二発目の引鉄

 ルリナ改とギガイ量産型を殺す。鎧を使わずに。

 今やることはそれだけ。


「最後に聞かせろ」


「あぁ?」


「なんで俺なんだ? なんであいつらなんだ?」


「……何言ってんだ?」


「俺はな、俺とあいつらが無事ならそれでいい。他のやつが何人どんな死に方しようが、お前らがなにをぶっ壊そうが、なにを奪おうがクソほどの興味もない。やりたきゃ検査でも何でもやれよ。知ったこっちゃねえから」


「トチ狂ったか。テメエがアタシらの邪魔してんだよ。ここに来た不運を恨みな」


「運が悪い、か。あーあつまんねえ。マジでつまんねえよ」


 ここまで順風満帆というやつだった、と思う。

 トラブルはあったが、大抵は鎧でなんとかなるしな。

 そうならないことがもう面倒だ。


「お前みたいなクソアマも、その横のアホ男も、マジで死ねばいいのにな。俺の邪魔だからよ」


「話聞いてねえのかテメエ!」


「はーあ……めんどくっせえ」


 こんなクソカスどもに邪魔されることが不快で仕方がない。

 ならもう後先は考えない。ここで地獄に落とす。


「しょうがねえ……しょうがねえし、めんどくっせえからよ…………本気で殺すわ」


「なんだって?」


 右手の人差し指と中指を、ゆっくりと自分の側頭部に当てる。

 一発目と頭の中央で十字を切るイメージで、一気に解き放った。


「リベリオントリガー…………二発目っ!!」


 俺の頭から全身に電気が流れ、その全てが弾けて混ざる。

 全身が光り輝き、身体が雷光と馴染む。

 雷の海に沈んで同化するような感覚。


「なんだ……こりゃ? あいつなんかやべえぞ」


「なら今のうちに殺せばいいのさ」


 電気が飛んだのは一瞬。収束し、俺の中に染み渡り、循環して溶け込んでいく。


「終わりよ」


 ルリナの槍は、俺の脇腹を斬り裂いていく。だが問題ない。

 相手も手応えのなさに驚いているようだ。


「残念。無駄だ」


「んなっ!?」


 そのまま敵の槍を掴み、最大出力の電撃を流しこむ。


「うあああぁぁぁ!!」


 槍を雑に引き抜き、開いた場所を電気で塞ぐ。

 体に溶け込み、傷は瞬く間に消えた。


「離れるんだルリナ!」


「クソ……」


 慌てて距離を取ったな。いい気味だ。もっと怯えろ。


「テメエなにやった!!」


「今の俺は雷そのものだ」


 リベリオントリガー、二発目の引鉄。

 全魔力を体内に放出、超高速循環して体そのものを雷と化す。

 細胞レベルで雷に書き換える荒業だ。

 失敗すれば体がどうなるかわからない、偶然生まれた不安定な博打技。


「でもまあ……もうどうでもいいや。胸糞悪いクズがぶっ殺せれば、俺は満足だ」


 その後のことなんて知るか。鎧なしでこいつらを殺す。

 それだけ達成できればいい。

 このイラつく気分を、一秒でも早くこいつらを殺して晴らしたいんだ。


「調子に乗ってんじゃねえぞ! アタシらに勝てると思ってんのか!」


 雷速で背後に回り込み、首を掴む。この状態になってから、一切の痛みがない。

 そりゃそうだ。雷は生き物じゃない。

 概念や神話生物の気持ちが、ほんのちょっとだけわかったぜ。


「うるせえよカスが。でかい声出してんじゃねえ」


 口と鼻から電流を体内へと送ってやろう。

 電撃は完全に俺の支配下にある。ただ流すんじゃなく、体内を引っかからないよう正確に通過して、胃に落としてから一気に爆裂させた。


「がっ!? ぐっ!? うっあっ、あぁ……」


 穴という穴から血と電気を吹き出して痙攣するルリナ。

 きったねえ……後ろから掴んでよかったな。


「どうせならもっと泣き喚けよ。死ぬ寸前まで叫び続けて死にな」


 俺にここまでさせたんだ。楽に死なれたら最悪だ。徹底的になぶる。


「さっきあんなでかい声出していたんだ。ならもっと出せるだろ?」


「た……たすけ……て……」


「今更命乞いか? 通るわけ無いだろ」


 理解できん。ここまでやってなぜ助けてもらえると思った。


「い……や……おねが……い……」


「俺なら命乞いはしない。例え四肢をもがれ、骨を全部折られても、お前ら胸糞悪いカスに命乞いをするくらいなら、最後までお前らに唾を吐きかけて死ぬ」


 こいつはもう飽きた。命乞いしかできないやつは、遊び甲斐がない。

 全力の電撃を体中に走らせた。


「あがががががががああああぁぁぁぁ!!」


「それでいい。俺の気分を晴らすためだけに、惨めに、無様に、死んでいけ」


 迸る光の柱に飲み込まれ、ルリナはこの世界から消える。

 これで少しは気分も晴れた。次はギガイだ。


「ふむ、やるね。僕の相手に相応しいよ」


 余裕のつもりか、笑顔と拍手で迎えてくれる。

 こいつに拍手を送られても嬉しくないな。

 相方が死んだのに、感傷に浸る気配もない。


「仲間がやられているってのに、呑気に見てやがったな」


「仲間? ルリナなんかに興味は無いね。せめて君の能力を観察するサンプルになってくれればいいさ」


 魔力のこもった弾丸が大量に撃ち出される。

 今の俺なら見てからでも回避可能だ。

 最短ルートで回避しつつ突っ込む。


「想定内だよ。これならどうだい?」


 全方位に向けての極大ビーム砲か。

 ご丁寧に全弾魔力を込めて撃たれている。


「高密度の魔力なら届くのだね」


 俺の体をごっそりふっ飛ばしたことで、そう思っているのだろう。

 だが無駄だ。神話生物クラスなら別だが、こいつ程度の魔力じゃ何もできん。

 ルリナの槍と一緒だ。適当に雷で人体を整える。


「残念。その程度で俺は殺せない」


 ふっとばされても消滅はしていない。むしろ分散してより強固になる。

 そして滲んでいた世界が、よりクリアになっていく。


「またか……それにこれは……」


 周囲を魔力の雷で取り込むと、俺の魔力にできるらしい。

 つまり空気でも取り込んでおけば修復は永久に可能。


「君にダメージを与えるにはどうすればいいのかな?」


 チェーンソーが俺の上半身と下半身を分断する。

 だがそれも一瞬。物理攻撃は通用しない。


「さあ? 俺もこの状態になるのは初めてでね」


 ダメージも何も痛みはない。

 しかも二回斬られたはずなのに、二回目は切り傷がない。

 これはリベリオントリガーの効果じゃないな。


「目の前にちょうどいい実験材料がいるんだ。試してみるか」


「吐かせ! レーザービット!」


 直径一メートルほどの子機が十数個飛んでくる。

 俺を囲んで攻撃し続ければいいとか思ってのことだろう。

 その攻撃にわずかな隙間を見つけ、一本の矢となってギガイへ飛ぶ。


「なんだと!?」


 人の形などしている必要はない。

 飛んでくるビームを迎え討つ必要もない。

 速度を落とさず、何度も直角に曲がり、ジグザク飛行でギガイへ肉薄。


「くっ来るな化物!!」


「お断りだ」


 さっきのお返しだ。ギガイの右腕をごっそり焼き払ってやる。

 骨も残さずにな。


「ぐっ……あああぁぁぁぁ!?」


 半狂乱で銃弾を撃ち続ける様は、なんとも哀れですかっとする。

 一応回避行動を取ろうとするが。

 避ける寸前。その必要もないと直感で悟る。


「たまには自分の勘ってやつに従ってみるか」


 そしてすり抜けた。さっきまでの攻撃をくらいつつノーダメージだったのとは違う。確実に当たっていない。直撃コースなのにだ。


「なるほど。勇者としての力……そういうことか」


 前にシルフィと先生が戦っていたときに見た。

 勇者システム。その覚醒。

 世界を都合のいいように改変・破壊・創造する。

 勇者にだけ許された絶対特権。


「ただあいつを攻撃する。それを選ぶ。自分の道も。法則も俺が決める」


 俺に傷を負わせるほどの魔力は、勇者システムと回避判定で避ける。

 単純な物理攻撃は雷化状態なら無効化できる。

 その二つを混ぜて、世界のルールを無視して無敵の雷光となる。

 そこまで魂が理解した時、世界に、その法則にかちりと嵌り。


「ウオラア!!」


 そして砕いた。


「ぐうあ!?」


 右拳での裏拳。絶対に届かない距離にいるギガイへのダメージ。

 それも装甲の内側をえぐるように、過程や障害を無視して届く。


「まただ……また誰かに殴られた!? なんなんだよ!!」


「リベリオントリガーと勇者システムの合わせ技。反則もいいところの裏の道。世界の法則から外れ、ぶっ壊し、自分が有利な状況へと無理やり変えちまう裏技」


 全ての力を剣に込め、上段に構える。

 敵がどこにいるかだけわかればいい。

 あとは攻撃を選び、世界を従わせ。


「これが今の俺の最終奥義」


 ただ全力で振り下ろす。


「リベリオントリガー・マックスアナーキー」


 頭から縦に亀裂が走り、ゆっくりと、ギガイの体が左右に別れていく。


「なんで!? なんでだ!? 斬られてない!! 当たってないのにいいいいぃぃぃぃぃ!!」


 ルリナより派手でドでかい爆発を起こし、天へと雷柱を昇らせる。


「面倒にも程ってもんがあったが、まあ気分は晴れたな」


 まだ全員参加の乱戦は続いている。

 急いでリリア達のいる場所へ移動。


「戻ったぞ」


「おかえり。意味わからん進化しおったのう」


「なんか凄かったよ! どうやったの!」


「何が起きているのかわからなかったけれど、戦っている貴方は素敵だったわ」


 自分でもよくわからん状態なのに、普通に受け入れたなこいつら。


「それ使ったら鎧を着るか、わしのいる場所以外では禁止じゃ」


「だろうな。気をつける」


 でなきゃ解除もできん。これ危険過ぎる。

 一生使わないで生きていきたい。マジで。


『アジュ・サカガミ、勇者システム適合率急上昇。要検討。全生徒のデータ収集完了。ワタシの修復を優先。帰還する』


「そうかいそうかい。逃がす気はないぜ」


 敵が全て消えた。本当に帰るつもりなんだろう。

 次元に大きな裂け目ができ、そこへ入っていこうとしている。

 この時を待っていた。


「リリア、煙」


「ほいほい」


 会場を煙で満たしてもらった。

 場が混乱しているようだが、かえって都合がいい。


「リリア・シルフィ・イロハ」


 剣を先生から回収し、こいつらに釘を差しておこう。


「待っていてくれ」


 これから行く場所は本当に危険だろう。

 守りきれるかもわからん。はぐれないように、この世界にいて欲しい。


『ヒーロー!』


 流石は鎧。無茶苦茶に乱れていた身体を瞬時に修復していく。

 軽くリリアの回復魔法でサポートを受ければ、元の体に戻れた。


「俺達四人の家で。バラバラにならないように、俺の帰りを待っていてくれ」


 くれこが逃げた次元を、剣が付けた傷を探知機にして特定。

 同じ場所への亀裂を開く。剣なら次元の壁でも斬れる。


「必ず戻る」


「うむ、留守は任せるのじゃ」


「いってらっしゃい!」


「いつまでも、帰りを待っているわ」


 不安はない。笑顔で送り出してくれることに感謝して、次元の裂け目をくぐった。




「見つけたぜ」


 そこは何もない空間だった。ただ真っ白な場所が続いている。

 遙か先にくれこが漂っていた。


『アジュ・サカガミ? どうやってここへ? アカシックレコード以外に特定できる次元ではないはず』


「知らんな」


 そこでくれこの周囲に大量の本棚と武器の収納が飛び出す。


『異常な魔力を感知。特定不能。全能力計測不可。次元侵入者を排除する』


「くれこ。お前は潰す」


 俺達の情報を記録する人間などいてはいけないのだ。

 四人での平穏無事なスローライフを邪魔するものは、誰であろうが許しはしない。

 危険なやつに知られた以上、その全てをここで消す。

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