌に褒めてくるな。テンションは高いのか? 警戒させないように動いているのかも。本質が見えない人間は面倒だな。


「んん~、国王様は思慮深いお方だ。身分を明かしたとはいえ、初対面の私相手に警戒を解いていない。狙撃を避けられるよう木に近い場所にいる。そして私の剣が届く範囲には入ってこない。素晴らしい! はいみんなで拍手」


 警戒を解いていないことを見切るか。やっぱり強いんだろうなあ。あと拍手はやめて欲しい。兵隊さん達も乗らないで。


「では護衛いたしましょう。前列に私と部隊の二人。真ん中に国王様とお連れ様。後方に残りの三人」


「お願いします」


 そして下山の準備に入る。夜になるのだけは避けよう。最悪死ぬ。かなり走ったから、どっちに何があるかよくわからん。目印のない場所だな。


「こんな地形だったか?」


「気をつけて。下は川」


 いつの間にかかなり深くまで来ていたようだ。横目で見た崖下には川が見える。それほど高いわけじゃないが、落ちたら死ぬんじゃないかなこれ。


「確か海に繋がるんだよな」


「そう、海から何か運ばれているかもしれない。けれど海への出入り口は警備が厳重だから、ほぼありえない」


 まあそんな場所は要所もいいところだ。当然だが設備も警備も充実している。強行突破も隠れて薬を運ぶこともできないだろう。


「山を全部完璧に警備なんてできないからなあ」


「時に国王様、泳げますかな?」


「一応は」


「それはよかった。ではできる限りお守りします」


 俺全員が戦闘態勢に入っている。なんとなく察して剣を取ると、敵の攻撃魔法の連打が飛んでくる。


「おいおいどこにいやがったこいつら」


 おかしい。明らかに俺達より少し手前に向けて大量に撃ち出されている。


「何か狙っているみたいです」


「追い込まれておりますな。これは崖落ちコースですなあ」


 しくじったか。背後は崖だ。反対側までかなり距離がある。いや反対側からも撃って来ているぞ。しかも俺達より下の、ちょうど崖が崩れる感じで撃って……。


「やばい! 全員退避!」


「きゃああぁぁ!!」


 足元が崩れ、俺とフランは川へと落ちていく。


「ライトニングフラッシュ!!」


 8ブロック方面の道で攻撃が薄いところへ向けて全力ぶっぱ。これで上のやつらの道はできた。


「イズミ! 兵隊と一緒に援軍呼んで来い!!」


 落ちていくフランに追いつき、抱きかかえて左腕の鉤縄をどこかへ射出しようとするが、反対側からでっかい火球の群れが見えたので中止。同時に上にいた連中まで落ちてきている。先頭はジョナサンさんだった。


「お助けしますよ国王様」


 なんと追いついてきた。がっしりと俺の腕を掴む。すんませんやめて。計画壊れる。実はエリアルキーで飛ぶしかないと思ったが、こいつら全員を長時間飛ばせない。浮上させても集中砲火くらうし、あれこれもうすぐ水面なんですけど。


「泳げるようで何よりです」


「このための質問かい! 俺はいいから兵隊とイズミをお願いします!!」


「なりませんぞ! トップに死なれると困るのです。私の責任問題というやつに……」


「手を離してくれりゃあいいんですよ! 上から魔法が!」


「なんとっ! 国王様を傷つけるわけには!」


 上から飛んでくる攻撃魔法を剣で切り払ってくれている。よし、手が空いたな。このチャンスを逃さない。


「アジュくん下! 下に川が! どうするの!? ねえどうすればいいの!?」


 フランが俺に抱きついてくる。やめろお前これ助からねえぞ。なんとか体勢を整えて、よし鍵で何とか……。


「お二人ともキャッチ! さあ着水しますぞ!」


 ジョナサンさんにキャッチされちゃいました。


「すんな!! 俺は飛べるから……」


 はいどぼーん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る