病院探索は続く
ゾンビの出た病院から脱出するため、地下霊安室へと向かう。
「こっちのゾンビも頭吹っ飛ばすと死ぬのか?」
「大抵はそうだけど、魔法で動いているタイプとか、寄生されているタイプとか種類は見定めないといけないわ」
さすがはファンタジー。ゾンビの種類も豊富だねえ。嬉しくもなんともないけどな。とりあえずゾンビに出会わずに地下へ来れたが、霊安室って使われているのか?
「ここは転写された世界だ。死人を入れておくとは思えんが」
「どうかしら。スペースが空いているのよ。そこにゾンビを詰め込めるわ」
「やりそうだなおい……」
地下もちゃんと広く作られている。なんせ仮のブロックだからな。どうせなら広々とした頑丈な作りにしようとしたのだ。
「気配はないわ。ゾンビに人間の気配ってあるのかしら?」
「わからん。なーんもわからん」
扉の前に結界を張ってもらい、部屋を開けてみることにした。ゆっくりと開けてみるが、中には誰もいない。奥の死体収容棚? みたいなやつが一個だけ赤く蛍光塗料みたいなもので塗られている。名称わかんないので曖昧だ。
「開けるしか無いよな」
「ええもちろん」
二人とも動かない。これはなすりつけあいが始まる気配ですよ。
「女王様ならうまくやれるだろ」
「あなたも国王様でしょう」
「そりゃこの試験の役職ってだけだからな」
「なら役目は一緒ですよ」
しょうがないな……雷の手を伸ばして、そーっと開けてみる。
中にはきらりと光る鍵が入っていた。
「うーわベタな……」
「何も起きないみたいですね。少し室内を調べてみましょうか」
「そうだな」
二人して部屋に入った途端に、天井からゾンビが落ちてきた。
「うおぉ!?」
「ひゃわああぁぁ!?」
油断した。そういうパターンかよ。これ試練というか俺達をびびらせるためだけにやっているな。
「迎撃! サンダースマッシャー!」
「了解です」
ゾンビ自体はそれほど強くもない。数が多いが、そんなものでイノは止められんぞ。俺は援護すればいい。
「ふっふっふ、イノの強さを甘く見たな」
「やはり特殊な方ですね。女性にいいところを見せようという態度がまるで感じられません」
「ギルメン以外の女なんぞどうでもいい」
「ふほう!?」
「ん?」
「こほん、では探索を再開しましょうか」
ゾンビの肉片が散らばって大変不快でございます。最悪だよもう。匂いもきつい。こういう精神攻撃はずるいぞ。
「何もありませんね」
「さては横着しやがったな運営」
絶対細部まで作るのめんどくさくなったな。楽だからいいけどさ。
「どうせまだ鍵があるんだろうし、さっさと探すか。一階に戻るぞ」
「了解です。手早く終わらせましょう」
というわけで一階に戻り、薬品実験室へと向かう途中。なぜか『生物兵器研究室』という怪しい部屋を見つけた。
「アジュさん?」
「作るわけねえだろ。作るとしても大っぴらに書くかよ」
完全に運営側の仕業だ。こういうの作るのずるいぞ。絶対敵やん。
「開けたくない」
「同感ですわ」
「とりあえず薬品を調べに行こう。ここはパス」
「ですわね」
そーっとその場を離れて二階へ行こうとする。だがシャッターが降りていた。念のため切りつけてみるが、傷すらつかない。
「魔力と……何か別のものでプロテクトがかかっています。かなりの質量で攻撃しなければいけないかと」
「音で絶対にゾンビが来るよな」
「最悪向こう側にいますね」
「仕方ない。早足で回り道だ」
そして敵に会わないように祈りながら行動する。なんか戦闘とは別種の怖さがあるな。病院に俺達しかいなくて静かだと、こんなホラーっぽくなるのか。
「ところでアジュさん、今のうちに質問してもよろしいかしら?」
「何だ?」
ここで質問とは、なにかやらかしたっけ。まあ余裕があるうちに聞いておこう。
「シルフィさんと遊園地に行ったらしいですね」
「…………は?」
急に予想外の話題を振られて反応が遅れた。どういうことだ。そこから何を聞き出そうとしているのかわからない。
「楽しかったですか? 手とか繋いじゃったり?」
「楽しいは楽しかったが、今する話題か?」
「何をおっしゃいます。比較的安全な今だからこそ、詳細に聞いておかねば気になって集中できませんぞ!」
「えぇ……?」
こいつのキャラが掴めない。俺達を詳しく調べてどうしたいのだろうか。戦力ならともかく、プライベートなんて知ってどうするのだろう。
「繋いだんですか?」
「まあな」
「シルフィさんのお姫様モードとは違う、等身大の女の子のようなはしゃぎっぷりにかわいいな……とか思ったんですよね?」
「変なこと決めつけんな」
俺は何を聞かれているの。こいつなりにリラックスさせようとしてくれているのだろうか。なんか怖い。
シルフィは大抵の場合いつどこにいてもかわいいんだよ。
「クレープあーんとかしました?」
「この質問続くの」
「もちろんです」
「アイスをお互いにわけた」
「むひょう!!」
たまに奇声発するよねこの子。精神状態が心配になる。今まで周囲にいなかったタイプだ。敵対しているわけでもないので、どう接していいのかわからない。
「か、感想を聞いてもよろしいでしょうか」
「普通にうまいバニラとメロンだったよ」
「なぜアイスの味を答えてしまうのですか」
「なんなの……」
なぜがっかりしているの。そしてなぜ俺を責めるような目なの。
「麗しのお姫様と遊園地でアイスわけっこですよ!! そこのときめきとか輝きとかそういう青春的なエピソードを聞きたいわけでございますよ!!」
「ねえよ」
んなもん俺に期待しないでくれ。なぜ目を輝かせる。恋愛話が好きなのか?
「普通に遊園地行って遊んだだけだ」
「ひょえぇ……これはリリアさんとイロハさんとも行く流れですな!」
「そうだけども……」
「シルフィさんと一回行った場所でのデート。これは由々しき事態ですぞ! どう差別化するのか、いやあえてしないのか! 手腕が試されますぞ!!」
二重人格なのかなこいつ。これ誘導尋問とかじゃないな。単純に知りたいっぽいけど、じゃあどうして知りたいのかがわからない。
『三十分経過。開放します』
「なんだ今の不吉なアナウンスは」
病院内へのアナウンスだと思う。そりゃただで通過できるとは思っちゃいないが。
「どうする?」
「どうと言われましても、まず何が開放されたのかも……」
「シャッターが開くとは思えん」
今来た道から大きな音がした。扉が開くような……まさか。
「おい実験生物逃げたんじゃないだろうな」
「まさか……」
「絶望的に嫌な予感がする」
「確かアジュさんの勘は当たりやすいとか」
ぺたぺたと素足で走っているような音がする。しかも複数だ。
「どこかの部屋に入って様子を見よう」
「手遅れみたいです」
イノの視線の先には、こちらを見ている変な生き物が。
「カエル人間?」
「トカゲでは?」
赤い体表で二足歩行のトカゲだかカエルだかの化け物がいる。ぎょろりとした目がこちらを向いていた。長い舌が気持ち悪い。
「来ます!」
二匹が四足歩行で猛然と突っ込んでくる。カトラスを構え、とりあえず魔法を撃ち込んだ。
「サンダースマッシャー!」
「ライトバレット!!」
雷と光が飛び交うが、敵が低姿勢かつ素早いこともあってあまりヒットしない。
「おおっと」
長い舌が刃物のように飛んでくるが、カトラスで切り落として距離を取る。
「シャアアァァ!!」
人間離れした跳躍力で一気に距離を詰めてきた。だが甘い。
「ライジングナックル!」
雷の拳を大量にぶつければいい。点じゃなくて面で攻めるのだ。これでヒットさせて電撃で怯ませる。
「ライトニングジェット!」
クナイを投げて首から上をふっ飛ばせば終わりだ。
イノも敵を地面に叩き伏せて焼き払っている。
「終わったか?」
「急いで離れましょう。また追加されそうです」
「まったく……タイムリミットなんて聞いていないぞ」
そして目当ての部屋の前まで来た。さっきのような敵もいるから慎重に行きたいが、さらに強力な敵が出てくると厄介だ。地味に焦るぞ。
「ここですね。鍵はかかっていないようですが」
「さっきのやつが出てこないことを祈ろう」
「う……警戒は怠らないように……そーっと」
そしてイノが扉を開けようとする。
「早く入りなさい」
「ひょわああぁぁ!?」
イロハが出てきた。これはいいぞ。忍者がいれば探索は容易だ。
「状況は?」
「薬品が二個と鍵が一個よ。白い液体は酸だと思うわ。青いのは匂いがしないの」
本当にそれだけしかないようだ。薬品棚には何もない。わかりやすくしたのだろうか。助かるが、むしろ使わなきゃいけない場面があるってことだよなあ。
「了解。霊安室に鍵があった」
「地下にいたのね。私は三階スタートだったわ」
「ゾンビは?」
「いたわ。強敵じゃないけど、近づかないようにしましょう」
さくさく話が進んで助かる。やはりギルメンだ。とても楽ができる。
「イノはどうしてはじっこにいるんだ?」
「お二人の間に挟まるわけにはいきませんので」
ますますわからん。とりあえず鍵は二個。薬品は持っていく。ここまでで特に問題なのはゾンビと変な化け物くらいだ。
「トカゲ人間が出た。素早くて舌が伸びてくる」
「さっきの開放というのはそれね」
「ここからどうする?」
「まだ行っていない場所を探しましょう」
「でしたらシャッターの向こう側か院長室ですね」
できる限り近くを慎重に探索したい。タイムリミットがあるようだから、素早く迅速に急がず焦らずだ。きついな。
「シャッターは後回しだ」
「了解」
方針が決まったら即行動。トカゲ人間が出てきても、イロハが蹴散らしてくれる。この程度に遅れは取らないのだ。
「できの悪いホラーね。こんなものかしら」
「イロハさんは本当にお強いですね」
「まだまだよ。もっと強くならないと」
「無理はするな。おっとついたぞ」
院長室の扉には鍵穴が二個あった。鍵の柄の部分と同じ色をしている。
「なるほど、無駄足にならなくてよかったぜ」
かちりとはまる音がして扉が開く。さてここから先に何があることやら。早めに脱出できるといいんだけどな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます