第四騎士団長リクと開戦の日
神々との戦争の前日。なんか知らんが騎士団と見回りに出ていたりする。
「ご安心を。姫様とお客人は、必ずやオレが守ります」
いつものギルメン四人と、団長のイーサンさんに、軍師のロンさんが一緒だ。つまりある程度目立つ。
「目立つなこのメンバー」
「団長がいると、犯罪は減るわね」
「これも体験のうちじゃな」
名目上は職場体験的なやつで来ているので、こういう真似ができるわけだ。
実際には不審者を探し出す目的もあるのだが、正直前日に印象悪くするメリットはない。気晴らしの散歩だろう。
「一応帽子と学生服で隠してるから、大丈夫だよ」
まだシルフィはバレていない。イロハはフルムーンなら王族貴族以外での知名度は低い。俺とリリアは無名だから、素性は心配ないだろう。
「まあ団長が不安でも、自分がお守りしますので」
そう言うロンさんは、俺たちから少し離れた屋台で買い物をしている。
いや離れるなよ。もうこの状態が守れていないよね。
「やっぱばあさんのクレープが一番だな」
「ありがとうねえロンさん。団長さんの分もいるかい?」
「いや、気にせず」
「オレに断りもなく断った!? いるから! おばちゃんオレのもちょうだい!」
なんか屋台のおばちゃんと談笑はじめやがった。表情がころころ変わる二人だな。
めんどいので俺たちも行く。
「うまい」
ごく普通にクオリティが高いクレープ出てきた。
イチゴとリンゴがチョコと合う。
「おいしいです!」
「ありがとうお嬢ちゃん」
「じゃあおばちゃん、長生きしてくれよ」
「はーい、ありがとうね団長さん」
こんな感じでふらふらと散策という名のパトロールは続く。
これ完全にシルフィのリラックス目的だな。
「ほーらこっちもおいしいよ」
シルフィが自分のやつを差し出してくる。
「人前でやるなって」
「帽子で見えませんし、自分らはなぜかそっちを向けませんので安心してください」
「変な気の遣い方はしないでいいです」
なんだろう、その気の利かせ方は善意から来ているのか。
「シルフィだけやったら次に行くのじゃ」
「いいのか?」
「今回はシルフィのストレスを和らげるのよ」
なるほど、一人だけでもやらせて慣れてもらおうとか、あとは本気でシルフィが心配なんだな。
「しょうがないか」
「はいどうぞ」
観念して食ってみる。これはこれでうまいな。三種類のソースがいい感じに爽やかだ。
「あんな渋々王女からあーんしてもらうやつ始めて見ましたぜ」
「不思議な男だな」
「ほれ食え」
俺のクレープも食わせる。ふっふっふ、こういう気遣いができるようになったんだぜ。もっと成長している俺を褒めろ。
「ありがとう!」
「偉いわ」
「成長しておるな」
「だろう?」
シルフィが笑っているので、とりあえずこれでよし。
食い切ったら警ら再開である。腹ごなしに歩こう。
「軍師にもわからないことってありますな団長」
「団長にもわからんぞ。ですが少しは気分が晴れましたか?」
「はい、おかげさまで」
「そりゃよかった!」
うーむ善人ムーブだな。騎士団に裏切り者がいるんじゃないかと疑ったが、俺に気取られるようなヘマもしないか。
「団長は女性の心理なんぞ理解できませんからね」
「まったくだ。敵と筋肉についてならわかるんだが」
「おや、こんな時間に散歩とは」
前から騎士団が数人やってくる。あっちは予定通りのパトロールなのだろう。
「おぉリク!」
知り合いなのか。リクと呼ばれた男だけ格好が違う。
黒を基調とした袖の長い服で、赤と灰色のラインが入ったデザインだ。
「第四騎士団長リクさんですよ」
ロンさんが教えてくれる。あの人も団長なのか。確かに風格がある。
肩まで伸びた紫とピンクの混ざった髪と、右目のモノクルが特徴だろうか。
赤と青のオッドアイで、張り詰めた空気を持った人だ。
イーサン団長がマッチョなら、こっちは引き締まった筋肉だな。
「そちらのお嬢さん。もう少し深く帽子をかぶっておきましょう。クレープだけでは喉が渇きますので、こちらのお茶をどうぞ」
そのへんで売っている、冷たいお茶だ。
シルフィの名前を出さずに、少しだけアシストを入れる。
「あ、ありがとうございます」
「またお美しくなりましたね。その強さは、帽子では隠せないほどの美しさだ」
「リクもクレープ食うか?」
ものっすごいフレンドリーだなイーサンさん。それに笑顔で答えているリクさんも、雰囲気ほど怖い人ではないのだろうか。
「遠慮しておく。さっき食事を済ませた」
「そうか。オレはちょっと食ったら余計に小腹がすいてきたぞ! はっはっは!」
「団長は筋肉のせいで燃費が悪いもんで」
「だろうね。苦労は察するよ」
三人だけの空間のようだ。俺たちとリクさんの兵士さんたちは立っているだけ。
どうすんのこの時間は。
「おっと、いつまでも雑談に興じている場合ではないか」
「もう行くのか?」
「騎士団が動いているから、国の秩序と平和は保たれているのさ。ちゃんと送り届けるんだぞ」
「お前に言われんでもやったるわ!」
簡単に別れの言葉を告げて去っていくが、そこへイーサンさんが声をかける。
「あん? 服汚れてるぞリク」
黒で分かりづらいが、確かに赤黒く汚れているな。
「ああ、危険な輩がいたのでね。切り捨てておいた。みっともない格好で失礼」
「敵か?」
「ただのチンピラさ。こちらも事情は聞いているが、表立った怪しい動きはない」
第四騎士団で特別に捜査していたらしい。それでも動きがないなら、本当に明日が決戦となるだろう。
「兵士への言い訳を考えておくんだな。神と戦うなどと、おおっぴらに話すもんじゃないぞ」
「そっちは自分が考えてありますので、ご心配なく」
「そうか。ロンなら安心だ」
「どうせオレは信用できませんよ」
そして今度こそ本当に帰っていった。そこから少しだけ街を見て回り、ほどほどに遊んだらもういい時間である。
「そろそろ戻るぞ。もう夕方だ」
「はーい」
そこからは本当に何事もなく夜になり、ついに決戦の日となった。
王都近くの草原に集った、総勢百万の大軍が、神からの挑戦に臨む。
といっても、兵士は神の存在など知らないだろう。国を脅かすものを排除すると聞いているはず。
「王都のみんなは大丈夫かな?」
「コタロウさんたちがいる。なんとかなるさ」
保険としてコタロウさんをフルムーンに残す。
連絡係としてもちょうどいいし、ザコなら殲滅できる。
「フウマと留守番の騎士団が頼りだな」
ちなみに俺とリリアは魔法兵のふりをしている。
フード被っときゃいいだろという安易な発想だ。
「国の守りを薄くしないために、全軍を連れていくわけにはいかぬ。仕方がないのう」
「それでも百万連れて行けるんだから、なんとでもなるだろ」
改めて軍の規模でかいなフルムーン。国に散っている兵士は全部で四百万を超えるらしい。やっぱ三大国なんだなあと思っていたら、前に見た仮面とフードの連中が来た。
十人近いな。全員に神格があるってことは、相当面倒なことになるってことだ。
「この日を待っていた。さあ準備はいいな? 飛ぶぞ、戦いの大地へ!」
大規模な転移魔法が足元に展開されていく。これはラグナロクに行く時も感じた。いよいよか……騎士団の実力に期待しよう。
「離れるなよ」
「無論じゃ」
「ちゃんとついていくわ」
「大丈夫!」
転移先はどこまでも広く続く草原だった。その先に森がある。
「まずは草原・森林ステージだ。兵数は空を見ればいい」
上空に立体映像で、両軍の数がおおまかにだが表示される。
相変わらず魔法なのかなんなのかわからんな神って。
「お待ち下さい!」
消えていく神々に、ジェクトさんがストップをかける。
「……どうした? なにか不備でも?」
「アンタイオスという者は、なぜ王族を狙ったのです? この勝負がしたければ、そちらからお誘いいただければ、交渉の場を設けたのですが」
「すまないな、少々力試しに強引な手段を選んでしまった。私の悪い癖だ。謝罪しよう」
一人がフードを取ると、そこには間違いなく俺が殺した神の顔があった。
「なっ……」
「アジュくんあれって……」
近くにいたフィオナさんに、小声で話しかけられる。動揺の色がわずかににじみ出ていた。
「あの時は間違いなく神格がありました。確実に仕留めたはず」
魔力も神力も同じに見える……容姿は同じ。どういうことだ。
「では行くぞ。よき戦いを見せてくれ」
「もう行くの? それに王族に襲撃をかけたとは……」
他の神が引き留めようとするが、それをさらに止めて去ろうとする。
「お喋りはここまでだ。不服ならば戦いで確かめろ」
「陣に戻ったら説明してもらうよ、アンタイオス」
そして神が消えた。残されたのは、混乱した俺たちと、事情を知らぬ兵のみ。
急いで兵に陣を張らせ、王族と団長数人だけがひっそりと集まった。
「どう思う?」
「わかりません。同じ存在のような気もしますが……」
「あれは確かに戦ったやつなのー! 間違いないの!」
「とてつもなく面倒なことになっておるのう」
こいつは楽に終われる気がしないぜ。
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