戦闘開始と襲撃者
謎が多すぎるが、戦いは待ってはくれない。
最初の戦闘は草原と森林地帯で、お互い三十万まで。
補充は禁止で、本陣から敵の本陣にいるボスまでの殲滅戦である。
「長丁場になるか、短期決戦になるか」
本陣は高い壁の中にある砦だ。外壁に登れば、戦場が見渡せる。
これだけで要塞に近いな。
「ならば私が活路を開きましょう」
ここでリュートさんが出てきた。両手に三本爪の鉤爪をつけている。
なんか金色なんだけど、どういう素材なんだろうか。
「いいやここはオレたちが行きましょう! 第三騎士団なら、あんな連中なんぞ一捻りですよ!」
イーサンさんも出てきた。うしろにキールさんも、そりゃ重要な局面なら集まるよな。俺は方針に口出しできるポジションではないので、黙っていよう。
「いいえ、先陣切っての突撃こそ第六騎士団として、本領発揮の機会です! ぜひ私に!」
「五番より上がほいほい出るもんじゃーないぜ。一応最高戦力だろうに」
「番号が上かどうかなんて関係ない! オレはみんなと同じフルムーン騎士団だ! 全員の盾になる!」
「そもそも番号が少ないほど偉い、なんてルールじゃないでしょう。自分も団長も、騎士としてやるべきことをやるだけです」
リクさんが軽く手を叩き、注目を集めて話し始める。
「やれやれ、話がまとまりませんね。ではこうしましょう。リュート、フィオナ、イーサンがそれぞれ十万の兵で進む。後方で回復をルルアンクに。本陣の護衛と、兵糧へのガードにキールとコバルト。あとは秘密兵器として温存です」
「しょうがねえなあ……きっちりやっとけよ?」
「ばっちりなのー!」
ささっとまとまったが、参謀的な動きの人なんだろうか。
それぞれ表情は違えど、明確に異論があるものはいないようだ。
「ではジェクト王、号令を」
「よし! 進軍開始だ!!」
兵が動き始める。いよいよだな。さて俺はどう動くべきかね。
「さて、じゃあ私がいきますわ。お父様とシルフィはここにいてちょうだい」
「いけません。サクラ様は王位継承者、我々が解決いたしますので、どうか後方にてご指示を」
「大丈夫だよ姉さま。わたしが行ってくる!」
「いやいや、ここは王として前線で威厳を示す」
無駄な内輪もめが起きておりますぞ。王族って大変だな。
「リリア」
「うむ、基本はシルフィの護衛じゃな。ただし目立たぬようにじゃ」
「兵士と服装は似せているけれど、それでも目立つ行動は控えましょう」
俺は魔導兵の着る長袖の服に、いつもの色々と仕込んだコートと腰にポーチである。
これはクナイや煙幕、丸薬からなにから入っているので、できれば着ていたい。
「ならサクラ様とジェクト様に、中腹から鼓舞してもらうの! シルフィ様は本陣でお留守番でいいの!」
「負けないで……ううん、怪我しないでねフィオナ」
「任せるの!」
そして本陣でお留守番が始まるわけだが。当然空気は硬い。
無理に崩そうとしても無駄だろうから、いくつかある高台に登り、戦場を眺めつつ食料庫を見張る。
「大丈夫かな……みんな勝てるよね?」
「いけるさ。フルムーン最強なんだろ?」
「敵が出たようじゃ」
草原に迫る青銅の人形というかゴーレムというか。シルフィを襲ってきたやつらだ。確かタロスとかいうやつ。
大小サイズは様々だが、草原を埋め尽くそうと、おびただしい数が来る。
「おっと、ここでしたかーい、姫様」
キールさんが様子を見に来た。戦況が気になるのか、シルフィの護衛なのか知らんが、とにかくありがたい。
「なーんだ。敵ったってあんなもんかい?」
余裕の表情だ。微塵も心配なんてしていない。その理由はすぐにわかった。
「強いな騎士団」
できる限り三対一で戦い、個人戦になろうとも、同サイズの敵なら圧倒していく。
純粋に騎士団の練度が高いぞ。
「そーりゃそうさ。フルムーン全土を守って戦うんだぜーい」
灰すら残さず、一瞬で燃やし尽くすリュートさん。
オーロラのようなもので敵を覆い、いつの間にか倒していくフィオナさん。
そして剣と剛力で敵を寄せ付けないイーサンさん。
明らかに他とレベルが違う。
「空にもなんかいるぞ」
敵だな。グリフォンとかそういう類の生物だろう。
羽と口から火炎ブレスをばらまいていく。
「へーきへーき、空中戦なんてできて当然さ」
魔法部隊の出番なのだろう。一斉に射撃が開始された。
ほぼ必中レベルであてていくのは、見ていて爽快である。
「うおおおおおおおおおおお!! 燃えよ我が魂!! 烈火! 大炎爪!!」
空間に炎が染み込み、空に三本の巨大な爪痕を残す。
黄金の爪痕に触れた敵は、溶けるようにこの世から姿を消した。
「うーわ……どうやってんだあれ」
「はっはっは! やる気爆発だねえ。こーりゃオレの出番ないかもねえ」
オーロラがグリフォンを飲み込み、次の瞬間には地上に降ろされている。
あとは即座に狩られるのみ。
「ちゃっちゃと倒しちゃうの!」
どうやら心配は杞憂だったようだ。なるほどこりゃ凄い。
一流の戦場とはこういうものか。
「うむ、問題なしじゃな」
「キールさん、あれ……」
イロハが何かに気づいたようだ。視線を追ってみると、黒い兵が複数散らばっている。
「オレらの部隊だな」
黒い手袋に黒い軽装、革か布の鎧を身に纏った部隊だ。
遠いし兜やフードでわからないが、あれはキールさんが指揮する部隊だったはず。
「ええ、ほとんどは見張りをしているのですが、妙な気配があっちに集まり始めて……」
「あっちは食料庫じゃーないか」
門の前で別の兵士と何やら話している。
「はーいストップ」
俺たちの横にいたはずのキールさんが、もう怪しい連中の横にいた。
「お前ら、どこの兵士だ?」
「団長、我々は十三騎士団の同胞です。食料庫にて怪しい音がしましたので、何かあったのではないかと」
「名前を言ってみろ」
「ライアーとルードです」
「リサーチが足りなーいねえ」
二人の足元が凍りつく。そして同じ格好の連中がどんどん運ばれてくる。
運んでくるのも同じ格好だが、全員顔が見える人だ。
「まず声が違う。兜で安心したんだろうが、ライアーは同胞じゃなくて家族と言う」
「たったそれだけでは……」
「オレの部隊は、諜報と裏切り者の選別が主なお仕事だ。他の騎士団に潜入したりだってする」
何か嫌な予感がする。四人で高台を離れ、普通の兵士が多い方へと移動を開始。
その間にも、キールさんの話は続く。
「だからこそ、入団したらまず十三騎士団全員の顔と名前と特徴、魔力を頭に叩き込む。できるまで訓練以外の仕事はさせない」
明らかに場の空気が変わっていた。兵もそれに気づいたのか、自然と周囲を警戒し、いつでも攻撃に移れるように陣形を変えていく。
「他の誰が忘れても、オレらは絶対に仲間を忘れない。忘れちまったら、誰がそいつを覚えているってんだ」
背中の大鎌に手をかけ、怪しい兵士に突きつける。
「で、あんたら誰なのよ?」
敵の服が弾け飛び、中からでかい蜘蛛女が現れる。アラクネとかいうやつだ。
「敵襲!! 敵襲!!」
アラクネ軍団が発生するが、キールさんの前に集められた連中は、首から下が凍りついたものばかり。敵だけを正確に凍結させたのか。
「はいはーい、狩りやすいところに首がありますよーと」
そして鎌で一閃して終わり。氷塊も砕け散って消えていく。
やっぱ団長なんだなあ。
「外周掃討完了!!」
「後ろよ!」
少し後ろにいた兵士がアラクネ化した。
だが遅い。イロハの手裏剣が敵の影に刺さっている。
「この程度の敵には負けんのじゃよ」
リリアの魔法で敵の足と腕が飛び、そこにシルフィが畳み掛ける。
「やああぁぁ!!」
縦に両断され、アラクネは絶命した。しっかり炎で焼き払うことも忘れない。
「姫様!!」
「こっちは大丈夫です! 負傷者の確認と、他の兵の援護を!!」
「了解!!」
シルフィが王女様モードだ。的確に指示を飛ばし、俺たちはキールさんの元へ。
「やー強いのねシルフィ様ってば」
だがまだ敵は残っている。一匹こちらを見つけて走ってきた。きもい。
「さて課外授業だ。一匹任せるから、倒してみなっさーい」
「……俺ですか!?」
「君の、まああれだ、逆転の手段を使わない戦闘力が見たい。姫はしーっかり守っておくよ」
「頑張ってアジュ!」
おそらく緊急時に、俺がどれだけ守らなきゃいけない対象かを知りたいんだろう。
「しょうがない。やってみますか」
とりあえず長巻を装備。蜘蛛女から吐き出される糸を避ける。
「サンダースマッシャー!」
牽制のつもりだったが、案の定だよ。傷すらついちゃいない。
仕方がないので接近してみる。落とすなら首だろう。
前に向けて飛び、すれ違いざまに首めがけて横薙ぎに振る。
「おらよ!!」
だが前足二本で防がれた。かったいなこいつ。
バックステップで距離を取る。乱戦でプラズマイレイザーは使えない。
力技でいくしか無いかね。
「リベリオントリガー!」
出し惜しみはしない。最速で背後へ移動する。
「雷光一閃!」
片腕で防がれた。腕は破壊できたが、首には届かない。急速離脱。
「効いてるわ。そのまま攻めて!」
「ライジングナックル!」
雷に変換した右拳を巨大化させ、そのままぶつけてやる。
だがこれを受け止めやがった。
「動けないってんならそれでいい。ライジングブレイド!」
両腕を雷の剣として飛ばし、蜘蛛らしく多い足を切っていく。
止められたライジングナックルにクナイを投げ入れ、魔法を発動。
「サンダーシード!」
受け止められるなら、まとめて破裂させてダメージにすりゃいいんだよ。
こうすりゃ多少は怯む。腕も足も封じれば、あとは首を斬ればいいだけだ。
「雷光一閃!」
長巻の魔力スロットを三個全部解放して、力任せに切り伏せる。
多少の引っ掛かりはあれど、無事切断できた。
「まったく……蜘蛛女一匹でこの強さかよ」
「いいよー! かっこいいよー!」
「やーるじゃないの。想定よりまともに戦えてるぜい」
どうやら襲撃者はすべて片付いたらしい。
結構疲れるぞこれ。さっさと終わってくれこんな勝負。
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