魔導器テストと恋占い
ミリーの依頼を受け、指定された場所へとやってきた。
以前リリアと行った、初心者向けの水ダンジョンだ。
よく晴れているとはいえ、流石に九月は少し寒い。
それを見越して長袖にしてよかった。
「サカガミさんとルーンさん! 試験以来ですね!」
ミリーは今日も栗色の髪と眼鏡だ。
メガネが小さめの丸いやつに変わっていることくらいしか変化はない。
「ああ、久しぶり。こっちはヨツバとやた子だ」
「ヨツバ・フウマです。よろしくお願いします」
「やた子ちゃんっす! よろしくお願いするっす!」
普段静かで常識人なヨツバと、やたらうるさいやた子というよくわからんコンビだが、なんか成立しているっぽいので流す。
さらっと自己紹介を終えて、本題に入った。
「魔法に詳しいルーンさんがいるなら安心です!」
「任せるがよい」
なんでも新型の杖やリング、オーブのテストをしたいらしい。
初心者にも扱いやすく、状況に左右されないようなものが作りたいんだと。
「ってことは上級者向きの装備を作っていたわけか」
「はい、大手の宿命といいますか、多機能で繊細なものに行きがちで」
「わからんでもないのう」
「実は丈夫で使いやすい方がいいんですよね」
「俺もそっちの方が助かるよ」
初心者なもんでね。簡単に壊れるものは使えない。
慣れるまではシンプルで頑丈。これにつきる。
「ではさっそくテストしていきます。まずこの杖です」
アルラフトが持っているのは、先端に緑色の丸い石がついた杖だ。
指輪に使われる、宝石を固定する爪のようなものと、杖そのものが金属なのが特徴かな。
「スイッチを押して放射。押し続けてチャージ。離すと強化ショットが撃てます。たぶん」
多分なのは開発中だから。そこは実験あるのみ。
「自分の魔力を流すタイプです。杖が自動で最小限の魔力を吸って強化もします」
「んじゃやってみるか」
一本借りて起動スイッチを押す。
軽く魔力を流すと、杖がそれを吸う感覚がする。
「ちょうど敵も出たのじゃ」
出たな浮くタツノオトシゴみたいなやつ。
水面からちょっとだけ浮いて、突進してくるうざい敵だ。
敵としては小さい方なので、さくっと倒そう。
「タツモドキですね」
名前そのまんまかい。まあいいスイッチオン。
石に溜め込まれた雷が、敵に向かって一直線。
丸焼きにして撃破完了。
「楽勝だな」
「石に入れた魔力が切れるまでは撃ち放題っすね」
面白いので連打してみる。どんどん試していこう。
次はチャージショット。溜め込んだ魔力を杖が増幅している。
こちらの魔力を追加消費しなくていいのは助かるな。
「こういうのって今までなかったのか?」
「あるにはありますが、高いんすよ。魔力に個人差がありすぎて、属性も違うっすからね」
「魔力増幅のためにデリケートな操作が必要な装備ですね」
一点ものとして職人が作るなら可能で、工場で量産ができないのか。
材質の問題もあるらしい。俺のカトラスを量産できないのと一緒なんだと。
「発射!」
雷球が敵の群れをぶっ飛ばして弾けていく。
水面に当たると水しぶきが凄いので、軽く魔法障壁を貼った。
「やってみると楽しいっすね」
「壊れることも想定していますので、どんどん使ってみてください。ではルーンさん」
「ほいほい」
なにやらもっと装飾の入った杖が出てきた。
完全に高級品だ。石も綺麗。俺達が遊んでいるやつより小さめ。
「私が攻撃魔法を使う時、精霊魔法みたいに詠唱があったのを覚えていますか?」
「…………そういやサメの時にあったな」
「覚えておったか」
ぎりぎりの瀬戸際、土俵際いっぱいで思い出せた。そんな俺を褒めろ。
「サメの時?」
「サメが空飛んで線路を走って来た時だよ」
「ええ……なんすかそれ……」
「なんで引いてんの!? いやマジだからな!?」
やた子に引かれるとショックが大きいということに気づきました。
相手が常識外れのやかましいやつだからかな。
「と、とにかくそれはこの魔導器の力を引き出すためなんです。詠唱とスイッチの組み合わせで、魔力の増幅も調整も、精霊との交渉も円滑に行うのです」
「精霊魔法を擬似的に再現して、自分の攻撃魔法に乗せる補助器の役割もあるようじゃな」
「わかるんですか?」
アルラフトがめっちゃ驚いている。
魔法分野でリリアに勝てるやつは、おそらく卑弥呼さんくらいだろう。
あの人も人類最強格だし。魔法の基礎とか構築していった一族だし。
「混ぜるのって高等テクっすよ?」
「だろうな。難易度高いことくらいわかる」
「これはまだ開発初期段階で、本当に詳しい人に使ってもらいたいのですが」
「なのにE・Dランクの依頼にしたのか?」
「あまりお金がなくて。家ができるだけ自活して欲しいという方針なんです。初心者でも扱える武器を作ろうとしている、ということもあります」
テストモニターやると報酬出るらしく、実家からの依頼は払いがいいらしいよ。
その後も詳しく杖やらマジックアイテムの解説が入るが、難しくてわからん。
「解説聞いてもわからん」
「私も忍術以外は専門外ですね」
「うちも難しいっす」
「そっちは耐久テストしておればよい。こっちはこっちで終わらせるのじゃ」
しばらくやた子とヨツバと魔導器で遊ぶ。
杖の欠点が魔力をあまり溜め込めないことと、長時間チャージしっぱなしだと回路がいかれて壊れることにあると発覚。
「すまん壊れた」
「いいですよ。まだまだストックはあります。どんなことをして壊れました?」
「スイッチ押すと魔力が吸われるだろ。あれやってすぐにチャージやると杖がちょっと熱くなる。吸引と貯蔵とチャージが早すぎると収拾つかないんじゃないか?」
「なるほど……素晴らしいです。あと持った時の感触とか、滑りやすさとか……」
テストモニターってこういうものなのかな。結構楽しくていいぞ。
「水晶玉みたいなやつは戦闘厳しいな。確実に滑って落とす」
「そこは考えものですよね」
そしてかなり奥へ行って、強い敵で試すことに。
苔の生え倒した小さめのマンモスがいる。
いや小さめっていっても普通の象とほぼ変わらないけれど。
「あれは無理だな」
「あれでいきましょうか」
「無理って言ったよな!?」
この子こんなにアグレッシブだったかな。
「またまたー、試験会場で凄かったじゃないですか」
「見てたのか」
「途中までですが、光になって移動したりとか!」
「あれ偶然できた博打技でな。もう一回やれと言われてできるもんじゃないんだわ」
なるほど。二発目の引き金を常時できると思ってんのか。
残念だが買いかぶりすぎ。
「そうなんですか……あれやってみて欲しかったんですけど」
「諦めろ」
「やた子ちゃんビイイィィィム!!」
やた子がマンモスさんにビームぶっこんでおられる。
「なにやってんだやた子おおぉぉ!!」
苔が焦げて煙が出ている。所々岩石のような肌も見えるし、生物なのかあれ。
「ありゃ……思っていたより効かないっす」
「杖に蓄えられた魔力以上の威力は出ません。初心者用なので、暴走しないように設計されています」
「そして貯めておける魔力も少なめ、と。こりゃ参ったっすね」
「言ってる場合か。完全にこっち見てるぞ」
がっつり猛ダッシュで地面を揺らして接近してくるマンモスさん。
「止めるぞ!」
「はい!!」
杖で応戦するも、やはり決定打にはならない。安全重視のためか。
なら別の武器だ。さっきのオーブをぶん投げて、マンモスの顔手前で撃ち抜く。
「いよしっ」
「おお、やるのう」
無事狙い通りに爆裂。怯んだ隙に一斉攻撃。
杖がどんどん焼き切れてダメになるので持ち変える。
「もうストックがありません!」
「ま、こんなもんだろ。ヨツバ頼む」
「水遁、氷河縫い!」
幸い水が多い。ヨツバに足場を凍らせてもらい、俺とリリアで集中攻撃。
「ついでに新型のテストも終わらせてやるのじゃ」
恐ろしく複雑で難解な魔力の練り方をし、全属性弾による波状攻撃が始まる。
「おぉー……やっぱあの人の子孫っすね」
「一周回って綺麗だな魔法」
「いいから決めんか」
「はいよ。プラズマイレイザー!!」
一発撃つならもう安定している必殺魔法。
しっかりマンモス巻き込んで、綺麗さっぱり消し飛ばす。
「よし、終わり」
「お疲れ様でした。良いデータが取れましたよ! ここで依頼は達成とします」
歩いたし戦闘したしで疲れた。敵に合わないようにそーっと帰る。
「あ、そういえば。その杖まだ機能があるんですよ」
帰り道でそんな事を言いだした。
多機能で繊細な杖らしいからな。興味がある。
「どんな機能っす?」
「恋の相性診断です!!」
…………ええぇ……完全に魔法の流れだったろ。
「どう思います? 素敵でしょう?」
「くそどうでもいいな」
いかん本音が出た。
「恋人同士の相性診断とかもできちゃいます!」
なぜテンションが今日一番高いのですか。
年頃の女の子ってそういうものなのかな。
「どうです? 気になるあの娘と相性診断ですよ!」
「どうでもいい」
色恋に興味がございません。
「じゃあやってみるっす!」
無駄にやた子が乗り気でうざい。
「じゃ、俺ほら……なんかする予定とかできちゃう気がするんで」
「完全にヒマじゃないですか!?」
「いやほら、真面目な話と戦闘終わったよな? ここで一応は依頼完了だろ?」
こんなものが存在していると面倒事を呼び込む。
依頼はこなしたのだ。ここからはアルラフトが勝手にやれ。
「機能点検はしてみるべきじゃな。ささ、やってみるのじゃ」
リリアがにやにやしています。首突っ込むなって。
「お互いのことを考えながら、この杖に二人で魔力を流してください!」
繊細な方の杖を渡されました。
気が重い。マジでやるんかい。
「ちゃっちゃと終わらせたらよいじゃろ」
「…………はあぁ……依頼の一環だ……ああもう……」
一緒に魔力を流す。なにやら石が輝き、ピンク色になって数字が出る。
「本気で嫌そうな顔しますね」
「アジュさんっすからねえ」
「120とか出たぞ」
「おおおお! 相性120%!! 凄いです! 運命ですよ運命! 奇跡です!」
だからどうした。こんなもんでどんな結果が出ようが関係ない。
こいつら以外を側に置いておく気はないからな。無駄だ。
「うむ、当然じゃな」
「次はヨツバさんでやってみましょう」
「私もですか?」
お互いに渋々やる。いつも苦労してんなヨツバ。
「ヨツバさん……お互いに気に入っていると出ました」
「数字じゃないのか」
「もう少し歩み寄ってみては? きっと二人の仲は進展するはずと書かれています」
「お館様」
「わかっている。別に入らなくていいから」
もちろんハーレムのことだ。ハーレムも認めないけれど。
ヨツバは性格的に好感度が高い。不快感がなく、気がきいて邪魔にならない。
しかもフウマの血筋。完璧だな。
「ラッキーアイテムは未定」
「未定!? ちゃんと決めろや!」
「次はやた子ちゃんっす!」
こいつ愛だの恋だのに興味あったのか。
「やた子さんは……気の合う友人。お互いにおもしろい変な人だと思っている。ですって」
「お、正解っすね」
「的中率高くないかこれ?」
気の合う友人ってのがピンとこない。まあぼっちだったし。
適当に会ってだらだらして解散できるいいやつだとは思う。
テンション高いが、そこまで破天荒な馬鹿じゃないし。
「恋愛度8%で、今友情度51%まで上がりました。さっきまで50だったのに」
「ほほう、うちに友情を感じちゃってるわけっすね」
「隕石にぶつかって欲しい度も501%まで上がったぞ」
「なんで500あるっす!?」
なんでだろうね。少しだけ楽しくなってきたよ。
「ラッキースポットは神のおわす地。ですって」
「ほいほい行けるもんじゃねえだろ!」
「商品としては、こっち方面を売りにすべきじゃな」
「じゃあ次はミリーさんっす」
「全員やらないと不公平ですよ?」
もういい全員やって終わろう。さくさく魔力を流す。
「13%……私なにか悪いことでもしました?」
「むしろめっちゃ高いのじゃ。こやつは本来他人を好きにはならぬ」
「そういうことだ。何も悪いことなんてないさ」
「お館様はそういう方ですよ」
なんとも言えない渋い表情だな。
俺に好かれる気はないのだろうが、それでも低けりゃ複雑らしい。
「もういいだろ。愛だの恋だの……そんなことどうでもいいんだよ」
「何やら愛と聞こえた気がする。この愛の伝道師ゲンジ・ヒカルの助言が必要かな?」
「大至急帰ってくれるか?」
なにゆえここで登場しますかヒカルさんや。
頼むからさっさと帰らせてくれ。
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