乗馬やって鍋食ってるだけ

 よく寝てお昼前。シルフィに起こされて、二人で学園探索に行く。


「まだちょっと眠いぞ」


「お散歩していると目が覚めるよ」


「たまにはメンバーと絆を深めるのだ、同志よ」


 召喚獣呼び出し可の公園を、キアスに乗って散歩中。

 シルフィを前に乗せての二人乗りだが、それでも余裕はある。


「ちょっと涼しくて目が覚めるな」


 近くに川でもあるのか、水が流れる場所や噴水なんかが存在している。

 お互い長袖の制服着ていてよかった。


「これを気に乗馬技術も習得するのだ。損はないぞ」


 なんとキアスに鐙をつけてある。

 ユニコーンの相棒が乗馬もできなきゃ面倒だと思ってのことらしい。

 そういうところ親切だよな。召喚主が気づくべきかもしれん。善処しよう。


「馬って気をつけること多いよな」


「後ろに立つと蹴られるとかね」


「こっちでもそうなのか?」


「克服した馬もいる。人間でも癖の矯正ができる個体はいるだろう?」


「なーるほど」


 個体差はあって当然だな。キアスは会話もできて同志で穏やかだ。

 いい相棒だよ本当に。たまにブラシとかかけてやる日は感謝を込めている。


「普通の馬ってもっと揺れるか?」


「だと思うよ。乗馬習っていた時にそうだったし」


 やっぱりお姫様だな。乗馬とかできるらしいですわよ。


「お姫様は凄いですわね、同志よ」


「ええ、尊敬ですわね」


「なんでお嬢様言葉なのさ……」


 俺とキアスにしちゃ珍しい悪乗りである。

 気が緩んでいるのだろうか。緩めちゃいけない理由もないけれど。


「無駄に会話しようとした結果がこれだよ」


「別に無理せず楽しめばいいんだよ。アジュが静かな場所が好きなのは知ってるし」


「わかった。そして乗馬とかそういう技術を高めるという方向もあるな」


「特訓ならば付き合おう。そのうち騎馬戦もあるはずだ」


 キアスは飛べるので、乗ったまま空中戦もできる。

 乗り心地と簡単な作法くらい覚えておくべきか。


「よーし、じゃあわたしとキアスで教えていこう!」


「承知」


 しばらくキアスに二人乗りして、練習なんぞしてみることに。


「手綱はちゃんと握る。姿勢は正す。まずはそのままでいてみよう」


 背筋を正すという、俺にとっちゃ難しいことをしていると、シルフィが背中を預けてくる。

 身長があまり変わらないので、リリアを乗せているときより視界が狭い。


「ん、狭いかな。こうすればどう?」


 首と肩の中間あたりに頭を乗せてくる。

 どうやってじゃまにならない位置を見つけているのだろう。


「ふへへ~。恋人っぽい。今凄く仲良しな感じ!」


 すこぶる機嫌がいいな。このまま好きにさせておこう。

 指示は的確だし、俺がいらつかない距離感を理解して動いているのも気づいた。


「スピードを上げるぞ」


 そこからちょっと走ってもらった。ゆっくり歩く馬とはかなり違うな。

 途中で気性の荒い馬っぽい行動をとってもらったりして慣れていく。


「想像より遥かにきついぞ。乗馬ってもっとセレブリティで優雅なもんじゃないのか」


「娯楽と戦闘は別だ。手段と目的によって変わる。それは他のものとて同じこと」


 なんとか頑張って一時間乗っていたらもうしんどい。使わない筋肉使うぞこれ。


「よし、今日の訓練終わり」


「アジュはもうちょっと体力つけよう!」


「かなりついた方だっての。試験でもなんとかなっていただろうが」


 基礎体力は確実に上がっているはずなんだよ。

 周囲の人間が神様の血族で戦闘訓練を受けているというサラブレッドだからね。

 俺に追いつけるもんじゃないのよ。


「うーん……じゃあ練習あるのみだね」


「俺だけでも乗れるようにならないとな」


「それはちょっと待った!」


「後半完全に密着狙いだったのわかってるぞ」


「くうぅ、露骨だったかー!」


 指導の名目で、座る位置を俺の前から後ろに移動して抱きついたりする。

 で、俺が乗馬に集中すると前に来るのだ。

 背中を預けるか、胸を押し付ける目的なのが丸わかり。


「わたしが落ちないように支えてあげるよ! とか言い出せば狙いは読める」


「アジュは自然と抱きしめるということを学習するべきです!」


「できないっての。抱きしめたまま乗馬は無理。技量的に」


 二人乗りっていうのは、どちらかの技術が優れているから成立するものだろう。

 キアスだからできているのであって、間違いなく普通の馬なら振り落とされる。


「素人には難しいものだ。急ぐことではない」


「そうかな?」


「同志が乗馬に慣れてしまえば、共に練習する機会はなくなるだろうな」


「うわわ、それはだめだね」


 本当に気遣いのできるユニコーンだな。

 なんだかんだ世話になっている。なんかお礼でも考えておこう。


「あとなシルフィ、そういう行為は控えるんだ」


「一応人目についても大丈夫な範囲で我慢しているんだけど……」


 お姫様なので慎みを持ちましょう。甘えてくるのは控えめに。

 いまだに対応に困るのだ。女の相手をするという行為に慣れる日は来ないっぽい。


「ちょっと密着しすぎ。そういうことをしていると、心の処女性が薄れていくぞ」


「またよくわかんないこと言い出したね」


「我も同意しよう。少々控えめでよいはずだ」


「わたしが悪い感じ!?」


 そんな雰囲気で訓練終了。次どうするかはもう決めた。


「飯だな」


「異論はない」


「だね」


 動くと腹が減るよね。召喚獣可の飯屋を目指す。


「好きなもんとかあるか?」


「メロン……いや、食事ということなら鍋だな」


「お鍋……熱くないの?」


「問題ない。熱すぎれば冷ませばいいだけだ」


「んじゃそれでいこう。ちょっと高いやつ頼んでいいぞ。世話になっているからな」


 召喚獣入店できる鍋屋ってあるのだろうか。

 そんな思いをあざ笑うかのように存在した。


「学園め、普通にメニューに鍋とかありやがって」


 テーブルを挟むように、壁にくっついているソファーみたいなイスがある。

 奥に召喚獣が入るスペースもあって、なかなかに広い個室だ。


「需要が細分化してそうだけど……こういう店ってやっていけるもんか?」


「ここは普通のお店としても味がいいんだよ。お高めで、もっと広い個室は貴族の召喚獣見せびらかし大会になっちゃうのさ」


「それこそ貴族の家でパーティーにでもなりそうなもんだが」


「そこは料理人の腕だろう」


 そして外からノックと共に声がかかり、明らかに美味いことが明白かつ、確定しているお鍋様がご降臨なされた。

 フタを開けると湯気が昇る。出汁のいい匂い。スープは鳥と塩かな。


「ごゆっくりどうぞ」


 手早く火をつけ、食材を載せた皿を並べて去っていった。

 既に鍋の中では野菜が少々煮えている。


「煮えるまで待つのだるいもんな」


「ちょっと食べながら煮込むのいいよね」


 注文の時に、あらかじめいくつかコースが選べた。

 全部最高のタイミングで食えるように入れて持ってくるコース。

 ちょっとだけ入っていて、お好みで足してくださいコースとか。


「鍋奉行でもなきゃ、さっさと食いたいだろうし、俺はこういうのがいい」


「うむ、いただこう。何から入れる?」


「とりあえず味が染みるように野菜を入れてから肉食うか」


 今回は野菜とキノコと肉の鍋。肉は鳥とイノシシ。

 鶏肉は俺のリクエストで、イノシシはキアスの。

 季節の野菜がシルフィの要望で、全部入っている鍋を選んだ。

 メニュー豊富だなここ。


「食ったことないキノコだなこれ」


「お店でよく売ってると思うけど」


「こっちじゃ普通ってことか」


 しいたけっぽい大きさと形で、緑色だ。

 食べてみると、野菜と出汁の味を吸収して補助している感じ。


「いいね。これ好きだわ」


 独自の旨味っていうよりは、何かと組み合わせるものかな。

 白米とかパンやお麩の位置だろう。


「肉や野菜と一緒に食べるのだ。胃にも良い」


「ほほう。煮えている野菜使うか」


 おたまで掬って自分の容器に確保。

 フォークぶっ刺して食ってみる。

 箸はない。だって異世界さんだし。そこは文化の違いですよ。

 不便とは思わないので問題なし。


「ん……おぉ、香りが引き立つな」


 ほどよくじゅわっと汁が溢れてくる。これが旨味を凝縮していて気に入った。


「美味しいね。お肉もっと入れる?」


「そうだな。本格的に肉入れるか」


「アクは取ってやろう」


 キアスは普通に念動力かなんかで食器や具材を浮かせて食っている。

 机に汁が垂れないよう、具の下に皿を浮かせているお上品っぷり。


「はい肉が美味い。わかっちゃいたが肉が美味い」


「絶品だな」


「いいお肉だねー」


 口数が少なくなり、肉を食うことに集中していく。

 鶏肉のぷりぷり感が最高である。白米が欲しくなるのを野菜とキノコが補う。

 イノシシは食ってみると悪くないね。癖があっても鍋に入れたら大抵は食える。


「はいあーん」


 まあ来るだろうと思っていたよ。

 渋々肉を食う。乗馬で世話になったしな。


「やった! お肉ばっかりじゃダメだよー。次はお野菜ね」


 俺の栄養バランスを考え抜いてあーんかましてくる。

 ちゃんと食べやすい温度のやつを出してくるあたりに気遣いと執念を感じますね。


「こっから全部やる気か?」


「まさか。アジュも嫌でしょ?」


「まあな。ほどほどでいいよ。しっかり鍋食おう」


「よーし、お肉三連続だ!」


 適度に食わせてもらいながら。好きなもん取って食う。

 三人分としちゃ多いかもと思ったが、全員で完食。


「はー美味しかった」


「ちょいと高いがいい店だな」


「そこまで値段を気にするほど、生活が苦しいとは思えんが?」


「うーむ……確かに貯金はあるんだけどさ。永遠にこのランクを食い続けるほど金はない。これを基準にすると舌が肥えるし、節約はできるところでしないとダメだ」


「無駄遣いはお下品だからね」


 そのとおり。欲しくもないものや、アホみたいに高いブランド品とか無駄遣いの極み。贅沢を覚えすぎるのではなく、ほどほどにやっていく方が賢いと思うよ。


「なるほど。もしもの時のために蓄えは必要か」


「俺は一生働かずに生きていきたい。そのためには、ここで無駄遣いはできんのさ」


 クエストで結構な金が入るが、必要なものを買ったら貯金である。

 下品な金の使い方はしたくない。


「というかシルフィはフルムーンの王女だろ。よく庶民の生活と食事ができるな」


「学園じゃ普通に生活していたからね。お城でのお勉強にはお料理とかもあったよ。ミナがやっておくと役に立つからって、色々教えてもらいました!」


 ジェクトさんも学園の卒業生だったはず。

 メイドと豪華な生活をしていては不都合が生じると思い、庶民の暮らしをシルフィに教えておいたのだとか。


「フルムーンではそういうの珍しくないよ?」


「学園は実力無しでは渡っていくのは難しい。これも親心なのだろう」


「おかげで助かっているよ」


 ナイス判断だ。まあ何代も卒業生を出していれば、教訓の一つや二つはあるだろう。

 ちなみにイロハはフウマ一族だが忍者なので、サバイバル技術込みで習得している。


「お城で豪華な食事をするより、アジュと一緒にお鍋する方が美味しいし、嬉しいな」


「それはありがたいことで」


 不覚にもかなり嬉しかったが、あまり顔に出さないよう心がける。

 要するに照れくさいのだ。


「ふっふっふー。照れていますね」


「うむ、照れているな。同志は幸せものだ」


「自覚しているよ。これでもかってほどにな」


 当然ばれています。まあそれも含めて幸せなんだろう。

 飯食って上機嫌だからか、そんな発想を素直に受け入れるのだった。

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