雷光と観光の開始

 トールさんに魔法の訓練をしてもらっている。

 指先に雷光を集め、虚無化していく。中心に紫の核を作るイメージだ。


「質が変わったな」


「そうだと嬉しいですね」


 練習はしたが、これ本当にデリケートだな。

 連発も巨大化もできん。現状の完成品だが、神に通用はしない気もしている。


「インフィニティヴォイド!!」


 虚無の弾丸はまっすぐ雷撃を帯びて突き進む。


「むうん!!」


 トールさんの放った電撃が、弾丸を押し留めていく。

 片手で軽く撃っているように見えたが、それに押し勝てないとは厳しいねえ。


「集中せんと中身が弾けるぞ」


「おおう、もう手遅れだな」


 紫の核が弾けた。

 超大型の線香花火をぶちまけたみたいに、盛大に雷光が飛び散っていく。


「あの小さい弾丸に、どうやってこの量が入ってんだろうな」


「サカガミさんの魔法ですよね!?」


「ではレクチャーを務めよう。こうだ」


 トールさんの指先からは、白い稲妻が飛ぶ。妙な寒気を感じて、分身を置いて退避してみた。

 分身が飲み込まれ、溶かされたような跡が残っている。


「虚無!? やっぱできるもんなのか」


「虚無と呼んでいるのか」


「便宜上といいますか、他に形容できないもので」


「よい。好きに呼び、愛着を得るのも上達の道と言えよう」


 そこから連射が来る。いやだから死ぬだろ俺が。避けるだけで精一杯だという認識を持ち続けて。適度な難易度で俺を成長させて欲しい。わがままなのは自覚している。


「もう一発!!」


 さっきより純度を上げて、虚無の弾丸を撃ち込んでみよう。

 左右に移動しながら、全四方向から射出完了。さてどうなる。


「虚無の指向性が心もとない、という所か。手本を見せよう」


 トールさんは手のひらから、自由に虚無を生み出している。

 それそのものが生き物であるかのように、俺の弾丸を埋め尽くしては、衝撃と雷光を食い破っていく。


「虚無の食い合いならどうだ!!」


 上空へ飛び、弾丸ではなく制御もしない虚無を上からただ垂れ流す。


「旧型、インフィニティヴォイド!!」


 ドバーっと流してみるも、トールさんは虚無を右手へと貼り付け、吸収していく。


「吸収しつつ……さっきと同じか。無を分解している」


「そんなもんじゃな」


「どちらにしろ高等技術ね」


「まず魔法の分解ができないからねー」


 虚無のぶつけ合いでも、トールさん優勢だ。

 だがちょっとだけわかりかけてきた。あえて敵の魔力が少量こちらに来るよう、出力を調整して、指先に集中させた虚無で分解を試みる。


「おいおい、複雑すぎるだろ」


 神の力と魔力が混ざり、そこに雷属性と虚無の波動が混ざっている。

 これは神が複雑すぎるんだ。人間とは格が違う。

 流石にきつすぎるので中止。着地して指先へ虚無を集中。


「次はもうちょいパワーを上げて……おおぉ?」


 なんか体がだるい。リベリオントリガーを維持するのが少しきついぞ。


「何だこれ……?」


 妙だな。数時間は強化状態を維持できるはず。

 こんなに早く疲れるはずがない。指先への意識の集中が阻害されつつある。


「一旦そこまでじゃ」


「賛成だ。本日の教練はここまでとする」


 リリアが回復魔法をかけ、トールさんが魔力処理をしてくれる。

 理解できていないが、とりあえずリベリオントリガーは解除した。


「どうなってんだ?」


 解除したのにだるい。体全体から気力が抜ける。魔力切れに近いが……にしては早すぎる。


「単純に魔力切れじゃよ」


「虚無まではいい。だがその弾丸、本人が思っている以上に魔力を消費しているのだ」


「あんな小さなもので?」


「電化製品も小型化の流れで多機能になって高くなるじゃろ」


「その例えは違う気がするぞ」


 ずれた例えは別にいい。俺の魔力が少ないわけではないらしいが、今はこの程度ということか。


「でも成長しているわ」


「どんどん強くなってるよね」


「精進の賜物だな。ここからは座学で解説しよう」


 雷の運用法や、効率の良い出し方。質量の持たせ方や、操縦法を学ぶ。

 知りたかったことを、ちゃんと理屈でも教えてくれるのはありがたい。


「今日はこんなところだ。疲れただろうから、明日は休んでいい。適度に回復期間を作らねば、よい鍛錬はできぬ。ザトー殿の仕事に移ってもよい」


「仕事?」


「カムイ殿へ、ザトー殿から手紙を預かっている」


 俺たちも見ていいとのことなので、全員で読んでみる。


『カムイへ。お前に足りないのは実戦経験だ。皇帝として生きるには、お前は国を知らん。よって今週だけ特別捜査官とする』


「……見事に意味がわからん」


 破天荒な子育てしおって。なんか現場捜査官とか、町の治安維持とかそういうのを実施で学べってことらしい。


「なるほど。僕には経験が足りない。それは確かです」


 封筒に五人分のバッチが入っている。軍が服につけているデザインと似ていた。


「それを見せればいいらしい」


「ガキに現場引っ掻き回されるだけでは?」


「無論荒らし回ることは迷惑になる。見学くらいはできるだろう」


 そういうもんかね。プロに任せりゃいいと思うが、職場体験的なアレだろう。


「…………ん? 俺たちも行く流れ?」


「みたいじゃのう」


 他国の人間をほいほいそういう場に出すなよ。

 これも実習なのだろうか。一応は期末試験だし、でも現場操作って……無理くさくね。


「警らがてらに街へ行くといい。城のあるこの場所は、ダイナノイエ有数の大都市だ」


「いいですね。僕が案内しますよ」


「どうする?」


「観光は大事だよ。アジュはおでかけの機会が少ないんだから」


「いいと思うわ。思い出を作りましょう」


「うむ、賛成じゃ」


 ギルメンは行きたいらしい。もちろん俺が休息を取ってからだ。

 観光は目的に入っていたから、ガイドがいるならありがたいか。


「安心してください。そちらの相手に手は出しません。といいますかその……僕の婚約者も連れて行っていいですか?」


「……少しだけ興味がある。連れてこい」


 そういえばこいつ彼女持ちなんだっけ。

 ラグナロクで言っていたな。王子様のお相手も気になるし、行ってやろうじゃないか。

 そして城門前に全員集合。カムイとその相手を待つ。


「お待たせしました」


 肩よりは長い金髪で、青く澄んだ瞳だ。ふんわりとした雰囲気の、ずばり優しいお嬢様といったところか。髪飾りが似合っている。おとなしめの服装でも気品が漂っていた。


「お初にお目にかかります、ソフィーティア・オルブライトです。ソフィアとお呼びくださいまし」


「よろしく。サカガミだ」


 全員の紹介を終える。途中からソフィアがどんどん慌てだした。


「フルムーン様とフウマ様!? おおおおお目にかかれて光栄です! 改めて本日もご機嫌麗しゅうございます! 本日はどうか一日……」


「普通にしてくれていいわ。面倒だからイロハと呼んで」


「わたしもシルフィでお願いね。フルムーンの名前だと目立つから」


「失礼いたしました!」


 あわあわしている。新鮮な反応だなあ。


「なるほど。貴族が王族と接するとああなるのか」


「うむ、お約束じゃな」


「サカガミさんとルーンさんは自由すぎです」


 失礼な。俺もリリアも分別はある。ザトーさんと接する時も、ちゃんと公式の場かどうかで区別できているのだ。


「お見苦しい所をお見せいたしました」


「いや、うちにはいないタイプで新鮮だった」


「はい?」


「気にせんでよい」


 そして観光に出発。大きな通りは出店が並び、家族連れやカップル、仕事に向かう人や観光客で賑わっていた。


「活気がある街だな」


「気に入っていただけたら嬉しいです」


 街並みが綺麗だ。年季は入っているだろうが、汚れていない。悪くないぜ。


「それにしても、カムイ様もいじわるですわ。シルフィ様とイロハ様がいらっしゃるなら、事前におっしゃってくだされば……」


「ごめんよソフィア。でも慌てている君も可愛かったよ」


「もう、カムイ様ったら」


 なんですかね、あのテンプレっぽい貴族っぽいそれっぽい会話は。

 ハイソサエティな方々の日常ってああいうのなの?


「アジュ、わたしもやってみたい」


「できねえよ」


 できないから普通に歩こう。こうして奇妙な六人行動が始まった。

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