戦神アレスVSフルムーン騎士団
侵入者を撃退しても戦いは続く。
といっても味方は強いので、もうすぐ半分くらいが森に入りますな。
このままぼーっと終わるのを待ちたい。
「これもう終わるだろ」
「楽勝じゃな」
「みんな無事に帰れるなら、それが一番だね」
言っていたら、森の方で大きな爆発が起きる。
本陣に負傷兵が転送されてきた。咄嗟に誰かが魔法をかけたのだろうか。
「うまくやれば、死ぬ前に転送されるんだな」
「表示される数は減るみたいだがねーえ」
「聞いていないルールね」
「緊張感なくなるからじゃな」
「他にも悪用する手段はありそうだな」
相手がどれくらい卑怯な手段を容認しているか不明だ。
正直そこを一番不確定要素として警戒している。
「全滅はさせたが、戦況に変化がない。つまり、今のはどっちだ?」
極端な話だが、万単位での戦闘だから、今の襲撃がカウントされているか不明なのだ。数人だと区別がつかず、奇襲もやりやすい。
つまり多少減っていようが誤差だよ誤差。というわけですねえ。クソやん。
「一応予備戦力を数千残しておいたが、こうなるとはのう。面倒じゃな」
「伝令! 謎の男が団長と戦闘中! 押されています!」
「来たか、神よ」
急いで城壁に登り、遠くに見える森を伺う。
上空では、リュートさんと古代ギリシャの兵士のような男が戦っていた。
兜で顔はわからないが、豪華な鎧と赤いマント。大きなハルバードを振り回し、火炎をものともせずに正面から打ち払っている。
「会話拾えるか?」
「できるのじゃ」
何を話しているのか気になるので、俺たちにだけ聞こえるように魔法をかけてもらう。リリアは万能。優秀やね。
『武神アレス。クロノスの子が作りし国、どれほどのものか見せてもらう』
『第六騎士団長リュート。クロノスが何かは知らないが! 全力でお相手いたす!!』
よしよし声が拾えれば、情報の収集もできる。
『おおっと、オレもいるんだぜ!!』
イーサンさん乱入。その巨体と筋肉で互角に打ち合っていく。
『ほう、剛の者か。実に愉快よ!!』
『第三騎士団長イーサン! 尋常に勝負!!』
『加勢感謝いたします!!』
うむ、速すぎる。やはり別次元だな。多少は目が慣れてきたが、トップクラスってのは凄まじいね。
「あれを倒せば、ファーストステージはクリア……というわけにはいかないわね」
「まだ神はいるだろう。爆発がアレスの仕業とも限らない」
「同感だねーえ」
まだまだ警戒は必要だが、アレスが団長にかかりきりだからか、敵が順調に駆逐されていく。このペースなら問題はなさそうだ。
『爆熱大炎上!!』
『ぬるいわ!!』
巨大な火柱の中央から、アレスが抜け出してくる。火傷もない。
あれほどの魔力と温度を、右腕だけで振り払うその力はまさに武人だ。
『ついでに聞いておく。アンタイオスが攻めてきた理由はなんだ!』
『知らぬ。やつは我らの血族ではない』
即答しやがった。あらかじめ予想していた回答なのだろうか。
『ヌアァァリャアァ!!』
イーサンさんとリュートさんでも、アレスの牙城を崩せない。
『久しく忘れていた闘争。戦場の匂い。嬉しいぞ。もっと抗え! 神に挑め!!』
『ならば混ぜてもらおうか!!』
いつの間にやら、アレスに突っ込んでいったジェクトさん。
いやいや王族でしょ。守られる対象でしょうが。
「うーわ、なーに前線行っちゃってんのよ王様ったら」
キールさんが少し焦っている。少しで済んでいるのは、おそらくこうなることも理解していたんだろう。
『クロノスの子よ、持てる闘技をここに示せ!!』
『言われなくとも!!』
『いやいや何やっちゃってんすかああぁ!? オレらがなんとかしますって! あなた王様でしょうが!?』
『ジェクト様、ここは我々騎士団にお任せを』
素早く二人がジェクトさんの前に出る。それでもさらに前に出て、攻撃を繰り返すジェクトさん。これ心労すごそうね二人とも。
『断る! これはフルムーンの祭り。主役が暴れずなんとする!』
三人がかりでも、アレスを後退させることができていない。
得物が長いというのに、器用に振り回して三人の攻撃をさばく。
パワーだけじゃないってことか。やばいな。ジェクトさんの時もそうだが、単純なスペックが違いすぎると、それだけでどうしようもなくなる。
「人間と神の差が出始めておる。打開策が必要じゃな」
「がんばってお父様!!」
『おおおりゃああ!!』
『攻撃が雑だな。未熟な剣で私は超えられんぞ』
ハルバードに神力が集まり、三人まとめてぶっ飛ばされる。
『うおおああぁぁ!?』
『くっ、まさかこれほどとは……』
飛ばされた先には、戦闘中の兵たちがいる。
中には負傷兵もいるようで、これ庇いながらはきついな。
『いかん! 兵を巻き込むわけには!』
『オレたちが止めているうちに逃げろ!!』
『さっさと連れて行け』
意外にもアレスはその場に立ち止まり、兵の撤退を静観している。
『いいのか?』
『雑兵など死合う価値なし。選ばれし猛者だけが私と戦えるのだ』
『兵の撤退は任せるのー! そっちもさっさと勝つの!』
『すまない。フィオナ、サクラ様! 兵をまとめ、敵兵の殲滅と負傷兵の撤退をお願いします』
『わかったわ、死なないでね! 兵をまとめて下がるわよ!!』
アレスから距離を取り、近くの敵を殲滅しつつ後退していく。
こんな時でも統率が取れているのは凄いな。
『温情感謝する』
『待たせてすまない。再開といこう』
『憂いは断ったか。ならば来い』
そして始まる大乱闘。
金属のぶつかる音が響き、空気が震え、大地が怯え、雲が散る。
『甘い!!』
軽く足を地面に叩きつけると、団長たちのいる地面がひび割れていく。
『うおぉ!?』
三人を襲う横薙ぎの一閃。だがそれを振る前に潰しにかかる横一閃。
激しくぶつかり、即座に離脱するその人は。
『なにやってんですかい団長』
『ロン!』
ロンさんが背後から刀で斬りかかり、なんとか体勢を整えるチャンスを作ったか。
『指揮はアカネの姉さんに任せました。この化け物は、自分たち全員でかからないとまずいでしょう』
『やっと合流できたの!』
『お父様、ここからは私も出ます』
ロンさん、サクラさん、フィオナさん参戦。これで有利に進めばいいが。
『何人でも構わん。来い!!』
さらに魔力と神力を上げる。どうも手加減しているらしい。
こいつは戦いを楽しむだけで、フルムーンに恨みはないのだろうか。
『一斉にかかるぞ!!』
『それしかないでしょうね』
ロンさんは刀で居合の構えだ。戦闘初めて見るかも。
『不本意だが、一騎打ちでは勝てぬ』
『構わん。全てを駆使して挑んでこい。それが人の知恵だ』
『ちぇえああああぁぁ!!』
アレスを丸く取り囲み、全員で呼吸を合わせ、同時に飛びかかる。
『よい気迫だ。だがまだまだ』
ハルバードを回し、ロンさんの刃とフィオナさんの剣を交差させて軌道を操る。
『うおっと!?』
『危ないの!?』
まったく同時に空いた左腕の上を、イーサンさんの剣とサクラさんの剣が滑ってかち合っていく。
『嘘ぉ!?』
『サクラ様!!』
ジェクトさんのメイスをリュートさんの爪とぶつかり合わせる。
どの武器とどの武器を交差させて、誰に向けるかの判断を一瞬でやっているのか。
やばいな。あいつ小細工抜きでひたすら強いぞ。
『まだまだあ!!』
『近づいたんだ! あとは斬るだけじゃい!!』
一歩も下がらず、決して怯まず、近づいたことを好機と見るや、全員で武器を振り下ろす。
『ヌオオオオオォォォ!!』
だが振り下ろされる多様な武器を、ハルバード一本で受け止め、瞬時に勢いよく上へと跳ね上げた。
『うおおぉ!?』
『くっ、どんな力してやがる!!』
これには流石の団長たちも軽く浮かされ、隙ができる。
その中で、サクラさんとジェクトさんだけが流れに逆らわず、縦に一回転しつつ、右拳に光を収束させていく。
『ホーリー……』
『スマアアッシュ!!』
『なんとっ!?』
魔力を束ねた右ストレートが、見事アレスの顔を捉えた。
「当たった!!」
「やーるじゃないの。いつのまにあーんな強くなったんだか」
「あの動きは……」
見覚えがある動きだ。ほんの数日前に、あの特殊な部屋で見せた動きの延長だろう。
『凄いの!』
『お見事ですぞ!!』
『……特訓が効いたわね』
『ああ、後で彼にはお礼をしなくてはな』
喜びもつかの間、アレスは倒れていない。それどころか笑い始めた。
『フハハハハハハハ!! ハーッハッハッハッハ!!』
大爆笑である。っていうかまさかノーダメかよ。
『効いていないか。神は遠いな』
『なに大笑いしてやがる』
『いいぞ! 実に愉快だ! これが笑わずにいられるか!!』
心底楽しそうだ。団長も覇気が削がれているようだ。戦闘狂ってやつかね。
『見事だ。まさかここまでやれるとは思わなかった。間違いなく、歴史に残る戦士だ』
『そうかい。ならもう合格ってことにしてくれないかね?』
『まだだ。だが安心しろ。奥の手は使わん』
『まだなにかあるのー!?』
おいおい……本当に死なないでくれよ騎士団長。国防の要だろう。
「あっちはもう、限界まで打ち合ってもらうしか無いかもしれんのう」
「どうしたもんかねえ……俺がでしゃばるわけにもいかんし」
「おや? ここにもクロノスの子孫がいたんだね」
知らない男の声がした。反射的に振り向くが、姿どころか気配もしない。
「誰だ!!」
「そっちの子、フルムーンだろ?」
声が全方位から聞こえる。四人で背中合わせに武器を構え、キールさんの近くに行く。だがその間も居場所がつかめない。
「少し力を見せてくれないかい?」
こっちはこっちで面倒なことになりそうだ。
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