病院探索と次の拠点

 脱出ゲームでゾンビやトカゲ人間が出るなか、院長室へと入った。


「広くて清潔ですね」


「ボードになにか貼ってあるな」


 大きめのボードに紙がある。青い壁……シャッター? の絵と青いビンの絵が書いてある。隣には白いビンを複数の何かに塗る絵があった。


「壁にぶっかけろってことか?」


「解決法が豪快すぎるでしょう」


「ですが無意味に絵を描くとは思えません」


「まあ学園だしな……この絵はこのままにしておこう。一応まだ生徒がいるかもしれんし」


 さらに探索を続けると、どこのかわからん鍵をゲット。目につくのはこれとでっかい絵画くらいだな。


「なんだかところどころぼやけた雰囲気のする絵ですね」


 雪国の景色だろうか。吹雪の山で、男が一人立っている。妙に立体的だな。


「どういうこと?」


「なんでしょう……ピントが合わないといいますか」


「わからん」


 イノだけが違う見方をしているのかな。だとすると何か仕掛けがありそうだが。


「でも迫力のある絵ね。吹雪がこちらにまで飛んできそう」


 確かにやけに立体的だ。飛び出す絵っていう手法があった気がするが、これも同じだろうか。じっくり見ていくと、うっすらなにか浮かぶな。


「魔力の幕みたいなものがかけられているわね」


「ひか……り……の……なんだこれ文字か?」


 だまし絵と魔力と蛍光塗料の合わさったようなトリックだ。文字や絵と同時に魔力の残滓を感じ取ってピントを合わせる必要がある。


「鍵は光の庭への道、捨てるなかれ、疑心は白く染めよ、その器の許す限りと書いてあるわ」


「こういうメッセージもあるんだな」


「お二人は何を……?」


 イノがいまいち把握できていないらしい。イロハがちゃんと説明してくれたので、改めて観察しているようだ。


「あっ、確かにぼんやり見えます。文字だと意識して魔力を集中すればなんとか見えますね」


「塗ってみるか。筆ないか?」


「今作るわ」


 影の中から筆が出てくる。それに白いビンの液体をつけ、文字の見える部分に塗ってみる。


「ちょっと、いいんですか高そうな絵に」


「こんな場所に本物は置かんよ。文字書くくらいだからな。まあ転写がせいぜいだ」


「それもそうね。くっきり文字が浮かんで……全部出さなくていいの?」


「あくまでほんの少し出す実験だ。器の許す限りってのは、制限があるから使いすぎるなってことだろ」


「なるほど、素晴らしい洞察力です!」


 この仕掛け、簡単なようでうざい。なぜなら同じ場所を二度回る必要が出たりしそうだから。それを避けるためにもよく考えないとな。


「とりあえずシャッターの先に行きたい」


「ここに書き置きでも残しましょうか? 名前と先に行くくらいでいいわ」


「絵のことや作戦はいいのですか?」


「脱出レースの可能性と、敵に行動を悟られることを考慮した。もうちょっとだけ探索したら出て……妙に暗いな。明かり全部つけてくれ」


 複数の明かりがつき、今までついていた場所が消える。それを数回繰り返して、元に戻る。


「どうした?」


「おかしいわね。全部つかないわ」


「これもヒントでしょうか?」


 どうやら全部つかないらしい。となるとまだ仕掛けがあるのか。


「交互につけたり消したりしてくれ」


 なんか絵がちらつくな。これヒントなのだろうか。また魔力のある部分だけを抽出するように見ていくと、二箇所だけ光が当たり続ける部分が薄く発行している。


「塗ってみるか」


 塗ると鍵穴が出てきた。どうやら表面を 特殊加工で覆っていたらしい。

 早速鍵を入れてみるが回らない。だが鍵そのものは入る。


「同時じゃないかしら」


 イロハと二箇所同時に回す。かちりと音がして、奥の壁が動いた。


「隠し通路か」


「よくこういうの気づきますね」


「こういうゲーム死ぬほどやったからな」


 まさか異世界でゾンビゲームの経験が役に立つとは……常識が通じないぜ。


「まあどこに通じているか知らんが、ここまでやってはずれはないだろう。案外ゴールだったりしてな」


 言った瞬間扉が叩かれる。念のため鍵をかけておいたのが功を奏したな。


「最悪ね。外の気配、十や二十じゃないわ」


 力任せに何度も叩かれている。どうやら理性のない連中らしい。


「ってことは敵か」


「でしょうね。嫌な匂いがするもの」


「んじゃさっさと奥に行こう。入れば閉まるだろ」


 三人で奥の通路に入り扉が閉まるのと、ゾンビが大量に部屋になだれ込むのは同時だった。


「はいさよーなら」


 扉はがっちりと閉じ、強度からして壊れることはないだろう。


「中は普通の通路だな」


「ここ8ブロックの病院でしたよね?」


「こんな通路知らん。俺が住むなら作るけど」


「作るんですか……」


「俺とギルメンだけは逃げる方法がないと安心できんだろ」


 俺が住むなら絶対に保険が必要だ。保険金的なことじゃなく退路ね。他人と一緒に死んでたまるか。一人だけでも逃げてギルメンと再開する工夫は、実は城にも作ってあったりする。言わないし使わなかったけど。


「ところでどうしてイノさんは後ろからついてくるのかしら?」


「殿はお任せください」


 こいつの狙いがわからない。善意っぽいんだけど、そこまでされるほどの付き合いじゃないし、思考が読めんタイプだなあ。


「ふっふっふ、私は気づいているんですよ。その服、おそろいですね!」


 俺のコートとイロハのパーカーのことだろう。よく気づいたなそれ。


「しれっとおそろいで歩く姿! まったく気づかない気にしないアジュさん! それでも嬉しいのが隠しきれずしっぽに出ちゃってるイロハさん! そしてそっと離れて見守る私!」


「意味がわからん」


「とりあえずやめなさい。アジュが気づいて距離を取ろうとしているわ」


「ほわあぁ!? これは失礼を!? 推し活で推しの邪魔になるなんて……死んでお詫びを……」


「よくわからんがマジでやめろ」


 なんかやべーぞこいつ。身内にいないタイプすぎるだろ。これは俺に対人経験がないことが原因ではない気がする。


「普通にしてくれ。離れるのは危険だ」


「うぅむ、仕方がありませんね」


 そしてしばらく歩き続けると上への階段があった。


「位置的には中庭か? 出口じゃないっぽいな」


「でもあれだけ意味深な謎解きしたんですから、ご褒美があってもいいと思いますよ。期待しましょう」


 出た先はやはり中庭だった。五倍くらい広いけど。雪も降っているが吹雪ってほどじゃない。視界は少し悪い程度で、8ブロックじゃ珍しいことではなかった。


「広すぎる。こりゃ空間捻じ曲げてやがるな」


「もしくは広く伸ばしてから作ったか、いずれにせよ目的がありそうね」


「近くのあれはなんでしょう?」


「休憩所のはずだが……」


 中庭は俺の知っている病院でもかなり広い。なので患者が倒れた時用に休憩所や簡易医療キットなどが置かれている。やはりなんかでっかい。二階建てになっていた。


「行きましょう。なぜか敵の気配がまったくないわ」


『三名入室確認。チームAとします』


「なんだ今の不吉なアナウンスは」


「こっちの掲示板にルールがありますよ」


 室内にも俺の知らない備品が置かれている。掲示板が医師の詰め所と同じやつだ。これは謎解きなのだろうか。しょうがないから真面目に読もう。


「どうやら攻めてくる何かを撃退するみたいですね」


「戦闘やめてくれ。しんどい」


「ここにもピントボケの字が見えるわね」


「うっし、どうせなら使っちまおう」


 白い薬品を使って文字を出すと、詳しい敵の説明や倒すと得られるポイント、武器の在り処など色々と出てきた。


「道具はボックスにある。鍵は今まで手に入れたやつ……うーわ捨てていたらやばかったな」


 鍵を二本とも使うと、休憩所に結界が張られた。さらに知らん魔導機が出て来る。


「あれなんだ?」


 小さな砲台に近い。砲台を水晶とか鉱石で作った感じ。


「自動で魔力弾を撃ってくれるみたいよ」


「そら便利だな。こっちの青い箱は……」


「液体をかけるのでは?」


「鍵穴もないしな。はいどばー」


 青い液体をかけるとボックスが溶けて、中から小型の魔法の杖が出てきた。


「これに魔力を込めて撃ち出すと、50ポイントまでの敵は即死らしいわ」


「シャッターで使わなくてよかった……マジでアイテムの使い方重要だな」


 これは頭だけじゃなく運も必要だな。そしてメンバーにもよる。運良く知り合いだったが、これが気難しいやつだと厳しいぞ。


「とりあえず文字は消しておこう。敵に読まれないようにな」


「そうしたら休みましょう。精神的な疲労はあるはずよ」


 ベッドが人数分あるので寝ておこう。横になると疲れが俺にのしかかってくるようだった。ゾンビがいないか緊張しながらの脱出はストレスになるんだな。


「そのまま横になっていていいわ」


 イロハが俺のベッドに腰掛けているので観察しよう。

 しっぽがぶわっとなっており、耳がぴくぴく動いている。これは音と匂いで周囲を警戒しているのだ。


「時間まで敵は来ないのかしら?」


 手を伸ばせば届くくらいの距離を取って、背中を向けて座っている。これは俺を守ろうとしてくれているのだ。こういう場合は撫でなくていい。警戒の邪魔になるので、満足するまでそっとしておこう。


「あまり問題はなさそうね。しっかり休んでおきましょう」


 窓の外をじっと見ていたようだが、問題なしと判断したのかこちらに来る。

 大抵は俺の横でごろんと丸くなる。こうなったら撫でてもいい。手を乗せてきたりこちらを見てくる時は遊んで欲しいか褒めて欲しいかだ。警戒がんばったので撫でてあげよう。


「よしよし偉いぞ」


 パーカーを脱いでいるので背中を撫でてやる。耳としっぽがどう動くかでも判断しよう。ゆらゆら揺れているしっぽは機嫌がいい時で、俺が撫でやすいように体の向きを調節している。どうやらこれで正解らしい。


「ちゃんと寝ておけよー」


 イノが微動だにせずこちらを見ている。怖いよ。お前どうしたんだよ。

 そんなかんじで仮眠を取っていたところ、またアナウンスが来た。


『両チーム認証完了。二十分後に第一波が到来します』


 仕方がないので準備開始。杖は持ったし、むやみに外に出ず、屋上から様子を見よう。せっかく基地みたいなんだし。


「敵はゾンビでいいのでしょうか?」


「まずこれ何点取ればクリアなのかね」


「点数も気になるけれど、相手が誰なのかもわからないわ」


 疑問だらけである。この状況でもイロハがいればある程度勝てるだろう。敵にギルメンがいなければな。そこは祈ろう。


「とりあえずここから敵を補足。迎撃の姿勢を取る。いけるな?」


「お二人から活力を頂きましたので! 今の私は滾っておりますぞ!」


「問題ないわ。勝ちましょう」


 さて何が出てくるのやら。

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