久しぶりの四人行動 シルフィ陣営

 唐突に三人が押しかけてきた次の朝。もちろんだが眠い。目を開けると全員まだ寝ている。じゃあ俺も寝ていいな。


「んう? アジュおきた?」


「今から寝る」


 シルフィが起きたけど、こう言っておけば自然と二度寝するだろ。


「ふへへー、アジュすきー」


 寝ぼけているなこいつ。ぴったりくっついて離れない。別に眠りの邪魔をしなければいい。イロハのように、俺の服に手を入れ、胸のあたりを弄りながら首筋を舐めてくるような真似をしなければ。


「やめろくすぐったい」


「これは仕方のないことなのよ。離れている時間が長いと、より濃い匂いとぬくもりが補充されなければいけないの」


「これ男女逆なら最悪だからな」


「理解しているわ。だからそっちの性癖も試せばいいのよ。そうしてお互いにすっきりすればいいの」


 何がいいのか一切わからんので、なんとか引き剥がそう。眠気消えるだろ。


「起きたら口周りがべたべたになっているよりいいでしょう?」


「最悪だよ。そういうレベルの蛮行は止めるからな」


「流石にそこまで許可なく進める気はないわ。だから少し嗅いだり舐めたりするくらいは許してくれると嬉しいわ」


 実際どこまで発散させてやるのがベストなんだろうか。普通のカップルってこういうことするの? 女に縁のない生活だったから、加減が理解できぬ。


「アジュおいしいの?」


「シルフィも舐めてみればわかるわ」


「頭の悪い会話するな。あと俺の了承もなく舐めるなシルフィ」


 普通にほっぺたを舐められ、難しい顔をされる。その顔したいのは俺だぞ。


「んー……よくわかんない。ちゅーして」


「その発言がよくわかんない」


「もうすぐ誰か来るじゃろ。ここまでじゃ」


 意外にもリリアが止めに入る。既に着替えており、俺に水の入ったコップを渡してくる。これはもう起きるしかないな。


「はいはい、起きたからやめろ。じゃれつくな」


「むうー、すぐ来るからね」


「仕方がないわね。一旦引くわよ」


「着替えも済ませてやったのじゃ。では退散じゃ」


 三人は消えた。魔法か高速移動か知らんけど、まあ考えても無駄だ。しばらくしてホノリが起こしに来た。


「おや、自分から起きてるなんて珍しいね」


「まあな。眠気も消えたよ。飯か?」


「ああ、さっきそっちの三人が来たよ」


 あいつらの行動力はどこから来るんだろう。アクティブな人間って凄い。


「んん?」


「どうした?」


 食堂まで歩いていると、ホノリが怪訝な顔で鼻を動かしている。


「いや、女の匂いがするからさ」


「お前でもわかるくらいに?」


「そういうこと。まあ詳しくは聞かないでおく。踏み入ると神と殺し合いになりそうだ」


「否定はできんな」


 そして食堂につくと、いつものメンバーとギルメンが一緒に朝飯を食っていた。


「お邪魔してまーす」


「先に食べているわ」


 しれっとした顔で飯を食いやがる。神経図太いなあ。俺も見習おう。


「今日はシルフィのブロックに行くんだったな」


「そうそう、おもてなしするよー!」


「王様を一人で放り出すわけにはいかないから、わたしが一緒に行くことになったわ」


 今回の同行者はフラン。俺とリリア以外王族で固められているのだが、これ警備の胃が死ぬだろ。がんばれ。


「では参りましょう」


 ほら警備隊の顔が引きつっておられるぞ。出迎えの送迎車に乗り、5ブロックを通過して1ブロックへ。厚着していたせいか、妙に暑く感じる。


「わたしの国は春みたいな気候だからね。その服じゃ暑いと思うよ」


「上着は預かるわ。それでちょうどいいでしょう?」


「すまない」


 どうやら寝起きで俺に着せた服は、この事態を見越してのものらしい。やるやん。ギルメンの圧倒的ポテンシャルを感じる。


「おー……いいなあこっち。俺はなんで雪国だったんだ」


 送迎車を降りると実にいい陽気だ。国チェンジとかないか……現状認識クッソだるくなるからいいや。試験はもう何週間かで終わる。終わるはず。そこまで我慢だ。


「暖かくていいわね。南国育ちに雪国は堪えるのよ」


「ネフェニリタルはいいとこだよねー。わたしバカンスに行ったことあるよ! お城で会ったよね!」


 雑談しながら城へと入る。どうやら城のデザインは一緒らしい。全ブロック共通だと助かるけど、あんまり期待するべきじゃないか。


「ええ、そこで少しお話したわね。その時はもっとお硬いというか、お姫様って雰囲気だったけど」


「あはは……ちょっと人見知りっていうか、あの頃はアジュがいなかったからね」


 お姫様モードのシルフィは疲れそうだからな。王族としての立ち回りを要求されているわけで、あれでは自由に動けまい。


「アジュくんが?」


「うん、わたしはまだまだ弱くて、お姫様やるだけでいっぱいいっぱいだったし。助けてもらわなかったら、今もあんな感じだったよ」


「おかえりしーちゃん! そしてようこそあじゅにゃんとフランさん!」


 ももっちが出迎えに来た。そういや一緒の陣営なんだな。


「おう、久しぶり。しーちゃん?」


「シルフィだからしーちゃんだよ。ももっちにつけてもらったんだ」


「ほー、仲良くなったんだな」


「おうさー! めっちゃ仲良しだぜい!」


 ちゃんとシルフィを支えてくれる人はいるんだな。少し安心した。ももっちは優秀だし、仲間がまともなら心配いらないだろう。


「あっ、シルフィさん。おかえりー」


 他の女子も来たか。あんまり話したことないやつばかりだ。一応見覚えはある気がしなくもない。


「いらっしゃいませー。ほほう、君がシルフィちゃんの彼氏さんかい。羨ましいねー」


 なんか初対面に近い女にじろじろ見られる。シルフィはこっちをちらちら見ながら照れているので、俺が話すしかない。


「別にそういうわけじゃないが、シルフィが世話になっている」


「いいよいいよー。あのねシルフィちゃん、ちょっとお仕事で困っててさー」


「わかった。歩きながら見せて」


 全員を泊まる部屋に案内する中で、数人がシルフィに指示を仰ぐ。それをてきぱきと処理しながら、励ましたり対案を出したりしている。お姫様っていうか仕事モードだな。凛々しさがアップしている。


「こんな風に処理できると思うから、空いた時間でお願い。あとは資料をまとめておけばいいよ」


「おおーすごいぜー。やっぱシルフィちゃんいないとだめだー」


 人気もあるみたいだな。本来ああいう立場と人望を得られる人間なのだ。王族の風格が出てしまえば、あとはついてくる者が増えていく。


「ねえ、あなたがサカガミ君でしょ? シルフィがいつも話してるよ」


 何人かが俺のところに来る。物珍しさで寄ってきたみたいだが、知らん女と話すスキルはないぞ。


「あいつ何喋った?」


「たまにかっこよくなるとか、辛い時に支えてくれたとか、ちゃんとやれてるか心配だとか、まあのろけてくるね。んで、どんくらい強いの? 王子様だったりする?」


「しない。特になーんもしちゃいない。魔法が少し使えるくらいの一般人だよ」


「えー、変なの。なのにシルフィちゃんゲットしたの?」


「してねえって。俺は誰かを口説いたことはない」


 していい顔だとも思っちゃいないよ。ナンパとかみっともないし、勝手にイケメンがやれ。恥をかく価値がない行動だ。


「えー超気になるー。ねえねえシルフィとの出会いとか聞きたーい!」


「いいねそれ。どんなだったの? どっちから声かけた?」


 なんかシルフィの話題を振られるが、これどこまで喋っていいのだろう。

 まず出会いって教室? 屋上から落ちるの助けた時? あれって認識されたっけ?


「そうだな。あいつとは……」


「アジュ、もうお部屋ついたよ?」


 いかん、扉の前でシルフィ達が待っている。少し遅れてしまったらしい。


「すまん。今行く」


 そして俺に割り当てられた部屋で荷物をおろし、ソファーに座ったわけだが。


「離れろ。みんな戻ってくるぞ」


「やだ」


「やだってお前……」


「アジュはすぐどっかいく。すぐ女の子のとこにいく」


 しがみつかれた。ほっぺが膨らんでおります。子供か。いやまだ子供だったな。

 シルフィ陣営はお茶とお菓子を取りに、こっちのメンバーは各自の部屋に荷物を置きに行った。上着とか暑そうだし着替えているのかもしれない。


「なんかやたら甘えてくるな。あいつらに俺のこと話したみたいだし。何が気になっている? なんか不安なのか?」


「だって、アジュがいてくれたからだもん。アジュがいなかったら、わたしはもっと大変で、きっと不幸だった。たまに思うの……イロハともアジュとも会えなかったら、わたしはきっと暗くて寂しくて、失敗したままだったんだって」


 結構マイナスに考えているな。そんな飛躍せんでもいいのに。慰めてあげよう。俺にできるかわかんないけど。


「もしアジュがいなかったら、いなくなったら、わたしはだめになる」


「大丈夫だ。それはお前の悩みじゃないぞ?」


「なんでさ!?」


「いやマジで。シルフィの悩みじゃないって」


「わたしが悩んでるんだけど。意味分かんない」


 悩みの方向が明後日にぶっちぎっていて驚いたよ。まったく受けたことのないタイプの相談だ。発想が異次元すぎるだろ。でも解決は簡単だ。自信をなくしているみたいだから、褒めて説得すりゃいいはず。


「お前らはさ、すべてを持って生まれてきているんだよ。王族であらゆる才能あって見た目もよくて、基本的に死ぬまで幸せなんだ」


「今幸せが逃げていってる気がするよ」


「ちゃんと聞け。お前らは失敗とかあったとしても挽回できる存在なんだ。やり直せるし、そのための環境が整っている。だから不幸になったらという過程がほぼ存在しない」


 軽く頭を撫でてやる。できる限り優しく離せば、シルフィは理解するだろう。こいつは賢いのだ。天才の域にいる。


「アジュいないのに? アジュがいてくれたから幸せなのに」


「俺より頭良くて運動できて金持ちでイケメンなんぞクソほどいるだろ。そいつとイロハで解決できるさ。むしろ第三者から見たら今バッドエンドだぞ」


「そうなの?」


「バッドエンド後の世界だな」


 ここまで俺に執着していることが不思議というか奇跡というか。結構謎な生活を送っているものだな。などとぼんやり考えている。


「ふーん……いや騙されないよ? あとそういう言い方は傷つきます!」


「俺はこういう言い方しかできんよ。けど心配していることは伝わってくれ。あと俺にそこまでの価値はないから、もっと気楽でいいぞ。好き放題生きろ」


 よし、テンションが戻ったな。いつもの明るいシルフィだ。説得方法が正しいかはわかりません。


「アジュはわたしよりずっとネガティブだよね」


「俺の場合は事実だ」


「事実を書き換えてやるぞー」


「はいはい、いい子いい子。そうやって明るくて優しい方が、いつものシルフィっぽいぞ」


「むうー、アジュはどっちのわたしだと嬉しい?」


「どっちだろうがお前であることに変わりはない。けど不安は取り除く。それだけ。満足するか飽きたら離れろ。もうじき誰か来るぞ」


「そっか、ありがと!」


 完全に機嫌が回復したな。だもんで当然離れてくれると思ったのだが。


「で、なんでしーちゃんはくっついてるのかな?」


 みんなが戻ってきても離れてくれない。もう抱きついているわけじゃないが、横に座って離れない。


「アジュがひどいことを言いました」


「意味がわからん」


「まあまあ、何話してたのか言ってみ? しーちゃんのお悩み解決してやるぜい」


 めんどくさいのでちゃんと話した。その結果。


「あじゅにゃんが悪いね」


「俺が!?」


「全面的にサカガミが悪いよねー」


 どうして俺が悪いみたいな雰囲気に……女特有の思考なのか?


「好きな人にお前今俺といて不幸せなんだぞって言われて納得しないっしょ」


「しないのか……」


 わからん。こればかりはわからん。それを承知で俺といるんじゃないのか。


「俺達は城にいるわけだが、これからどうする?」


「露骨に話題そらしたわね。お城でお花見するわ」


「城の中に綺麗な花をつける木々があってね。花畑みたいな場所もあるから、みんながリラックスできる場にしているの」


 下手に強制の宴会やらを開催するより、各自で暇があれば花見をしてゆったりしよう的なスポットにしたのだとか。それなら自然とストレスを軽減できるし、強制じゃないから、来たい時にばらばらに動けていいらしい。


「なるほど、ありだな。そういう政策は好きかも」


「じゃあ晩御飯はそこでね! まだまだシルフィちゃんのターンだよ!」


「シルフィちゃん、こういう元気な感じにもなるんだねー」


「あっちが本当のしーちゃんかもね」


「なるほどなるほど、サカガミくんは必要なんだね」


 まあ必要とされているのなら、その間くらいは役に立つとしましょうかね。

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