涼しいダンジョンと新魔法

 リリアと合流し、軽く飯食って三人でダンジョンへ。


「はい、涼しいダンジョンにつきましたー」


「うわあ、涼しいダンジョンだなあ」


「なんじゃいその会話」


 いくつも流れる小川と、適度に木陰を作り出す木々。

 点在する短めの橋の下には、緩やかに水が流れている。

 和風と中華の庭園が混ざったような場所だ。


「わりと嫌いじゃないな。水が流れているおかげか快適だ」


「別のダンジョンには、氷が張っていて、冷気に満ちた場所もありますが」


「風邪引くわそんなん」


 あまり寒暖の差が激しいと体を壊してしまうため、このくらいがベストだ。


「ちょいと人が多いのは……しょうがないか」


 夏休みなんで帰省している人も多い中、学園に残っている組が来ているのだろう。


「もっとごった返していてもいいはずですが」


「初心者用じゃからのう。強い敵も出ない。中級者以降はクエストでバカンスへ。もしくは同じくらい涼しくて修行になる場所におるのじゃろ」


 なにやらでかいカエルと戦っている連中が見える。

 気持ち悪い。あんなんと戦えるか。


「安全な敵を探すぞ」


「安全な敵ってよくわかりませんね」


「まず広いスペースを確保じゃ」


 そこそこ広い場所を発見。土の硬さもほどほど。橋も三方向に伸びている。

 逃げ道もあるし、迷うような場所でもない。ここでいいか。


「よーしやるか。今回は強化魔法っぽい。ギルド試験で先生が使ってたやつ」


「バーニングソウルとかそんな名前じゃったのう」


「そうそれ。それやっていこう。離れているように」


「がんばってください隊長」


「おう、はああぁぁぁ…………」


 やり方は動きながら理解する。魔法は感覚重視。

 その人の独自の方法によって生み出される。

 まずは魔力を全身に張り巡らせよう。


「放射と循環はできておるのう。それは違うのじゃろ?」


「違う。こういうことじゃない。もっとこう先生がやったみたいに、ぶわーっとやって、身体能力ぶち上げるような」


 これは魔力が出ているだけ。俺の力は上がっていない。


「攻撃してみたらどうじゃ。いい具合にカエルが出たのじゃ」


 水中から人間を飲み込めそうなカエル出現。キモい。


「うっわ……サンダースマッシャー!」


 とりあえず電撃。場所が場所だけに、そして水生生物だからか、結構な効果があるみたい。


「おぉ……焦げたな」


 死んだかと思えば、まだちょっと動いてやがる。


「サンダースラッシュ!」


 今度は斬撃を飛ばす。カエルさんは変な液体を飛ばして絶命。

 煙となって消えた。いやそれはいいんだけどさ。


「だーめだ。遠距離戦だとピンとこない」


「接近戦主体でいくのじゃ」


「隊長がんばってー」


「カエルに触りたくない。絶対ぬるぬるしてんだろ」


「ぬるぬるになる隊長がんばってー」


「ならねえよ!?」


 言っている間にカエルが二匹も出たじゃないの。


「あーもうやりたくねえな」


 伸びてくる舌をかわし、とりあえずサンダーフロウで剣に電撃をつける。

 こういうことじゃない。表面じゃなくて、中身を電撃そのものに変えるというか。


「リリア、パイモン。ちょっと無茶する。マジで一瞬の油断が命取り。本気で動けなくなって危険なんで、やばくなったら速攻で助けてくれ」


「うむ、任せるのじゃ」


「おまかせですよー」


 まず一匹の舌を斬り裂く。そのまま接近し、サンダーシードを剣先に。


「おらよ!」


 カエルにざっくり差し込んで、一気に魔力を解き放つ。

 哀れなカエルさんは、背中が爆発して消滅。

 後一匹。ここでちょいと無茶をする。


「さーてでっきるっかなーと。できないと死にそう」


「安心せい。カエルは歯がないから、ぬるっと飲まれても、口の中で暴れればなんとかなるのじゃ」


「想像したくないな」


 剣使って理解した。人体に流すっていうか、身体を電気で動かす感じだ。

 一回剣をしまって、額に指を当てる。

 魔力を全身くまなく均一に流し、指先から引き金を引くイメージで。


「リベリオン……トリガー!!」


 一気に頭から全身へ、全身から外へと溢れ出す光。

 青い炎のような、電気と魔力の混ざったオーラを纏う。

 水面に映る俺は、髪まで水色になっている。


「成功……か? うぐ……これきっついな……」


 制御がかなりデリケートだ。気を抜くと痛みがやってくる。


「かっこいいではないか。男前度が上がるのじゃ」


「おおー隊長綺麗です!!」


 二人の声がクリアに聞こえた。

 カエルの伸びてくる舌も、やけにスローに見えている。

 避けるように動くと、恐ろしいほど身体が軽い。

 一息でカエルへ肉薄。流れで拳を叩き込む。


「…………ふっ!!」


 今までとは段違いな破壊力を持ったパンチは、触れた瞬間にカエルを破裂させた。


「うお、きったねえ」


 破片とか飛んできたらキモい。とか考えて気を抜くと痛みが増す。


「あだだだ……ああもう、これしんど……い……」


 いかん魔力がなくなってきた。これ消耗が激しすぎる。


「ほいっと。これでまたひとつ成長したのう」


 リリアに回復魔法をかけられて、浮遊魔法で近くへと移動させてもらう。

 四人くらい座れる長椅子へ寝かせてもらい、なぜか膝枕されている。


「すまん。これきつい。体ぎっしぎしいうわ」


 当然解除した。いやあこれ切り札っぽいけど無理。

 かなり使いこなさないと安定しないな。


「はーいポーションですよー。魔力回復してください」


「助かる」


 マジックポーション飲んで休むと、体の痛みも引いて、ダルさが抜ける。


「あぁー……しんど。これ強化魔法だよな?」


「うむ、かっちょいい切り札じゃな。体が痛むのは筋トレ不足じゃ」


「魔力関係ないんかい」


「魔力も足りませんが、技に耐えられるほど鍛えてもいない、というところですねー」


 なるほど。だってしんどいんだもの。

 今までなんだかんだ、ほぼノーリスクだったからなあ。


「肉体が魔力と強化についていっておらん。もっとトレーニングの量を増やすべきじゃ」


「んなもん俺が死ぬわ。あーしばらく動きたくない」


「ふむ、膝枕を外で受け入れるくらいに疲れておるか」


「……やばいな。俺はどんだけ適応しているんだ」


「安心せい。人はおらぬ。もう少し前のエリアじゃな」


 じゃあもうちょいこうしているかなーと思ったら水の音。

 でかいタツノオトシゴみたいなやつが数匹、水面から浮き出していた。


「浮くのか……」


「ボクがやっておきますから、隊長はお休みしててくださいな」


 パイモンから黒くて深く練り込まれた魔力が浮き出てくる。


「だめですよー。隊長がかっこよかったのに、水を指すようなことをすると……」


 右手を一閃。敵を黒い線で真っ二つにして消滅させた。


「怒っちゃいますよ?」


「そういや魔王だったなあと実感したりする」


「うむ、強いのじゃな」


 初心者向けダンジョンの敵なんぞ相手にならない。

 魔の王を名乗っているのは伊達ではないのだろう。


「でもリリアさんにも届いていない気がします」


「別にそこまで強さにこだわらなくてもいいんじゃないか?」


「魔族ですから。魔族は隊長みたいに強い人が好きです」


「俺はノーマルだ」


「ボクもノーマルなので、尊敬に近いですよ」


 そこの線引きはちゃんとしておこうね。怖いから。


「……誰かと思えばパイモンか」


 奥の方から声がした。男の声だ。えらい美声だな。イケメンボイス。

 銀髪オッドアイで高身長。鍛え抜かれたイケメンさん。どっかで見たぞ。


「んん? ありゃりゃ、マーラさん? なんでこんな場所にいるのですかー?」


「それはこちらの台詞だ。魔王がこんな場所で戦闘か?」


 ああ、そうだそうだマーラさんだ。魔王のマーラさんだよ。

 マコの家で会っている。相変わらずイケメン妖艶オーラのある人だな。


「ちょっと隊長の訓練をお手伝いですー」


「どうも。お久しぶりなんですが……」


「覚えている。俺と同じ、楽園を目指すものだからな」


「お久しぶりですじゃ」


 とりあえず挨拶。楽園というのは、自分と気に入った、認めた仲間だけの世界。

 それを俺より先に作っている先輩みたいなもんだな。


「どうだ、楽園の彼女とは」


「まあぼちぼちです。今は地盤固めと、楽園で暮らす実力磨きですかね。膝枕を外でやってしまいました」


「節度を守りつつ、ストレスを溜めないように受け入れることも大切さ」


 なるほど、そのへんを俺の方で感じ取ることも必要だな。勉強になるぜ。


「それよりも、なぜマーラさんはここにいるのですかー?」


「この先で取れる薬草の採取と、最深部までの魔物の調査だ」


「魔王が……なぜそんなことを?」


「押し付けられた……バエルのやつに…………自分が放浪の旅を続けたいからと、アスタロトと組んで俺を特別理事会に推薦しおった。ここ十年は、やつが顧問も含めて担当するはずが……」


 頬をぽりぽりかきながら話してくれた。

 学園の運営には、魔界も一枚噛んでいるらしく、魔王にも重要なポストが与えられるらしい。

 その席の中でも相当上のポジションを押し付けられたとか。


「うわあ……お疲れ様です。しんどいですよね、そういうの。俺も嫌いな役回りです」


「やはり楽園の同志だな。強いと知られるとは面倒なことだ」


 うんざり顔だ。この人は魔界版の俺なのかも。

 いや俺はこんなイケメンさんじゃないけどな。


「登場の時、何かと思えばって言っていましたね。なにかあったのですかー?」


「魔王の気配。それも戦闘行為など感じ取れば、出向くというものだろう。ここは上級者エリアではない」


「納得じゃな。そらまあ軽く様子見はするじゃろ」


「上位のポジションで、座っていればいい楽な仕事と聞いていたが、まさか雑用まがいのことまでさせられるとはな」


 なんか一時的な人手不足らしいよ。

 理由は知らん。聞いても意味は無いだろうしスルー。


「早く帰らねば、俺の帰りを待っているものもいる。このエリアはもう閉めるぞ」


「そういえば、わしらももうすぐ夕飯の準備じゃな」


「ん、じゃあ急いで帰ろう。今日はどうするか……魚食いたいな」


 水辺にいると魚介類が浮かぶのはどうしようもない。

 焼き魚か、貝類を飯に混ぜるか。

 いっそたこ焼き……主食じゃないな。海鮮焼きそば。


「海鮮焼きそば……」


「ほう、悪くない案だ。うちもそれにするか。礼を言おう」


「よいのう。久しぶりに屋台メニューじゃな」


「おおーいいですねー。ボクも屋台に行ってきます」


「おう、旨い店あったら今度教えてくれ」


 ここで同行したいと言い出さないところが素晴らしい。

 あそこは俺とギルメンの家です。分別のあるできた子だよほんとに。


「あとは帰り道で異常がないか確認し、少々魔物を間引く」


「じゃ、俺たちはこれで……」


 さっさと立ち去ろうとすると、マーラさんに引き止められる。


「協力してくれ。一気に終わらせて帰りたい」


「いや、俺は弱いので。Eランクなので」


「残っている者の保護と、帰宅の呼びかけもある。礼と言ってはなんだが、高級海鮮セットなど、いかがかな? 鎧の男よ」


「…………リリア」


「やりたいならそう言えばよい」


「……食べたいです」


 そしてマーラさんに白い仮面を渡される。


「正体は隠しておきたいだろう。ここからは好きに名乗れ」


 なんて行き届いた人なのかしら。

 そんなわけで、出口まで残った生徒がいないか調べ、雑魚狩りを開始した。

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