皇国到着と雷神トール

 皇国行き列車に乗ること数時間。俺たちは船の上にいた。


「いや遠いな」


 乗り換えがあると思っていなかった。

 フルムーンは専用特別列車だったからか、海だろうと走って最速で行けたが、こんな時間かかるのかよ。


「普通の交通機関も慣れておかんとのう」


「船旅は嫌いじゃないさ」


 甲板で穏やかな海を眺める。適度に涼しくて心地よい。

 この世界の景色は綺麗で、とても雄大だ。

 単純に観光していると思えば、これもまた楽しい。


「冬なのにそんな寒くないのはありがたい」


「気候の差じゃな」


「といっても防寒対策はしておきましょう」


「コートがあるさ」


 コートが地味に温かいし、制服も対策されている。

 学園の技術って優秀だね。


「そこは寒いからって私たちを抱き寄せるのよ」


「品のない行動は却下する」


「しょうがないね」


「こうして旅行できておる。それでよしじゃ」


 船の食事も結構うまかったことを付け加えておく。

 そして港へ到着。俺たちには案内役がいるらしいが。


「お久しぶりです」


 五人くらいの集団の先頭で、笑顔を向けてくるイケメンがいた。

 いかにも美形のお坊ちゃん貴族だが、どっかで見たな。


「カムイ様」


「フルムーン様もフウマ様も、お久しぶりです」


「ああ、ラグナロクでいた……」


 風水盤だか太極図だかと魔法陣組み合わせていた、エメラルドグリーンの髪と金色の目を持つ男だ。


「僕が城まで案内を努めます、カムイです。よろしくお願いします」


「よろしく。サカガミだ」


 軽く自己紹介を終える。どうも同学年らしい。

 魔法と格闘術に長けており、そっち関係の科に入り浸っているとか。

 勇者科じゃないから知らなかった。


「では送迎車を用意してあります。城まですぐにつきますよ」


「何から何まですまんのう」


「いえいえ」


 高級な送迎者だ。豪華というよりは頑丈な最新式。これはお国柄なのか、俺たちを安全に送るためなのか。


「フルムーンとは違うが、これはこれでいい」


「気に入ってもらえたなら嬉しいです」


 西洋風の町並みであったフルムーンとは違い、もう少し近代化と言うか、効率化されて整備がキッチリしたイメージだ。

 街灯がおしゃれなのと、三階建てから五階建てくらいの、硬そうな建物が多い気がする、という感想だな。


「うむ、よい景色じゃ」


「ダイナノイエに来るのは久しぶりね」


「わたしもイロハも数回来たくらいだからね」


 規則正しく舗装され、されど活気のある町並みだ。

 しばらくすると城が見えてくる。


「でっか……」


 アホほどでかい城に到着し、門をくぐると、これまた非常に豪華なお城だこと。

 そして玉座の間へと通される。


「歓迎するぜ。ジョークージョーカー諸君」


 紳士的かつ高貴な身分だとわかる、それでいて機能美を見せる服で、ザトーさんが迎えてくれた。


「ザトー様、ご無沙汰しております」


 全員で頭を下げる。前にあった時より皇帝の威厳がある。

 おそらくこれが本来の姿なんだろう。


「楽にしてくれ。まずはよく来てくれた。フルムーン、フウマとの国交はぜひとも良好でいたい。ジェクトの大将は元気かい?」


「はい。ずっと元気がありあまっています」


「そりゃいい。大変だったみたいだが、解決したんだろう?」


「はい。フウマも尽力しております」


「協力できることがあったら言えって、大将に言っておいてくれ」


「ありがとうございます」


 とまあ王族同士のやり取りが行われている。俺には関係ないので黙っていようね。


「んじゃカムイ、お前はサカガミくんと行動しなさい。具体的に何をするかは、まあ明日だな」


「僕がサカガミさんと一緒にですか?」


「お前さんはちょいと生真面目すぎる。いい塩梅になってきな」


「アジュじゃ危険なのでは……」


 推奨できる行為ではない。王子様に失礼ぶちかますのもなあ。


「あまりおすすめしませんのじゃ」


「問題ない。トールの旦那もいるしな」


「そういえばトールさんはどちらに?」


「特別訓練室だ。ぶっ壊れたら神界に行ってくれ。それ以上頑丈な施設で入らせていい場所がねえ」


「わかりました」


 そしてカムイの案内で城を歩く。

 警備の兵士が全員美しい敬礼をしている。騎士団より規律重視っぽい。


「当たり前だが軍隊なんだな」


「皇国軍は精鋭揃いですよ。規律を重んじる、国防の勇士です」


「恐縮です!」


 兵隊さんは本当に統率が取れている。西洋剣に、簡単な小銃が標準装備っぽい。ちょっと欲しいかも。


「さ、ここです。どうぞ」


 でっかい城の本棟から出て中庭を歩き、別棟の扉を開けると。


「待ちかねたぞ」


 広く白い壁で覆われた部屋の中央で、トールさんが仁王立ちである。

 大柄で筋肉質。方にかかるくらいの金髪と青い目。堂々とした佇まいに威厳が感じられた。


「お待たせしました」


「私の持つ知識から、雷の本質を教えよう」


「わしらは何をすればよいのじゃ?」


「諸君らは十分に強い。彼の回復役でも頼もうか」


 どうやら俺への個人授業らしい。属性によって訓練法も違うだろうし、せっかくだからきっちりやろう。


「できる魔法を全て見せて欲しい。これでも上級神だ。死にはしない」


「わかりました。サンダースマッシャー!」


 距離を取り、攻撃魔法をぶち当てるも、当然無傷である。

 このまま基礎魔法から順番にいこう。


「がんばってアジュー!」


 サンダースラッシュ、ドライブ、ネット、フロウ、スプラッシュ、あと何があったっけ。

 とりあえずサンダー系統は全部撃ってみる。


「もう負担ゼロだな」


「うむ、成長がはっきり出ておるな」


 無数に撃ち続けられるくらいには、魔法の行使に慣れている。


「ライトニングフラッシュ!」


 強めにいこう。どうせ死なないというのは、本当に相手として便利でいい。


「リベリオントリガー! からのライトニングビジョン!!」


 雷で分身を作り、俺自身を分身と同じクオリティにする。

 今なら五体、全力でやれば七体まではいける。


「分身? にしてはサカガミさんの魔力がおかしい……」


「雷光一閃!!」


 長巻のスロットを三個全部使い、トールさんの頭へと振り下ろす。


「素晴らしい。こちらから少し攻撃をしても?」


 髪の毛すら焦げちゃいない。このくらいじゃ足りないか。


「俺が死なない程度なら」


 トールさんの指先から、光速の雷光が飛ぶ。

 分身が一体貫かれると同時に散開、雷速移動はもうできる。


「死なない程度って言ったでしょうが」


 稲妻の連射を避けていく。俺が反応できるレベルを悟り、ギリギリで撃っているみたいだ。判断力も神だな。


「本体に当てるつもりはないさ」


 全方位から分身で殴りかかるが、その全てを一瞥もせずに叩き落される。

 なるほど、神にはこんな感じで見切られるんだな。参考になった。

 背後からトールさんに触れ、背中から攻撃魔法を発動。


「ライトニングコレダー改め、ライトニングバスター!!」


 コレダーを完成させた。こっちはより効率的に敵へ魔力を流して破裂させる。

 人体をどこでも掴めば流し込める。相変わらず俺本体がやらなきゃいけないけど。

 燃費は良くなったし、一度の大量に流し込める。


「魔法のセンスが極めて高いな」


 まあ効かないわな。知っている。当然だ。まだまだ好き放題に攻撃していこう。


「ライジングナックル! ダブル!」


 両手を雷化させて握り、巨大化させて飛ばす。


「人体を雷に……ラグナロクで見たが、高純度で安定させるとは見事。感心だ」


 拳で打ち壊された。


「サイズ!」


 腕を長く伸ばして鎌にするも、やはり軽く殴られて消える。雷が細ければ、耐久力も減る。当たり前なんだが、せっかく出し大きさ変えつつ叩き落としてもらおう。


「サンプルは集まりそうか?」


「おかげさまで。プラズマイレイザー!!」


 魔力消費を無視して全力攻撃だ。

 これでも全力の一撃だが、トールさんは右手を前に出し、平然と受け止めている。


「なるほど。センスが高いなどという言葉では生ぬるいか」


 ダメージが通らないのはいい。通る程度で神を名乗られても困るからだ。

 だがこれは何か……魔法を調べられている気がする。


「分解している?」


 手が触れた位置から吸収と分解を繰り返し、俺の魔法を読み解いているのだ。

 なーるほど。化け物だな。神っていうのは器用なもんだ。


「まさか無傷で魔法解剖に使われるとはねえ」


「これが神の実力……」


「出し惜しみをしているな? 私に気を遣う必要はない」


「引き出しが多いだけですよ」


 それじゃあ実験始めましょう。少しバックステップして。


「まあこのくらい離れりゃいいかな」


 トールさんに向けて分身を整列。俺を最後尾にして、全員でジャンプした。


「まだ奥の手があるか」


「小細工が好きでしてね」


「ライトニングジェット!!」


 飛んだ状態から、目の前の分身にキックを入れる。

 六体の分身を次々にくぐり、そのたびにライトニングジェットで推進力をあげる。あくまで感覚だが、その速度と威力は六倍されるはず。


「オオオラアアアァ!!」


 今日一番の威力だ。部屋を雷光で満たし、爆発が部屋を揺らす。


「見事だ。その生命の煌めき、称賛に値する。美しさすら感じるぞ」


 トールさんの胸に直撃させたが、その場からぴくりとも動かせていない。

 この必殺技の名前でも決まれば、もうちょい制度が上がりそうなんだがねえ。


「これが上級神か……きっついわマジで」


「凄い……サカガミさんはこんなに強かったのか……」


「最後の最後、奥の手いってみるか!」


 指先に集まる白い雷光は、ハリーとの研究で磨かれたものだ。あの合同研究は必要だったと実感させてくれる。


「むっ……これは」


「いくぜ」


 今の俺が、どこまでできるか試してやる。

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