外堀が埋まるよ 葛ノ葉編

第195話 リリアと遊ぼう

 ヒメノから逃げ切って次の日。

 予定もないし、興味のある科でも探そうかとふらふらしている。


「暑くなってきたな」


「こっちも夏は暑いのじゃ。じめじめした暑さではないだけマシじゃろ」


 隣にはリリア。同じくやることなし。二人して暇人である。

 確かに暑さの質が違うな。こっちのほうが楽かもしれん。


「マシってだけで暑いけどな。ここからどうするべきかね」


「地道に訓練でもしたらどうじゃ?」


「今日は休みなんだから休むんだよ。魔力の訓練と柔軟は朝やった」


 なんとなーく昇格試験から、新しい魔法がちらつき始めた。

 それを習得するには魔力と柔軟だと思った。直感で。

 魔法習得はマジで直感である。なのでやってみるしかないわけだ。


「鎧を使いこなす訓練でもするかの?」


「ほう、どうやるんだ?」


「まず別世界を作ります」


「またかい。昨日やったわそれ」


「この世界で暴れたら壊れるじゃろ」


 この世界も超頑丈らしいけどな。それでも一つの星には限界がある。


「参考程度に聞いてやる。別世界の、どうせ宇宙だろ? そこでなにをする?」


「手のひらサイズの隕石を作って……まあ重さは七千億トンくらいでよいじゃろ。それを光速の三百倍くらいで投げるから」


「打ち落とすってか?」


「うむ。しかも毒や麻痺とか呪いとか、あらゆる状態異常や即死能力を付加したものじゃ。その異常を鎧の力で殴り殺す」


「地味で疲れるな」


「じゃな。言っていてやる気が失せたのじゃ」


 何が悲しくてそんな面倒で地味な作業をしなくちゃならんのか。

 やろうと思えばできるけど、やりたいかと問われたらノーだ。


「試験が早く終わるとヒマになるな」


「あと一週間は夏休み前じゃからのう。クエストでどこかに行くのもよい」


「涼しい場所がいいやな」


「雪国じゃな」


「寒いわ。涼しい場所で講座とかやってないもんかね」


「なければわしが教えてやるのじゃ」


「魔法に関しちゃリリアの方がいいな。また魔法覚えそうなんだよ」


 素直に相談です。スペシャリストに相談できる環境は素晴らしいね。


「ほうほう、今度はなんじゃ?」


「ん……難しいんだよ。電撃じゃない。回復でもないし。先生がやってた赤いやつ? あんなやつだよ」


「ほっほう、強化魔法じゃな」


「かもしれないってだけだ。これはただ戦えばいいってわけじゃないっぽい」


 魔法は本人の精神状態や、魔法についての思いつきも大切。

 よって環境変えたり、違うことをやってみたり。

 習得方法は多岐にわたる。


「バリエーション豊かになってきたのう」


「鎧があれば必要ないのかもしれんけど、楽しいんだよな」


「鎧の戦い方も好きじゃろ?」


「むしろ一番好き。相手がグーを出してきたら、五百倍強いグーで潰すと気持ちいいだろ」


「じゃんけんぶっ壊すわけじゃな」


「勝って気持ちよくなりたい場合に最適だな」


「らしいといえばらしいのう」


 ふらふら歩いているようで、自然に体は知っている場所へ向かう。

 こっちは商店街方面だな。


「ついでになんか買うか。夏に外に出ると暑いから、室内で遊べるもんとかな」


「それでは遊び道具でも見に行くかの」


「いいね。こっちのはよく知らんからな」


 そして商店街へ。夏休み前だからか、水着とかレジャー用品が多いな。

 ちなみに学園は夏休みでもやっている。一つの国みたいなもんだし。


「水着ねえ……俺には無縁だな」


「夏のイベントといえば水着回じゃろ」


「試験で行ったプールってもうやってたな」


「うむ、行く気ゼロじゃろ?」


「まあな。一回行ったんだし、カレー屋は支店が学園内にある」


 ああいう施設は金かかるからな。良心的な学生価格とはいえ、何度も行くものじゃない。


「わしらの水着が見たいとかないんかい」


「試験で見ただろ」


「普通の水着じゃよ」


「見てどうするんだよ?」


「むらむらしたらいいじゃろ。見てどうするという質問がそもそもおかしいのじゃ」


「その感覚は理解できない領域です」


 どうせ似合うことはわかりきっている。可愛いとか綺麗とか、褒め言葉に違いはあれど、並の人間では化粧や整形を駆使してもたどり着けない領域にいる。

 こいつらはそんな連中なわけで。当たり前の結果を見てどうするのさ。


「まーたなにか拗らせておるな」


「拗らせてませんよーっと。あ、ゲーム屋あるぞ」


 外見から凝っている、大きな三階建てのゲーム屋を発見。

 もちろんボードゲームやカードゲームだ。

 アナログも嫌いじゃない。相手がいなかったので、TVゲーム版やってたけど。


「玩具の大手じゃな。支店が学園にもあるとは」


「面白い。行くぞ」


「ほいほい」


 期待を込めて入店。店内も広い。清潔だし、結構客がいるじゃないか。


「四人でできるやつだな」


「カードとかどうじゃ?」


「どシンプルなやつでいこう。金かけるやつは際限なくなる。めんどい」


 対戦型カードゲームは所詮レアカードを買う札束で殴るゲームだ。つまらん。


「定番ゲームとかあるだろ。試験の時にやってたやつ」


 暇つぶしにババ抜きに使ったカードを思い出す。

 あれは本来どう使うのか知らんが、四種類あるトランプみたいなもんだった。


「あれはまんまトランプと同じじゃ」


「んじゃそれひとつ」


「サイコロと盤面のあるやつはどうじゃ?」


「悪くないな」


 リリアがいると話が早い。もとの世界に例えての解説ができるため、効率アップ。


「対戦型じゃな。サイコロを振って、指定のマスに止まる」


「拡張パックってのがあるぞ」


「それはくっつけるとマップが増えるのじゃ」


「ほうほう。一個買ってみるか」


 こうして外出のきっかけが減っていくわけだな。

 サイコロも綺麗なやつを二つ購入。

 ガラスみたいに透明で数字の彫ってあるやつだ。


「宝石みたいなん好きじゃのう」


「綺麗なもんは好きさ。宝石なんて透明な石だぜ。それが希少だからって凄い額になるわけだ。そこが凄い。その事実が結構アホらしいけど好きなのさ」


 貴金属は嫌いだけど、宝石は好き。自分でもよくわからんな。


「買い物はこんなもんでよいじゃろ」


「そうだな。これで暇が潰せるぜ」


「まったく、もう少し外にでんと体がなまるのじゃ」


「そりゃ困るなっと……ありゃなんだ?」


 広い店内の一角に、なにやら熱中している集団がいる。


「バトルドールじゃな」


「有名なのか?」


「特設リングで自分のマシーンを戦わせるんじゃよ」


「興味があります」


 なんだよ楽しそうじゃないか。ちょっと見ていこう。


「顔のない球体関節のマネキンみたいなものがあるじゃろ?」


 素体コーナーに大量にある。全て三十センチくらいだ。


「これに好きなパーツを組み合わせて戦わせるのじゃ」


 飛び道具から剣、槍、斧、スピードアップの装置まである。

 羽っぽいのは飛ぶのに必要だとか。


「原理がわからんな」


「特設リングに魔法がかかっておる。リング内のみ特殊な指示を送ることで操作可能にしておるのじゃ」


「魔力の強いやつが勝ちだろそれ」


「一定量以上の魔力は送れないようになっておるのじゃよ」


 ボディはロボットのような装甲型と、人間に近い柔軟性とスピード型。

 球体なんかのキワモノ型に別れている。


「金かかるやつだな。専用のリングが必要なのもちょっと微妙。それに」


「それに?」


「鎧で蹂躙するほうが楽しい」


「なるほど。まあ物は試しじゃ。こっちのは公式が作った八キャラで対戦する台じゃ。初心者用の台でわしと対戦してみるのじゃ」


 リリアが台の反対側に行くので、俺も相手をしてやる。

 台は平らなので、プレイ中も相手の顔が見えるな。

 格ゲーよりはホッケーゲームの台に近いか。


「なるほど、お出かけの時間を引き延ばそうってわけだな」


「無駄な勘だけよくなりおって。そこは察して一緒にいたいとか言うところじゃ」


「察しただけ俺を褒めな」


「なんで偉そうなんじゃまったく」


 俺は左手に小型砲。右手に剣を持った白いロボを選択。

 リリアはシャープな鎧と、ごつい手足の装具が印象的な女キャラ。


「左手を台の手のマークに乗せて、魔力を送るのじゃ」


 言われるままにやる。

 手のマークが光り、ちょいと念じて手を傾けるとロボが動く。


「ほほう、面白いな」


「右手側の丸いマーク三つが攻撃じゃ。左手右手と隠し武器じゃな」


 軽く動かしてみると、連射はできないが威力の高い砲撃と、決まったモーションで繰り出される斬撃。そして変形して炎っぽいものを纏いながらの突撃がある。


「よしよし、やってみるか」


「ではスタートじゃ」


 とりあえず出てきた遮蔽物に隠れて進む。

 牽制で砲撃しながらダッシュさせて距離を詰めることも忘れない。


「ほれほれ上じゃ」


 足からジェット噴射で空を飛ぶ女。しかも両手の装具から弾が出ている。


「飛べるのかこれ」


「上がれる距離は決まっておる。スタミナ切れると落ちるしのう」


 ゆっくり下降しながら逃げている。ちゃんとゲームになってんのね。


「いいね。最近二人で遊ぶ機会もなかったしな」


「だから連れ出したんじゃよ」


「おう、さっき気付いたぜ」


「おっそいのう……まあ褒めてやるのじゃ」


 着地を狙って斬りかかる。装具は硬いらしく、防御されるときつい。

 一旦距離を離そうとしたら、一気に突っ込んでくる。


「んー多分こうすりゃ……」


 軽く動きたい方に二回叩く。緊急回避の横っ飛びで回避。


「お、いけるな」


「もう慣れおったか」


「説明が書いてあるからな」


 台の横に色々書いてあるので試していく。

 ゲームはジャンル問わずほぼ得意だ。この程度ならいける。


「学園はまだまだ遊べる場所が多いな」


「じゃろ。夏休みだからって、ずっと学園を離れなければならんというルールはないのじゃ」


「そうだな。行く予定だったフルムーンとフウマの里は行っちまったからな」


「ご両親にご挨拶まで済ませて、着々と外堀が埋まっておるのう」


「埋めて欲しくないっての。うげっ速いなそいつ」


 両手で掴まれて電撃流された。やばい負ける。

 砲撃と斬撃で脱出し、猛ダッシュで逃げよう。


「にゅっふふー逃さんのじゃ」


「逃げるつもりもないけどな」


 急遽振り返って隠し武器で突撃。不意打ちっぽいが、これは当たらなくてもいい。


「おぬしの性格くらい読んでおるわ」


 しっかり回避するところを確認し、リリア機の間近でストップ。

 通常形態に戻して砲撃連射。


「それくらいは人読みの範疇だからな。格ゲー歴が地味に長い俺をなめんなよ」


 ギリギリ両腕の装具で防御に入ったみたいだ。それでいい。

 短距離で必殺技を使ったので、もう一発使えるまでが早いのだ。


「防御は攻撃が続いていると、しっぱなしになるよな」


 ほぼ密着に近い距離である。必殺技は防御を貫いて、リリア機を壁に叩きつける。


「あっちゃーわしの負けじゃな」


 フィールドも人形も画面外に魔法で転送され、ゲームセット。


「よしよし。無茶したけど面白かったぜ」


「うむ、気分転換によいのう」


 たまーに遊ぶならいいだろう。何度もやると飽きそうだ。


「自分で作るのは面倒じゃろ?」


「ちまちま作業して人形作るのはだるいからパス」


「では帰るとするかの。ああ、それと決めたのじゃ」


「なんだよ?」


「今度はわしの家にご挨拶じゃ」


 今後の予定が増えた瞬間であった。

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