アジュVSカムイからの新魔法準備

 雪の降る病院でゾンビサバイバルをしていたら、カムイが敵だった。


「うーむクソゲーだねえ」


「学園はそういうところがありますよね。けど会話で時間稼ぎはさせませんよ?」


「ライジングナックル!」


 巨大化させた雷の拳を飛ばしてみるが、カムイの手甲と肉体を取り巻く水や風で受け流される。


「ブレイド!」


 ならばと両腕をノコギリ状にした剣にして伸ばすも、これもまたあっさりと受け流された。


「無駄です。単純な攻撃ならすべて受け流します」


 武術の練度が違いすぎる。そもそも俺は魔法使いなんで、武術家ではない。接近戦だけは避けないと。


「なるほど、お前の強さは理解した。やはりこういう場面では日頃の練度が…」


「水爆掌!」


「あっぶねえ!?」


 話している最中に水の塊が飛んできた。避けると破裂して周囲に水がばらまかれる。寒いんじゃぼけ。


「会話で時間稼ぎはさせませんよ」


「なるほど、いいだろう。ならこれから少しだけ本気で……」


「風流牙!」


 また魔法が飛んでくる。リベリオントリガーのおかげで見切れるが、適当にかわせるものでもない。


「会話で時間稼ぎはできません」


 じりじりと距離を詰められている。接近戦は嫌です。絶対に避けてやるぞ。


「雷分身!」


 分身で戦おう。一体ならしっかり操作できる。まず背後を取らせた。


「水龍尾!」


 ばかでかい水の尻尾に薙ぎ払われた。雷が大量の水で散らされていく。しっかり札まで破られているので、分身対策もしているのだろう。


「手は抜きませんよ。アジュさんを侮ることはありません」


「やめろ俺相手にムキになるのは恥ずかしいことだと思え。本気出すな」


「ここにはイロハさんと僕しかいません。誰にもばれませんよ」


 相手チームが見えない以上、これは真実なのだろう。大ピンチですよ。鎧なしでカムイとか無理に決まっているよね。


「どこにも逃げ場がない時、どうやって戦うのか見せてください。炎殺咆哮!」


「ライトニングフラッシュ!」


 炎と雷がぶつかり、激しい火花が散る。同時に雪が蒸発し、残った雪が宙を舞う。かなり視界が悪くなった。

 こっそり分身を出し、背中合わせに構える。これならどっちから来ても迎撃は可能だろう。


「ふっ!!」


 分身と一緒に動けば、飛んでくる氷の槍を撃ち落とすくらいはできる。

 だがこっちの位置が把握されてしまうので、少し移動する必要があるだろう。


「激奏風流牙!!」


 雷速移動しているのに、一瞬で懐まで詰められた。あの暴風はくらったらやばい。


「雷瞬行!」


 雷の塊を二方向に飛ばす。そして俺は雷光に紛れて上空へ逃げるのだ。


「そこだ!!」


 ピンポイントで俺を狙ってきた。どういう仕組みか知らないが面倒だな。風水で判別しているのなら、俺にはわからないぞ。


「プラズマイレイザー!」


 風はこれで打ち消せる。だがカムイに動く時間を与えてしまった。どこか安全な場所で戦うしかない。ここ以外はゾンビがいる。イロハの邪魔はしたくない。様々な要因が重なり、俺の行動を阻む。


「やあああぁぁ!!」


 カムイの攻撃は流れるように緩急をつけながら行われる。それらすべてを防ぐことは不可能だから、体から何本も雷の腕を出して防御に使う。

 それでも油断するとすり抜けてきそうで怖い。


「インフィニティヴォイド!」


「受け流……せない! 退避!」


 うまく距離を取ってくれた。今のうちに着地して、札を迎撃の準備をするか。札はあんまり消費しても意味がない。やはり一撃必殺技を当てるしかないのだろうか。


「やっぱり簡単には倒せませんね」


「なんで俺に容赦ないんだよ。嫌われるようなことしたか?」


「油断できないだけですよ。アジュさんには色々と助けていただきましたし風流牙! 嫌いじゃないですよ」


「こいつ会話中に必殺技挟みやがった!」


 こういうことする子じゃなかったはずなのに。悲しいぞカムイよ。いや誰目線なのかわからんけども。これは成長じゃないと思う。


「アジュは教育に悪いわね」


「うむ、付き合いを控えるべきだな」


「自分で言います? 滅風脚!」


 魔力を研ぎ澄ませた無数の蹴りが飛ぶ。雷でのガードが貫かれるので、どうにもじりじり後退するしかない。クリーンヒットを避け、なんとか弾き返しつつ打開策を考えるも、単純なスペックで負けている。


「まだ何か隠してるんじゃないですか?」


「できるって言ったらチャージ時間くれるか?」


「時間稼ぎじゃなければ考慮します」


 言いつつも攻防に乱れがない。突きを避け、手刀を食らわないように距離を取り、詰め寄ってきたら魔法とライジングギアでお茶を濁す。だが俺のスタミナは無限じゃない。カムイは消耗戦もできそうだし、今の俺では分が悪い。


「雷光一閃!」


「それはもう見ました!」


 長巻による一撃を、同レベルかそれ以上の魔力の籠もった拳で受け止められる。ここから雷の腕でカトラスを引き抜き、胴体目掛けてもう一撃だ。


「雷光一閃!!」


「清流瀑布!!」


 カムイがまとっている水分が爆発する。それ自体の威力もさることながら、水は顔に近いと視界を奪う。何が含まれているかわかったもんじゃない。こちらも雷を放出して蒸発させる。


「烈火爪!!」


「しまっ!?」


 今日一番の大技が来た。三本の炎の爪は巨大で、避けるのも防ぐのも厳しい。マジで俺を潰しに来てやがるな。


「インフィニティヴォイド!!」


 大量の虚無を拡散する。ある程度なら正面に飛んでいくので、これで時間を稼ぐ。


「凍河龍撃!」


 おびただしいほどの氷と吹雪だ。周囲の環境も手助けして、恐ろしく寒い。


「これはきついぞ……」


「その技、威力はあっても長続きはしませんね?」


 ばれている。何回か一緒に戦闘したのが響いたか。


『第三波終了。勝者Aチーム』


「はー……終わったか」


 一応の足止めはできたか。やはり影の兵士が無限に出せるのは強い。10メートルくらいの兵士が高速移動するだけでいいからね。衝撃波とかパンチ力で全部解決する。いやあ味方でよかった。


「おや、これで七分インターバルですね」


「アジュ、怪我はない!」


 イロハがこちらに駆け寄ってくる。そっちも怪我はしていないようだな。


「ギリギリだが問題はない。行け」


 ポーションと回復丸でとにかく体力と魔力を戻す。次どうしよう死ぬかも。


「私が残るわ」


「言い争いをする時間はないだろ。死ぬ前に鎧使えばいいさ」


「ゾンビはどうするの? 点数が稼げないわよ?」


「安心しな。オレらをどっちか倒せば勝ちだ。ゾンビ全部よりポイントが高いぜ」


 なぜかヴァンが来た。俺の助っ人じゃあなさそうだな。


「どうしてヴァンがいる?」


「さてどういうことだと思う?」


「全員が脱出する側じゃないってことだろ。大方何人か倒せばクリアになるとか」


「大正解! こんな時でも勘はいいのな。生徒の一部は隠しキャラだよ。三人倒しゃオレは上がりだ。残り一人ってな」


「あっちに一人残したのか?」


「おう、お前さんの魔力を感じたんでな。最後に倒すならいいと思ったんだ」


 今頃あっちは味方を回復しつつ籠城準備でもしているんだろう。というか次のゾンビで俺脱落じゃないかなこれ。マジで鎧使うか。


「とりあえずもう時間がない。イロハ、先に行って待っていてくれ」


「本当に無茶だけはしないのよ? これだけで不合格になるとも思えないのだから、無理のし過ぎはいけないわ」


「大丈夫だ。俺は無理なんてしないさ。先に行って敵でも倒しておいてくれ」


「わかったわ。ありがとう」


 こうしてイロハは次の会場へと転送された。さて、ここから絶望的な状況をどうするかが最大の悩みだが。


「流石に二対一はどうかと思うんでな、どっちとやるか選んでいいぜ」


「選ばないと?」


「同時に仕掛けます」


「マジで俺に厳しい理由は何なの? 今まで結構クエとか因縁とか解消してやって、嫌われる行動もあんましていないと自負しているぞ」


「感謝してるさ。単純に本気のアジュと戦いてえんだよ」


「僕も感謝しています。それとは別に真の実力を見たいという好奇心がありまして」


「無駄に期待がでかい」


 はっきり言うが迷惑だよ。素の俺に期待するやつが理解できん。


「仮にどっちかに勝てたとしてだ。七分で魔法陣に入れないとやり直し?」


「クリアでいいんじゃね? なんならオレがぶん投げてやるよ」


「俺は丁寧に扱え。次、奥の手が未完成だがある。ただしチャージに時間が掛かるし、成功するかわからん」


「よっしゃそれでいこうぜ」


「軽いなあ……いや俺も他人事ならそんなもんか」


 やりたかないが、この窮地を切り抜けるには仕方がない。やって勝てるとも思えないが、いい加減に新魔法を確立させるべきでもある。


「んー、カムイを実験台にするのは気が引けるし、ヴァンでいこう」


「オレの扱い軽くね?」


「だってお前死なないじゃん。カムイ、下がってくれ。でなきゃもう俺はいじける」


「いじけるアジュさんを見たくないので下がります」


 さてここからだ。やることと理屈は判明しているはず。リリアいないけどできるかな。できるといいなあ。


「嘘の魔法じゃ勝てないようにしてやるよ。ソウルエクスプロージョン!!」


 ヴァンから淡い赤い魔力が立ち上り、オーラのようにまとわりついて染め上げる。その強化魔法は前にも見たが、精度が段違いだ。爆風がこちらに来ない。完全に魔力を制御して支配下に置いているのだ。


「ふっ、どうやら泣いて命乞いをしても無駄なようだな」


「なんてかっこ悪いことをかっこよく言うんですか」


「オレはますます強くなったぜ」


「それを聞いて帰りたくなったぜ。じゃあちょっと真面目にやりますかね」


 まず指先に虚無を貯める。何度もやってきた工程をゆっくり確実に進めていく。落ち着いて、一発勝負に耐えるくらいの精度にするんだ。


「インフィニティヴォイド? 弾丸タイプだろうと当たらなきゃ一緒だぜ?」


「当てるものじゃないんだよ」


 今まで魔力制御はできていた。その奥へと進む。


「虚無には核がある。白い虚無の中心に、無になるまで、無になっても爆縮を続ける紫色の核がある。見えるかどうか程度のものだったが、そいつが威力の元だ」


 超圧縮された魔力が尽きるまで、ただひたすらに爆縮を続ける。便宜上虚無と呼んでいるそれは、俺の使える魔法の中で最高レベルだ。


「カムイ、お前に見せた白っぽくなるやつあるだろ。あれは失敗作でね。無限に魔力を浪費する。消耗が激しすぎてすぐ潰れちまう」


「わかりますけど、あれが奥の手では?」


「あれの正解を見せてやる」


 爆縮を続けろ。今のままじゃどこかで超人に勝てなくなる。超人の中堅どころから逃げられるくらいにならなきゃいけない。だがまだ光速を突破できていない。

 ならどうするか。超威力で速度を振り切るのだ。勇者システムとの融合により、ほんの少しだがそれは可能だった。光速は達するんじゃない、別の形で超えるんだ。


「はああああぁぁぁぁ!!」


 指先の弾丸が白から紫へと変わっていく。もっとだ、もっと完全に紫で満たせ。虚無の核で虚無の核を爆縮させろ。臨界点を超え、常識を超え、想像の限界を越えろ。これが今の俺の限界ギリギリだ。


「とんでもねえ魔力だが、結局はてのひらに収まるサイズだ。それをどうする? どんな攻撃も作っただけじゃ意味ないぜ?」


「言っただろ、こいつは当てるんじゃないってな」


 魔力の無限消費を解決すれば、あの形態は完成する。それが永遠である必要はない。数分でもいい。一切の後付け消費なく、自由に動き回れるだけでもいい。それだけの力をどこかから調達する。


「あーくそ……やりたくねえんだけどなあ……恨むぜお前ら」


 ピンポン玉より一回り大きいくらいの紫の核が完成した。仕方がない。現状これしかないと自分に言い聞かせ、虚無の核をじっと見つめて。


「んっ……うぐ……」


 飲み込んだ。

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