久々のやた子と新たな依頼
今日は召喚科に行ってきた。召喚機の使い方、質の良い悪いといった初歩的なものから、召喚獣の健康チェックや、機嫌の良い悪いを調べるグッズとかの話になる。
値が張るカスタム機は、色々とオプションをつけることができるのだ。
「質の悪いものを買わない。無理に変なものを食わせない。基本だな」
「相棒についての知識はつけておくのじゃ」
授業終わりにリリアと合流し、昼と夕方の中間の時間を過ごす。
適当にふらふらしているだけだが、別に嫌じゃない。
「キアスは意思疎通が楽だからなあ」
喋ってくれる。そして穏やかな性格というのは非常に助かるのよ。
また今度メロンとか食わせてあげよう。
「できないものは難しいじゃろ」
「うむ、キアスで満足だ。アスモさんは……なるべく出さないでおこう」
あの人はまだ魔王兼召喚獣だ。俺の召喚獣なんかやって、何が面白いか知らんが、好きなタイプじゃないので呼ぶ機会はほぼない。
「この召喚機めっちゃレアだろ?」
「うむ、世界に四個しかないのじゃ。それでいて個人でカスタムできる余地がかなりあるのじゃよ」
「まあ便利だこと」
製作者の皆様に感謝だね。
さて小腹がすいたし、しばらく行っていなかった屋台にでも。
「おや、アジュさんにリリアさんじゃないっすか」
「やた子か」
青トカゲの炭火焼きを三本持ったやた子と遭遇。
こいつの行動は読めんな。
「なんか久しぶりだな」
「じゃな。相変わらず元気じゃのう」
「いえいえ、お二人こそ仲のよろしいことで。ちょっとそのへんでお話しないっすか。これあげるっすよ」
どうやら俺達にくれるつもりで買っていたようだな。
手ぶらだと、厄介事の匂いを嗅ぎつけた俺が逃げると学習したのだろう。
「まあ時間もあるし、いいか」
「じゃな」
「やったっす! それではくれこの話をするっすよ」
適当なテーブルを見つけ、椅子に座ってトカゲ食っていると、やた子が本題に入る。
「知っていたのか」
「アカシックレコードという存在は、上級神か、一部の魔王とか、歴代勇者で数人だけ知っている存在っすね」
激レアじゃないか。よくそんなもんとエンカウントしたな。
「もともとこの世界は達人揃い。そして達人育成過程を記録するものが必要。だから神族に協力しているアカシックレコードがいたんっすよ」
「くれことは別にいたってことか?」
「相変わらず変なところで勘がいいっすね。まあその子が別世界の記録をとっている隙に、次元干渉できないよう壁を作り、オルインの記録と、急速な進化を狙ったらしいっす」
「ほう、さっぱりだな」
こんなん俺にどうしろというのだ。こちとら一般人だぞ。
「くれこを完全に抹殺したと聞いたっす」
「おう、そこに残っていたデータも、くれこの世界も全部消した」
「いやあアジュさんは別次元の強さっすね。本来勝った負けたの話ができる存在じゃないっすよ、あの子」
「意外となんとかなったよ。鎧のおかげでな。世界ごと消したけどよかったのか?」
「もともと別世界の記録しかない場所っすからね。別に問題ないっすよ」
くれこは問題児だったっぽい。まるごと消されても俺にお咎め無しだからな。
「この世界担当のアカシックレコードってのはまともなやつなのか?」
「少なくとも反逆を企てたり、自分から首を突っ込むタイプじゃないっすね」
「ならいい」
俺の邪魔をしないならそれでいい。
普段はちゃんと仕事しているってことだろそいつ。
なら殺すつもりはない。
「会ってみたくないっすか?」
「興味ない。それに女だろ?」
「そうっすね」
「ならパス」
知らない女と会ってどうするのさ。まず会話とかしたくない。
女の知り合いが増えるの正直好ましくないのですよ。
「アジュじゃからのう」
「アジュさんっすからね」
「そういうこと。女っていうか他人がいると邪魔だろ。自由にできない」
「リリアさんは?」
「別に嫌いじゃない」
いくら仲が良くても、ある程度の距離と線引きはある。
その中で付き合っていけるかが重要だ。
リリアはそれが完璧。パーフェクトだからいいのさ。
「うーむ、反応が薄いっすね。これはあれじゃないっすか。ありがたみを思い出させるというか」
「何をする気じゃ?」
「アジュさんのもとを離れて、一人ぼっちの寂しさと、リリアさんたちの大切さを知らしめるっすよ」
「悪手じゃな」
でしょうな。そこを理解できているのが、やはりリリアなんだろう。
再確認できたことだけ感謝してやる。
「ありゃりゃ、だめっすか?」
「アジュは本当は寂しいのにかっこつけたり、意地を張ったりして一人でいるわけではないのじゃ。よって、出ていってしばらくはショックでも、時が経てば孤独をエンジョイしながら生きていけるのじゃよ」
「なんて攻略の難しい人っすか……」
がっくりうなだれているやた子さん。
単独行動大好きっ子だからね俺。
むしろ攻略が進んでいる三人がおかしいのさ。
「アカシックレコードは問題なしってことでいいんだな?」
「問題なしっす。本来の担当者は、あれこちゃんっていういい子っすよ」
「そいつが暴走しても手伝わんぞ」
「ちゃんと見張りを付けるのじゃな」
「抜かりはない、はずっすけどね。くれこと管理機関との関係もがっつり洗い出しているはずっす……真面目な神々の皆様が」
上級神の皆様頑張ってください。俺はスローライフを満喫しとうございます。
「難しい話は専門家が解決してくれ。俺達はEランクだ」
「ランク上げてみたらどうっすか?」
「確実に面倒事が増えるぞ。確実にな」
「あまり上げると勧誘が面倒じゃ」
こいつら以外と行動するの嫌い。
今は誘われることも極稀にしかないから助かっている。。
ランクが違えば同行できるクエも減るから、言い訳もきくのだ。
「しばらくクエ受けていないな」
かといってあまりにも期間が空くと実戦の勘も鈍るだろう。
クエストクリアを続けていけば、ランク昇格試験もある。
通知が来ないのだから、まだまだ先ってことだろうし。
「そう簡単にランクは上がらんのじゃ。体がなまる前に受けるのじゃな」
「そうだな。んじゃ調べに行くか」
適当にリハビリになる依頼でも受けよう。
次の目的も決まった。トカゲも食い終わったし、ちょっと運動するか。
「うちも行くっす」
「騒ぐなよ?」
「任せるっす!!」
不安だ。猛烈に不安だ。
不安材料を連れて、クエストカウンターのある棟へやってきた。
「じゃあ軽くドラゴンでもいくっす」
「軽くない軽くない。めっちゃ重いから。色んな意味でヘビイだからね」
やはり変な依頼見つけやがる。恐れていた事態だぞ。
「ならこっちのスライムドラゴンっすね」
「なんだよスライムドラゴンって!?」
「液状になってて、物理攻撃とかが効きにくいスライムっぽいドラゴンっすね」
「死ぬわ! 普通のより難易度高いだろうが!」
ドラゴンはファンタジーのお約束。
だが実際に見るとでかいし怖いのだ。
試験で大量に出たのは、怖いを通り越して引いた。
「ドラゴンなんてEランクのリストにあるわけないだろ」
「Eランクがいくと死ぬリストっすね」
「怖いわ! それ紹介してどうしたいんだよ!」
「お気に召さないっすか」
「めすわけねえだろ」
さては遊んでいるな。アホくさいので自分でも調べていこう。
「死なないドラゴンじゃな」
「まずドラゴンをやめろ」
「ハイパーシャークを」
「もうハイパーの時点でおかしいよね」
サメは試験で堪能しました。しばらく見たくないです。
「なんか雑用系が少ない?」
「Eはちょっと実戦系が混ざるのじゃ。試験も本来は遠いから、採集への護衛も少ないのじゃよ」
「初日に中間試験とか意味わかんないっすからねえ」
改めてフリーダムだな学園。おかげで期末試験まで結構な日にちが空く。
ありがたく利用させてもらうさ。
「うーむ、アジュさんがぎりぎり死なないクラスの危機って難しいっすね」
「お前なにさせようとしてんだこの野郎」
「いや秘めたパワーとか、火事場のスーパーな覚醒をお手伝いしようかと」
「それはもう試験でやったのじゃ」
「じゃあ単純に死にかけるだけでいいんじゃないっすか?」
「急に投げやりになるんじゃねえよ!」
こいつ暇潰しに同行しやがったな。無駄に楽しそうなのが若干腹立つ。
「なんか俺に恨みでもあんのか?」
「別に嫌いじゃないっすよ。友人ポジションとしてはいい感じっす」
「ならそのままでいてくれ。お前まで加入すると本当に対処できん」
「善処するっす」
「そろそろ真面目に選ぶかのう。これとかどうじゃ」
リリアが見つけたのは、ざっくり言えば新型魔導器の共同テスト。
魔法に詳しくて、護衛のできる人募集。E・Dランク対象。
簡単な戦闘あり。定員は最低四名から六名まで。
必ず魔法に詳しい人を入れてくれ。ミリー・アルラフト。
「ミリーって……」
「うむ、試験のあの子じゃ」
「しかも魔導器か。面白そうだな。でかした」
「じゃろ? もっと褒めるがよい」
完全に俺の好みを熟知しつつ、全くの他人ではない依頼主。
こっちにはリリアがいるから魔法の知識もある。
「偉い偉い。よくやった」
素直に褒めて撫でてやる。にへーっと笑うとかわいいよなこいつ。
無邪気さというか、子供っぽい表情は最近あまり見せない。
俺を案内しようとしているからか、アドバイス担当っぽくなるし。
「でもあと一人見つけないと駄目っすね」
「そうだな。そこで知らない人いるときついし」
そこでこちらに歩いてくる、広つば帽の女子が一人。
「あれ? お館様じゃないですか」
「ヨツバ?」
四人目が決定した瞬間である。
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