雪の六騎士編
ギルメン帰還と新たなトラブル
一夜明け、朝は寒いし眠いので、二度寝を決め込むことにした。
「おーいアジュ、いつまで寝てるんだ? まったく……おぉう、そうかこのパターンか……そりゃそうだよね」
ホノリが起こしに来てフリーズしている。男の部屋に入るのに躊躇するタイプか。意外でもないな。
「まだ眠い……」
「ふみゅ……アジュさむいよー。布団取らないで」
抱きついたまま寝ぼけているシルフィに布団をかけ直される。あったかくて寝そうだ。このまま二度寝しよう
「いや四人とも起きてくれ。頼むから。私が起こしに来た意味がなくなるだろ」
「ダメよ。寝起きのアジュの匂いが消えるでしょう。程よく汗をかいたベストな時間なのよ」
「久々なんじゃから堪能する時間くらい欲しいのじゃ」
誰も離れようとしない。別に振りほどく気もない。眠い。
「隙間があると寒いからもうちょい寄れ。リリア右、イロハ上に来すぎ」
「起きろという指示を出せ。会議があるだろ。他の子に見られたら面倒だからさ」
ホノリが困っているので、渋々起き上がる。あーもう眠いなマジで。いつまでも朝弱いままだよ。
「ほら着替えろ。時間無いぞ」
「もう私が着替えさせたわ」
「よくやった、その服は持っていけ。前のは匂いが消えたんだろ?」
試練の当日に渡した服は返してもらった。完全にあいつらの匂いしかしなかったよ。目の前で嗅げとか言われて戸惑ったわ。
「やったー!」
「これで戦えるわ」
「ちょうど必要じゃった」
そして会議へ。会議内容は同盟組もうぜ的な話ですぐ終わった。おおまかな段取りは決まっていたらしく、合意さえあればもう問題ないところまで完成していたからだ。全員優秀だなあ。
「ではこれにて、四国同盟は成立です」
あっさり終わればもう自由時間だ。それなりに仲良くなったようで、同盟間でのギスギスしたやり取りは見られない。昨日の変な雰囲気もない。
「何かトラブルがあったらすぐ知らせて」
「なくても来週また来るから、その時でもいいわ」
なんか定期的に来るらしいよ。ギルメンの俺を見る目が怖い。よほど心配かけているらしいな。今度は8ブロックの五人に安心してねって書いてもらって……なんか地獄が生まれそうだからやめよう。危険だと俺の勘が告げている。
「国の運営って大変だよねー。お仕事どばーっと来るからさ」
「余裕がない。あまりにも経験と知識が不足している。学生の範疇を超えた要求は不可能」
ルナとイズミの言う通りだ。こんなもん正常に運営できるわけがない。
本来の国の運営はもっと複雑で面倒極まりないだろうが、今の経営もかなり厳しいものがある。
「そっちの書類仕事はほぼ終わらせてやったのじゃ。次からの内政プランもいくつか置いておく。参考にするとよい。一ヶ月は余裕を持って行動できるじゃろ」
「あの量は一晩で終わるものじゃなかったわよ?」
「どうとでもなるのじゃ」
全能力高いからなこいつ。これは素直にありがたい。ということはリリア陣営かなり順調だな。余裕を持って動いているということだ。
「国の運営など慣れればできる。アジュのお世話ができるのはわしだけじゃ」
「よしよし、感謝する」
膝の上に乗せてやる。どうだすごいだろう。こういう形で感謝を示せるんだぜ。
「にゅふふ、素直になったことは褒めてやるのじゃ」
「いいなー、リリアいいなー」
「みなさん仲がよろしいんですね」
「ずっと四人で住んでますから!」
絆が深まっているわけだ。仲違いとかしないからな。いい子達だよ。少し前までなぜ俺といるんだろうとか思っていたさ。今考えるとすげえ怒られそう。
「正確には怒るを通り越して既成事実を作るのじゃ」
「怖いからやめてくれ」
こいつらマジでやりかねないからな。あと完璧に思考を読むな。
「とりあえずそれぞれの仕事を確認してきてくれ。どの程度終わっているか把握しておくんだ」
「了解」
そんなわけで8ブロックのメンバーは解散。ホノリと考えた銃の設計図が届いたので見てみよう。暇だし。
「これ銃? アジュは魔法もショットキーもあるでしょ?」
「フランに渡すんだ」
「どうしてフランさんが出てくるのかな?」
おい暖房弱いぞ。部屋の空気が冷えてきた。
「外交とか敵との交渉はほぼ任せていてな。一回ちゃんとお礼をしないといけない」
他国との会議でも俺の代わりに主導権を握ってもらう係だ。これはフランにしかできない。オンリーワンの技能は本当にありがたいよ。
「ああ、アジュは人付き合い苦手だもんね……それだけだよね?」
心配性だな。いや心配性で済ませてはいけないのだろう。不安にさせているということ……だよな? 合っているよな? 恋愛面での自信はいつまで経ってもつかないが、フォローを入れてみよう。
「よしよし、心配かけているようだけど、俺が誰かのものになると思うか?」
「思わないけど……」
「だろ。お前らで攻略完了していないんだ。他人ができるかよ」
ちゃんと撫でよう。シルフィは嬉しいと顔に出るから、笑顔になるまで撫でればよし。意思の疎通はできていると信じるのだ。
「ちゃんとフォローできるとアジュっぽくないね」
「どうしろっつうんだ」
「でも嬉しい」
「情緒不安定か」
「でもどうして銃なのかしら? エルフなら魔法が得意よね?」
「でも欲しいって言われたぞ?」
そこが謎なのだ。予備の武器なら魔力回復の道具でいいし、犯行時にエルフがやったと隠したいのか?
「これはきっと誤解があるのう。にゅむむ……これリボルバーの設計図じゃな」
「そりゃご希望どおりオートマ作れりゃいいんだろうが、製造過程が複雑すぎる&弾丸どうするんだ問題を解決できんだろ?」
「おーとま?」
「待て待ておかしいじゃろ。オートマハンドガンなんぞこの世界にないのじゃ。どうしてエルフの王族が知っておって、わざわざおぬしに注文するんじゃい」
「こんな状況で家に帰れないからじゃね? モグラとの戦闘がきつかったし、手段は増やしたいんだろ」
「アジュいるかい? フランに渡す武器のことで相談があるんだけど……」
ホノリが来た。ついでにこいつらにも改善案を出してもらおう。
「ちょうどいい。フランが銃が欲しい理由ってわかるか?」
「そんなもん知らないさ。私はアジュからオーダーされただけだし」
「当時の会話をそのまま言ってみるのじゃ。そこから推理してやる」
「確か9ブロックとの交渉の日に…………」
そしてバレッタってハンドガンじゃなくて髪飾り? だということを知る。
「マジかよ……」
「アジュお前……一年女の子と同居してそれって……」
予想外だ。そんな似た名前の商品があるのかよ。異世界トラップやめろや。こっちとあっちの常識のすり合わせが甘かった。こっちじゃ一般的な品物なのか?
「このデザイン超考えたんだぞ。このバラの赤と茨の緑を彫り込むことで鮮烈な美しさを演出した感じだよ」
「まあ悪くはないのじゃ」
「これ無駄になるのか!?」
「設計図自体は面白いし、銃も作ってみたかったから、私は気にしないさ」
「このデザインのまま、バレッタにすればいいじゃない」
装飾品にバラは定番といえば定番だ。悪くない。
「ホノリはバレッタ作れるか?」
「鍛冶屋なんだと思ってんの? 一応できるけどさ」
できるんかい。一輪の赤いバラが咲き誇り、鮮やかな茨が周囲から引き立てるデザインでお願いした。
「これでよし。みんな暗くなる前に帰るんだ。自分の国があるだろ」
「そうね。長居は危険かもしれないわ」
「わしらはいつでも来る。寂しくなっても他の女に手を出すでないぞ」
「フランさんにはちゃんとお礼だって言って渡すんだよ? ああいう人はね、美人さんで、お金持ちで、家柄も良くて、成績優秀で、運動もできて、性格もよくて、人気もあるんだよ! 高嶺の花なんだよ! 無理して高いところに手を伸ばすより、近場のわたしで済ませようよ!!」
「力説されんでも手を出せるほど仲良くはなれんさ」
二週間放置するとここまで心配されるのか。何かしらの改善案か、不安を取り除く手段を考えておこう。
考えているうちに門の前まで来た。既に各国の護衛もいる。
「こっちの国からも護衛部隊が出る。安心して戻ってくれ。世話になった」
「またね! 絶対だよ! 絶対来るからね!」
「暇ができたら会いましょう」
「内政なら相談に乗ってやるのじゃ」
そしてみんな帰っていった。なんというか……密度の濃い数日間だったな。
「寒いから城に入るぞ」
「はーい! みんないい子だったねえあっくん!」
「あいつら善人だからな。仲良くなったみたいで何より」
「イロハさんはとても優秀。アサシンとして学ぶことばかり」
イズミはイロハと話し込んでいたな。強化パッチきたなら喜ぶべきだ。
「アジュが好みそうなギリギリの下ネタも教えてもらった」
「あいつ何教えてんだ!?」
「新年を迎え、グレードアップは急務だった。やた子とリリアが加わったことで、昨日発足の女子下ネタ同好会は部活動になる勢い」
「ほほう、今年の変態は豊作だな」
バカなことやっていないで仕事しよう。せっかくリリアが整えてくれたんだ。このチャンスに手が回らない箇所の確認もしたい。
しばらく黙々と書類作業を続ける。リリアの手腕に感嘆の声があがり、効率は上がった。それでも仕事はあるんだけども。
「はあ……ようやく落ち着いたな」
そんなこんなで二日後。今日も書類を片付け街へ出る。王都の偵察も仕事だ。適当にあら汁の屋台でも行こうかと思っていたが。
「報告! 採掘場に不審者が現れました!」
伝令さんが来た。どうも数日妙な減少が起こるらしい。お清めはしているので、心霊現象のたぐいではないだろう。警備兵もいるというのに、どういうことだ。
「リューリュウ、ルナ、イズミを呼べ」
まったく……冬の雪国で遠出させるなよ。
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