ラブとかうっせえ

 帰り道に相性診断をしていたら、愛の伝道師に出会いました。

 濃い紫の髪が、風もないのに靡いて美形度を上げている。

 もう面倒ごとのスメルが半端ないので、早く帰りたいです。


「久しいな。我が友アジュよ」


「本当にな。俺達は今から帰るところでさ」


「ほう、我もだ。水上をほふく前進しながら愛について考えていたら、いつの間にか深いエリアまで来ていたよ。はっはっはっは!!」


 こういう不審者には近づかないようにしようね。


「水上をって……飛行魔法ですか?」


「正確には浮力の付与だ。ふよふよしているのさ」


「ふよふよですか」


「ああ、とてつもなくふわふわしていたよ」


「お前の発言がな」


「ふっ、愛の一本取られ劇場だな」


 やばい九割増しでうざい。戦闘後のヒカルはもう精神的に厳しいもんがある。


「気をつけて帰れよ、じゃ」


 早々に立ち去ろう。やってられるか。

 

「む、そうか。もっと愛談義でもしたかったのだが」


「戦闘で疲れていてな。敵が出る場所で長話できないんだ」


 これで引いてくれるタイプだと思う。

 言動はアホ極まりないが、常識と良心がある。逆に質悪くないかな。


「おっと、それは失礼した。では護衛しよう。報酬などいらぬぞ」


「そうきたか」


「よいではないか。別に邪魔はしてこんじゃろ」


「その通りだルーンよ。アジュとの愛の語らい、全力で護衛しよう!」


 どんどん面倒な方向へと話が流れていますね。

 こいつ愛の伝道師を名乗っているが、別にナンパ野郎ではないのだ。

 他人の愛を見守り、育む存在らしく、女を口説いているところを見たことがない。


「愉快な人っすね」


「ん? 面識なかったか?」


「ヒカル家のご子息ですよね?」


「いかにも、ゲンジ・ヒカルその人だ。フウマの血筋とお見受けするが」


 ここで簡単に自己紹介開始。アルラフト家とは面識があったようだ。

 ヒカルの国に魔導器を売り込みに来た際に、ミリーも一緒にいたとか。


「やはりか。立派な毛並みの耳と尾だ。頭領であるフウマ殿もそうであった」


 イロハもコジロウさんもそうだが、フウマの血筋はふさふさの耳と尻尾である。

 ヨツバもその血が入っているのだ。


「ありがとうございます」


「アジュさんのお友達は幅広いっすね」


 むしろ神族と大貴族とかに限定されている気がします。


「こうして豊かな学園生活は育まれるのだ。ときに激しく、ときに優しく!」


「そう……それはまるで愛のようにっす!」


「その通り! これぞ愛の奇跡!」


「ラブに向かって一直線っす!」


 やた子とヒカルが同時に出現すると、うざさがぐっと上がるよ。新発見だね。


「それではルーンとの進展でも聞こうではないか我が友よ!」


「じっくりたっぷり語るがいいっす!!」


 悪夢が始まろうとしていた。


「では馴れ初めを聞こうか!」


「すまんマジで話せないやつだ」


 リリア関連はなにかと秘密が多い。恋バナに向いていない。

 そしてなにより、この俺が恋バナに向いていないのである。


「あっちゃー……ミスターラブ、ちょっとわけありっす」


「ラブすまん! ならばクエスチョン変更だ!」


 ミスターラブってなにさ。

 フォローはありがたいが、そっちのノリに染まるのはやめてくれ。


「そういやベルさん見ないな。一緒じゃないのか?」


 こうなりゃ無理やり話題を変えてやる。

 話しながら移動もしているから、なんとか凌いでやるぜ。


「ベルには休暇をやった。夏休み中世話をしてくれていたのでな、その労に報いて代休を出したのだ。今頃魔界に里帰りしているだろう」


「あの人魔族なのか?」


 普通じゃないと思っていたが、そうか魔族か。強者のオーラあるしな。


「名門だ。本人のいないところで詳しくは話さんが」


「ほー、やはり色々あるんだな」


「そして愛の話だが」


 はい無理でした。俺にコミュ力とかないからね。


「実際なんで手を出さないっすかね」


「出すかアホ」


「ではそれが何故なのか聞いてみましょう」


「イロハが悩んでましたよ。お館様は愛が伝わりにくいって」


 ヨツバはイロハの味方。というかフウマの味方なわけで。

 ううむ、なんかアウェイが多くないかな。


「俺に愛などわからん」


「大切には思ってるんですよね?」


「それは間違いないのじゃ」


 勝手に答えられましても。いや間違っちゃいないけれどさ。


「大切と手を出すが繋がらん。大切にしていないだろそれ」


「あぁ、そこからっすか」


「これが難しいのじゃよ」


「そもそもそういう欲求が薄くてな」


 これはリリア達が嫌いなんじゃない。行為そのものが違和感の塊である。


「否定はしない。それもまた愛だ。愛するがゆえの決断である」


「俺は満足だよ。これ以上なんて想像もつかん」


「試してみなきゃわからないっすよ?」


「責任取れんだろう。あとまだ自由でいたい。責任が発生するようなことは生活と夢を潰す」


 この歳でガキができて幸せになるわけ無いだろ。バカでもわかる。

 魔法科だって楽しいし、学園生活も気に入っているんだ。

 それをぶち壊したくない。なるべくオブラートに説明してみた。


「そりゃ若いうちはそういう感じっすよね」


「やりたいことが多いわけじゃな」


「クズ理論扱いかと思ったが、割と理解ある感じか?」


「自分のやりたいことがあり、かつ相手を思いやっての結論であろう。ならば否定はせん。愛とは多種多様だ」


「責任感があるとも言えますね」


 こういうの本当に慣れない。どうリアクション取るのが正解なのさ。


「健全に学園生活を送って、俺が納得いくまでそういうことはしません」


「別に手を握るくらいよいじゃろ」


「そうですよ。もっと一緒に遊びに行ってあげてください」


 ううむ誤魔化せないか。どうしたもんかねえ。

 こいつらだって、やりたいことはあるだろう。それを妨げたくはない。

 人生ってのは、こんなに早く他人が決めていいものではないはずだ。


「楽しいと思うことを他人とやる。これがおぬしに足りん部分じゃな」


「だろうなあ。こればっかりは厳しいもんがあるぞ」


「良くも悪くも唯我独尊というか、他人に評価されることに価値を見出しておらぬからのう」


 されなくても鎧がある。魔法も楽しい。他人の評価は必要ないのである。


「ふむ、ラブ提案だ。魔法の修行はしているのであろう? それに同行させればいい」


「それはリリアがやっている」


「ならば誰かを連れて行動することを習慣にしていくのじゃ」


「そんなに話題も場所もないぞ」


 毎日誰かといるというのは、それなりに神経を使うのだ。

 まず話題がない。やりたいことを我慢もしないといけない。

 たまには単独行動もしたくなる。


「よいよい。勝手についていくだけじゃ。アドバイスできることがあればする」


「では早速二人で帰るがよい。我らはここで去ろう。さらばだ!」


 いつの間にか出口まで来ていたようだ。

 空気を読んでリリアだけを残して去ろうとしやがる。


「それじゃまたっす!」


「今日はありがとうございました」


「またお会いしましょう、お館様」


 示し合わせたようにささっと帰りやがった。無駄に統率取れてやがる。


「さ、色々するのじゃ。やってみたいこととかあるじゃろ」


「自分のやりたいことに他人巻き込んでどうするんだよ?」


「巻き込むという発想をどうにかするのじゃ」


「つってもなあ……まだ帰るには早いし」


 予想外に効率よく終わったため、まだ昼間ですよ。

 朝っぱらから依頼なんて受けるもんじゃないね。

 ここは逆転の発想だ。


「よし、そこまで言うなら逆だ。お前が行きたい場所へ連れて行け」


「ほほう、珍しいパターンじゃな」


「たまにはいいだろ」


 行きたい場所へと案内してくれるリリアだが、じゃあ逆にお任せするとどこに行くのだろうか。

 ちょっと興味が湧いたのさ。


「どこでもいいのじゃな?」


「できればいかがわしい場所は控えてくれ」


「うむ、任せるのじゃ」


 そんなわけでふらふらと学園を歩くことになった。

 さてどこに行くのかと思えば。なにやらでかいテーマパーク的な場所だ。


「水着温泉じゃ!」


「そうきたか」


 こいつは予想外だった。銭湯じゃなくてスパリゾートっぽい作りだ、

 天井を透明なドームっぽい何かで覆っているのは温度対策だろうか。

 ほどほどにゴージャス感出てますけど。


「これ金足りるのか?」


「調べてあるに決まっとるじゃろ」


「そりゃそうか」


 金持ち限定なら引き返すもんな。

 入場券買って、更衣室前で別れて着替えて出る。

 水着はトランクスタイプの手頃なやつを買った。


「待たせたかの」


「いや、そうでもない」


 リリアは白パーカーと布の多めな黒ビキニ。

 下はパレオ……でいいんだっけ。あれをつけている。


「どうじゃ、前とは違うやつじゃぞ」


「はいはい、似合う似合う」


 かわいいのは認めよう。こいつは大抵何を着ても似合う。

 適当にできる範囲で褒めれば満足もする。


「うむ、それでは出発じゃ!」


 せっかく来たんだ。楽しんで帰るとしよう。

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