祝勝ライブと事後処理

 無事しれこを倒してオルインへと戻り、王都がどうなったのか見に行くと。


「よーし、次の曲いっくよー!!」


「ひーめ! ひめひめ! ひーめ!」


 なんかライブしているう。めっちゃ会場が派手だし、みんな楽しそうだ。


「これはどういうことだ」


「おかえりアジュ」


 ホノリがいる。こいつもライブを楽しんでいたのか、光るライトっぽいやつを持っていた。


「説明しろ」


「祝勝ライブだってさ」


「俺が勝ってからやれや」


 俺が負けていたらどうするのさこれ。しれこ処分してやんねえぞ。


「一応戦闘の準備もしていたっぽいよ。問題解決したからイノが領地占領の名乗りを上げて、その流れでライブになった」


 俺がアカシックレコードとか古い邪神とかと殺し合っていたというのに。

 それを説明するわけにもいかんから、なおさらめんどい。


「次はイノちゃんといくよー!!」


「よろしくお願いいたします」


 どうして舞台にイノがいるんですかね。お前アイドルじゃないだろ。


「ユミナが一人じゃしんどいってごねた」


「なるほど、歌うまいなあいつ」


 なんかプロの歌手みたいだ。アイドルソングじゃないから乗り切れていなかった客も、しっかり聞き入っている。


「イノはアイドルじゃなくて歌手だな」


「技術と歌唱力のイノ。アイドルでエンタメなのがユミナってかんじだね」


 普通に楽しいイベントなのだが、なんか納得いかないよね。


「まあいいんだけどさ、功績を知っているやつが少ないのは狙い通りだし」


「気持ちは少しだけわかるスよ」


「しょうがないっすね。うちらが聞いてあげるっす。ちなみに勝利報告したのはうちらっす。いち早く情報をお届けするのも役目っすからね」


 やた子とガンマがいる。お前ら口調被ってんぞ。


「とにかくお疲れさまでしたっす! あとでしっかりお話聞くっすよ」


「オレら聞かない方がいいスかね?」


「多分な。できれば忘れろ。鎧のことは絶対に話すな。あれマジで秘密だから」


「了解ッス。なんか首突っ込んだら死にそうスからね」


 いい勘をしている。神でもないやつが不用意に入ってくると死ぬぜ。


「うおおおぉぉ!! 姫が、姫がこんなに近くに!!」


 姫が一瞬だけボスの方を見て、軽く手を振って戻っていく。あれがお礼かファンサのつもりなのだろう。


「ふっ…………オレの人生、この時のためにあったぜ……」


 ボスが燃え尽き始めている。本人が幸せそうなのでよし。


「まだ燃え尽きるわけにはいかねえ! 気合い入れて応援するぞ!」


 意外にもボスと義勇軍は統率が取れており、迷惑行為はしない。

 声は出すが暴れないし、バラードは静かに聞く。無駄なシャウトで変な空気にしないなど、マナーを守っている。純粋にファンなんだなあ。


「はあ……まあいいや。ライブ見てからにしよう」


 歌の途中でイノとユミナが抱き合い、お互いの手を握ったりする。なるほど、これが百合営業か。二次元以外で直接見るのは初めてだ。


「尊い……尊いぜ姫……オレは今天国にいるんだな……」


「みんなー! みんなのおかげで勝てたんだよー! ありがとー!!」


「姫えええぇぇ!! うおおおおぉぉぉ!!」


 兵士にとって勝利の凱旋や褒美というのは大切だ。士気に影響が出る。

 なのでライブも必要なのかもしれない。祝う形は国によって違うだろう。とりあえず最後まで見届け、関係者入り口から楽屋に入った。


「おつかれ」


「お疲れ様。見ていてくれたのね」


「ああぁぁ……つかれたよおおぉぉぉ……もう無理。姫もう無理……」


 汗をかきながらも女王っぽい振る舞いのイノと、椅子でぐったりしているユミナがいた。何時間も歌って踊れば疲れるだろう。大盛況で熱にあてられたか。


「ガンマくんおみずー」


「へいへい、よくがんばりました」


「もっとほめろー……姫はすごかったんだぞー」


「えらいえらい」


「だらしないわよユミナ。お客様がいるのに」


 完全にリラックスモードだ。ガンマが世話を焼く係なのだろう、なんか板についている。


「はーいおつかれさまでーす……ふいぃ~ライブしんどかったよぅ」


「疲れているようだから要点だけ話す。今回の手柄は6ブロックのもの。俺は城で何もしていない。派手な装備もなかった。城は9ブロックの奴らが逃げたから、敵もいないし楽に占拠できました」


「了解ッス」


「やっぱりあれは公表できないのね」


「あれはダメだ。世界の核心に触れすぎている。知っているだけで危険だ」


 俺の鎧以上に知られてはいけない。というか説明が難しくてできない。アカシックレコードってなんやねんという疑問に回答できないからね。


「いいわ、もう二度と思い出したくないし」


「正直トラウマッスね。夢に出そうス」


「なになにー? 姫だけ仲間はずれかー! そういうのしんどいぞー!」


「ユミナは知らなくていいの。知ったら危険よ」


「むむむむ、三人の絆に亀裂が!?」


「いいから休んでいなさい」


 ユミナが撫でられている。いつものやりとりなのか抵抗もしていない。二人が仲良さそうにしているのを、ガンマが頷きながら見ていた。


「じゃあしばらく9ブロック平定のために8ブロックも協力する。というか9ブロックの勇者科はどこに行ったんだ?」


「あの化け物に食われたわけじゃないスよね?」


「5ブロックにいるっすよ。このままだと献上金だけでトップ取りそうっすけど、みなさんの追い上げ次第っすね」


「巻き返せるのか?」


「ブロックを放棄すると、領地から得られていた収入が一切カウントされなくなるっす。住民の満足度とか、領地をどう治めているかとか、年貢みたいなものも6ブロックのものになるっすから」


「そうか貢献度みたいなものがあったな」


 過ごしていればじわじわ増えるタイプの報酬がゼロになるのね。今後どのブロックを名乗るのか知らんが、どこかで会うと気まずいなあ。


「これから期末試験最終章に向けて、どーんとポイント入るイベントも考えてあるっす。なのでアジュさん、自力を上げておくといいっすよ」


「うわあ嫌な予感がするう」


 間違いなくバトルやん。陰陽術をもっと覚えておくべきだな。


「私達も鍛えておく必要があるわね」


「うぇー……いやだよう……」


「勇者科は大変スね」


「他人事だと思ってえぇー! 姫は限界なんだぞう!」


「限界を超えるしかないスね」


「むーりー……」


 誰でもテストは嫌なもんだよな。イノとユミナは同じ試験とは思えないけれど。今回みたいに軍で動くなら、全員同時も考えられる。対策が取れんな。


「今回の勇者科の試練ってどう作るんだ? ここにいるやつらだけでもタイプ違いすぎるぞ」


「ふっふっふ、そこはもう色々っすよ。迷惑かけたお詫びに教えるっすけど、軍もちゃんと強くしといてくださいっす。あと国の運営とかレビューされるっすよ」


「うおぉ……めんどくさそう」


 ちゃんと内政やろう。それなりに楽しいし、しばらく大きなトラブルは起きないはず。今のうちに環境を整えるべきだな。


「じゃあこれで帰る。そっちもがんばれ」


「今回の件のお礼は8ブロックに送っておくわ。そっちの陣地もきっと荒れているでしょうし」


「わかった。それじゃあ三人ともゆっくり休みな」


「ありがとう~……またなにかあったら姫を助けてねー」


「なるべくこっちで解決するス」


「それじゃあね、サカガミくん」


 そんなわけで9ブロックのいる部屋を出て、ヒメノ達が待つ部屋へと移動した。防音魔法がかかっているらしく、警備は厳重だ。室内にはヒメノとやた子がいるだけ。


「さーて説明してもらいますよ。今回は長くなりそうっすね」


「わかった。真面目に聞けよ。色ボケは処理できないぞ」


「清聴いたしますわ!」


 そして城でのしれことの激闘を、可能な限り細かく話していくのだが。


「説明が……説明ができない……」


 説明することの量も多ければ、意味不明な点も多いのだ。こんなもん学生がしっかり解説できるわけないだろ。


「リリアかあれこ呼んでこい」


「今回は同情の余地ありっすね」


「そんな迷えるアジュ様も素敵ですわ」


 そこでふと思う。完全に消滅させたとは言え、あの神は異質にも程があった。


「結局しれこに取り付いていた神は何だったんだ?」


「オルインではない、けれどかなり古い時代の神ですわ。少々面倒な存在のようでしたが、流石はアジュ様。お見事な活躍ぶり!」


「神じゃないと見ただけで狂っちゃう可能性が高いっすね。鎧ありきの戦闘っすよあれは」


「そんなもん俺じゃ説明できんだろ。世界の外側だから染み込んでくるまでわかんなかったとか? 俺も把握できていないぞ」


「そろそろ助け舟が必要かい?」


 どうやったのか室内に男がいる。何度か会ったはず。確か俺に小麦粉と包丁やアイテムを売った男だ。


「あら、もう嗅ぎつけましたの?」


「そりゃお兄さんの管轄だからな。お礼もかねてやってきたのさ」


「お前ら知り合いなのか?」


「こちら側の協力者ですわ。アジュ様こそお知り合いですの?」


 どうやら善人寄りというか、学園寄りの協力者らしい。俺に近づいた理由は勇者科のチェックとあの古い神が関係しているのだろう。


「行商のお兄さんであり、外側の観測者さ。あの神も感知できたが、退治する方法が思いつかなくてね。そして君のことを聞いた」


「感知できたのに、自分で退治しなかったと? 全ブロックに被害が出たぞ」


「そこはご勘弁。オレは人間でね。そっちの神様とは違う。観測者に徹するしかなかった。下手に存在を知るものは増やせなかった。知るだけで狂う仲間なんて嫌だろう? 少数精鋭でなんとかしたかったんだ」


 言っていることはまあ理解できる。確殺しなければ、絶対に被害が増える。俺以外に適任がいるかどうかも知らん。ある程度は仕方がないで済ませる範疇だ。


「別世界に逃げられてもダメ。知る者が増えてもダメ。目を覚ましてから殺す必要がある。しかもアカシックレコードと融合された。ほぼ詰みだよ」


「上級神が複数で消滅させる作戦もあったっすけど、しれこの意識があるうちは警戒される。人間の中で完全なイレギュラーが突然現れて解決してくれるという、ラッキーな不意打ちじゃないと厳しいってことっす」


「限定的すぎるだろ」


 結構な綱渡りだったらしい。それでもあんな化け物がオルインに来るよりはマシだ。俺で解決できただけ、今回は運がよかったのだろう。


「君のおかげでようやく解決できた。ある程度観測させてもらったし、あの神についてはこちらで説明しておく。もちろん他の者には君の存在をぼかしてね」


 説明してくれるならそれでいい。俺にトークとか無理だって。リリアきて。この試験さっさと終わってくれ。リリアいないとしんどい。


「今度何かあれば九割引きでサービスしよう。仲間の元へ帰ってあげるといい」


「助かります」


「いやいや、解決できないこちらが悪いのさ」


「そうですわ! アジュ様のお手をわずらわせるなど、心が痛みます!」


「はいはい、それじゃあ説明終わり。俺は帰るぞ」


「おつかれさまっす! しっかり休んでくださいっす!」


 疲れた。戦闘と同じくらい疲れた。早く帰って休みたい。

 ここ9ブロックの城だよな。俺に割り当てられた部屋があるはずだから、そこへ行こう。なんて考えつつ廊下を歩く。


「あっ、アジュきたよ!」


「随分疲れておるのう」


「お茶とお菓子を用意したわ」


 部屋にギルメン三人がいた。

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