2学期編

そしてラブコメに戻るわけだよ

 くれこを倒した翌日。

 昼まで惰眠をむさぼるという幸せを満喫していると、横になにかいる気配。


「またか……」


 まだ眠い。疲れているんだよ俺は。

 あのあと闘技場の外に出て、鎧解除してから召喚機の通信機能で連絡した。

 あとは先生と学園長とリリアがなんやかんやしたんだよ。

 手続きとかに時間かかりそうだったので、後日改めて話し合うことになったとさ。


「ふあぁ……」


 そらあくびも出ますわ。まだ十時じゃないか。寝かせろや。


「まだ寝るつもりね」


 寝返りうつとイロハがいた。勝手に布団に入るなと言ってあるのに。

 悪いけど今日は構ってやれんぞ。


「悪い無理」


 そのまま目を閉じる。これで理解してくれるはず。


「しょうがないわね。私も試験で疲れているから、このまま寝ましょう」


「ん……まあいい」


 追い出す過程がめんどい。すり寄ってくるけれど、眠気を消すほどじゃないな。

 このへん絶妙な間合い取りをしてきますね。


「ふふっ……優しくなったわね」


 胸のあたりに軽く顔を押し付けてくる。これは親愛の証か何かだったはず。

 狼の習性だとか聞いたな。


「ほどほどにな」


 頭を軽く寄せて来て、しっぽが足を撫でる。

 これは頭を撫でろと言っているわけか。


「眠いっつってんだろ……」


 空いている手で軽くわしゃわしゃする。

 ここで強くやると、お互いの眠気が消えるという最悪の結果になるから注意だ。


「むう……」


 ちょっと避けられる。撫で方が気に入らなかったらしい。

 しっぽで足をぺしっとされた。

 そしてさっきよりも距離を詰めてくる。

 これはリトライを要求されているのだ。


「めんどい……」


 髪は一方向に撫でる。手が疲れるのと比例して目が覚めてしまうのでほどほどに。

 布団が暖かくてもう寝そう。

 最後は仰向けになって、もう眠いから終わりということを態度で示す。

 

「おやすみ」


「おやすみなさい」


 胸のあたりに頭を寄せて、じっとしているようなら終了。このまま寝てよし。

 そして再び惰眠をむさぼるのだ。




 そして昼過ぎにようやく起きる。

 今日は晴れていて、それほど暑くもないお天気です。


「リベリオントリガー!」


 遅めの昼飯食って食休みを終えて我が家。

 広い庭で、闘技場でやった勇者システムとの融合を試す。

 保険でリリア同伴である。


「やっぱ無理か」


 何度か試してみるも、勇者システムは発動しない。

 リベリオントリガーを使っても無理。

 鎧を使えばいけるが、そもそもあれは別次元だから除外。


「感覚が戻っておらんのう」


「あの時はどうでもいいやーって感じで無茶したからな」


 あの状況だからこそ、たった一度だけできた荒業という感じだ。

 世界に干渉して都合よく再構成という、感覚と勢い100%でしか説明できん真似をしたからなあ。


「おぬし意外と冷静というか、常に保険をかけながら、一歩引いた立ち回りじゃからの」


「インドア派の極みだからな。熱血や努力、根性とは無縁なんだよ」


 吹っ切れるということがあまり無い。

 直情型のアホになるのはきついんだ。育ちが悪い感じがして嫌悪感がある。


「うーむ……二発目も成功率が低いからなあ……」


 二発目の引き金も同じく微妙。

 全身を魔力変換という荒業に、心がストップをかけてしまう。


「そもそもちゃんとした手順がわからん」


「一発目は安定してきておるようじゃな」


「そこは慣れた」


「つまり修練あるのみじゃ」


「そらきっついな」


 一発目の負担がほとんど消えたのはでかい。

 何度もやっていれば、自然と耐性ってのはできるもんなんだな。


「特殊な魔法じゃ。ゆっくり慣らすがよい」


「そういやこれ、難しい魔法なんだろ?」


「本人のセンスと発想力によるものじゃ。間違いなくおぬしの才能と実力じゃな」


「それが一番信用ならんな」


 状態解除。縁側に座って休憩しながら回復してもらう。


「攻撃魔法の名前ってさ、自然に浮かぶだろ? 俺の魔法はどういう基準なのかなーとか考えるわけだよ」


「よいよい、理解を深めようとするのはよい傾向じゃ」


「リベリオンはまあ、強化して一発逆転だろ。ヒーリングは回復のイメージだ。癒しという感覚が強いんだと思う」


 ここまではわかる。自分の心に素直になった結果だ。

 浮かんだ魔法名はしっくり来るもので、気に入っている。


「サンダースマッシャーが最初だったか? そこからライトニングになって、最後プラズマだろ。どういうことだと」


「それはおぬしの心がより強い魔法を求めたからじゃ」


「詳しく聞かせてくれ」


「よかろう。最近ちゃんと解説もしとらんかったからのう。よいしょっと」


 俺の膝に座ってきた。説明してもらうんだし、今回は許可しよう。


「んじゃ頼むよ」


「サンダースマッシャーより強力に、おぬしの場合は魔法というより必殺技のイメージなんじゃろ。そして強化するのじゃから、サンダーの部分をより強くてかっちょいい言い方にすることが強化だと考えておる」


 なるほど。こいつは納得の理由だ。少年漫画というか、ゲームとかの影響かね。


「実際の強弱や現象は関係ないのじゃ。おぬしの中でサンダーよりライトニングの方が強くてかっこいいと判断したんじゃろ。心がそう決めたのじゃ」


「そしてそれが魔法に勢いをつけた結果があれか」


「うむ、ノリと勢いじゃな」


「俺に欠けているものだな」


「漫画とか好きじゃろ。ファンタジーなものならいけるはずじゃ」


 そういう世界があって、魔法もある。そこまでわかればやれるってことか。

 我ながら面倒な性格してやがる。


「強くなってんなら文句はない。魔法は使えると楽しくてな。魔法科楽しいぜ」


「うむうむ。楽しむがよい。わしが教えるという手段もあるが、この世界に慣れるためにも、単位的にも行っておいて損はないのじゃよ」


 どうしてもわからない箇所だけを、リリアにわかりやすく教えてもらう。

 俺が世界に溶け込むのを早くしたいのだろうか。

 学園を満喫しろと言っている気がする。


「笑顔あふれるいい環境じゃろ。わしもシルフィもイロハもかわゆいのじゃ」


「そういう時の笑い方がようわからん。一人で漫画とか動画見てりゃ笑えるんだけどな」


 愛想笑いならまあできる。

 他人と過ごしてちゃんと笑うってのは、案外難易度が高い。

 下品過ぎないようにしているし。っていうか会話がしんどいし。


「気づいておらんのか。おぬし、結構笑うようになっとるのじゃ」


「そうか?」


「うむ。楽しそうじゃよ。これもわしのおかげじゃな」


「はいはい感謝しとりますよー」


 髪の毛をわしゃわしゃしてやる。ちょっと雑に。

 仕方ないだろなんか恥ずかしいんだから。


「照れ方が雑なんじゃよもう」


「うっさい。俺にそんな期待はするな」


 髪は整えてやる。くっついていても暑苦しくない程度にはいい気候だ。

 このままのんびりしようかな。


「はー……久しぶりに休んでいる気がする」


「連日試験じゃったからのう」


「期末にもあるだろうし……しんどいな」


「その頃にはもっと強くなっておればよい」


「できるのか?」


「できるのじゃ」


 リリアが言うことはなんとなく信じている。

 俺を知っていて、そのうえで計算しての結論だろう。

 ならやれそうな気もしてくるというものさ。


「そろそろ他の魔法も覚えたい。あとできること増やそう。アイテム作れたりとか」


「剣も勉強するのじゃ」


「うーむ厳しいな……疲れるのが嫌っていうより、なんかこう……違うんだよなあ」


 どうも近接戦闘というものが自分と噛み合っていない。

 最低限なんとかできるようにはなりたいさ。


「クナイ投げるのは面白い」


「遠距離じゃな。弓矢とかどうじゃ?」


「実は力いるよなあれ。難しい武器だから、今は除外。魔法もショットキーもある。槍とかちょっとやってみたい」


 ハンマーとかじゃない限り、武器にも興味が出始める。


「じゃあわたしの使ってみる?」


 いつの間にかシルフィがいた。武器戦闘ならシルフィとミナさんだろう。


「では休憩終わりじゃ。やってみるがよい」


「しゃあないな。じゃあちょっと借りて…………重いぞ」


 シルフィのそこそこお高めの槍を借りたが、剣より重い。

 先端に刃が一本だけ伸びているタイプのシンプルな槍。

 白基調で滑り止めグリップあり。結構持ちやすいけれど。


「よく振り回せるな」


「そこは鍛えているからね」


「魔法流してみるのじゃ」


「サンダーフロウ!」


 リクエストにお答えして、電撃流してみた。

 確かに伝わるが、カトラスほどじゃない。


「あれはおぬし専用に近い武器じゃろ。無理じゃ」


 心を読まれました。ホノリ製のオーダーメイドに近いからな。

 100%俺の力に応える優れものだ。


「壊れるのは気にしなくていいから、好きに振ってみなよ」


「こうか?」


 突いたり振ったりするも、どうにも扱いが難しい。

 槍ってシンプルで使いやすいもんだと思ったが違うのか。


「雷光一閃やってみるのじゃ」


 リリアが土ゴーレム出してくれる。

 集中して槍に電撃を流し、すれ違いざまに解き放つ。


「雷光一閃!」


 一応ゴーレムは吹っ飛ばせた。技も出た。けれど違う。


「無理だな。泣き言とかじゃなくて、剣じゃないと本領発揮はできないっぽい」


 これは努力不足とかそういう問題じゃない。

 単純にしっくりこないし、魔力が分散する。決定的に違う。


「あーあるある。わたしもそういうのあるよー」


「完全に剣技として身に沁みておるのじゃろう。名前は貰い物とはいえ、魔法であることに変わりもないのじゃ」


「そういうもんか?」


「安心せい。大抵の人間がそうなるものじゃよ」


 剣と槍の刺突・斬撃は違うもので、身のこなしから別物になる。

 よって完全に同じ要領で技は出せないんだとさ。納得。


「その技は小さな動きまでセットで雷光一閃なんじゃないかな?」


「アキレウスの印象も強いんじゃろ。無理に捻じ曲げれば、剣ですらクオリティが落ちるかもしれんのじゃ」


「んじゃ新技作った方がいいな」


 研究開始。だが簡単に思いついたら苦労はしない。

 槍も鎌もいまいち。どれもしっくりこないし、新技も思いつかないのだ。

 というより現状ベストが雷光一閃とプラズマイレイザーだろう。


「疲れた。今日もう終わりにしようか」


「なら気晴らしに遊びに行くよ!」


「えー……」


 家にいる最大の利点は、疲れたら眠れること。

 なので訓練とかしたら家でだらだらしたい。


「もう夕方じゃな」


「アジュがお昼まで寝ているからです!」


「それはもう仕方がないな」


「明日でよいじゃろ」


「明日はおでかけです!」


 まあいいか。明日は魔法科もやっていない。

 久しぶりに学園探索でもして過ごそう。

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