自宅を見てみよう

 領地内にあるという自宅へとやってきた。熊親子も一緒だ。

 正門から見た感じ、作りは同じっぽい。


「学園にあるやつほぼそのままだな」


 自宅よりも豪勢で頑丈そうな門がついている。

 俺より高いくらいの壁で仕切られ、正門は金持ちの家にある中が見える細工のやつ。名称がわからん。

 壁も少しだけ中が見える格子みたいなやつがついている。


「あれよりも中は広く、それでいて住みやすい構成です。庭をもっと広くして、結界を張りました」


 門を超え、少し先に軽く柵が作られている。


「二重結界です。あの柵から先はさらに浄化の結界が強固に張られています」


「むしろあれこそが真骨頂。登録した者以外が超えることはできません」


「登録?」


「門の内側と家の中に装置があります。今回は門の結界を魔物限定とし、お客様に対応できるモードにしておきました」


 壁の所に大きな小屋があり、中に見たことのない装置が二個ある。

 大きな小屋ってなんだろうね。他にどう形容するかわからん。


「ついでにクーちゃんも登録しておくのじゃ」


「きゅっ」


「そうだな。これどうやる?」


「まず手を乗せてください」


 言われるままに乗せてみると、台座そのものが淡く光る。


「そのまま登録したいものの手を、隣の台座に乗せてください。外にもありますので、来客は一時的にそこで登録します」


「なるほど、よし乗せてみろ」


「きゅ」


 両方の台座が光る。実にあっさりと終わったな。


「きゅっきゅ」


 楽しそうだ。なんか面白かったんだろう。


「他の子もやっておくぞ」


「親熊は入るかのう?」


「ぎりぎりなんとかなるはずです。かなりの巨体を登録できるように小屋を設計しましたので」


「小屋の定義がおかしくなるな」


 熊親子の登録完了。ギルメンも終わった。

 これで俺達四人と熊親子、キアス、アスモさん、陽炎さんは確定。

 施工主代理としてヒカルも登録されているらしい。

 まあそのへんは必要だろうからよし。


「ミナとコタロウさんも入ってるみたいだよ」


「フウマの誰を入れるか考えないとな」


「そうね。ちゃんと考えておきましょう」


「それじゃ室内だが……流石に入らないだろ」


 熊親子は庭にいる。しばらくしたら湖のそばにある巣に帰るらしい。

 クーだけが入ってくることになった。


「あんまりそこら中掘り返したりしないでくれよ?」


「グオ」


 庭で集まって昼寝を始める熊親子。

 集団で丸まって寝るのは自衛なのか習性なのか。両方かな。

 あの場所が温かいらしいな。覚えておく。


「熊が寝ていても全然余裕あるな庭」


「普段の家より広いからのう」


 全く同じ作りの玄関から中へ。

 中も少し広いいつもの家だな。


「いいね。急に家が変わると眠れないし、寛げない」


「それを想定しておるのじゃな」


「いい仕事だ。ヒカルとヤマト」


「きゅー」


 人間の家が珍しいのだろう。きょろきょろしているクー。


「人間の家は色々と危ないものとかあるから、何でも舐めたり食べたりしたらだめだぞ」


「きゅっ!」


 頷いている。意思の疎通ができるというのは便利だな。

 そのままリビングや風呂などの部屋を見て回り、それぞれの個室も同じ作りであると発覚。

 見学を終えてリビングでだらだらする。


「はーいお茶いれるよー」


 シルフィとイロハがお茶をいれてくれる。

 その工程が新鮮なのか、ずっとクーが見ていた。

 横に置いてある砂糖と塩の瓶も見ている。


「きゅー?」


「甘い匂いでもしているのかしら?」


「いいか、調味料は加減を間違えると危険だ。甘いけど食べ過ぎると体に悪い。許可なく食べないこと。ビンとかに入っているやつを全部食べようとしないこと」


 指にちょっとだけ砂糖を付けて舐めさせてやる。

 舐めても大丈夫だとリリアから聞いておいた。


「きゅっ」


 甘さに感動しているようだ。

 ここで終わらせるとダメだな。

 次にもっと少なめに塩だ。


「こっちはしょっぱいから、砂糖みたいに一気に舐めない」


「きゅー……きゅ!?」


 そーっと舐めてしょっぱさに驚いているな。

 器に水を入れて飲ませてやる。


「わかったな。同じように見えて、人間の食い物は味が違う。辛くて舌が痛くなるものだってあるから注意だぞ」


「きゅっきゅっ」


 大きく頷く。よしよし学習したな。こいつ本当に賢い。撫でてやろう。


「火を使ったりする場所も多いから、気をつけるのよ」


「こぼしちゃうとお掃除が大変だからねー」


「わかったらおとなしくソファーで待ってような」


「きゅ」


 一緒にソファーに行ってお茶を待つ。

 暇なのでクーを撫でて遊ぶ。


「きゅー」


 ふかふかというべきか、もふもふというか、とにかく撫でていて楽しいな。

 反応が素直で大変よろしい。


「きゅーきゅ」


 指を甘噛みしてくる。痛くはないがどういう心境なのかわからん。


「じゃれておるだけじゃな。いい子じゃ」


 リリアが撫でるとそっちに行く。

 人懐っこいのかね。


「クーちゃんはいい子じゃのう」


「世の中には悪人もいるから、知らない人について行ったり、撫でて貰おうとしたらダメだぞ」


「きゅっ」


「クーちゃんは賢いですわ。ちゃんといい人を見極めていますのね」


 確かにアスモさんが撫でようとすると警戒した。

 賢い。地味にショック受けているアスモさんが新鮮だった。

 肉球をふにふにして戯れているとお茶が来る。

 クッキーもあるな。


「本格的に家だな」


 みんなで飲み食いしながらゆったりと過ごす。

 完全に自宅だ。もう寝そう。


「きゅっ」


 クーが両手でクッキーを持ち上げている。

 鼻が動いているし、食えるのかな。


「きゅー?」


 こっちを見ながら鳴いている。

 食っていいいか聞いているのか。


「食えるか?」


「問題ないのじゃ」


「食ってよし」


「きゅっ!」


 おいしそうにかりかり食ってやがる。

 確かにいい味だ。お茶に合う。


「人間が作ったものも野生のものも食えるのか。免疫力とか強いのかね」


「動物は人間よりも汚れに抵抗があったり、病気になりにくかったりするのじゃ。野生動物は土がついたものを食べても平気じゃったりするじゃろ?」


「なるほど。見かけより頑丈なわけか」


 しばらく体を休めていると、もういい時間だ。


「今日は泊まっていくか。明日学園に戻ろう」


「ではお館様、ごゆっくり。私は作業班の警備に戻ります」


「案内助かりました」


 そしてゆらりと陽炎のように消えた。

 普通に出ていっちゃダメなんだろうか。


「マスターお風呂の用意ができましたわ!」


「なぜアスモさんが準備できるんですかね」


「わしが準備している時に来たからじゃ」


「絶対に一緒には入りませんよ」


 今日は色々と見て回って疲れたのだ。

 余計なことをしないでください。


「俺はゆったり風呂に入りますので」


「こっちで晩ご飯の準備だけしておくね」


「悪いな」


「ならば邪魔にならぬよう部屋に戻るとしよう」


 なんと一階にキアスの個室もあるのだ。

 別荘はキアス加入後に建てたからな。


「部屋はどうだ?」


「おかげで快適でな、マスターには感謝しているよ」


「一緒に入れるように作ってあるのじゃ。召喚獣と一緒に入るとよい」


 みんなで入る用と、召喚獣と一緒に入れるやつとを浴槽で分けたらしい。

 色々と種類のある温泉宿みたいになっているとか。

 そういうとこだけ改良してあるのだ。


「つまり私も入れますのね!」


「最悪だな」


「きゅー?」


「ならばクー、マスターと行くか」


「きゅ」


 アスモさんはギルメンで見張り、食事を手伝ってもらうことにした。

 頼むから来ないでくれと願うばかりだ。


「おおおぉぉぉ……グレードアップしてやがる」


 大浴場がさらに進化している。

 檜風呂っぽいものから大人数で入るタイプまで複数ある。

 軽く体を流してから入ってみよう。


「はー……こりゃいいもんだ」


「うむ、疲れが癒えるな」


「きゅっきゅ」


 クーは小さい木組みの風呂桶に入れて浮かべている。

 ちょっとした魔力に反応するようなやつ。


「クー、あんまり遠くに行くなよ」


「きゅ!」


 楽しそうに桶に入り、風呂の中心へとゆらゆら揺れていく。

 まるで小舟で漂っているようだ。


「よーし、こっち戻ってこい」


 桶の中に内蔵された装置により、ボタンを押すと飼い主のもとに戻ってくるのだ。

 ボタンは特製の腕輪と桶についている。


「きゅー」


 なんかきりっとした顔で戻ってくる。


「きゅ!」


 ただいま帰還しました! みたいなキメ顔である。


「おお、凄い凄い」


 これは褒めればいいのだろうか。


「ほれ、横にいろ。あんまり遊ぶとのぼせるぞ」


「きゅ」


 浴槽の段差の部分に座らせてゆったりさせる。

 ちょうどクーが座って、首だけ水面から出る段差があった。


「いい温度だ。熱すぎると長く入れないからな」


「うむ、よい湯加減だ」


「きゅーきゅ、きゅっきゅー」


 座っているのに飽きたのか、俺とキアスの間をぱしゃぱしゃ泳いでいる。

 意外とすいすい泳ぐ。こいつ何やってもかわいい。


「熊って泳げるのか。そりゃ白熊とか寒い海にいるもんな」


「きゅー」


「満足したか? じゃああがるぞ」


「行こう」


 脱衣所で体をぷるぷる振っている。

 犬が水を払う時の仕草だ。


「こーら、拭いてやるからこっち来い」


「きゅっきゅきゅ」


 くすぐったいのか笑っている。楽しそうだ。かわいい。


「成長すれば、魔力で弾けるようになるはずだが」


「野生の癖なんだろうな」


 キアスは水そのものを魔力で弾いて床へと流せる。

 お前そういう地味に凄い技持っているよな。


「よーし、飯にするぞ」


「きゅっ!!」


 とりあえず飯だ飯。

 準備だけしているだろうから、女どもが風呂に入っている間に盛り付けておくか。

 なんとなくこういう変則的な飯の準備をすることもある。


「まだ寝るなよクー」


「きゅ!!」


 今日のメニューに期待しながら、リビングに戻るのだった。

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