新魔法を使っていこう

 少し暑い遺跡っぽい場所を観光中。

 イロハもあれこもついてくる。


「どうデスか? 魔力が上がりそうデスか?」


「体に満たされているのは理解した。新魔法が思いつくわけじゃないな」


「どっちかと言うと強化の面が強いデスねー」


「この先に好きに魔法を撃てる場所があるわ」


「んじゃそこ行こうか」


 不思議と息切れすることもなく道を歩く。

 やがて大きな建物が見えてくる。


「あれか。遺跡っぽいけど傷も老朽化も見られないな」


「あれは学園の施設よ。定期的に整備されているの」


 大きめの、それでいて周囲に溶け込めるような外観の建物だ。


「あの中はさらに魔力の密度が高くなるわ。酔わないようにね」


「酔うのか?」


「お酒みたいな感じじゃないデスよ。呼吸で取り込む魔力が増えたり、体にもっとくっつく感じが受け付けるかどうかデス」


「面白そうだ」


 学園は極力自然を残しつつ、こういう場所を溶け込ませるな。

 これも自然な環境で達人を作るためなんだろうか。


「じゃあカウンターで登録……あれこ、お前学生じゃないよな?」


「ちゃんと特別通行書とか持ってるデス。リーディア・ブレイブソウルが発行しているのでへっちゃらデスよ」


「見た目は高等部くらいよね?」


「あれこは概念なので年齢とか無いデスよ。へたな神様より長生きデスけど」


「ほー」


 入ってみると、室内は若干涼しい。

 ささっと受付を済ませ、室内……室内かこれ。

 遺跡の中庭っぽい印象だ。


「空も見える。さっきまでの遺跡っぽくもある。むしろ建物とカウンターが異物っぽかったぞ」


「そういう作りなのよ。ここなら壁に結界もあるわ。多少の訓練もできる」


 確かに広い。学園は施設そのものがでかいんだよな。

 足場も土と石で整っている。

 大きな障害物もない。遠くにでかい彫像が見えるが、まあなんかオブジェなんだろう。


「じゃあ戦ってみましょうか」


 イロハが取り出したのは、受付でもらった石。

 以前水の修練場で、氷の人型を作り、敵にして訓練したやつ。


「今回は土と石よ。場所が場所だけに、魔力でさらに強度も上がるわ」


「ほほう、やる気が無くなるぜ」


「そこは振り絞ってくださいデス」


 敵は細身だ。土と石が混ざっちゃいるが、なんとかなる範囲っぽい。


「サンダースマッシャー!」


 軽く撃ち出してみると、驚くほど負担がない。

 威力も想定の倍近いものだ。


「逆に加減が難しいな」


「そのまま戦ってみましょう」


「がんばるデスよー」


 カトラスも使っていこう。

 魔力をスロットに溜め、とりあえず斬る。


「かったい……」


 石が意外と硬い。こんなもん両断しようとすれば手を痛める。

 土くれは問題なし。魔法によるブーストなきゃきついな。


「石中心でいきましょうか」


「辛い方を選びおって」


「訓練デスからねー」


 手首を傷めないよう、切断より斬撃を与えることを重視。

 連続して攻撃していこう。


「よっ、ほっ、はっ!!」


 敵の動きはのろい。

 しかも人型であるため腕か足。でなきゃ体当たりくらいしか攻撃方法がないのだ。


「雷光一閃!」


 スロット三個で雷光一閃。

 流石にするりと斬り裂ける。

 豆腐を勢いよく切っている感じ。気持ちいい。


「次はスロット二個。次に一個ね」


「わかっているさ」


 最後に普通の雷光一閃。ちょっと引っかかる。

 まだこのくらいか。やはり簡単に強くなるわけでもないな。


「敵は結構強度上がってるデスよ。たいしたもんデス」


「ちゃんと成長しているのよ。アジュは自覚しないけれど」


「周囲に超人しかいない環境だからな。どうにもならんぞ」


 自分と同程度のやつがいない。これは結構由々しき問題なのかも。

 基本孤独に不満がないというか、疑問に思うことができない。

 なのでこういう問題が出ると、解決法が出るまで時間がかかる。


「あれこがちょこっと改変してもいいデスか?」


「やめろ。よくわからんけど嫌な予感がする」


「敵にちょっと書き込むデス」


「意味がわからないわ」


 歴史や記録をこっそり改変して作りを変えるらしい。

 生物にやるのは面倒だし、神話生物クラスは改ざんできるか微妙らしいぞ。


「超怖いなそれ」


「アジュさんは無理デス。鎧に勝てませんし、イロハさんもフェンリルの力が強すぎて。ギルメン全員無理デスね」


「やったらお前を殺さなきゃいけなくなるだろ」


「脅しじゃないのは知っています。アジュさんとその領地の生物とかも変えないデス」


 こちらに害がないよう言いつけておかんとな。

 こいつ何考えているかわからん。


「では敵改変~かわれかわれ~むむむ~」


 土人形がつま先から頭から緑の光に侵食されていく。

 ぱぱっと改変されたそれは、くれこが連れていたやつっぽい。


「名前なんだっけ? 試験でいたやつだよな?」


「デスデス。確かギガイとかなんとか」


「いたわねそういえば」


 顔は土だが、しっかりとあの時の敵だ。

 アーマードールは石造り。よく似ている。


「どうしてこいつにした?」


「覚醒した時のイメージ出るかなーと思ったデス」


「緊張感が出るわね」


「とりあえず距離取っとけばなんとか」


 普通に右腕の装備からなんか飛んできた。


「うおぉ!? お前そういうのありか!」


 咄嗟に横っ飛びで回避。

 まだ見える速度だったし、打ち出される音もしたから回避可能だったが、まさか銃撃してくるとは。


「装備も再現したデス」


「どうやってだよ。簡単な構成じゃないだろこの敵」


「前に言ったデス。冷たくて人しか溶かさないマグマが作れると。記録の組み合わせで、ある程度物理法則とか無視してるデスよー」


「しょうがないマジでやるか。リベリオントリガー!」


 一気に二発目まで開放するが抵抗はない。

 やはりこの場所は魔力を上げてくれた。

 全身を包む魔力の純度が恐ろしく高くなっている。


「これが今だけなのか、今後も続くか知らんが」


「今のアジュなら倒せるはずよ」


「やってみる。ライジングナックル!」


 巨大化させた雷の右拳をぶつけてやる……つもりが直前で上空に逃げられる。

 いや空飛べるんかい。しかも銃撃してくるんかい。


「うざい……これはうざい……」


 雷光になって上空へと移動。両手を魔力で満たし、できるだけ接近して開放する。


「ライトニングフラッシュ!」


 前方広範囲に拡散される電撃。

 手応えはあるが、後方に吹っ飛んだだけで耐えているな。


「強さは本物さんよりちょっと強いくらいデス」


「本物より強いコピーって」


「微妙に斬新な気がするわね」


 高速で距離を詰め、石の剣で切りつけてくる。

 こいつ力強いな。リベリオントリガーで強化してんのに拮抗しているくらいだ。


『ソード』


 接近戦は早めに終わらせるに限るな。

 二刀流にし、一気に魔力を開放して、相手の剣ごと叩き切る。


「雷光双閃!!」


 爆裂し、眩い光を伴って切り裂かれていく偽物。

 流石にここまで全力出せば勝てるようだ。


「はいじゃあ次は二体同時デスー」


「お前ちょっと休憩とか入れろや!!」


 ギガイもどきが二体追加されました。

 いやいやきっついって。雷速移動で逃げ続けるが、やはり二対一はしんどい。


「雷光……ええい邪魔だ! サンダースマッシャー!」


 必殺技に入る余裕がない。単発で簡単な魔法は出せるが、こいつら人間的な思考をしているわけでもないっぽい。だから不意打ちが難しい。


「俺から小細工抜いたら何も残らんぞ。サンダースプラッシュ!」


 仕方がない。一匹に肉薄して切りかかり、鍔迫り合いを開始。

 ここでうまいこともう片方が背後から来てくれればよし。


「来るか。どういう思考回路なんだかね」


 俺に致命傷を与えられる距離まで接近を許し、剣が振り下ろされる瞬間を狙う。

 サンダースプラッシュで背後の感覚を得ているため、精度も上がる。


「ライジングニードル!」


 背中からハリネズミのようにトゲを無数に出し、後ろのやつを突き刺す。

 刺したら背中越しに限界まで振り絞って雷光を流す。

 これで黒焦げだ。もとの土くれに帰る。


「スタンプ!」


 前のやつに巨大化させた両足で蹴りを入れ、壁に叩きつける。

 そのまま固定し、魔力充填。


「プラズマイレイザー!」


 流石にブーストかかっているこいつは耐えられない。

 破片すら残らず消えていった。

 壁ぶっ壊れるくらい強めにやっちまったけど、これ大丈夫かね。


「ちゃんと元に戻すデス。巻き添えもいないデスよ」


「そっちは私が事前に調べているわ」


「助かる」


「ではボスいってみるデスー」


「休ませろや!」


 三メートルくらいのやつ出ましたよ。

 しかも機敏じゃないですか。

 何故小さいやつより速いのですかね。


「勝てるかボケ」


「アジュならできるわ。庭で見たあの魔法よ」


「あれほぼ発動せんぞ」


 インフィニティヴォイドだろう。

 あれは集中を切らすことを許してくれない。

 強敵相手にやれるもんじゃないぞ。


「インフィニティ……うおぉ無理無理!?」


 やはり集中できない。

 プラズマイレイザーより格段にデリケードだぞこれ。


「剣に乗せるという発想を変えたらどうかしら?」


「結構無茶だな……まあいい。雑に撃ってやる」


 剣をしまい、両手にがっつり魔力を溜めながら逃げ続ける。

 銃撃も激しさを増すが、雷の体なら多少くらっても痛みはない。

 すぐに復元して逃げ続けりゃいい。


「ライジング……サイズ!」


 足を雷光の鎌に変え、敵の両足と飛行機能を斬る。

 とりあえず動けなくすりゃいい。

 本命はどうやら発射という概念が形成できない。


「まっすぐ撃ち出すのもきついか……なら上だ!」


 敵の真上に移動。

 集まる雷光と、激しさを超えて静寂すら生み出す熱。

 撃てないなら、真下に魔法を落としてやる。


「インフィニティヴォイド!!」


 ただ発動しただけ。

 白い虚無の塊が、制御されることを拒み、ただ真下へと流れ落ちる。


「さてどうなる?」


 無事着弾したはいいが……どう形容すればいいんだこれ。

 不完全な虚無を浴びた敵は、頭から虚無によってどろりと形を崩す。


「溶けている?」


「……ように見えるわね」


 やがて敵を溶かし、地面まで崩していく。


「これどうやって止めりゃいい?」


「それ本人が言うデスか?」


「止まれと念じるとか?」


 言っていたら勝手に消滅した。

 あっぶねえなこれ……剣に乗せていた時はこっちの自由だった。

 一度手を離れると恐ろしいほどに制御が難しい。


「マジでやべーもん使えるデスねえ……原子構造まで完全に焼き切ってるデス」


「よくわからん。制御できないうちは危険だな」


「でも発動はできたわ。やっぱり真面目にやれば才能があるのよ。そうやっていつもかっこいいアジュでいればいいの」


「無理。とりあえず今は絶対無理。休憩」


 休憩用の椅子に座ってぐったりしながら水を飲む。

 イロハが汗を拭いたりしてくれる。

 ここで無駄にじゃれついたりしないのは気遣いだろう。


「えー……いい感じなんデスから、もっとやるデスよ」


「暑いんだよ。こんなとこで長時間運動したら死ぬわ!」


 アジュさんは暑さに強いわけじゃない。

 このままだと疲れて死にます。

 とりあえず休憩取ることにした。

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