ひたすらゾンビを倒すサバイバルゲーム

 雪の降る病院の中庭で、まーたゾンビとか倒すことになった。

 今は屋上で敵がどこからどう来るのか見ている。


「さてどうなるか……切り抜けられりゃいいが」


「杖の効果も試しましょう」


『第一波開始』


 何がどうなるのか待ち受けていると、遠くにゾンビの群れが見える。しかも四方八方から大群が来ていた。


「多いな……とりあえず撃ってみるぞ!」


 三人で杖の効果を試す。魔力弾が当たったゾンビは、煙のように一瞬で消えていった。どうやら本当に即死するらしい。


「下手に広範囲魔法撃つよりはいいか。これで近くの敵だけ消していくぞ」


「了解です!」


「影の兵は?」


「まだ使うな。難易度を上げられる可能性がある」


 この勝負が監視されているのなら、楽勝で突破すると難易度を上げてくる可能性大。学園はそういうことをする。嫌な信頼があるぞ。


「トカゲ人間が来ます!」


 ゾンビの足元を這うようにして、四足歩行で動いている。速くてキモい。


「優先的に倒せ! 近づくやつは撃つ!」


「了解!」


 無駄に素早いため照準が定まらない。こういうのが一番面倒だ。


「イロハ、棘!」


「土遁、刺突壁!」


 土の壁から回転する棘が飛び出す。ついでに地面にも設置することでゾンビを寄せ付けずに始末するのだ。やつらに回避なんて知能はないからね。


「アジュさん、上です!」


 上からゾンビが降ってきていた。意味が分からないが、とりあえず迎撃する。


「ライトニングフラッシュ!!」


 幸いザコだ。簡単に消し飛んでくれるが、あいつら飛べるの?


「奥よ、投げている敵がいるわ」


 なんのこっちゃと思えば、右腕が異常発達したでっかいゾンビがザコゾンビを投げている。あいつ5メートルはあるなあ。


「力技すぎないか?」


「けど厄介よ。杖じゃ死ににくいみたいなの」


「ボス格か。プラズマイレイザー!」


 よし、強めの魔法なら倒せる。完全に無敵じゃなければ作戦はあるぞ。


「またゾンビが飛んできます!」


「重力魔法で落とせないか?」


「範囲が広すぎます。これだけの広場全域は……」


「いや、壁でいい。四方に触れると重くなる壁をつけるんだ。下にイロハがドリルを置けばいい」


「なるほど!」


 これによりゾンビが飛ぶ、重くなって落ちる、地面のドリルで粉々になる、という装置が完成する。ボスっぽいのは誰かが強力な攻撃で潰せばいい。

 拠点には砲台もあるので、そう簡単には近づけないのだ。


『第一波終了。以降七分ごとに開始します』


「こういうゲームやったことあるぞ!!」


 絶対あれこかヒメノの悪ふざけだ。ゲームのことを知らない運営が画期的なプランとして採用しちゃった可能性もある。


「七分は短いですね」


「ドリルの付いた落とし穴作ろう」


「罠を重点的に仕掛けるのね」


 なるべく魔力消費を抑えることにした。ゾンビがアホだから、システムさえ作っちまえば問題なく勝てるはずだ。


「よし、これでゾンビを排除しつつ乗り切るぞ」


『第二波開始』


 そして大量のトカゲ人間とボスだったはずのやつが走ってくる。


「多い多い多い! 難易度調整しろや!!」


 ほぼザコゾンビがいない。お前これクソゲーだぞ。


「落とし穴で処理できないわ」


「死体を乗り越えて来ます!」


 敵の勢いがやばい。こんな大量に来るのか。第三波どうすんだよ。


「あっちが壊滅したら終わってくれないかな……」


「あちらにリリアさんとシルフィさんいたら厳しいですね」


「……うわあ」


 あっちに偏ると絶望的だな。頼むから弱いやつでお願い。


「ライトニングフラッシュ!」


 広域魔法で倒せる間はいい。問題はここからさらに強化された場合だ。流石に対処が難しくなるし、イロハにやってもらうしかない。


「影の兵士だ!」


「いいのね?」


「構わん」


 イロハの影が兵団となってゾンビを潰す。数の有利を取ったら、あとは粛々と処理していくだけだ。


『第二波終了』


「ふう……こいつはきついぞ」


 持久戦は俺の苦手分野だ。イノもかなりの魔力を消費している。最後にはイロハ頼みになりそうだが、なんとか俺も動かないとな。


「次に何が出てくるか想像もつかん」


『第二波勝利Aチーム。勝利者の拠点に、一人用の脱出装置が動きます』


「おいマジか」


 そういうバトロワ的な要素いれます? なぜギスギスさせるのさ。


『七分後に消滅します』


 転移魔方陣が出た。なるほどな。こりゃやばいぞ。メンバーが減るんじゃ、勝つ前に拠点壊れるかも。


「しょうがないか……行けイノ」


「なっ!? できません! 推しに迷惑をかけるなんて!!」


「アジュと私ならなんとかなるわ」


「お二人を見捨てて逃げろと言うのですか!」


「お前は賢いから気づいているはずだ。どちらかとお前が残っても、苦戦するだけだということを」


 イノの魔力は無限じゃない。イロハのように永久に魔力が続くか、俺のように一発逆転の手段があるなら別だが、イノがいては両方隠したまま戦うことを余儀なくされる。つまりガン不利。


「うううぅぅ……そんな……でも……」


 かなり悩んでいる。それだけ根がいい子ということか。


「行け。次で運がよけりゃまた会える」


「ここまで助かったわ。ありがとう」


「絶対! 絶対またお会いしましょうね! 推し活は終わりませんから!!」


 泣きながら魔法陣に入っていった。別に死に別れるわけじゃないってのに。


「さーて、ここからだな」


「こちらが勝てたということは、様子見されたかリリア達がいないかね」


「両方であって欲しい。ここからマジで来るだろうしな」


「私は残るわよ?」


「俺が残る。最悪鎧でいい」


 イロハに残って欲しくない。もしもの時に確実に勝てるのは俺だ。あとシルフィやリリアと戦ってどっちかが落ちるのは避けたい。


「何を考えているかわかるわよ。落ちてもお互いを恨んだりしないわ」


「全員で合格したいだけだ」


『第三波開始』


「まずは勝つぞ」


「もちろん」


「雷球招来!」


 フィールドに複数の雷球を出し、そこに札を飛ばす。


「雷輪転! 急急如律令!!」


 札は雷球を経由して、丸いノコギリのように回転を続けて飛び回る。

 敵を少しでも切り刻んでくれればいい。


「敵はボスっぽいのと、赤いゾンビ?」


 気になったので撃ってみると爆発した。


「あれ周囲の敵も巻き込むだろ」


「うまく誘爆させるギミックのつもりかしら?」


「まだあるかもな。警戒しつつ、イノの抜けた穴を埋める」


「もう少し本気を出してもいいかもしれないわね」


 イロハに全部任せるわけにはいかない。俺もちゃんと技術を磨いておこう。


「俺にもう少し負担かけていいぞ」


「気づけるのね。わかったわ。無理はしないで」


 気遣われていたな。俺の方に来る敵が少ない。それじゃ意味がないのでちゃんとやる。メンバーをふるいにかけてくるということは、どこかで必ず個人戦があるはずだ。そこまでに勘を磨いておきたい。


「二人でカバーするのは厳しいものがあるな」


「交代でメンバーが減っていく仕掛けにしたかったのかもしれないわね」


「そう考えるのが普通か。この学園でも普通って概念はあるんだな」


 会話しながらだがなんとか迎撃している。影の軍団と連携すれば、かなり有利が取れるな。慎重に敵を選び、最速で倒す。これだけでも訓練になる。


「鍵は使わないのね」


「なるべく素の力を上げておきたいんだ。雷爆符! からのプラズマイレイザー!」


 連発も可能になってきた。魔力量はかなり増えているな。精度も申し分ない。


「誰かいるぞ」


 誰かがこちらに走ってくる。敵チームが特攻でもかけてきたのかと思えば。


「すみませーん! 味方です! 入れてください!」


 カムイだった。敵の間を縫うように素早くこちらへ駆けてくる。


「俺が行く。ザコ所理頼む」


「気をつけて」


 そして拠点前まで来たカムイを出迎えた。


「カムイ? どうしてここに?」


「そちらが一人欠けたため、僕のようなフリーの人員が補充されます。よろしくお願いします!」


「なるほど、よろしくな」


「できればご本人に挨拶したいのですが」


「おかしなことを言うな。俺はここだぞ」


「風流牙!」


 風の牙が俺の分身をかき消した。遠慮ないなこいつ。


「やっぱり分身でしたか。本体は屋上ですか?」


「悪い悪い。一応警戒していたんだよ」


 ひょっこり屋上から分身を覗かせる。


「それも分身ですよね?」


 ばれている。何か知覚する方法でもあるのだろうか。風水すごいね。


「まいったねえ。どうして分身だとわかった?」


「一度や二度共闘したくらいで、他人を信用するタイプじゃないでしょう?」


 カムイからは当然だとでも言わんばかりの余裕があった。


「それだけかい?」


「拠点から出てきた時点で怪しいです。アジュさんなら決して結界から出ないはず。出たってことは分身で、しかも僕を入れたくなかった。でしょ?」


 俺という人間をしっかり理解している。それほど長く一緒にいたわけでもないのに、やはり皇帝の才能を受け継いでいるのだろう。いいねえ生まれが立派なやつはさ。そういうのずるくないかな。


「大正解。ふっふっふ、皇帝の威厳ってやつが出てきたじゃないか」


「そうだとしたら、きっとアジュさん達のおかげですよ」


「で、敵なんだな?」


「はい。ゾンビが僕を襲わないことがヒントのつもりでした」


「まあ決定打はそこだな」


「やはり欺けませんか」


 最初から俺を騙し通せると思っていないようだな。


「イロハ、そのままザコを頼む。カムイは俺が止める」


「怪我しないように気をつけて」


「いいんですか? 正直イロハさんに勝てる気がしませんよ?」


「イロハはザコで点数を稼がせる。お前を倒す必要がないだろ? チームの点数勝負なんだからさ。時間稼ぎくらい俺でもできる」


「まいったなあ……やっぱり敵になると厄介だよこの人」


 苦笑いをしながら構えに入っている。仕方がない、俺も拠点から降りて対応しよう。正直俺じゃカムイには勝てないんだけど、時間稼ぎくらい可能だよな?


「リベリオントリガー!」


 出し惜しみはしない。ここで俺の実力テストといこうじゃないか。


「手加減しろよ? 俺が死ぬぜ」


「本当に変な人ですねえ……」


「敵にいると面倒だが、味方にするには気難しい。それが俺さ」


「だから私達がいるのよ」


「実感してます」


 さて、なけなしの気合いってやつを出してみようじゃないか。

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