第212話 復讐終わったし帰ろうぜ
「悪い。待たせちまった」
しばらくして落ち着いたヴァンの顔は、憑き物が取れたように爽やかだった。
「もういいのか? もうちょい喜び噛み締めたり、いちゃついても文句言わんぞ」
「それは帰ってベッドの中でするさ」
「ちょ、ヴァン!?」
「あらあら~元気ね~ヴァンは」
「はいはい。資料も手に入ったし、ここが終点なら帰っていいのかね?」
アヌビスがいた部屋もきっちり調べた。どうもここが終点っぽい。
部屋の外まで浄化が進んでいるし、完全な浄化まであと少しか。
「お、終わっておるようじゃな」
リリア達が入ってきた。全員無事だな。よしよし。
「おう、熱い戦いしてたぜ」
「そう言われると照れるな」
「アヌビスはどうなったんだい?」
「完全に消滅した。もう地獄に行くことも、転生することもねえ」
これで全てが終わった。ようやく帰って眠れるわけだよ。
「飯食って帰るぞ。もう夜だよ。眠い」
そんな俺の眠気を覚ますように、またしてもサイレンが鳴り響く。
『アヌビスの消滅を確認。緊急退避及び残存勢力殲滅モードに移行』
部屋が大きく揺れる。今回の揺れは地震とは別の揺れ方だ。
『エリアル』
「めんどくせえ、全員天井の穴から飛ばす」
アヌビスが開けてくれた穴から全員を上空へ。
「あらあら、面白い魔法ね。これも鎧の力かしら」
「いいなこれ。オレもできねえか?」
「そうね~できたら便利だわ~」
「既存の魔法ではないから無理じゃな」
続いて俺も飛び出す。上から見下ろしてようやくわかった。
施設全体がせり上がっている。地中から掘り起こされるように。
「地下がある? いや、オレたちがいた場所が地下なのか」
「それだけではないのう。どうやら施設が一つのロボットみたいじゃ」
工場の機密区域まるまる一つが組み上げられ、巨大な四脚人型ロボになる。
うわあ、ざっくり計算で百メートルはあるなこいつ。
「はー……またなんともロマンを……微妙に感じるな」
「なんか右腕壊れてない? なんでだろ?」
「あれは生産区画ね。スフィンクスが出てきたところよ」
「壊れかけってことか。拍子抜けだな」
ロボになるタイミング間違ってないかね。
なんか黒いものが壊れた部分から滲んでいるが。
「ああ、これはゲスいのう。どんだけじゃこの工場」
「あの黒いのなんだ?」
「あれは……施設内で死んだものの魂を、怨霊としてくっつけているのです」
「ゲスいのう。死んでも再利用されるわけじゃ。不死兵団と化物には呪印が刻まれておった。おそらくそれが発動すると生贄になるのじゃろう」
そりゃまたエグい真似しやがるな。本当にろくでもないぜアヌビス。
まるで白い骨に黒く肉付けしているような気持ち悪さだ。
「自動で生贄にされるってわけか。部下を何だと思ってんだかねえ」
「あのクソ犬にとっちゃ、全部実験台だったんだろうぜ」
メカの口っぽい部分。人間で言えば口に当たる部分から、大出力のビームが飛んできた。
「うーわマジでか。うっざ。浄化してないじゃんか」
こっちに飛んで来るので、アッパーかまして上空に飛ばす。
国なんてどうなろうが知ったことではないが、被害が出ると俺たちのせいにされかねん。
「これほど大量に集めていたとは。動力源を潰さないと、この兵器は完全浄化できないね」
「しょうがねえなあ……先に戻ってろ」
「どうする気?」
「完全に消滅させる。全員戻れ。位置は召喚機と魔力でわかる」
ビームを出される前に、掴んで空高く投げる。
「はい上へ参りますよ」
そのまま俺も飛んで宇宙へ。やはりここが一番安全なんだけど。
「なんか恒例行事になってきている気がする……もっと安全な場所ないもんかね」
場所の確保は大切。星ぶっ壊れたら意味がない。
そんなことを考えていたら、目の前に白黒の壁が飛んでくる。
「残念。ここなら暴れても問題なくてね」
壁に見えたのは、高層ビルのような巨大な腕。
アヌビスの術のくせに物理攻撃か。
とりあえず殴りつけて破壊。触れた瞬間に分析開始。鎧は便利だね。
「機械と霊の中間ってところか。殺せないわけじゃない」
黒い部分が膨れ上がっている。なんというか、無数の人の顔のようでキモい。
「痛イ……苦シイ…………苦シイ……」
とうとう喋り始めたよ。あれか、恐怖とか罪悪感で弱らせる作戦か。
「精神攻撃好きだなあいつ。そうかいそうかい。そんなに苦しいかい」
迫る黒い悪意の塊。キモいので魔力でかき消してやる。
「俺は痛くもかゆくもないけどな」
所詮自分の痛みは自分のものだ。同情して人気取りをしたいクズが慰めるだろうが、それは傷を癒やすことにはならない。結局は元凶を潰すしかないんだよ。
「オラァ!」
胴体に風穴を開けてやる。宇宙で風通しがよくなっても意味は無いけどな。
「殴られても悲鳴をあげないところが胡散臭い。所詮陳腐な精神攻撃。俺を姑息さで上回れると思ってんのか」
ロボが白い腕と、関節の役割をする黒い部分で別れた。
怨霊で腕を伸ばして、パンチの射程を上げているらしい。
機械の部分まで、怨霊に寄ってうねうね動き始めている。
「小賢しさのレベルがしょぼいぜ」
当然迎撃する。無駄だと悟ったのか、各部位からレーザーの乱れ打ちが始まった。
これは邪魔くさい……時間かけてもいられないしな。ここまでにしよう。
「特別サービスだ。きっちり一瞬で消してやる」
『フィックス』
フィックスキーは固定。どんなものだろうがその場に固定する。
固定すれば俺以外は動かせない。生物なら腐ることもない。
めっちゃ魔力を使うが、鎧の魔力は最初っから誰よりも高くて、無尽蔵に増え続ける。
「うねうね増えられても迷惑なんでね」
開けた穴を怨霊が塞いでいるのを見て作戦立てました。
たまには工夫していこう。一撃で全部終わらせると応用力がつかない。
『ホゥリィスラアアアアァァッシュ!』
必殺技キーで浄化にかかる。
極限まで迸る光の剣は、この程度のロボなど一息に飲み込み消していく。
「終わったな。やっと帰れる」
急いで星に降下。魔力を探ると、工場跡地から離れているようだ。まず人気のない場所に降りて、そこから光速移動で接近。
どうやらヒメノたちもいるようだ。
「終わったぞ」
「おかえりなさいませアジュ様!」
「お前ら今までどこにいた?」
内部に突入しても、こいつらの姿はなかった。ちょっと気になる。
「あっしらは皇帝の事件への関与と、芋づる式に出てきた重臣の外道行為の連絡やらを、学園の組織に提供しておりやしたぜ」
「そこそこ苦労したっすよ。学園の権力がなかったら、もうちょっと難航していたっす」
「ちゃーんとお仕事していましたわ!」
珍しく真面目にやっていたっぽいな。
そっちは俺じゃどうしようもないので任せておこう。
「とりあえず終わったんだよな? オレはもう疲れたぜ」
「わたしもよ~。ここまで長かったわ~」
「でもやりきった感はあるわね」
ヴァンチームも全員無事だ。今回で復讐は終わり。
新しい人生がスタートするのだろう。
「ソニア、クラリス。君達はこれからどうするんだい? 目的は達成した。神界に戻るかい?」
「私とクラリスはヴァンといるわ。死ぬまで一緒でしょうね」
「あなたと卑弥呼さんみたいにね~」
「あらあら、それはおめでたいです。仲良しですね」
ラーさんと卑弥呼さんは、このまま家に戻るとのこと。
もともと表舞台には出ないタイプだそうな。
神様同士の話は任せておこう。あっちにも都合がある。
「全員無事だな?」
「無論じゃ」
「お疲れ様。これで夏休みは自由ね」
「遊びに行く予定を立てるよ!」
ギルメンも無事。こいつらはもうかなりの強さだ。
ちょっとやそっとじゃ傷つかない。
それでも内心心配していましたよ。絶対に言わないけれどな。
「ならばよし。とりあえず帰って三日くらい休むぞ。流石に慣れない国は疲れた」
もう眠い。急いで帰ろう。いと寒し。いと眠し。
「今回は本当に世話になっちまったな」
ヴァンはなんだか申し訳無さそうだ。
「いいさ。こっちの事情もあった」
「そうか。オレはこれから、マクスウェル家の復興とか、自分の力をどう使うか考えていくよ。ソニアとクラリスと一緒にな」
「そうだな。こっから新しい道だ。ヴァンならどうにかなるだろ」
「おうよ。支えてくれるやつがいるってのはいいもんだぜ。アジュもさっさと腹くくっちまいな。あんまり待たせるもんじゃないぜ。じゃあ……ありがとな」
それだけ言って、さっさと恋人のもとへ戻っていくヴァン。
吹っ切れたみたいだし、きっとうまくやるだろう。
「そうだね……そろそろアジュはもうちょっと進んでもいいよね」
「そうね。いつまで待たせるのかしらね」
「もう両親に挨拶まで済ませておるというのに、こやつは……」
この流れはいけない。俺が責められる流れだ。
「まずは帰ってからだな。よし、急いで帰ろう」
「帰ったらちゃんと考えないとね」
「やはり恋人オーディションすべきっすね」
「オーディション? 聞いていないわよ?」
「正式に、お三人様は決定として、旦那の恋人を決めてしまおうという企画でございます」
「それやるなっつったろ!?」
水面下で動いていたのか。どうしよう……追い込まれている。
「やらねば決まらんじゃろ」
「ええいうっさい。もう今日は帰るんだよ。全員一回帰って休むんだ」
「こちらの話は終わりましたわ。いつでも帰れますわよ」
話はついたらしい。立ち話は面倒なので、後日聞かせてもらうことにした。
一人も欠けること無く生還できたので、今はこれでよし。
「それではゆっくり帰るとしよう。サカガミくん、リリアを頼んだよ」
「お幸せに。二人の未来に祝福があるよう、祈っていますね」
こっそりご先祖様から言われてしまった。
「はい、俺が生きている限り一緒にいます。ずっと。そちらもお元気で」
うむ、ご先祖様は安心させよう。本人にはまだ言えそうにないからな。
これで久しぶりの我が家だ。帰ったら寝よう。寝て、またいつもの日常が始まる。
それでいい。もうちょっとだけ進んでもいい気はしているけれどな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます