夏休みを満喫しよう

夏休みはだらだらしたい

 帝国から帰った俺は、当然の権利のように昼まで寝た。

 そして次の日。なんと暑いのに朝から外にいる。


「しんど……」


 ヒメノ一派がすべてを終わらせ、学園の調査が完了するまで、説明はされない。

 三人はそれぞれ用事があるらしい。完全に俺一人。

 つまりヒマなんで二度寝しようとしたら、外に出てこいと言われた。


「ごめんキアス。背中に乗せて」


「構わんぞ」


 召喚獣オッケーなエリアなので、呼び出して背中に乗る。

 顔だけ横に向けて、ほぼうつ伏せに寝るような格好だ。


「なんで臭くもないし、ちょっと涼しいんだ?」


「神力により身体は常に清潔に保たれる。そして魔力と混ぜて冷気を体に害がないように軽く放出するのだ」


「そら凄いわ」


 よくわからんが、ユニコーンと魔法に俺の常識なんて当てはめるだけ無駄だ。

 できると言われたらできるんだろう。実際に涼しいし。問題はない。


「隊長? 隊長ではないですか」


 声をかけてきたのはパイモンだ。

 相変わらずゴスロリ着やがって、日傘までさしてやがる。


「あぁ……かつて隊長と呼ばれた男さ……」


「今日はまた一段とだれてますねえ」


「だらーんとな……もう眠い」


 快適過ぎる。ユニコーンって全員こうなのかしら。


「同志アジュよ。こやつもしや……」


「ああ、男だよ。知り合いだ」


「やはりか。我が鼻はごまかせんぞ」


「ごまかす気はないですよー。ボクはこういう格好が好きなのです!」


 言い切ったな。こいつは本気で女装……いや、ゴスロリ以外を見たことがない。

 こいつ女装じゃなくて、ゴスロリが好きなだけの可能性が浮上したぞ。


「俺とギルメンに迷惑をかけなければ、他人の趣味にどうこう言う気はない」


「理解があるように見えて、興味が無いだけですねー」


「大正解。っていうか眠い。眠いことに比べたら、ほとんどの事象は後回しである」


「独特な感性だな」


「他人に理解を求めなきゃいけない趣味なんて趣味じゃねえだろ」


 好きだからやっているのであって、他人に合わせるもんなんて趣味じゃない。

 根本からおかしいのさ。そしてめっちゃ眠いよ。


「ところで、隊長はなにをしているのですか?」


「寝そう」


「いえそうではなくてですね……じゃあ昨日まで何をしていましたか?」


「帝国に行っていた。寒かった」


「おぉ……避暑ですか?」


「ん、まあ成り行きで行かなきゃいけなくなった」


 なんかパイモンが首を傾げている。

 普通に一緒に歩いているが、こいつ暇なのかね。


「…………帝国で皇帝の不正が暴かれたとか、工業地帯が吹っ飛んだとか聞きましたが……まさか」


「パイモン。めんどい」


「あ、はい」


 それを説明すると長い。くそ面倒である。そして俺も全容を把握していない。


「俺は今回一切悪いことはしていない。むしろ被害者だ」


「被害にあったから潰したのですね」


「皇帝の件はノータッチよ。どうでもいい」


「わがマスターながら、豪快な男だ。慣れない土地は大変であっただろう?」


「あーキアスにも協力してもらったらよかったな」


 そういや呼んでないな。スフィンクスくらい任せてもよかったかも。


「流石に邪神相手は御免こうむる。同志の頼みと言えど無理がある」


「邪神て……お疲れ様です」


「おう、疲れたよマジで。なのに家にばっかりいないで外に出ろって。まだ昼前なのに起きている俺を褒めろ」


「そこは朝起きましょうよ」


 朝弱いのは治らない。もう治らなくてもいいから昼に起きたいです。


「起きてもなあ……魔法科やってないし」


「戦闘訓練でもしたらどうだ?」


「しんどい。近場でダンジョンとか……いいや、人が多そう」


 初心者でも行けるダンジョンは少ないだろう。

 そもそも暑いし。やはり外は敵だ。


「そうだ、隊長なら知ってるかも」


「ん? なんだ?」


「旧校舎の秘密です。あの特区になっている旧校舎。裏事情に詳しそうな隊長なら、何か知りませんか?」


「まず旧校舎を知らん」


「あらら、外れですか」


 なんでも学園には、使われていない三階建ての旧校舎があり、そこはなぜかダンジョン認定されていて、その中でも特別な存在として扱われているらしい。


「なんだよ特区って。なんかやばい敵でもいるのか?」


「いいえ、なーんにもいないんです。誰でも入れますし、敵も出ません。たまに掃除されているのか、綺麗です」


「……意味がわからぬ。使っていないだけではないのか?」


 キアスに同意で。好奇心を満たそうと頑張るパイモンくんには悪いが、俺は本当に知らんのよ。


「特区とは、特殊な自然栽培の場であったり、神獣が住んでいたり、ものすごく危険な場所であったり、ランクで区分けされています」


「単純に記念物扱いなんじゃないのか? 思い出の旧校舎的な」


 歴史が詰まっていると、それそのものが資料になったりする。

 それを否定はしない。残してしっかり管理できるのなら、客寄せもできるだろう。


「名目がA級ダンジョン指定でも?」


 あ、これ面倒事になる。直感ですけども。


「パイモン。それ調べないでおこう」


「どうしてですかー?」


「絶対に俺が鎧で解決することになる。めんどい」


「あぁ……やめておきましょうか」


 心休まる日々というものはないのか。絶対にだらだらしてやる。

 少なくとも夏休み中くらい、ヴァルキリーも邪神もなしでお願いします。


「まあ覚えておくよ。変な場所に行かないようにな」


「学園には不思議がいっぱいですよー」


「魔王が普通にいたりか?」


「いますねー。神様もいますねー。一般には知られていませんが」


「こっちでの神様って、ぼんやりいたらいいなーっていう認識だっけ?」


 神様が普通にいることを知っているのは、一部の王族と、学園のトップくらい。

 もしくは神族の家系というレアケースだったはず。


「そうですね。まさか身近にいるとは思っていないでしょう。神職に不思議な加護をくれる存在。それを神と呼ぶ。神様に加護を貰える神職凄い。それくらいの認識でしょうね」


「神獣と呼ばれる我がいてもそうなのだ。神も数が多い。よって神の完全なる認知など夢物語というわけだ」


「人間の種族と顔と名前を全員が一致できないのと同じ?」


「そうですそうです。隊長は変なところで勘が鋭いです。似たようなものです」


 真面目な話をしていると、なんだか夏の暑さがしんどいぜ。

 知恵熱と環境により暑さが増しているんじゃないかな。


「暑い……キアスいなかったら死んでいるな俺は」


「同志の役に立っているようで何よりだ」


「涼しいところに行きます?」


「金あんまりないぞ」


 長時間喫茶店とかにいるのも微妙。なーんかいたたまれない。

 家って大切だね。俺はインドア派ですよ。


「では稼ぎましょう。涼しいダンジョンです!」


「死ぬからやだ」


 俺が怖がらないと思ってんのか。それに運動したら汗をかくだろ。

 余計に暑くなるじゃないか。


「ちゃんと初心者が行くレベルにします。それにひんやり涼しいですよ?」


「……俺たちが死んで冷たくなったりしてな」


「縁起でもないな。まだ究極の処女とは何か、それすらつかめていないというのに」


「まったくだな。まあそれなら新魔法を試してみたいんだけども」


 ふと思い出す。ギルド試験。卑弥呼さんの試練。そしてヴァンの戦い。

 なんとなくだが新魔法が掴めそう。


「それは鎧つきですか?」


「いや、俺のオリジナル。多分強化魔法だ。魔法やるならリリアが必要だな」


「ではお昼から、リリアさんも一緒に行きませんか?」


「聞いてみる」


 召喚機の通信機能オン。この時間は、あいつも講座とかないはず。


『なんじゃ? まーた妙なことにでも巻き込まれたか?』


「いや、涼しいダンジョンで新魔法試したい。キアスとパイモンいるんだけど」


『わしの助言が必要と。うむうむ、成長しようとしておる。よい傾向じゃな。昼からなら時間を作れるのじゃ』


「では近くでお昼を食べて、ダンジョンに行きましょう」


「それでいこう」


 そして合流地点へ移動するのだが……途中で召喚獣はNGな場所に入り、歩かねばならないという絶望を味わった。キアスの涼しさが消えるとしんどい。

 俺は無事、室内から出て、ダンジョンまで歩く気になれるだろうか。

 今から不安であった。

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