冬の雪山は寒いので嫌です

 9ブロックが攻めてきたらしいので、みんなで行ってみよう。途中でイズミを褒めてやった。こいつ意外とめんどくさいな?


「この柵から先が敵のいた場所です」


 はい冬の雪山でございます。アホか。絶対に登りたくねえ。


「これ無理だぞ」


「幸い雪も降ってきてはいませんし、装備さえちゃんとすれば、夜前には帰ってこれますよ」


「嘘つけ絶対無理だぞ」


「口調おかしくなってるわよ」


 この山は資源の豊富な場所である。山菜や動物など諸々多数。道をしっかり整備して、しっかり資材の運搬ができるようにした。道には魔物避けの工夫も凝らしてある。正直資源も自然も豊富な場所を敵に荒らされたくない。


「敵は軍なのか?」


「詳しくはまだ……部隊が複数存在することは確認済みです。どうやら手練のようで、山に踏み入るものを排除しようとするみたいです。作業が進まず、山に隠れられてしまうと、大行軍というわけにもいかず……」


 担当者が困っている。なるほど積荷とかを奪いつつ、撹乱して供給と通行を止めるのか。それと9ブロックの攻める時期が押し引きになっているらしい。


「記録から手口を確認した。これは暗殺者じゃない。山での戦闘と生活を知っているものが混ざっている」


 イズミによると、山師やマタギが軍に混ざっているのではないかとのこと。一番めんどくせえパターンじゃねえか。もう帰りたいです。


「大群で行けば逃げるだけ……だよな?」


「おそらくは」


「こっちはフラン、イズミ、リュウと警備兵に追加の軍隊だが。どう使うべきだイズミ」


「いくつかの部隊に分けて行動するか、少数編成の一部隊で決着をつけるのが合理的と判断」


 さてどうするか。敵が雪山に長けているならば、いっそ鎧で殲滅するために少数で行動するという手段もある。だがその場合の言い訳を思いつかない。逆に大人数で行けば安全かもしれないが、万が一にも強敵がいた場合に鎧が制限される。


「専門家の意見を聞きたい。山で自給自足は可能か?」


「可能でしょう。魔物にさえ気をつければ食べ物も水もあります。海につながる川もありますからね」


 このへんの警備隊長さんが言うなら間違いないだろう。小屋も設置されているらしいので、拠点もあるそうだ。


「雪山に強い人間と俺達を入れて複数の部隊で攻める。いつもの警備とは別でだ」


「詰所に兵を残すの? そもそも本隊をほぼ連れてこないのはどうして?」


「こんなちまちましたことがメインの作戦とは思えん。別の場所を大軍が攻めるための囮という可能性がある」


「なるほど。では国王様も同行なさるので?」


「行きたくないけどまあ……念の為」


 まあ難色を示されますわな。こいつなんで行くんだ的な顔している人もいる。しょうがないだろ嫌な予感がするんだから。なんかこの事件そのものが胡散臭いんだよ。


「近場から探して、何もなければそこに拠点を置く。精鋭で先に進む。安全策なら、そうやって地道にやるしかありませんな」


 兵隊長さんに作戦を提案された。山はかなり広そうだが、主要拠点と水源を狙えばいいらしい。これ長期戦になったら嫌だなあ。けど行くしかないか。全員で準備をした。


「では装備は持ちましたね。出発します」


 俺とフラン、リュウ、イズミに土地勘のある兵士が四人の八人パーティーだ。正直不安だが、雪が降るなら長引かせるのもしんどい。インドア派には山自体がしんどいけどな。


「まず道に沿って歩き、そこから二部隊でゆっくり進みましょう」


 俺達とは別の部隊が補給係と先行部隊である。国王が最前線は却下された。常識のある人々で少し安心ですよ。


「アジュくん、どうしたの? 敵?」


「いや……山がやばい……俺は体力ないんだよ」


 雪山登山しんどいよね。いつものコートプラス防寒対策で、食料とか担いだ状態だ。俺の体力では到底耐えられんぞ。ちなみに服はフード付きだから、国王が混ざっているとは思われないだろう。多分ね。


「だらしねえな……半分持ってやるよ」


「いや、リュウは戦闘要員だ。いざという時のために身軽でいろ」


「疲れてもそういう判断はできるのね」


 今だって周囲の警戒はほぼ兵士とリュウにやらせている。俺は本当に運動向かないねえ。いつになっても体力つかない。いやこの環境が厳しすぎるのだろうか。


「まあ事件解決すりゃ評価ポイントも増えるだろ。そうしたら好きな施設とか建てられるし、学園からご褒美出るんじゃねえか?」


「なるほど。そいつは少し希望が見えてきたぜ。けど私的利用のために建てるとうるさそうだな」


「アジュくんならどんな施設が欲しいの?」


 そこでふと考える。雪で足場の悪い状況で、風が容赦なく寒さをぶつけてくるため、あんまり正常な思考ができていない気がするが。


「俺の魔法研究所かな」


「好きね魔法」


「かなり本気でハマっている」


 魔法の研究マジ楽しい。試験が始まったせいでできないし、魔法科のハリーとも会えていない。またホープラボに行こうかと思ったのにさ。


「雷ってだけでも珍しいのに、あの人体改造魔法は異常よねえ」


「あれ隠し玉だからあんま喋るなよ」


「わかったわ」


「お前隠しすぎだろ。屋敷の時もなんか隠してやがったじゃねえか」


「秘密は多いと得なんだよ」


 よし、山登りとトークで多少は体温が高まった気がする。雪もそう積もっているわけではないから、これなら少し道を外れるくらいは可能だろう。


「と思っていたらこれだよ」


 結論から言えば襲撃された。疲労回復のため、焚き火をして休憩しようと思ったら火炎魔法が飛んできた。シールド張りつつ逆方向へ移動して姿勢を低くする。


「アジュはここにいろ。てめえら何が目的だ!!」


 リュウの叫びにも反応がない。交渉ができない相手というのは面倒だな。


「何とか言いやがれ!!」


 返答は風魔法が飛んできただけだった。お返しに攻撃魔法を撃ち返すが、敵の姿が見えないんだから当たらない。


「一方向に誘い込む動きじゃないな。襲撃するならトラップの中でやる方が効率的だ」


「組織的な動きじゃないってこと?」


「じゃなきゃ連携が取れていないか、俺達が予想以上に早かったか」


 開けた場所と整備された道であることが幸いした。そんなところで罠を仕掛けていれば目立つ。だから罠もなく飛び出してくることもないのだろう。退路が確保されているからな。


「なあ……あれ虎じゃねえかな?」


 リュウが意味わからんことを言い出した。おいなんか虎が複数こっちに来るぞ。あれ敵だろ。黒と紫の毛皮の虎とか敵じゃない要素どこだよ。


「おいここ虎いるのかよ」


「魔物です。音につられてきたのでしょう。騒がなければ問題ありません」


 そして響く爆発音。これが狙いかよ。


「魔物避けを壊されているようですね。それか捕獲して連れてきたのでしょう」


「クソ野郎やん」


 それはもうマジで民間人に被害出るやつだろ。俺だって無害な市民に攻撃したりしないぞ。


「来るぞ!!」


「イズミ、俺と狙撃手を探す。来い」


「了解」


「危険です!」


「このままじゃ虎ごとあんたらが狙撃されるだけだ。行けアジュ! オレらは虎だろうが問題ねえ!」


 虎は倒せない敵ではない。戦闘中に不意打ちで狙撃されるのが一番やばい。暗殺技術のあるイズミと一緒に最速で潰そう。


「急ぎましょう」


「フラン、お前もリュウ達と……ああもう離れすぎたか。俺とイズミから離れるなよ」


「わかったわ」


 フランもついてくるのは想定外だ。どこまで戦えるのかいまいちわかんないんだよなあ。守りながらじゃ厳しいが、考えるより動くべきか。


「アジュ、こっちから回り込む。そこは雪が深い」


「わかった。先導してくれ」


 敵もこちらの意図に気づいたのだろう。射撃の量が減り、正確にこちらを狙っている気がした。


「遠くから撃っているの? この木々の中で?」


 明らかに森から撃ってきている。つまり事前に狙撃場所を確保していたか、即興で見つけ出せる知識があるということだ。雪で足を取られる現状はかなり厳しい。


「おかしい。罠がない」


「誘い込んでいるわけじゃないの?」


 特定の場所へ誘導する気配がない。この程度で俺達を壊滅させるつもりか? 今回の敵は目的が見えなくて手間がかかるな。


「できる限り本隊から離れたくない」


「だが狙撃をやめさせないと終わらないぞ」


「アジュ、そこから離れて!」


 咄嗟に飛び退くと、俺のいた位置へと火の玉が飛んでくる。

 位置を特定して、射撃する方法があるらしい。


「ああもう……だから山登りなんてしたくないんだよ」


 最近面倒事ばっかりだ。この怒りは敵にぶつけよう。全部嫌になったら鎧を使おうと、改めて誓い直したのであった。

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