検査からの最終戦突入

 ヴァンとの戦いが終わり、何もなくなってしまった更地でぼーっとしている。


「もうやだ」


 終了のアナウンスが来ない。ゾンビもいない。やることがない。


「カムイあと全部やって」


「急に言われましても……」


「俺を背負って残りの試験全部やって」


「ハードル高いなあ」


 完全に集中が途切れた。もうなーんもやる気しない。眠いんだよ。帰って寝たいんじゃい。


「大体だな、試験難しすぎないか? ヴァンに勝つのほぼ不可能やん」


「勝ったじゃないですか」


「引き分けがいいとこじゃね? ソニアとクラリスも呼ばなかったし」


 あくまで俺と正面から戦うことを望んでの戦闘だった。なんでもありで来られたら、鎧以外で勝ち目はない。


「俺を覚醒させるための戦闘だった気がする」


「あー……覚醒させて正面から打ち破る! みたいな」


「やりそうだな。やるなや。俺が死ぬだろうが。ここからのカムイの負担考えろってのなあ」


「僕が全部クリアすること前提で話が進んでいる……」


「っていうか運営どうした!」


「どうしたもこうしたもやりすぎよ」


 シャルロット先生が来た。俺達を見て少し安心しているようだ。


「放送できないほど荒れ放題にしてくれちゃって……転送魔法陣まで消えちゃったじゃない」


「なるほど、そりゃ無理だ」


「相手チームは危ないから転送したわ。あなたたちも送るつもりで来たけど、ヴァンくんは大丈夫なの?」


「寝ているだけでしょ。頑丈ですから」


 実際この程度で死ぬと思えない。この世界の学生上位ってどう殺すんだろうか。考えるだけ無駄っぽいので思考を中断。さっさと帰ろう。


「ここ寒いし次は暖かい場所にしてください。っていうか合格にしてください。ヴァン以上の試練とかないでしょ」


「それを言われちゃうとねえ……とりあえず全員検査よ。医者に見せるわ」


 まあ妥当だな。生徒が死にかけたんだし、学園の医者なら問題ないだろう。


「というわけで行ってらっしゃい」


 雑に転移されると医務室だった。精密検査とかするための部屋だな。病院特有の匂いがする。広くて清潔なのはポイント高いぞ。


「ではこちらの台に横になってください」


 本格的だな。そこからラウル先生がやってきて、内臓や血液の検査までされた。


「はいとりあえず無事ですね。不思議なこともあるものです」


「そんな不思議ですか? 強化魔法かけすぎただけでしょう?」


「普通は死んでいますよ。まずその強化魔法が異常ですから。後遺症が残らないのはすごいことです」


 優しい微笑みの中に、生徒を心配して嗜めるニュアンスが含まれていた。それでも褒めていくれているのは理解できた。


「鎧のおかげですかね」


「否定はしません。ですが、それも含めて君の積み重ねだと思いますよ。装備だけに頼っていては、あの魔法はできないでしょう。もう少し自信を持ってもいいと思いますよ」


「そいつは難しいです」


 自信のある俺など俺なのだろうか。鎧でどうにかなる安心感は大切よ。あれば多少はがんばれる。


「一応回復のお薬を置いておくね。お友達もけんさが終わる頃だから、目が覚めたら会いに行ってもいいよ」


「どうも、手間かけさせました」


「これが医者の仕事さ。元気になったらあのモニターのある会議した場所に行ってね。そこでシャルロット先生から説明を聞くといい」


「わかりました」


 先生が出て行ったので、服を脱いで自分の体の確認をする。特に傷もないし、関節もちゃんと曲がる。鏡を見ると元の長さの黒髪だった。


「戻るのか。よくわからん魔法だ」


 別に容姿にこだわりなんてないが、強化に利用できそうなら調べてみようかな。まずは薬とやらを飲んで、軽く部屋から出てみる。


「出歩いても問題なし。これも鎧の効果かねえ」


 リリアが話していない鎧の特性とかあるんだろうなあ。俺がサボるから言わないままの秘密ってことか。まあ実際サボるだろうから聞かないでおく。


「アジュさん!」


 カムイとヴァンがいる。あっちも検査が終わったらしい。


「もういいのか?」


「おう、ありがとな。お前さんのおかげで死なずにすんだぜ」


「お前なら案外生き残れた気がするぞ」


「それでもさ」


 そして戦いの話をしながらモニターのあった部屋へ行く。俺は場所知らないからカムイが頼りだ。あとで地図でももらおう。


「あ、男連中来たわよ」


「おおうまさかの三人脱落? やばくね? うちらしーちゃん頼り?」


 ランとカロンと、他にも見知った顔がいるな。ここに残った連中もいるみたいだ。


「一時的に治療? みたいなもんだよ、多分な」


「口ぶりからしてカロン脱落か? 嘘だろお前強かっただろうが」


 武力も知力もあるから選んだのに、もう負けたのかよ。


「いやー……あーしもあれは無理っしょ。あんなに強いなんて予想外だし、やばたにえんってやつっす!」


「リリアやシルフィじゃないな? 誰だ?」


「2ブロックの子だよ」


 正体不明だった連中が動いている。カロンが負けるということは、俺じゃかなりきつい。だが知らんやつに鎧は使えない。やばいぞ。


「何をされたんです?」


「ふっつーに戦闘で負けたし。超人レベルじゃね?」


「けどおかしいわよ。あいつらあんなに強いはずないわ。あそこまで急に強くなるかしら?」


 どうも急激なパワーアップをしたらしい。勇者科なので可能性はゼロじゃないが、なんらかの裏技を使っている可能性もある。


「行くなら気をつけた方がいいよ。あいつら共闘する気ないから」


「出会った瞬間どーんだよ!」


 かなり血の気が多い連中らしい。できれば出会わずに終わりたいものだ。


「興味があるなら送ってあげるわ。次のフィールドは2ブロックのお城よ」


 シャルロット先生によれば、そこが強さの秘密らしい。ヴァンは乗り気だが、俺はもう戦いたくない。


「がんばってこい。応援だけしてやる」


「リリアさんやシルフィさんも参加するわよ。いいの?」


「相手超人レベルっしょ? やばくね?」


「問題なし」


 超人くらいでリリアに勝てるわけないだろう。手加減されてへこむのがオチだ。そういやリリアの本気って見たことないな。九尾の力は吸収したはずだから、あのしっぽは九本、もしくは十本出せるはず。まだ三本くらいしか見ていない。あいつ別格で強いな。


「オレは面白そうだから行くぜ」


「行っていいなら僕も行きたいです」


 2ブロックの城が最後の試験らしい。そこで上位者を決める。ただし制限時間つき。全滅するまで続くことはない。


「最終戦まで残ってるのはアジュくんのところの三人とルシードくんと、2ブロックの三人ね。みんな頑張ったわ」


「展開早くね?」


「時間の流れを変えているらしいです」


「さあアジュくん、ピンチに駆けつけるなら最終戦が始まる前の今よ」


「俺が足手まといになるだけなんで」


 本気のあいつらにかてるわけないやん。好きにやらせてやればいいのよ。どうせ勝てるんだから、待っていればいい。


「カムイくんはここまで。ヴァンくんは試験中だから行ってもよし。アジュくんは勝ったんだから最終戦に進みましょう」


「あれ引き分けじゃないですかね?」


「オレは負けたと思ってるぜ?」


「えぇ……? 勝ちってちゃんと倒れずに立っていたやつじゃね? あの強化状態になるまで待ってくれたじゃん」


「知らん。オレは負けた」


 これは退かないな。ヴァンはごまかしたくないのだろう。なら尊重するかな。いやでもヴァンに勝ったって知れ渡るの嫌だな。あれラッキーもいいとこだぞ。


「頼むから誰にも言うな。ここにいるやつらも頼む。強いと知られたくないし目立ちたくない」


「おけまるー!」


「了解。それがアジュの意思なら尊重する」


「そうね、アジュくんがいいならいいわ」


 イズミとフランが来た。どうやら2ブロックに負けたらしい。本格的に強いようだな。行きたくなくなってくるぜえ。


「じゃあ二人を転送します。今回はバトロワ形式だから、好きなようにやっちゃってね。誰と戦うのも自由よ」


「最初に言っておく。ヴァンとは戦わない。あんなまぐれ勝ちはもうない」


「しょうがねえなあ……」


 そんなわけで転送され、目を開けると薄暗い廊下だった。


「なんだここ?」


 小さい明かりが等間隔にある。照らされる廊下も天井もやけに広くて高い。そして部屋がない。さらに小さく振動しているが、どうも戦闘の影響じゃないな。


「城というかシェルターだと聞いたな」


 できれば慎重に進めたいが、身を隠す場所があるのだろうか? 居住区画を探す必要もあるが、いかんせん土地勘がない。

 長い廊下は中心部に向かっているようだ。ドーム状の建物なのだろう。


「声が少し響く……」


 材質が分からない建物だ。どこか工場に近い。パイプが天井に伸びている場所もある。この中で生活したくはないな。景色に差がないし窓もない。


「ん?」


 突然照明が全て消えた。咄嗟に壁を背にして息を潜める。なんの気配もしない。ガードキーは発動済みだが、嫌な予感だけがする。

 暗闇の中で、周囲からゴウンゴウンと何かが稼働している音が響く。

 やはり普通じゃない。この城すべてが何かの装置なのかもしれない。

 しばらくじっとしていると、また明かりがつく。どこにも異常がない。それがかえって不気味だ。なぜ消えたのかわからない。

 仕方がないので探索を続けよう。リリア達の誰かに会えればいいが、さてどうなることやら。

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