くまさんと仲良くなろう
バトルを終えてちょっと休憩タイム。
暑さをしのげるスペースで、冷たいお茶飲んでまったりしている。
「虚無の使い勝手が悪すぎる」
「あれは練習あるのみデスよ」
「毎日ちゃんと練習しないと強くなれないものね」
「きゅっきゅ」
膝の上でクーが頷いている。
なんか暇だったらしく、来たいと言うので召喚した。
こういう癒やされる機会を増やすと、アジュさんのやる気が回復していきますよ。
「ほらクーちゃんもそう言っているわよ」
「露骨にクーを使いおって」
「クーちゃんかーわいいデスー。ほらほらこっち来るデスよー」
「きゅっ……」
露骨に避けられている。俺の背後に隠れてしまった。
「おおぉ……嫌われてるデス。こいつはへこむデスね」
あれこの上にがーんとか書き文字が出る。
いやそれ擬音だろ。普通に頭に出すなや。
「今の気持ちを表してみたデス」
「そういうことするから俺も警戒していくんだぞ」
「そうよ。もう少し人間っぽく振る舞いなさい」
「とほほデスねー」
とはいえ見た目は無害っぽいあれこだ。どうして警戒しているのだろう。
「くまは警戒心が強いらしいが……どうしたクー?」
「きゅきゅ」
「あれこからなーんの匂いもしないから、なんか嫌な感じらしいデス」
「匂い?」
くま語がわかるらしい。全生物の言語を自動変換しつつ理解できるとか。
言語とは記録の蓄積から生まれる。だからアカシックレコードならどうのこうのらしいよ。
「あれこは生物ではないデス。実体もないから、匂いを発するものが存在しないのデスよ」
「そう。アジュはいい匂いがするものね」
露骨に嗅ぐのはやめて欲しい。
ちょっと汗かいてますので。
「すり寄るな。暑いんだって」
肩にもたれかかってくるけれど、正直暑いからなあ。
まともに意識できん。
「きゅー」
「ほら真似しちゃってるだろ」
クーも肩に登って顔をすりすりしてくる。
嫌じゃないし、かわいいんだよ。けれど気温考えてくれ。
「あれこもクーちゃんが喜びそうな匂いでも出すデスかね」
「余計怖がるだろ」
撫でて恐怖を解消してあげる。
落ち着いたのか、また膝の上で横になり始めた。
「データがあっても、攻略は難しいデスねえ」
くまや精霊の情報はすぐ引き出せるらしい。
それでも実際の生き物は気まぐれだ。個体差もある。
「クーちゃん、あれこは怖くないデス」
屈んで目線を合わせ、じっと目を見るあれこ。
「大丈夫。俺がここにいるだろ」
「私もいるわよクーちゃん」
クーを撫でて、そのまま二人で体に手を置いてあげる。
こうすると少しくらい安心してくれるだろう。
「きゅー……」
「ほーら、仲良しの握手デス」
差し出された手を見つめ、そーっと両手で掴むクー。
「やった! やったデス! あれこは仲良しさんデス!」
「きゅっきゅっ」
軽く手を振って仲良しの握手。
よしよし、うまくいっているな。
「クーちゃんといる時は、あれこは手からこの匂いを出すデス」
人間にはよくわからんが、クーの種族にとっては落ち着く匂いを出しているらしい。
そこに人間の匂いが少し混ぜてあるとか。
「きゅっ」
「よーしよーし、お友達デスよー」
「いい子だ。あれこはクーに悪いことしないからなー」
「したら本当に最後デスね」
「必ずくれこと同じ目に合わせてやる」
「目がマジデスね。心配しすぎデスよ」
どうも俺は過保護になっているらしい。
自分自身よくわからん気持ちだ。
「きゅっ!」
「デス!」
二人して近くの銅像と同じポーズをしている。
打ち解けるの早いなお前ら。
「飼い主より社交性があるわね」
「いい傾向だ」
くっついているイロハが手を重ねてきた。
振りほどくのも違う気がするし、暑さを口実に話そうかと思ったが快適だ。
「…………暑くない?」
「この休憩スポットだけ気温を変えたわ」
影筆で『屋根の影が当たる場所だけ適温になる』と空中に書かれている。
そういやそんな特技ありましたね。
「忘れていたわね?」
「しばらく使っていなかったからな。本気で使う機会なんて少ない方がいいさ」
「それもそうだけれど、戦闘以外にだって使えるのよ」
「使い方次第ってのは、なんでもそうなのかもな」
穏やかでゆったりした時間だ。
俺はこういう時間が好き。
けれど誰かとそれを共有できるとは思わなかった。
「案外慣れるもんだ」
「ここまで大変だったのよ?」
「自覚はある。面倒も迷惑もかけている」
「でも嫌じゃないわ。私が一緒にいたいから、だからこうしているのよ」
頭を肩から胸の方に寄せてくる。撫でろということか。
仕方ない。空いている方の手で撫でてやる。
「自然にできるようになったわね」
「ほーらアジュさんとイロハさんも仲良しさんデス!」
「きゅっきゅっ!」
「やかましい」
走り回って遊んでいるあれことクーに言われているぞ。
元気だねえあいつら。
「みんな仲良しさんデスー!」
「きゅー!」
「前に言ったろクー。あんまり遠くに行くな。学園は広いんだぞ。迷子になったら危険だ」
クーが学園に来た際に、いい機会だからみんなで教えておいた。
学園はあまりにも広い。勝手に出歩くと危険だし迷子になる。
そうなったらもう俺たちにも家族にも会えるかわからんと言い聞かせた。
実際には魔力探知もできるし、召喚もできるけど。
「きゅ!」
右手を上げて元気にお返事。
一応俺が見える範囲で遊んでいるようだ。
賢いし、野生の本能的なものはあるみたい。
「きゅー」
クーがこっちに来た。なんかくったりしている。
「外が暑かったのね」
「毛皮あるもんなお前」
「きゅうぅ」
床にだらーっと伸びている。涼しいのかそれ。
「お水あるデスよー」
「きゅ」
「しばらく休んだら帰るぞ」
「特訓はいいデスか?」
「そんな気分でもない」
和んでしまった。クーは癒し成分が強いな。
疲れたし、この部屋借りていられる時間もあと少し。
「適当にふらふらして帰るぞ」
「もっとクーちゃんと遊びたいデス……」
「前に爪とぎ買うと言っていたでしょう? 今日行ってしまえばいいわ」
「悪くないな」
ついでに買い物して帰るか。
イロハの提案で、ちょっとだけクーと一緒にいる時間が増えた。
「きゅー?」
「買い物行くぞクー」
ささっとカウンターでチェックアウト済ませて外へ、
暫く歩くと涼しい学園内に戻れる。
「風邪引かないようにするのよ」
「さっき汗は拭いた。クーも寒くないな?」
「きゅー」
召喚獣を連れ歩けるゾーンを散歩しながら店を探す。
人工的に整備され、適度に緑のある開けた公園のような場所だ。
どこでも連れ歩けるわけではないという性質上、店はこういう場所に多い。
「きゅ?」
俺の肩に乗っていたクーが動く。鼻をひくひくさせているな。
「移動屋台か?」
人間も召喚獣も食えるもん売っている移動屋台だ。
学園は本当になんでもあるな。
「芋だな。芋を丸く切って……知らんもんだな」
「柔らかくなるまで煮て、ちょっと味付けしてあるのよ」
カップに入った煮物かな。汁はない。いい匂いだ。
五個くらいが一口サイズで入っている。
そういや腹減ったな。
「あれが気になるデスか?」
「きゅっ」
「前に話した気がするがクー。人間のお店は、お金っていうのを払わないと、使ったり食べたりしちゃいけないんだ」
「きゅっ!」
ついでに食うか。ちゃんと過程を見せてあげることも大切だ。
「実際に頼んでやろう。すみませんそれ四個」
「はいありがとうございます! 熱いのがダメなら作り置きもありますよ」
「んじゃまず作り置きを一個お願いします。いいかクー、ここで金を渡す。そうすればくれるから」
店員の兄ちゃんに金を渡し、カップを受け取り、クーに見せる。
「ここまでちゃんとやったら、はい食ってよし」
「きゅー!」
「気をつけるのよ。ゆっくり食べて」
カップは俺が持っていてやる。
小さい芋を掴み、かじりついている姿はかわいいもんだ。
小動物が飯食うのかわいいよな。
「うまいか?」
「きゅっ! きゅっ!」
美味そうにむしゃむしゃ食っている。口周りに食べかすついてんぞ。
「ほれあったかい方も食うか?」
「きゅっ」
一気に食べるには熱いのか、ちまちま食べては嬉しそうに笑う。
いいね。こういうほのぼのした時間はずっと続けばいいのにな。
「気に入ったみたいね」
「そりゃ嬉しいですな。ありがとうねくまちゃん」
「きゅっ!」
軽く手を振るお兄さんに振り返すクー。
実にほのぼのしております。
「美味いな。しつこさやくどさがない」
「おいしいデスー!」
「食べやすい味ね」
丁寧に作られているのだろう。
やや薄味だが、しっかりと味が染みていて、とても体が温まる。
「寒い日にはちょうどいい」
「じーっくり煮込まれているデス」
「そこまで褒められると照れますな」
クーはあったかいやつが気に入った模様。
合計五個食って満足したらしい。
残りは俺たちが食った。適当に小腹満たすには最適なボリュームだった。
「そうだ、こいつに爪とぎとか買いたいんですが」
「でしたらこの道をずっと行けば、召喚獣専門の道具屋がありますよ」
「ありがとうございます」
「きゅーきゅー」
「どうした?」
クーが何か伝えたそうだ。こういう時はあれこに頼もう。
「家族にも食べさせたいって言ってるデスよ」
「いい子ね。けれど親熊は大きいわよ」
「キアス呼んで、持っていって貰うとかどうだ? それならカップも回収できる」
「土に帰る容器もありますよ」
「流石だ……学園の技術凄いな」
「いえいえ、単純に葉っぱでくるむんですよ」
なるほど。昔からどこでも何かの葉で巻く料理は多い。
笹餅とかあるくらいだし、あって当然か。
「というわけだが」
「構わん。ただし我にも食わせろ同志よ」
というわけでキアス登場。
追加注文して食わせてやる。
「ほう、手間隙かけて作ってあるな。素晴らしいぞ主よ」
「ありがとうございます」
気に入ったらしい。
なぜかキアスが言うと厳粛な雰囲気が出る。
神獣って凄いね。
「では我が持ち帰ろう」
「きゅ」
キアスにお礼を言っているのだろう。
流石にそれくらいわかる。
「うむ、ちゃんと届けるから安心しろ」
家族思いのいい子だねえ。撫でてあげよう。
「きゅーきゅ」
「ユニコーンとはアジュさんは妙な召喚獣持ってるデスね」
「…………何者だ? 人ではないな。判断がつかんぞ」
飯食っている場なので、直接処女・非処女という単語を出さない気配りがすげえ。
「気にすんな。敵じゃないし人じゃないだけだ」
「そうか」
お兄さんは完全に聞かなかったことにする雰囲気だ。
学園で商売するなら必要なスキルなのかも。
「今はクーを褒めよう。家族を思うその気持を大切にな。では失礼する」
「なんか欲しいものあるか?」
「では新作のブラシがあれば数本試したい」
「了解。ありがとな」
クーの家族分の芋を持たせて領地へ逆召喚。
これで帰還させられる。
キアスは超能力も仕えて、軽くテレポートもできるし、言葉もわかって有能だ。
「じゃあ食べ終わったし行きましょうか」
「きゅーきゅきゅ」
「はいまたねくまちゃん」
お兄さんと手を振り合うクー。
お別れを告げて、目的の店を目指して歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます