久しぶりの自宅
フウマの里でなんやかんやあって、軽く花見をして帰って来たのが昨日の夕方。
完全に二度寝して今は昼。起きた時にはイロハが隣にいた。
「もうお約束だな」
「そうよ。別段驚くことではないわ」
「だからって毎日はやめろよ?」
「気をつけるわ」
なんか素直だ。ここまで言うことをきくとは……これはこれで不気味だな。
「失礼なことを考えているわね?」
「まあな。今日に限って素直なのはなんでだ?」
「毎日はやめろ、ということはたまには許すということよね?」
「…………あーもう失敗した。気が緩んでいるな」
「そこで失敗と言ってしまうのは失礼なのよ?」
イロハさんにほっぺたをぐいーんと伸ばされる。
あんまり痛くないけど、怒っているのは伝わるな。
「普通は布団に入ってきちゃダメなんだよ。里にいたときは疲れていたから例外。俺の朝飯は?」
「作っていないわよ。どうせ昼まで寝ているでしょう」
「ん、ならいい」
朝飯作ってあるともったいないからな。俺を理解してくれているじゃないか。
「小腹がすいたな。なんか軽く食えるもんないか?」
「ご先祖様がお土産にくれた食べ物があるわよ」
コタロウさんにお土産に保存のきく食料とか、日持ちするお菓子とかもらったな。
「……あの人は成仏的なことしなくていいのか?」
「フウマの秘伝がいくつか失われているとかで、指南役として残るそうよ」
そら千年近くたってりゃ忘れられた術もあるわな。コジロウさん大歓喜らしい。
「んー……下行かないとだめか……」
軽く寝返りうってみる。特に痛むところなし。眠気も消えた。一階リビングまで行こう。。
「疲れていない?」
「回復した。問題なし」
「もう少ししたら誰かが起こしに来ると思うわ。それまで寝ていても……」
すぱーんと襖が開いた。実にタイミングのいいことだ。
「アジュー起きてるー? お昼ごはんなくなっちゃうよー!」
「ん、起きてるよ」
「起きてても横になってると寝ちゃうよ? ってなんでイロハがいるのさー!」
「一緒に寝たからよ」
そらそうだ。いやそいういうこと聞いてるんじゃないと思うけどな。
「どうせ忍び込んだんじゃろ。忍者だけに」
リリアも来たか。いつものメンバーだな。
「残念だったわね……私は昨日の夜からいたわ!」
「なんですとー!?」
「ふむ……で、どこまでいったのじゃ?」
「あなたと同じところまで、よ」
「……ほほう、順調じゃな」
なぜか見詰め合っているリリアとイロハ。取り残される俺とシルフィ。
なんだこの状況は。なにがなんだかさっぱりだ。
「なにかあったの?」
「知らん。俺に聞くな」
「はいっじゃあごはんにします! 準備して」
「もう着替えさせたわよ」
「うーわ、なんか普通の服着てるぞ俺」
早着替えの術だっけか。便利だな。着替えるの面倒で嫌いだ。俺が家から出ないのは、服というものが窮屈で邪魔だというのもある。パジャマ最高だろ。パジャマから着替えるという行為がイヤ。
「さ、もう起きるのじゃ」
「へいへい。眠くならないうちに行くか」
そんなこんなで飯食いながら今後の予定を決める。
「連休も終わったし、しばらくは授業とクエストかね」
「アジュはやってみたいこととかないの?」
「やってみたいことねえ……魔法のバリエーション増やしたい」
魔力の総量が増えても、やってることが同じじゃ限界が来る。
「あって損はないわね。戦闘系のクエストか講習でも行きましょうか」
「んー最近講習が減ってるんだよな」
「連休は里帰りする人が多いからよ。もうすぐ一気に増えるわ」
なるほど、そら理にかなっている。しばらく魔法の練習をしていたら、ぼんやり頭に浮かんでいる魔法がある。これをどうにか使えるようにしたい。
「見えそうで見えない魔法があるんだ。考えたくないけど、戦闘しないとダメかもしれん」
「模擬戦じゃダメなんでしょ?」
「ダメだ。実力差があり過ぎてこう……秘められた力っぽいやつが出ない。多少追い込まれないとダメかもな」
こいつらと模擬戦やっても自分を追い込めない。
鎧を着ると楽勝で勝てる。着なきゃ秒殺される。極端なんだよ。
「強そうな敵がいるところに行ってみるとか?」
「疲れるなら金と単位にならないことはしたくない。俺達にわかりやすく得があって、他人が得しないとなおよし。クエストは別だけどな」
俺がやったことで他人が俺より幸せになるともやっとする。
こいつらは危なくなったら助けてもらえるのに俺は……的な。
「条件が難しいわね」
「こやつは見返りもなく人助けとか大嫌いじゃからのう」
「人に優しく、世のため人のためーとか。正義のためにーとか嫌いだよねーアジュ」
「そういうの絶対にイヤ。不公平だろ」
「不公平の意味がわからないわ」
「ちょっと考えればわかるだろ。依頼とかじゃなく、俺が誰かに優しくするとしてだ。そいつは絶対に俺に何もしてくれない。そいつだけ楽ができて不公平だ」
他人に優しくされる経験というものが不足しているからか、なんか不公平感が凄い。
俺に優しくしないやつに、なにかしてやる義理も価値もない。
「俺が親切にしてやったのになんにも返ってこないとか最悪だよ。こっちに何かさせたんだから、当然お礼というかさ、あかの他人が絡んでメリットがないということに納得がいかない」
「ううむ、女の子に慣れてきたと思っておれば……別の問題が出てきたのう」
「アジュの卑屈さ爆発だねー」
「いいんだよ。俺は俺のためだけに動く。卑屈と言われようが知ったことか」
これは俺の基本方針なので譲る気は無い。
リリア達相手が特別なだけで、本来無償奉仕などしたくないんだよ。
「報酬は大事だぞ。最低でも金だけは手に入る。特に女相手の場合絶対に報酬が欲しい。男なら誰でも言うことを聞くと思っているだろうから報酬を確保しないといけない」
「やっぱり女の子への恨みかー。わたし達が本気で困っていたら、お願いは聞いてくれたりする?」
「よっぽど無茶なお願いじゃなければ、受けるかどうか一回ちゃんと考えるさ」
「他の子だと即決で断るんだね」
「そんなアジュさんに、やた子ちゃんという幸運が舞い降りるっす!」
いつの間にかリビングに上がりこんで、びしっとポーズ取っているやた子がいた。
「なんか久しぶりだな」
「お久しぶりっすみなさん! みなさんのアイドルやた子ちゃんが参上っすよ!」
「そうか、出口はあっちだぞ」
「帰らないっすよ!?」
うるさい。こいつとヒメノが来るとうるさくなる。そしてめんどい。
「ヒメノはどうした?」
「今日はお仕事っす。アジュさんがいないって落ち込んでたっすよ」
「そうか、そりゃ静かでよさそうだな」
「ええもう、ずっとあのままだとどれだけ楽か……いやまあそれは置いといて」
律儀に置いといてのジェスチャーを入れてくる。その芸人根性は褒めてやろう。
「依頼があるっす!」
「そう、受けてくれるギルドが見つかるといいわね」
「おおぅ……辛辣っす……」
「ああそうだ。帰るで思い出したんだけどな」
「帰るって言ってないっす!?」
一応買ってきていたお土産を渡してやるとしよう。台所からお土産の箱を持ってくる。
「なんすかそれ?」
「フウマまんじゅうだ。ヒメノと一緒に食え」
「おぬし……そういう気遣いとかできたんじゃな……」
「うっさい。ヒメノとやた子にはリリアの一件で色々動いてもらって世話になったろ。だからその礼と……まあ何も無しじゃうるさいだろうから一応買ってやっただけだ。他意はない」
なぜか呆然としているやた子に無理矢理まんじゅうの入った箱を渡す。
「ふおぉ……なんか萌えポイントを見つけた気分っすね。デレ期っすか?」
「羽むしるぞお前」
「アジュはわたし達三人のものです!!」
「ちょっとときめくくらい許して欲しいっす!」
「やた子をハーレムに入れるのはちょっとどうかと思うのじゃ」
「入れたいと言った覚えはない」
こんなんに住み着かれたら一日中うるさいじゃないか。100%ヒメノがついてくるだろ。
「あれっすね、いつもきついのに優しくされると、ギャップできゅんとするというあれっす」
どれっすか。そして普段の俺をどう見てるんだよこいつ。
「胸キュンポイントは言っちゃうとアジュが警戒するからだめなんだよー」
「そういうのは見つけたらこっそりわしらに報告するのじゃ」
「そうすれば少しくらいは寛容になるわよ」
「おおっ! 頑張るっす!」
頑張らないでくれ。頼むから。俺の日常をこれ以上騒がしくすんな。
「いいか、一度だけチャンスをやる。依頼内容を話せ。受けるかどうかは全部聞いてからだ」
「では依頼内容の発表っす! スポットライトカモーン!」
「撤去したぞ」
「ええぇぇ!? なんで外したんすか!?」
「なんで付けたんだよ!! 家のリビングにスポットライトとか必要ねえんだよ!!」
邪魔じゃん。物凄く邪魔じゃん。壁から七色の光が出る魔法だったらしい。
自慢気なヒメノがイラっときたのでソードキーで魔法だけぶった切った。
「うーわーまじっすか……やる気激減っすね」
『ショット』
銃口をやた子の頭に突きつける。
「チャンスは一度だけだと言ったな?」
「まだ一度は続いているっす! チャンスの途中っす! あのあれっすよ、戦闘系の初心者講座が大ピンチっす! 突然強くなっちゃうっす!」
どうせ面倒な依頼だろう。だが初心者講座というところに興味がわいた。
予定もないし、ちゃんと聞いてみるとするか。
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