そして試験当日

 やって来ました試験の日。

 準備万端。本日快晴。さて目の前には巨大な塔。


「来たわね。それじゃあジョークジョカー並びに個人ランクDへの試験を開始するわ」


 シャルロット先生だ。今回は私服だな。戦わないのだろうか。


「はい。サカガミ君はあの鎧禁止ね」


「やっぱりそう来ますか」


「あれは反則技だもの。それ以外の子は好きに戦っていいわ。道具の持ち込みも許可しておいたわね」


「はい。全員準備できています」


「よろしい。それじゃ、塔を登っていってね。そこにいる敵を全部倒すと、次の階への階段が出るわ。ある程度の条件付きの試練もあるから注意よ。サカガミ君だけで戦いなさいとかね」


 もう完全に名指しである。やはり懸念材料は俺なのだろう。

 当然といえば当然だな。


「それじゃあスタート! 頑張ってね!!」


 そしてやたらめったらでかい塔の扉が開く。

 鉄製っぽいのに音もなくすっと開くのは建築技術かね。


「行くぞ」


「うむ!」


「任せて!」


「用意はできているわ」


 そして四人で入った中は、なんか森になっていた。

 森というか山のようだな。地面に土が敷き詰められている。


「また凝ったセット作りおって」


「一応見通しはきくが……こりゃどういう敵が来るかわからんな」


「もう来ているみたいよ」


 イロハが遠くの木々へと手裏剣を投げる。

 すると躍り出る黒装束の連中。


「忍者か」


「第一試練。忍者の間。我々をすべて倒せ。殺しは禁じる」


 丁寧に説明してくれました。

 しながら印を結んでいるのは攻撃のためですか。


「火遁。フレイムブレス!!」


「サンダースマッシャー!!」


 口から火を噴く忍者さんを、なんとか電撃で相殺して距離を取る。


「水遁、ブリザードクラッシュ!」


「撃ち落とすぞ」


「任せるのじゃ」


 氷解をリリアと一緒に魔法で迎撃。

 魔法の撃ち合いならなんとかなるかな。


「ほう、今回の挑戦者は優秀だな」


「どうでもいいけど、技の名前が忍術っぽくないぞ」


「これはコウガの忍者じゃな」


「んん? なんか初めて聞いたぞ」


「おしゃべりをしている余裕があるかな?」


 リリアの解説を妨げる気配がしたので、ちゃっちゃと対策取りましょう。


「イロハ、シルフィと一緒に撹乱」


「はいさー!」


「了解よ」


 戦闘向きのシルフィを、忍術に詳しいイロハと組ませて攻撃させよう。

 この人数を分けるのは本来愚策だが、ぶっちゃけ一番弱いのは俺だし、固まりすぎても攻撃が避けられない。


「ぼちぼちやるか。ライトニングフラッシュ!」


 忍者がいる方向に攻撃魔法ぶっ放す。

 森がとにかく邪魔なので、開けた場所の確保もある。


「走るぞ!」


「うむ!」


 リリアに防御魔法をかけてもらい、その上からサンダーシードをかける。

 刀で斬りかかってきた忍者さんが、破裂した電撃で痺れ、少し怯む。


「ほいっと」


「サンダースラッシュ!」


 同時に攻撃魔法を撃ち込み、怯んだ敵と背後から迫る忍者軍団を足止め。

 なんとか視界を確保できる場所へ到達。


「鎧禁止なのはいい。鍵って禁止か?」


「どっちじゃろ? まあ鎧としか言われておらぬ。どっちでもよいじゃろう」


 少し離れた場所から爆発音と影が溢れ出している。


「イロハたちか。あっちは心配ないだろう」


「むしろ自分の心配をするべきじゃな」


 離れた位置にある木々から忍者が複数様子をうかがっている。

 あんな丸見えの様子見はしないだろうから、不意打ちで別働隊が来ることを警戒しよう。


「風遁、ハリケーンカッター!」


 示し合わせたかのように風の刃が襲ってくる。

 だが防御魔法は硬い。この程度なら防げるさ。


「属性攻撃ばかりだな」


「やはりコウガじゃ。見た目が魔法によく似ておる」


「さっきも言っていたな。フウマ以外の忍者がいるということか」


「うむ、忍者には大きく分けて三種類あるのじゃ」


「かかれ!」


 説明が始まるって時に忍者さんが突っ込んでくる。


「サンダードライブ!」


 地面へと雑に雷光を走らせる。

 くらって動きが止まった忍者へと急接近。


「させるか! 男を撃て!」


「そうはさせんのじゃ」


 リリアの魔法乱れ撃ちにより、さらに陣形が崩れ、付け入る隙ができた。

 いつものカトラスに稲妻と魔力コーティングをかけ、肉薄して横薙ぎに斬る。


「オラア!!」


「げはあ!?」


 手応えあり。一撃当てたら即離脱。

 とにかく動こう。運動嫌いだけど。

 煙幕玉を使い、敵を撹乱しながら各個撃破していく。


「フレイム手裏剣!」


 火のついた十字手裏剣だ。

 あれ触れると爆発しそう。


「ライトニングフラッシュ、弱め!」


 片手で広範囲に向けて魔法ぶっぱ。

 手裏剣は激しく燃え上がり、やがて溶けるか地に落ちた。


「うーわ……人間に使うかそれ」


「人のこと言えんじゃろ」


「ごもっとも」


 数人倒してリリアと合流。

 数が減った気がしない。こりゃ初っ端から面倒だな。


「やるじゃないか。君たちはとことん優秀だよ」


 赤い装甲をつけた忍者が前に出てきた。

 黒装束が道を開けていることから、あいつがリーダー格なのだろう。

 顔が兜だか頭巾だかで見えないな。


「コウガの訓練生が着る服じゃな」


「お察しの通り、コウガ忍者さ」


 フウマにも忍装束はあったはず。隊長格とわかる装備だったかは知らん。

 上忍も下忍もそんなに変わらなかったような。


「さっきも言ったが、忍者には三種類あるのじゃ」


 今回は説明を待ってくれているのか、攻撃してこない。

 休憩時間ができてちょうどいいな。


「コウガは忍者という存在を表舞台に出し、忍者科ができるほどに浸透させた集団じゃ。学園で教えている忍術はコウガのものじゃよ」


 古いアサシン技術や小さい諜報技術部の集合体だったとか。

 今はごく普通に表舞台で忍者を名乗り活躍している。

 というか目立っている忍者は大抵こいつらなんだってさ。


「ほー……なんで忍者って名前になった?」


「そこはフウマ忍者の伝説からあやかったのさ」


 なんでもやたらと伝説に残るフウマ忍者から取り、同じ隠密術の使い手として忍者を名乗り始めたとか。

 完全にコタロウさんだ。言わないでおこう。


「そして忍者ブームを作り出し、グッズ販売から学園の講師まで様々な舞台で活躍しておる」


「左様。私は試験のために雇われた、コウガ訓練生。そして彼らは同門の忍者科高等部二年、ニンジャスターボーイズ!」


 全員でびしっとポーズなんぞ決めている。

 なるほど、こういう活動もしているのか。


「フウマやイガとは違うんだな」


「別物じゃよ。あくまで闇に生き、危険人物の暗殺や、暗部の情報収集、ボディーガードなんかを国家に依頼されてやる集団がイガじゃ。ももっちの一族じゃな。こっちはショー的な要素はない。どちらかというと無骨な技術屋じゃ」


「私たちだってただの芸人集団ではないぞ」


「それは戦ってわかりました。っていうか結構手加減してくれていますよね」


 俺でも手加減してくれていることは理解した。

 なんというか、こちらの手を見て次の動きを決めている感じだったし。


「試験だからね。最初からクリアできない方法で殺すのはルール違反さ!」


「助かります……ん? じゃあフウマってなんだよ? 表なのか?」


「秘密の多い、おいそれと入国できない謎国家がフウマじゃ。表でも裏でもない、隔離された独特な文化を持つ戦闘集団といった感じじゃな」


「学園に店があるだろう? ダンゴ、せんべい、スキヤキなどの独特な食文化がファンに受けている。私もお茶漬けの店が好きでね」


 あの店通ってんのかい。いや別の店かもしれないけれどさ。

 前回鉢合わせる可能性あったのか。次に行くの気まずいな。


「完全に術の体系からして違うからね。どの流派とも違うフウマ流は興味深いよ」


 なるほど、コタロウさんは元々この世界の人間じゃない。

 完全に別の技術なんだな。


「さて、回復できたかい?」


 息も整った。敵も増えたけどな。

 だが準備完了。どこまでできるか試してやるよ。


「お心遣い痛み入ります。かなり、かなーり本気でいきます。まともに当たれば骨くらいぶっ壊れますが」


「構わないさ。傷も負わずに強くなる忍者などいない」


 あらやだかっこいいじゃないの。

 ちょっと真面目にやりたくなったぜ。


「リリア、サポート頼むぜ」


「うむ、おもいっきりやるがよい」


「リベリオントリガー!!」


 魔力開放。ここまでは慣れたものだ。


「へえ……かなり高度な術だ。本気でいかないと、骨くらいじゃ済まないね」


「いきます!!」


 できる限り速く動き、近くの忍者を蹴り飛ばす。


「うごっ!?」


 よし、転がっていく敵は受け身を取る気配がない。

 このくらいの力でいけば倒せる。


「土遁、クラフトウォール!!」


 土の壁が幾重にも重なり俺を包囲する。


「アジュ!」


「後で消せ。合図はする」


 リリアと分断された……ように見せるため、ちょっと離れた。

 内部は円柱のような形で、だいたい二十メートルくらいの広さか。

 だがここは敵のフィールド。油断は禁物だな。


「ちっ、やってくれる……」


「火炎手裏剣乱舞!!」


 空いている上から出ようと飛んだ俺に、先程見た火炎手裏剣の雨が降る。


「マジかおい!」


 近くの壁を蹴り飛ばし、その先へ避難しようとするが、そこにはさっき見た影。


「逃さないよ!」


 赤いリーダーだ。平然とこちらへ斬りかかってくる。

 得物は長い刀。足場の不自由な場所で鍔迫り合いをすることになってしまう。


「正気か……この中で戦えば、自分も焦げるぞ!」


「これはコウガの耐火服。この程度では火傷しないのさ。悪いけれど本気でいく。君はそれに値する」


「気のせいだと思いますけどね!」


 足の裏が壁とくっついているのか、赤忍者さんは縦横無尽に飛び回る。

 リベリオントリガーの効果で防御力も上がり、雷光のオーラっぽいもので守られてもいる。

 だが当たれば当然痛い。しばらく回避に専念しよう。


「この手裏剣は私の武器にもなるのさ!」


 振ってくる手裏剣をつかみ、流れるような動作でこちらへ投げてきた。

 無理やり魔力を開放し、雑に電撃で手裏剣を防ぐ。


「サンダーシード!」


 こちらもクナイを投げつけ爆裂させて地面へと退避。

 振ってくる手裏剣が少なくなった。そろそろいいかな。


「やるね。だがそのうち体力も無くなるだろう。それまで上から戦わせてもらうよ」


「サンダースマッシャー!」


 やはり接近戦は合わないな。

 赤忍者が壁にしっかりと両足でくっついていることを確認し、空へ魔法を撃った。


「闇雲に撃っても当たりはしないよ」


「んなことはわかってますとも」


「む?」


 赤忍者のしがみついている壁が、いや作り出された壁がすべて消え、さっきまでの景色が戻ってきた。


「馬鹿な!?」


 なんの予兆もなく、壊れるのではなく壁が消える。

 流石に想定外だったのだろう。ここがチャンス。

 鉤縄を敵の腕に巻き付け、こちら側に引っ張る。

 自動で縄が巻かれることもポイントだ。


「捕らえたぜ!」


「くっ……みんな援護を頼む!!」


「それはできない相談じゃよ」


 既に他の忍者はリリアによって倒されている。

 さっきの魔法はリリアへ『壁を消せ』という合図だ。

 忍術も術。ならばリリアなら消せると踏んだ。


「大当たりだな」


「むざむざやられるものか!」


 引っ張られながらも空中で印を結んでいる。

 そのプロ根性は尊敬しよう。


「まだまだ!」


 既にサンダースプラッシュを使ってあるのだ。

 電撃の雫が破裂し、微弱な電撃となって集中を乱し続ける。


「ぬうう!?」


 カトラスの魔力コーティングを増し、そこから雷光で満たす。


「雷光一閃!!」


 すれ違いざまに一太刀入れ、赤い装甲は砕け散った。


「ぬっく……見事っ!!」


 それだけ言って地面に倒れ伏す男。

 最後まで潔いな。好感が持てる人だ。


「勉強になりました」


 勝っておいておしゃべりするのは失礼だろう。

 一礼してその場を去る。回復魔法はかけておいた。

 リリアもしっかりかけていたので、まず後遺症は残らないだろう。


「ナーイス、リリア。よく俺の意図がわかったな」


「当然じゃろ。この程度楽勝じゃ」


 魔法を解除し、軽く回復完了。


「アジュ、リリア、大丈夫? 怪我とかしてない?」


 ここでシルフィとイロハ合流。

 無事だったようで何より。


「おう、そっちも平気だったか」


「当然よ」


「みんなで合格しようね!」


『第一関門突破。二時間以内に準備を終え、二階へと進んでください』


 どこからかアナウンスがかかる。

 一部の壁が大きく開き、上への階段が現れた。


「はー……これ突破できるのか? かなり疲れたぞ」


「なんとかなるって!」


「おぬしも成長しておる」


「何かあっても守ってみせるわ」


 とりあえず先に進むことにした。

 できれば大怪我せずに全員で合格したい。

 今の願いはそれだけだ。

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