女の子を部屋に誘ってみる
晩飯食って全員風呂に入ってパジャマに着替えてリビングでだらだらタイム。
俺にとってはここからが至難の業だ。
目標は部屋で遊ぶ。次回があったら外に誘う。さてここからどうするか。
みんないつもなら流れで解散するか、俺が部屋に行く時に誰かがついて来る。来るはずなんだ。
なのにみんなリビングを動こうとはしない。この状況は好機なのだろうか。
「今日も疲れたな」
適当につぶやいてみる。リリアからなんかフォローが欲しい。
「そうじゃな。もう今日は寝るだけでよいじゃろ」
「だよな。慌ただしかったし。客のいない日があってもいいよな」
「そうね。こうしてゆっくりするのも悪く無いわ」
「うんうん、平和なのはいいことだよー」
誰も部屋に戻ろうとはしないんだな。なんだろう先に動いたら負け的なことなのか。
問題はどう切り出すかだ。なにに誘えばいいんだか決めてない。部屋になにがあったかな。
こういう出だしの部分考えるの苦手だ。
「久々に部屋でゆっくりするか。みんなやることとかないのか?」
これで反応を見る。誘った後にごめん用事がある。とか言われたら一週間は誘わない自信がある。
「なーんにもないよー」
「私も無いわ」
「わしもじゃな。今日くらい自室でだらだらするとよい」
みんな予定なし。あくまでもさりげなくいこう。意識していると思われるのはきつい。
「そうさせてもらうか。後でベッドに入られても困るしな。来たいやつがいたら今から一緒に来ればいい」
限界までさり気なくやったつもりだ。どうせ来るんだから結果は一緒じゃん、という感じが出せればさりげないはず。
「そう、それじゃあ私も…………………………え? それは部屋に来いということ?」
かなり間があったイロハの質問にちょっと考える。来いといってしまうのは恥ずかしい。あと常駐しそうで困る。一人の時間も好きなので、ずっといられてもしんどい。四六時中誰かと一緒はストレス溜まる。
「突然いるとビクっとするからな。最初から来てしまえばいい。逆転の発想だ。来るか?」
ちょっと早口な気がするが問題ない。言い訳が長くなってる気がするけど問題ない。
「緊急会議に入ります!」
シルフィがよくわからんことを言い出した。三人が一箇所に集まってなんか話している。
「どういうこと? 本物よね? これは私達が試されているのかしら?」
「試すとして何を? どうすると正解なの? 受ける? 断る?」
「いやあ難しく考えすぎではないかの?」
「ダメよリリア。しっかり考えないと。ここが勝負どころよ」
なんか会議はじまったぞおい。リリアがフォローしてるけど焼け石に水ってやつだなこれ。っていうか俺は普段そんなに誘ったりしてないかね。してないからこの騒ぎなんだろうな。
「アジュのことだから断ったらマイナス思考になるよ。絶対数日はネガティブになるよ」
その発言でいじけそうですよシルフィさん。みんな疑心暗鬼すぎるだろう。これは予想外だ。
「受ける方向で行くのね? だとしてどういう意図があるのかしら?」
「ただ一緒に遊びたくなっただけではないかの?」
「だったらここでもいいはずよ」
「部屋に来いっていうことは、室内での言動で何か判断されるんじゃないかな?」
うん、丸聞こえなんだよなあ。しないよ判断とか。イロハなら部屋に来いイコール抱いてやるぜのサインだとかいって変態行為に入りそうなのにな。そこまで俺から誘ったのは意外か。
「イロハももっと好意的に捉えていつもみたく喜々として部屋に入ればよいじゃろ」
「ダメよ。公認で部屋に入るなんて……その……緊張するじゃない。わかるでしょう?」
全然わかんねえよ。こんなにも俺とみんなに意識の差があるとは思わなかったぜ。
「それにこれはチャンスよ。欲望は抑えて、このチャンスをものにしましょう。次のお誘いはいつになるかわからないわよ」
「そうだね。ここで頑張ろう。わたし達のチームワークを見せつけようよ」
よくわかんないけどスポーツでもやっとるんかいお前らは。
「まあわからなくもないのじゃ。しかし、ここは行くしかないじゃろ」
リリアが行く方向でアシストしてくれる。頑張れリリア。お前だけが頼りだ。
「全員行くということでいいわね。次に決めるのは……」
「どこまでやっていいか、だね?」
「そうよ。部屋に行ってもディープキスできるとは限らないわ」
するつもりなんかい。限らないってかしねえよ。なんでディープ前提なんだよ。普通もダメだよ。
「まずキスが難易度高いじゃろ」
「はい! わたしに作戦が有ります!」
「聞きましょう」
「ディープキスを求めて断られた瞬間に普通のキスを求めるというのはどうかな?」
シルフィの提案がわりとえぐい。ギルドの癒やし成分が減るじゃないか。
「交渉の基本じゃな」
「いい案ね。問題は誰が最初にするかよ」
「まずキスがだめなんじゃって。部屋にいつでも入れてもらえるようにするべきじゃ」
そうそうそっちだよ。リリアがチラっと俺を見るのでそっと小さく頷いておく。ここまで全部会話が丸聞こえだ。
「部屋に行けなくなるのはいやかなー。目的がわからないけど誘ってくれるのは嬉しいし」
「アジュがついに歩み寄ってくれた、という解釈でいいのかしら?」
「ふむ……これは……」
「なに? なにかわかったのリリア?」
「デレ期じゃな」
「デレ期!? それはいったいどういうものなの?」
凄い神妙な顔してるけど猛烈にアホなこと言ってるからなー。
「普段つれない態度でありながら、ふとした瞬間に見せる優しさ。それがデレ期じゃ。好感度が一定値に達した時に起こりやすい」
俺はギャルゲーの攻略キャラか何かなのか。そういや前に攻略するとか言われたな。まあ好感度上がってはいるだろう。嫌ってる奴と一緒に暮らしたりはしないさ。
「それはつまりアジュがわたし達に心をひらいてきてるってこと?」
「じゃな。みんなで一緒に行けば大丈夫じゃ」
「よし、行きましょう。みんなで」
イロハとシルフィがキリッとした顔でこっち来る。リリアだけ笑いをこらえている。この状況を楽しんでるな。
「私達……アジュの部屋に行くわ」
「行こう! アジュの部屋に!」
これから最終決戦に向かうテンションで言われても意味わからんよ。
「と、いうわけじゃ」
「とりあえず長いわ!!」
そこだけはツッコんでおこう。部屋に行くだけでなんだよこの手間のかかりようは。
とりあえず俺の部屋まで一列に並んで歩いてきた。RPGのパーティーみたいだな。
「とうとうここまで来たのね」
「違うよイロハ。ここからが本当の戦いだよ」
「そのボケ禁止で。また長くなるだろ」
「じゃな。部屋に入るだけで騒ぎ過ぎじゃ」
「まあいいか。それじゃ入ってくれ。別に面白いもんなんか無いぞ」
部屋に招き入れる。あんまり私物とか買ってないんだよ。本はあるけどいかがわしいものはない。
「よーしアジュの部屋にのりこめー」
「さて、何をするかな。こういう時どうすればいいかよくわからんな」
「しまった……私としたことが……」
イロハが俺のベッドの上でがっくりと肩を落としている。
「なんだどうした?」
「ここで新しく買った下着を着てくればよかったわ」
「なんという大人の発想……すごいよイロハ」
そこで感心しないでくれシルフィ。
「見せるような展開にはならないって。普通にしよう普通に」
無駄にデカイベッドに座る。やはり自分の部屋とベッドはいいな。本当に俺の一番落ち着く場所だ。場所のはずだ。
「なんで全員ベッドの上にいるんだよ」
「大丈夫よ。なにもしないから」
「お前が言うと不安だよ」
なぜか全員がベッドの上だ。それでも一定の距離を保ち、抱きついてきたりしないのは本気で攻略しにきているようでちょい怖いぞ。何言い出すか予測がつかん。
「さて、それじゃあ適当にお話でもしようか」
「そうね、むしろここからが本番よ」
なにをするかこの状況に至ってもまだ思いつかない。思いの外ちゃんと頭が回らない。
なんとかしようまずは当たり障りの無い会話からだ。
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