VSアカシックレコード軍

 アカシックレコードのくれことかいう薄気味悪い女が邪魔。

 とりあえず先生に殺してもらうか、援軍を待とう。

 戦闘中のヴァンでも見てみようかな。


「どうしたギガイさんよ! オレの噛ませ犬で終わっちまうぜ!」


「舐めるなよ蛮族が!」


 右腕にガトリング砲が。両足にローラーとジェット噴射のブーツが現れる。

 あの出現の仕方と兵器には見覚えがあった。


「テメエ管理機関か。アヌビスって野郎を知ってるか?」


「アヌビス? ああ、思い出した。僕ら機関が兵器の提供をした犬の神だろう。研究所は潰れたって聞いたけど、君がやったのかい?」


「ああ……それだけ聞けりゃあ十分だぜ」


 ヴァンから膨大で、とてつもなく暴力的な魔力が吹き出している。


「オレの実力を測りたいんだろ? 地獄でお仲間にたっぷり語ってきなぁ!!」


 地面にクレーターを作り、ヴァンが消えた。


「なっ、どこへ行った!?」


「ウオオオオオオオラアアアアアァァァ!!」


 斬撃と打撃の嵐がギガイを襲う。その殆どが見えない。

 完全にキレているなあいつ。そりゃ事情を考えればそうだろう。

 邪魔しないように離れておく。こっちへの風が凄いし。


『アジュ・サカガミ。まずはドラゴンで検査する。精一杯抗うといい』


 緑色の羽があるドラゴンを出してきた。

 翼が二枚。両手足のある西洋のドラゴンだ。

 五メートルくらいあるぞこいつ。


「まずがドラゴンはハードルが高くないかい?」


『勇者科ならば当然。早く戦うといい』


「サンダースマッシャー!」


 とりあえず手加減無しで撃ってみる。

 でっかいから当てやすいんだけれど、硬い体には傷すらつかない。


「やっぱまだ無理か」


 流石にドラゴン相手は厳しい。俺は一般人だ。

 こちらに走ってくる敵から距離を取ろう。


「無事か?」


「ひとまずギルドメンバーは無事よ」


 少し離れていたリリア達と合流。先生もいる。

 どうやら生徒を守りつつ戦っているせいで身動きが取れない模様。


「でもドラゴンが多すぎるよ!」


「本体潰すしかないか。先生、あいつの相手お願いします」


「わかったわ。しばらくドラゴンの相手をお願いね。あの鎧使ってもいいから」


「わかりました」


 とは言っても乱戦だ。派手に動きたくはない。

 観客もいる。未だに結界を破れないようだけれど。

 鎧を使って動くには、ちょいと邪魔が多い。余波で何人か殺しちまいそう。


「ライトニングフラッシュ!!」


 かなり強めに撃ったが、それでもドラゴン二匹のブレスに押される。

 赤と青の炎が混ざってちょっと綺麗だが、観賞している余裕はない。


「イロハ、影。リリア援護」


「ほいほい」


「影よ!!」


 地面から影の槍が飛び出し、次々にドラゴンを縫い付けていく。

 影に触れることができないのか、もがいているだけで脱出はできないようだ。

 そこにリリアが追い打ちをかければ倒せる。


「一匹くらい倒してみるのじゃ」


「できるかねえ……」


 言いながら両手に魔力を集中。あまり連発はできない。

 これで薄皮一枚焦がせなかったら逃げよう。


「プラズマイレイザー!!」


 今できる最大火力の雷撃である。

 一直線に飛んでいき、ドラゴンの真っ赤なブレスも押しのけて直撃。

 そのまま死んでくれればいいものを、体を捻って回避しやがった。


「ちっ、無駄にしぶとい」


 右の翼と体の五分の一くらいは削れた。

 まるっきり通用しないわけではないらしいな。


「次はこれだ」


 痺れクナイを三個投擲。やはり内部は比較的柔らかいようだ。

 簡単に刺さってくれた。


「暴れっぱなしだな」


 かなり即効性のはず。体内に直接ぶっ刺しているのだから、むしろ早く効いていい。なのに元気なのは何故かしら。


『状態異常による横着は禁止。全力でいくといい。ちゃんと実力を見せるといい』


 くれこの声が俺達のいる場所まで響いてくる。

 ちょいとそれは異を唱えておきましょうか。


「いやそういう絡め手や小細工も実力だろ」


「そうだそうだー!」


「負ける方が悪いのじゃ」


「技術やセンスは成長と呼んでいいものよ」


 ここで仲間内から擁護が入る。

 こんなん俺の戦い方ほぼ全部禁止じゃないか。


『一理ある。しかし、今は基礎体力と自力を測定中。その申し出は却下するといい、はず』


「自信ねえならやるな!」


 ドラゴンの傷が治っていく。というより肉体が復元していくようだ。

 リリアと一緒に攻撃魔法でふっ飛ばしたが、新しいのが追加されるだけ。


『繰り返す。何度でも。コピーも再生も、データがあれば望むがまま』


「あら、だったら貴女を倒せば終わりじゃない」


 先生の炎を宿した剣が、くれこの首を薙ぐ。

 首と胴体が別れたはずなのに、平然と話し続けるくれこは、かなり不気味だ。


『ワタシはアカシックレコード。概念であり、死なんて無い。生物ではない』


 まずいな。先生に概念を斬る手段が無ければ、俺が殺すしかなくなる。

 ヴァンはギガイと戦闘中。あいつも復元するらしい。

 ルリナは金子とかいたぶっている。よしよし、そのまま殺しちまえ。


『ルリナ、能力を調べるといい。簡単に殺すのは禁止』


「失礼いたしました。オラ、テメエらが弱えからアタシが怒られんだろうが!」


 金子のロングソードを奪い。紫女の小太刀を奪い。緑女のメガネを奪って遊んでいるようだ。自分にかけているのは、気に入ったのかね。


「くれこ様、こいつらクソザコですよ。いくら調べても無駄。貴族ってだけのザコ」


『そう、ちょうどいい。アジュ・サカガミの力を調べるといい』


 最悪。あの性悪クソ女が相手になるらしい。

 戦闘を見た限りじゃ、三叉の槍が武器だ。接近戦はしたくないが。


「ザコの後は男? つまんねえの。ザコ女より楽しませてくれんの? クソ弱かったら殺すよ?」


「はいはい。だがお前は見誤った。そのザコ女の執念をな」


「なんだって?」


「まあいいから死んどけよ」


 うっかりメガネかけちゃっているのが運の尽き。

 バーストキーの効果はまだ残っているので、全力大爆破。


「うげああぁぁ!?」


 見事に顔面爆破に成功。どうせ死んじゃいないだろう。追い打ち行くぞ。


『ソニック』


 ここがチャンスだ。最速で潰す。手加減はせず、一気に始末しよう。


『ソード』


 久々に取り出した最強かつ伝説っぽさの溢れ出ている剣。

 これなら確実に殺しきれる。


「はっ!!」


 今できる全力でダッシュ。ソニックキーの効果で加速もかかる。

 前に飛んで縦一閃。さらに体ごと回転して横一閃。

 急速離脱で仲間の元へ。そこでソニックの効果は切れた。


「あ……え……なんで……いやっ、消え、くれこ様!!」


 ルリナははじけ飛んで消えた。

 使っていた管理機関の装備の爆発もあってか、盛大な送り火となる。


「シルフィ! 俺と先生!」


「了解!」


 時間を止めてもらい、俺の剣を先生に渡す。

 実験はルリナで済ませた。問題はないはず。


「これ使ってください。おそらくくれこも殺せるはずです」


「ありがと。借りるわね……なにこれ。軽いし……普通の剣じゃないわ」


「そこは深く考えないでください」


「わかった。しばらく借りるわね!」


 生徒に理解があり、むやみに踏み込んでこない。いい先生だな。

 そこで時間停止も解除してもらう。


『ルリナロスト。アジュ・サカガミ、最低限の戦闘力はあり』


 ありゃ。俺がやったことはわかるのか。ごまかしておこう。


「違うね。緑のメガネ女の執念さ。あいつがメガネに爆破魔法をかけておいてくれたから、その隙に攻撃できた」


『なるほど。あの子の評価を上げておくといいね』


 秘技、メガネ女に功績をなすりつけるの術。

 俺の評価が高くなってはいけないのだ。


『ルリナをデータから復元……できない? 素体転写、ルリナの情報をゼロから可能な限り制作』


 白いマネキンっぽいものが出て、そこに頭からゆっくりとルリナの外見が重なっていく。なんだあれ。どういう仕組みだ気持ち悪い。


『さあ、ルリナ改と戦うといい』


「断る」


『従わなければ観客を殺す』


「それがどうした」


『…………どうしたら戦ってくれる?』


 なんか困り顔だぞ。首かしげるほどかね。


「俺以外を調べろ。でなきゃ帰れよ」


『アカシックレコードの仕事がある。今ならギガイ改もつける』


 ルリナの横にギガイが出ました。お前何でもありかこの野郎。


「観念しろよ。アタシから逃げられるわけねえじゃん!」


 足裏についているブースターで突っ込んでくる。

 鬱陶しい。近づかれる前に殺そう。


『エリアル』


 高速移動と空中戦に対応できるよう、軽く地面から足を浮かせておく。


『ショット』


 ショットガンモードでひたすら連射。これで装甲に故障でも起きてくれたらいい。


「しゃらくっせえんだよ! アタシをなめんな!」


 ルリナが猛スピードで接近中。減速すらしていない。


「ライトニングフラッシュ!!」


 ある程度絞って撃ち出す。これなら流石に止まるだろう。


「甘い!」


 流石の機動力だ。回転して避けながらこちらへ来る。

 しかも右腕に小型のビームガトリングがついているじゃないのさ。


『ガード』


 咄嗟にガード。透明な壁に阻まれ、弾けて消えるビーム。

 その間にも距離は詰まる。やるしかないか。


「リベリオントリガー!!」


 あまり使いたくはないが発動。視界がだいぶクリアになった。


「ホラホラ必死こいて避けなあ!!」


 ルリナの突きをなんとかかわす。銃弾もぎりぎり見える。

 見えたらかわすか弾いてなんとか凌ぐ。

 一撃一撃が鋭い。ああもう、鎧使っちまうかな。


「大人しく衆人環視のもとで醜態を晒すといい」


 背後からギガイの剣が迫る。こいつも飛べたんだったな。


「雷光一閃!」


 スロット一個使って敵の剣を砕き、装甲に切り傷を付けた。

 だが深くはない。面倒だな。魔力を貯める時間も少ない。


「背中ががら空きだぜ童貞野郎!」


「させないよ!!」


 空中戦にシルフィ乱入。ルリナ改を止めてくれる。


「助かる。任せるぞ」


「任されました!」


「アタシの邪魔すんじゃねえよ小娘が!!」


 自力ではシルフィが圧倒的に上だ。ルリナはこちらに構っている余裕がなくなる。


『シルフィ・フルムーンから神の力を検知。検索完了。クロノス? 名前重複。再検索』


「先生!!」


 まずい。シルフィの情報を渡す訳にはいかない。


「わかってるわ!」


 先生に渡した剣が、くれこの胸を貫いた。

 あいつは防御するという意識がないのだろう。


『損傷確認。肉体の強度を上げ、再生開始』


 先生を手のひらから撃ち出した衝撃波で吹き飛ばしている。

 そして自分の胸を触り、首をかしげるくれこ。


『ワタシの体も復元不可? 検索を開始。検索不可能。分析不能。シャルロットを最優先で討伐。念のためワタシを百倍に強化』


 痛みはないのか。剣と痛みの調整は俺がしないとダメなんだな。

 ならしばらく黙っておこう。何かに使えるかもしれない。


「まーた余所見かよカスが!!」


「どうかな?」


『ミラージュ』


 そっちが増えるなら、こっちも増えるだけだ。

 大量に分身を出して突撃させる。


「サンダーシード」


 分身の一部に雷撃の種子を植え付けた。

 下手に接近を許せば爆裂する。


「うげっ!? テメエ卑怯だぞ!」


「その通りだが?」


「ガアアァァ!! 大人しくアタシに殺されろカスがああぁぁ!!」


 分身の対処に追われているルリナ。はっはっは、ざまあないぜ。


「汚物ごときに傷をつけられるのも気に入らんからな」


「なんだとテメエ! アタシのどこが汚ねえんだよ!」


「全部だよ。心も、外見も、言動も、あまりにも処女性に欠ける」


「んだとクソが!」


 汚物オブ汚物の称号をプレゼントだ。

 戦っているシルフィの方が七兆倍綺麗である。


「そこは僕も同意しよう」


「ギガイテメエ!!」


『検索妨害はやめるといい。アジュ・サカガミのギルドメンバーへのドラゴン派遣数を十五倍に』


「なんだと!?」


 何度か見た限りじゃ、リリアとイロハでも余裕だった。

 だがこのまま増えていけば、最終的にはジリ貧だろう。

 勇者科にも限界はある。


「シルフィ、行くぞ」


「わかった!」


 二人の所へ戻ろう。四人で対処すればどうにでもなる。


「あいつらがそんなに大事かい?」


「んじゃアタシらがボロクソに潰してやんよ!!」


 遠距離攻撃の全てをリリア達に向けて放ちやがった。


「鬱陶しい!」


「させない!」


 ガードキーの範囲を俺からリリアとイロハへ。

 同時にシルフィが時の壁で銃弾を止める。


「調子に乗るなよ!」


 空中で縦に一回転。両足を揃えて雷光を付与した、一本の電撃かかと落とし。


「くたばれ!!」


 さらに魔力で巨大化した。こいつで吹っ飛ばしてやる。

 手応えあり。装甲の上からでも厳しいだろ。サンダーシードもおまけしてある。


「ぎっ!? げあぁ!?」


「つう……やるじゃないか」


 撃ち落とせないか。それでもダメージはあるようだ。

 それだけが救いか。


「うっぜえ……アタシに何度も傷を……」


「悪いシルフィ、ドラゴン三人で対処してくれ」


「アジュ?」


「いいから。いざとなれば鎧がある」


 長時間リベリオントリガーを使いすぎた弊害だろう。

 体が痛みを通り越して、自分と世界の境界すら曖昧だ。

 風景と敵が滲む。この状況で共闘はできん。


「行け」


「信じてるよ」


「好きにしろ。俺は俺のやりたいようにやる」


「行かせると思っているのかい?」


 足止めができればいい。まずギガイを消そう。

 飛び回っているこいつらを確実に叩くには、接近戦か、魔法で撃ち落とすか。

 考えがまとまらない。


「攻撃」


 距離の計算と感覚すら無いのか、無意識に右側へと裏拳を放つ。

 攻撃に移る瞬間だけ、なぜかはっきりと敵が見えた。


「がっ!?」


 何かに当たった。横には何もないのに。

 ギガイが驚きに目を見開き、右頬を触っている。


「なにやってんだギガイ?」


「わからない。何かに殴られたんだ」


 攻撃の瞬間何かが見えた。何だ今の。 

 何かが世界に嵌まる感覚。これも俺が選んだのだろう。


「選ぶ? 何を?」


 思考がまとまらない。何かを決めた。できるという確信とともに。


「お前らの相手は俺だろ? 来いよ」


「今更何言ってやがんだ?」


「くれこの命令に逆らうのか?」


「…………ちっ」


 ゆっくりと、こいつらだけを殺せるスペースへと降りる。

 向かい合っても恐怖はない。ただ邪魔なクズを消すだけだ。


「もういい。試験も、客もどうでもいい。とにかく今は、こいつらが胸糞悪い」


 リリア達を危険な目に合わせ、俺にこんな反吐が出る面倒事を押し付ける。

 そのうえ相手が二人ともくそ以下の人間もどきだ。やってられるかよ。

 こいつらを止めなきゃいけない現状も、ただひたすらに鬱陶しい。


「殺せば、ちょっとくらいすっきりするだろ」


 徹底的にやってやる。後先なんて考えずにな。

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