敵砦に侵入せよ
襲撃を退けフランの誤解を解いてすぐ。捕虜とイズミに会いに行く。
「準備は?」
「完了。調達しておいた」
敵軍の鎧を奪ってもらい、イズミに着せる。捕虜は普通に着ているので除外。敵陣に行くので、いつものようにミラージュヒーローだ。敵の鎧を幻影として出す。今回は容姿も変えてみた。イズミと同じ色の髪の俺である。
「んでどうすんだよ?」
「雪に紛れて敵陣に潜入する」
最初からこれが狙いだ。今の敵は完全に止まっている。上級生を迎撃され、兵士は寒さに震えている。帰還兵がまだ全員帰っていない今こそ、紛れ込むには最適なのだ。
「よし元捕虜、案内頼む」
「リューリュウ。リュウと呼べ」
「そういや名前聞いていなかったな」
他人の名前聞く習慣つけた方がいいのだろうか。あんまり深く関わる気がないし、名前なんてどうでもいいんだけどなあ。
「俺達はお前の部下だ。戦闘の隙を伺って脱出してきたということで」
「まあよくわからん傭兵やら生徒が結構いるからな。それでごまかせるだろ」
やはりな。全員把握することなんて無理だ。今回の試練、あまりにも数が多すぎる。潜入も容易だ。
「雪が止む前に帰るぜ」
素早く雪道を移動していく。イズミによると離れた所に気配があり、同じく帰還兵とその迎えだろうとのこと。
「そいつらには会わないでおこう。顔をあまり見られたくない」
「了解。ついたぜ。おーいオレだ。敵陣から逃げてきてやったぜ」
門番達に気さくに話しかけている。リュウがいるのだから、こそこそするよりもいいだろう。
「リュウ、お前生き返ったんかよ」
「まず死んでねえんだよ。入っていいか?」
「おう、配給終わっちまったけどな」
「マジか!?」
軽く談笑しながら中へ入る。リュウは人気あるのか? 謎の存在だな。
「んで潜入目的は?」
「敵の作戦や武将のデータ。あと食料の奪取」
達人や上級生の誰がどこにいるかだけでも知りたい。それだけで結構大きく変わる。あと兵糧攻めは戦の基本である。歴史書ではこれが何度も出てくるだろうし、決してチンピラが窃盗を犯しているわけではない。れっきとした戦術なのだ。毒ぶち込んで逃げないだけ褒めて欲しい。どうせ解毒手段くらいあるんだろうけど。
「資料室か作戦指示書とかまとめてある部屋は?」
「二階の会議室に全部あるぜ。ただ警備がいる」
「なるほど。食料庫は?」
「一階だ。広いけどどうやって運び出す?」
「それは秘密だ」
召喚機のアイテムスロットに入れるか、大雪に紛れて飛ばせばいいや。スロット足りなそうだな。
「騒がしいな。潜入がバレたか?」
「いや、また喧嘩だ」
喧嘩なのだろうか。気の弱そうな男に詰め寄るチンピラ二人組がいる。
「いいから食いもんよこせよ。持ってんだろうが」
「いいえ、全部食べてしまいましたし、これから買いに行くのも無理です」
「持ってねえなら取ってこい。食料の場所くらいわかんだろ?」
「でもあそこは勝手に入っちゃ……」
そこでビンタが飛ぶ。そして遠巻きに見ている連中がそーっと離れていく。
「行けよ。口答えしていいって言ったか?」
おいおいあんな目立つ行動取るかね。学生っぽくないな。というか生息できないはず。殺されるぞ。
「普通に厳罰ものだろ……あんなんいるのか9ブロック……」
「そりゃそうだろ。お嬢達のばらまいた金で寄ってきた外部のやつらだぜ。ガラ悪い連中だよ」
「俺達も戻ったら厳しく調べよう」
「了解。監視を広げる」
こういういざこざは自陣で起きて欲しくない。ちゃんと調べなければ。
「おい、何見てんだよ。おもしれえか? あぁ? 散れや!」
「そんな珍しいかよおい!!」
「オレに言ってんのか? 随分でかい態度だな」
リュウが凄むと半歩下がるチンピラ達。リュウ以下が確定した瞬間である。
「偉そうにしやがって。てめえ負けて捕虜になったやつじゃねえのか? 本当は弱いんだろ? 調子のんなや!」
ううーん、チンピラだなあ。底辺層の中でも低俗なやつ。こんなん戦闘に出しても使えないだろ。アホかな。
「あのさあ、マジでおれら怒らせないほうがいいよ?」
「そうそう、優しくしてるうちに従いなよ。切れちゃうと残酷よ。残虐な本能っていうの? そういうの目覚めちゃうからさ、ガキでも平気でやっちゃうぜ?」
「やってみるかい? オレが三下に負けると思ったら大間違いだぜ」
リュウの実力はさっき見た。驚くことに強いんだよなあ。楽勝だろ。
「あ、君達はこっちね」
「俺達は関係ないので」
俺とイズミに絡むんじゃないよ。わざわざ少し離れた位置から見守っていたというのに。
「それ決める権利あるのこっちだからさ」
「そいつらを巻き込むな。やるならオレだろうが!」
「はーいリュウくんはこっちだぜ」
別の集団につれられていくリュウ。ここで暴れて騒ぎになるのも面倒だな。
「行っていいぞリュウ。後で会いに行く」
「おっ、こっちのやつは素直だねえ」
このままだと目立つし、少し別行動しよう。そして食料庫に連れて行かれる。門番みたいなやつがにやにやしていた。またかい? とか好きだねえとか話しているし、次はおれらの番な、とか言っているので完全に仲間だな。
「で、俺達に食料をとってこいと言っておいて、一緒に入っていいんですか?」
「わかってねえなあ。お前らは今日の食料泥棒なんだよ」
あらやだ、なぜばれたのかしら。不思議ですわ。多分そういうことじゃないんだろうけど。
「食料が減ったら怪しまれるだろ。だから泥棒が食ったことにして、おれらがボコるのよ」
絶対ばれるだろそれ。それが通るほど腐っているかアホなのか。全員粛清でいいんじゃないかなこれ。
「あれあれ~、そっちのちっちぇえの女の子か」
クズBがイズミに触ろうとするも、するりと避けられる。まあ暗殺教育受けているからね。クズじゃ触れないだろ。
「なに避けちゃってんの? マジムカつくわ~」
「触らないで」
二度目の接触も認められず、足を引っ掛けられて転んでやがる。
「ぶげえ!?」
「うーわだっせえ! おれに変われよ。げひゃひゃひゃ!!」
「は? なあ、なに避けてんだよ! なああああぁぁ! ああああムカつくわこいつ!!」
イズミに殴りかかろうとしていたので、その腕を掴んで止める。
「こいつは関係ないだろ。無関係の女殴ってどうするんだよ」
「逆らっちゃってんじゃねえてめえもよおおおぉぉ!!」
会話できんバカっているよね。呆れ果てるわ。クズABを投げて部屋の中央へ送る。
「はあ……もういいや」
無駄な時間取らされたし、最近ストレスばっかりだ。あいつらには会えないし、知らない女と生活するのストレス貯まるし、経営とか難しいし、力は隠して行動しないといけないし、かつてないほど発散の場所がない。
「イズミ、はじっこで目を閉じて、耳をふさいでいてくれ」
「私も戦える」
「いいから」
部屋の隅に座らせ、両手を耳に当てる。あとは優しく撫でて、目を閉じさせればオーケイ。
「俺の楽しみを奪わないでくれ」
『ガード』
イズミの周囲に結界を張り、外の景色と音が聞こえないようにしてやった。これくらいは配慮しようぜ。
「随分かっこつけてくれんじゃん。そういうのマジムカつくんだよね。騎士気取りですかー?」
「はいはい」
「ざけんじゃねえぞコラ! エグいことさせたら世界一なんだよおれらはなああぁぁ!!」
とりあえずクズを殴り飛ばし、耳を切り、鼻を削り、足の腱を切ってやった。
「福笑いって知っているか?」
クズAの鼻があった場所にクズBの右目をくっつけ、魔力の熱で溶接してやる。
「あぎゃああぁぁぁ!!」
熱さと痛みで転がりまわるクズ。その姿は少しだけ気が晴れた。
「よしよしくっついたな。次は両目いこうか」
クズの両目があった位置に両耳をくっつけ更に溶接開始。
「ひい!? ああああぁぁ!! 熱い! やめ! やめあああぁぁぁ!!」
「きっしょ」
グロいものが出来上がってしまった。首から上を消し飛ばして蘇生させよう。クズのせいで気分が悪くなった。そこからは少し趣向を変えましたさ。
「三回目はい、よーいすたーと」
今やっているのは、片方の腹を裂き、内臓を露出させる。そしてもう片方がそれを死ぬ前に腹の中に押し戻してあげるゲーム。
「うがあぁぁ!! やめっ……いだいいい!!」
「やめ、動くな……おええぇ……」
死んだら俺が蘇生させ、今度はもう片方の腹を裂いて、死んだ側に押し込ませる。交互にやって三回クリアしないとエンドレスで死亡と蘇生を繰り返す。ちなみに二回連続で失敗中だ。
「ほらほらお友達の内臓だぞ。もっと優しく、大切に扱ってやれって」
「あああぁぁ!! やめ! やめで……やめろおおおぉぉ!!」
「馬鹿! 暴れんな! 暴れると腹から出て……うああぁ!!」
痛みで暴れれば暴れるほど、血も内蔵も飛び出るのだ。そして拷問は長引き、最後には死ぬ。死んだら蘇生だ。
「あーあ、また死んだよ。じゃあ次はお前だな」
蘇生させ、逆の男の腹を切る。潔く切腹じゃ。腹を切れい。切っているのは俺だけど。
「ぎゃあああぁぁぁ!!」
「がんばれ、がんばれ、ちょっと飽きてきたぞ」
はいまた失敗。そしてリュウが来ねえ。暇潰しも兼ねているのだが、マンネリしてきた。とりあえず空気変えるために傷口を回復させよう。
「えっ、あれ? おれの傷が……」
「おやおや、傷口がふさがっちゃったねえ」
内臓は飛び出しているが、傷口が塞がりはじめ、そのせいで押し込めない。
「じゃあ……クリア……なのか?」
「そんなわけないだろ」
「うあぁ……痛い……痛いのに治って……助け……」
「両手で傷口を広げれば入るだろ」
クズどもの動きが止まる。ここまできて躊躇するのか。粋がっていた割には根性がないな。
「いいのか? 次はお前の番だぞ。ここで終わらせないと、お前の傷が開かれるんだぜ」
「やめっ、頼む、頼むからやめ……ぶげえ!?」
「うるせえ……うるせえ! やらなきゃおれまで殺されるんだよ!!」
仲間割れである。醜いねえ。そして無事な方が殴り、傷口を開こうとしているうちに、もう片方が死んだ。叫び声がワンパターンで飽きる。
「はあ……つまらん。もういいや」
蘇生させ、内臓も戻るようにしてやった。テンプレすぎてつまんない。
『バースト』
バーストキーで敵の耳を爆弾にしておく。そろそろ目的を果たそう。決して楽しくなっちゃって忘れていたわけじゃない。なんか普段より長く遊んでしまっただけだ。さじ加減がよくわからん。いつもどうしていたっけ。
「よく聞け。お前らの右耳を爆弾にした。脳が吹っ飛ぶ」
静まり返るクズども。聞き逃すと死ぬと理解できたのかな。
「解除方法は一つだ。会議室の前にいる連中十人に、優しく耳を撫ででもらえ。一時間以内だ。できなきゃ頭が吹っ飛んで死ぬ……行け」
「うわあああぁぁぁ!!」
「いやだ! もう死にたくない!!」
死にものぐるいで走っていくアホども。さて目を閉じているイズミの肩に触れ、軽くゆする。
「終わった?」
「おう、ついてこい」
そして食料庫から出て、にやついていた門番とすれ違いざま、気付かれないように光速真空波で顔にびっしり切り傷をつけてやりながら歩く。会議室方面へと二人で歩いていくと。
「頼む! 耳を! 耳を撫でてくれるだけでいいんだ!!」
「お願いだ! 謝るから!! 誰かあああぁぁぁ!!」
チンピラが必死に耳を撫でてくれと言いながら泣いている。結構面白い。関わりたくないのか人望がないのか、声をかけては逃げられ大騒ぎだ。この隙に会議室に入りまして、扉を締めたら光速移動でぱぱっと資料を読み終える。
「このへん持ってきゃいいな」
「はじめからこれが狙い?」
「まあな。うん、そうだよ。そういう作戦なんだよ」
資料はゲットした。あとはリュウだな。魔力を探ると、どうやらこちらへ向かっている。部屋の外でばったり出くわした。
「リュウ、終わったのか?」
「楽勝だよ。会議室にいるってことは……」
「こっちも終わり。食料庫に行くぞ」
「あいつらなんで倒れてんだ?」
クズABが倒れて静かになっていた。あら不思議ですわ。いったいどうされたのかしら。
「さあ? 興奮しすぎて脳みそ吹っ飛んだんじゃね?」
そして無事に食料庫に到着した。どうしてか門番が不在だった。不思議だね。
「で、どうやって運ぶんだ?」
「飛ぶ」
『エリアル』
全食料の下に飛行魔法陣を展開。反対側の壁をぶっ壊したら、適当な樽に乗って夜空へと飛び去るのだ。
「それじゃ帰るぞ」
「うおおぉぉ!? 飛ぶなら飛ぶって言えや!?」
結界を張り、食料とイズミ達が傷つかないように気配りまでした。イズミは俺と同じ樽に乗せ、落ちないように俺が背もたれとなり、肩あたりを抱く形で保護している。気分がいいと人に優しくできるんだなあ。
「やっぱストレスは溜め込むもんじゃないな」
「アジュ、助けてくれてありがとう」
「別にお前でも勝てただろ。活躍の場を奪って悪かった」
「問題ない。やっぱりアジュは強い。大モグラを倒したのもあなた?」
どうやらほぼ確信しているらしい。気づかれるとは予想外だ。
「どうしてそう思う?」
「攻撃が当たった瞬間、モグラの首がずれた。刃物のような鮮やかな切り口で両断されていた。一瞬だから私しか気づいていないはず。あの大きさの敵を完全に切断できる技は、あの中には含まれていなかった」
その一瞬を見切れるのか。観察眼を褒めるべきかな。
「暗殺技術も役に立つもんだな。けど俺がやったのは秘密な。あれはみんなの団結力で倒したのだ」
「わかった。今日のことも誰にも言わない」
「いい子だ」
秘密を喋るタイプじゃなくてよかった。まあモグラくらいなら、俺が神より強いとは思うまい。セーフだセーフ。食料も資料も手に入ったし、久しぶりに気分よく眠れそうだ。
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